報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

アーミテージ報告と憲法「改正」

2005年10月24日 21時13分49秒 | ■時事・評論
リチャード・L・アーミテージ(前米国務副長官)は、2000年10月に「アーミテージ報告」というものを共同執筆している。

「アーミテージ報告」は、対日戦略の提言というべきものだが、ブッシュ政権は、ほぼこの報告書に沿った対日政策を執った。そして小泉首相による、イラクへの自衛隊派遣や憲法「改正」への動きは、この「アーミテージ報告」に則ったものだと言える。

これは、『ワシントンの右よりの軍事専門家たちが、新たに発足するブッシュ政権で高い地位を得ることが狙いの「報告」であった』(チャルマーズ・ジョンソン『帝国アメリカと日本』)。実際、共同執筆者のアーミテージ氏は第一次ブッシュ政権で国務副長官となり、ポール・ウォルフォウィッツ氏は国防副長官となった。ウォルフォウィッツ氏は今年ブッシュ大統領の推薦で世界銀行総裁になった。

「アーミテージ報告」は日本の政治、安全保障、沖縄、諜報、経済協力、外交について分析し、アメリカの執るべき対日政策を述べている。表現はやわらかいが、アメリカの望む日本の姿が描かれていると言っていいだろう。

「日本のリスク回避型政治が日本経済の変革を阻害してきたように、アメリカ政府から明確な方向付けがないことも損失をもたらしてきた。」
「アメリカが、日本との関係において指導力を、つまり、傲慢になることなしに卓越性を発揮することができるなら、両国は過去50年間培ってきた協力関係の潜在力を全面的に実現することができるようになろう。」


「アーミテージ報告」は全編、こうした婉曲表現を用いて記述されているため、これをどう解釈するかは意見の分かれるところだろう。また、「本報告で表明または示唆された意見、結論、勧告は、著者たちのもの」と謳っている以上、ブッシュ政権がこの報告に則って対日政策をしていると言い切ることもできない。しかし、国務副長官となったアーミテージ氏が、日本に対して絶大な影響力を持ち、「アーミテージ報告」を具現化しようとしていることは間違いない。

2004年7月に、アーミテージ国務副長官(当時)は、国連安保理事会常任理事国入りを求める小泉首相の発言に対応して、「憲法9条の存在が日米同盟関係の妨げの一つになっている」「国連安保理常任理事国は、国際的利益のために軍事力を展開しなければならない。それができないならば常任委理事国入りは難しい」とも述べている。
http://www.kenpou-media.jp/modules/news/article.php?storyid=89

「アーミテージ報告」の中でも、
「日本が集団的自衛権を禁止していることは、同盟間の協力にとって制約となっている。この禁止事項を取り払うことで、より密接で、より効果的な安全保障協力が可能になろう。」
と記述されている。婉曲的に日本の憲法第9条の廃止を提言している。

さらに同報告では、
「両パートナー国は、旧式の訓練のやりかたの踏襲ではなく、実戦なみの訓練に時間と努力を注ぐべきである。また、国際的テロや国境を越えた犯罪活動などの新たな問題や長年にわたる潜在的脅威に対応するにあたっての相互支援のあり方、平和維持・平和構築活動における協力のあり方を定義すべきである。 」
とも述べている。

アメリカ政府は、日本における米軍を再編縮小し、その分、自衛隊をより実戦に対応できる軍隊に訓練し直し、アメリカ政府のコントロール化に置こうと考えているのだろう。そして、英国のようにアメリカの戦争の一員となり、戦うことを望んでいるに違いない。実際、「われわれは、アメリカとイギリスのあいだの特別な関係を、米日同盟のモデルと考えている。」という記述もある。それはとりもなおさず、アメリカ政府が日本政府をコントロールできることが前提となることは言うまでもない。

2000年に「アーミテージ報告」が行われ、2001年に小泉政権が誕生したことは単なる偶然なのだろうか。「年次改革要望書」や「アーミテージ報告」を見る限り、アメリカ政府は日本を好きなように操れる国とみているように思える。そして実際その通りにしてきた。憲法「改正」が行われれば、日本はイギリスのようにアメリカの戦争に駆り出されることは間違いない。そして、何の罪もない人々を傷つけることになるだろう。われわれはそれをただ見ているだけしかできないのだろうか。

いま、勢いに乗っているように見える小泉首相も、いずれは失速して堕ちるだろう。それが、いつかとまでは言えないが、このような露骨な反国民的行為が、現代日本でいつまでも通用するとは、到底思えない。ただ、小泉首相の後ろには、同じく改憲論者の前原民主党代表が控えている。単なる、政権交代は何の意味も持たないだろう。

2001年1月、沖縄県議会は、沖縄からアメリカ海兵隊の撤退を求める決議案を全会一致で採択した。稲嶺知事をはじめ、沖縄県の自民党幹部までが賛同した。全会一致は沖縄県議会史上はじめてのことだ。
「東京とワシントンは沖縄の行政府と立法府に金でつれる操り人形を配しておけばいいと考えていたが、出口の見えない苦境におかれた沖縄の人々の思いが、そんなたくらみに勝ったのだ。」
とチャルマーズ・ジョンソン氏は述べている(『帝国アメリカと日本』集英社新書)。

ひとりひとりの思いこそが国を動かすのであり、それを認識することが大切だろう。

アーミテージ報告(米国防大学国家戦略研究所(INSS)特別報告書)
http://www.hyogo-kokyoso.com/infobox/messages/155.shtml

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