報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

タイ・マジック

2007年01月25日 00時21分10秒 | ■時事・評論
昨年9月、タイの政変によって、首相の座を追われたタクシン・シナワット氏が日本を訪れている。日本のメディアとのインタビューで、タクシン前首相は、タイの「民主主義」を早期に回復しなければならないと発言している。

「クーデター」というのはとても便利な言葉だ。
非合法、政治的未成熟、思慮の欠如、暴力など、ネガティブな印象を与える。こうした用語は、時として事実の検証や分析の過程をないがしろにして、イメージだけを植えつける効果を持つ。
たとえば、
「タイでクーデター、軍が全権掌握 憲法停止、戒厳令布告」
「タイ・クーデター、民主化の後退を懸念 ASEAN各国」
「米政府、タイのクーデターに”失望”」
という見出しが新聞やニュースサイトに氾濫すれば、たいていの人はタイで非常に悪いことが起こったという印象を受ける。

すでに、「タイ」と「クーデター」という言葉の組み合わせは、暫定政権に対する批判的要素を含んでいるように感じるので、ここでは「政変」と表記する。
政変:政治上の変動。特に、政権の急激な交替や統治体制内の大がかりな変化。
クーデター [coup d'tat]:既存の政治体制を構成する一部の勢力が、権力の全面的掌握または権力の拡大のために、非合法的に武力を行使すること。国家権力が一つの階級から他の階級に移行する革命とは区別される。



昨年のタイの政変に際して気になるのは、やはりアメリカ政府の反応だ。
スノー大統領報道官は政変の当日、「クーデターには失望した」と発言している。ケーシー国務省副報道官も「タイの民主主義の後退だ」と発言。アメリカ政府のこうした発言は、アメリカの国益が損なわれたか、損なわれつつあることを意味している。たいていの場合、こうした表現は当該国に対する婉曲的な恫喝だ。また、各国政府、メディアに向けたメッセージでもある。アメリカ政府の意向を「正しく」理解し、協力することを求めている。
アメリカにとってタイの政変はどんな不都合があったのか。

タイ暫定政府は、12月18日に資本規制策を発表した。
その内容は、海外から流入する為替取引などの資金は、その30%を一年間タイ国内に保留しなければならない、というものだ。ただし、貿易などの実需は除外している。
為替取引などの資金は、出入りが激しく長くは国内に留まらない。また、ほんの少しの不安要素や単なる風評でも、すぐに引き揚げてしまう。実体経済にはあまり貢献しないマネーだ。資本規制策は、タイに流入するそうした資本の一部を、強制的にタイにとどめようという措置だ。
資本規制発表は、まさに「不安要素」となり、タイの株価が暴落した。メディアでは「タイ暫定政府と中央銀行の政策運営能力を疑う」という論調が体勢を占めた。

年が明けた1月9日には、暫定政府は「外国企業」の定義を改訂した。
タイの外国人事業法では、外国人の持ち株比率が50%を超えることは認められていない。しかし実際は、タイ人名義の優先株を発行して表面上の持ち株比率を下げて、事実上は外国人が経営権を握るという手法が慣例化していた。今後は、そうした手法は使えなくなる。日米欧豪で組織するタイ外国商工会議所連合は、この措置に反対を表明。
外国人事業法改正の発表の際も、タイの株価は下落した。
※優先株とは、配当に対して優先権をもつ反面、経営参加権が与えられていない株式のこと。

1月17日、タイ中央銀行は、株価の下落などを受けて、資本規制をいくぶん緩和する方針を明らかにした。しかし、緩和は長期資金に対してだけ適用され、1年以内の短期資金の規制はひきつづき行われる。投機目的の短期資金は、あくまで制限する方針なのである。


タイ暫定政府が外国資本と外国企業の規制を次々と行う背景には、1997年にアジアを襲った通貨危機・経済危機での強烈な教訓があるように思う。そしてそこに今回の政変の目的もあるのではないか。

1997年7月、タイバーツが突然暴落した。その原因は外国の投機筋にバーツが狙い打たれたからだ。タイ政府に打つ手はなく、1ドル25バーツだったレートが、数週間で1ドル59バーツまで下落した。そして、タイにはじまった通貨危機は、アジアに波及し、ついにアジア全体の経済危機を招いてしまった。半世紀かけて成長してきたアジアの産業の大部分が甚大な被害を受けた。倒産と失業、食料や燃料の高騰などによって、多くの人々の生活が貧困の縁に追いやられた。
そして、経済危機に乗じて介入してきたIMF(国際通貨基金)は、タイ、インドネシア、韓国に対して、負債を抱えた現地企業を外国に売り払うよう要求した。アジアの多くの企業が外国資本に買い叩かれた。

このタイの通貨危機を招いた根本的な原因は、アメリカの要求した金融市場の自由化、規制撤廃にあった。金融の自由化によって流入した外国資本によって、確かにタイ経済は成長した。しかし、バーツが投機筋に狙い打たれて暴落すると、こうした外国資本は波が返すようにタイから逃げ去ってしまった。そのため通貨危機は、大規模な経済危機にまで拡大していった。あのとき外国資本がタイに踏みとどまっていれば、経済危機の被害はそれほど大きくはならなかったと分析されている。
なぜ、タイから外国資本があっという間に消えたかというと、それらのほとんどが短期資金だったからだ。短期資金は、利益をもたらしそうなところを見つけるとじゃんじゃんやってくるが、その反面、単なるうわさにでも過剰反応して逃げるほど臆病な資本でもある。そのような不確かな外国の資本に国家の経済成長を頼っているとしたら、それは国家の安全保障に関わる。97年の通貨・経済危機は、そういう教訓をタイに与えた。

長期資金は良くて、短期資金は悪い、というわけではない。しかし、流入してくるのが臆病な短期資金ばかりでは、いつまた通貨危機が発生するかもしれない。どうしてもアジア諸国の通貨は弱い。巨大な投機筋に狙われたら、防衛はほぼ不可能だ。短期資金を規制するという暫定政府の政策は、理にかなっている。

タイ暫定政府は、この脆弱なアジアの通貨を防衛するために、「共通通貨バスケット」制度の導入も検討していると発表した。これは、計算上の「共通通貨」を作り、それに各国の通貨を連動させるというものだ。変動相場制と比べて安定性・危機対策の点でメリットがあるとされている。

さて、こうした一連の、暫定政府による政策を概観すれば、これらがタイの経済や産業、通貨を外国資本や外国企業から防衛するための政策であることがわかる。
メディアは株価の下落を受けて「タイ暫定政府と中央銀行の政策運営能力を疑う」などと報じるが、まったくのお門違いである。

政変で失脚したタクシン前首相は、市場の自由化と外国資本の積極的な導入でタイ経済を急成長させた。97年の通貨・経済危機で大ダメージを受けたタイ経済を復活させた手腕は見事だと言える。しかし、タクシン政権の押し進めた外国資本による急激な経済成長の終着点は、結局、タイ経済と産業のさらなる外国による占領だろう。今回の政変はそれを一気に止めた、と考えることができる。

「政変」という形で権力が移行し、暫定政権は国際的非難を浴び続けているが、そんなことはすべて最初から計算済みなのではないかと思える。政変という形をとったのは、小国が敵に回すには、相手はとてつもなく巨大だったからだろう。通常の手続きではとても太刀打ちできないと考えたのではないだろうか。中東で15万の部隊を展開し、60万もの人々を殺戮するような連中なのだから。

巨大な相手の眼を眩ますには、豪快なマジックが必要だったのだ。
タイの民主主義は決して後退などしていない。




タイでクーデター、軍が全権掌握 憲法停止、戒厳令布告http://www.asahi.com/special/060921/TKY200609200141.html
タイ・クーデター、民主化の後退を懸念 ASEAN各国http://www.asahi.com/special/060921/TKY200609200410.html
米政府、タイのクーデターに「失望」
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20060921AT2M2100W21092006.html
タイ政府「資本規制は妥当」 メディア、外資は政策能力に疑問符
http://www.newsclip.be/news/20061223_008621.html
タイ政府、「外国企業」の定義見直し 相次ぐ規制強化
http://www.asahi.com/international/update/0109/021.html
「新たな通貨制度が必要」 バーツ高騰でタイ中央銀総裁
http://www.asahi.com/business/update/0106/006.html
タイ、「不自由」に格下げ 米人権団体報告
http://www.newsclip.be/news/2007118_009179.html
「帰国し和解に協力したい」 タイ前首相、現政権語る
http://www.asahi.com/international/update/0123/011.html
タクシン氏に聞く 暗殺の恐れ、今は帰らず
http://www.sankei.co.jp/kokusai/world/070124/wld070124001.htm
「タイ、”不自由”に格下げ 米人権団体報告」
http://www.newsclip.be/news/2007118_009179.html


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11 コメント

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Unknown (Yegy)
2007-01-26 00:23:37
僕も「クーデター」という言葉にだまされていたかもしれません。
それで、「政変」の目的について非常に納得のいく説明を聞かせていただきましたが、この政変を意図したのはどのような勢力なのでしょうか?
タクシンに反対する勢力なのか、またはタクシンと近い考え方をもつ勢力なのか?
そして、タクシン前首相はこのクーデターを予測していたのでしょうか?
おかしな質問ばかりですが。
今後も期待しています。
返信する
Unknown (Yegy)
2007-01-27 18:50:27
ほんとにおかしな質問をしてしまって、申しわけないです。たぶん僕は中司さんの記事を十分理解しきれていないです。

中司さんの文章から、タイの「政変」は正しい方向を向いていると理解しました。それで、今回の政変も、元首相の政策に疑問を感じられるような、政治を正しく認識している人が後ろ盾となっていたのだろうか、と想像しました。そして、これに対してタクシンはどのように感じていたのか、またはどのような立場をとっていたのか、あるいはまるで気づいていなかったのか、といったことが個人的に気になったのです。

もしかしたら的外れな質問だったかな、と今感じているところです。
返信する
返答の時間がなくてすみません (中司)
2007-01-29 15:14:10
当分の間、ブログに時間が割けない状態が続きそうです。ネットそのものへアクセスする時間がかなり限られています。今後もかなり不定期の更新になると思います。

タイの政変について、決して的外れな疑問ではないと思います。
ただ、詳しくお答えするには、日本に居ては入ってくる情報に限りがあり、概観的なことしか述べられないです。タイに行けば面白い資料が手に入りそうなのですが、残念ながらしばらくタイに行けそうにないです。

今回のタイの政変は、国王や王室、経済界、軍を含んだ広範な国内勢力の周到な準備があったと思っています。そして、意図的に「軍事クーデター」と見せかけていると思います。そのほうが物事を「断行」しやすいですから。国際的非難が来ることも、最初から計算づくでしょう。暫定政権がわざと泥をかぶって、外国からの非難を受ける経済政策(国内経済を防衛する)を断行してしまう。そして、次の政権に引く渡す、というシナリオだと思っています。
ただし、詳しい事実関係はいまのところわかりません。あくまで個人的感想です。

タクシン前首相はIMFの借金を前倒しして返済したり、地方経済への積極支援、貧困対策などで、国民からいまでも一定の指示を受けているようです。ただ、長い目で観て、彼の外資誘導型の経済政策はタイの国益にとって危険だと判断されたということでしょう。

警察高官出身でビジネスでも成功を収め、与党党首でもあるタクシン前首相は、政治的経済的に強固な基盤を築いていました。しかし、それ以上にタクシン氏の後ろに控えている強力な「勢力」と対抗するために、政変という形をとったのだと思います。
そしてそれは、正しい選択だったと思っています。

ちなみに、タクシン前首相は、政変を予測していたと思います。国連総会に出席するたの航空機に、スーツケースを合計100個ばかりを積み込んだという報道もありました。後日、別の便に乗ったタクシン夫人も、約100個の荷物を積んだと報じられています。タクシン氏本人はこれを否定していますが。

今回の政変に、どのような国内勢力が加わっているのかは非常に複雑だと思います。表面に出てきている人々は、直接的な利害に関わる第一当事者ではないはずです。彼らを辿っても、奥までたどりつくことはできないでしょう。

今回の政変は、タイは決して外国の支配は受けないという強い意志の表れだと思っています。しかし、闇雲に外国資本等を排除するというのではなく、一方だけが得をするような関係は拒絶するということだと思います。タイにとっても外国資本なしではやっていけないことは明らかですから。


個人的には、タイらしい見事な手際だった、と思っています。
微笑みの国タイは、非常に思い切りがいい国でもありますね。
返信する
Unknown (Yegy)
2007-01-29 23:54:41
中司さん、ていねいな回答をありがとうございます。
今後も中司さんのblogを気長に楽しもうと思います。
返信する
問題の本質を理解しているのでしょうか? (青のクリスタル)
2007-02-06 06:00:16
今回のクーデター(あえてこういわせていただきます)はどこまでタイ全体の国民の民意を反映しているといえるのでしょうか?
そもそもタクシノミクスの成功でタクシンは地方から支持を集めており、2005年からソンティ氏との政争が激化していたときも、地方の支持を得ていた理由から、支持率は全体ではタクシン氏のほうが優勢であったはずです。軍幹部により指揮された今回のクーデターは、一部の不満を持つ人間に指揮されたものと見るべきであり、そういう体制変化は決して民主的であるとは言いがたいと思います。
そもそも言論で体制の変化がなされていない、力による変革とは、それ自体、先進国の利益になろうとなかろうと民主主義の危機と捕らえるのが良識のある人の見方であると思います。
また、先進国側の利益と、自国の利益とを両立させようとすることは果たして悪なのでしょうか?タクシン氏の地方の支持が高いという事実に鑑みれば、彼の一部親米的な経済政策は都市部の人間だけでなく、地方の農村のからも支持を得ていたと見るべきであり、この経済的利益が一部の都市の人間を潤わせるだけのものだとは考えにくいのですが?
ちなみに通貨危機と短期資本の関係ですが、97年に通貨危機の前にタイが、固定為替相場をとり通貨価値が安定していたことと、上昇するタイの実質為替通貨を名目為替通貨のレベルに買い支えるためにマネーサプライを増やしたことで、物価と金利の上昇を引き起こしていたことから、短期資本を流入を招いたということが原因にあげられます。
IMFはこれを警戒し、バブルがはじける前に、タイ政府に通貨を固定為替通貨制度から変動為替通貨制度へ移行することを勧告しましたが、タイ政府はこれを再三無視し続けました。
その結果、タイ経済は空前のバブル状態となり、危険を察知した機関投資家による投機的攻撃による資本逃避により通貨危機が起こりました。
ちなみにタイ政府は、90年代に途上国が構造調整プログラムが主流となった時期に、IMF・世銀によらず自ら構造改革を行った国です。
この事実からしても、あなたのタイ通貨危機に対する先進国批判は非常に偏っていると思います。なにか悪戯に、先進国に損となるような出来事を歓迎しているような感がしてなりませんがいかがでしょうか?
返信する
Unknown (青のクリスタル)
2007-02-06 09:27:26
ようは、個人的感想というだけで、よくここまで「タイの政変(クーデター)は民主主義の危機などではない」というような、はっきりした主張がよくできるものだなと疑問視しているわけです。あなたの意見には常に「戦争を行うアメリカ率いる先進国=悪」という論調で語られ、先進国に挑戦しようとする動きを悪戯に歓迎しているという感が否めないのです。

「タクシンの外資誘導型の経済政策は長期的にはタイ経済の危険となりうると判断したのだろう」ということを述べていますが、それを判断したのは結局だれなのか、と上の書き込みで他の読者の方が質問していますが、それも「奥までたどり着くことはできないでしょう」言われたのでは読者としてすごくがっかりするわけです。クーデターに関わったタイの軍部とはどういう信条を持った人間で構成されていたのか、だとか、タクシンや対立しているソンティ氏を取り巻く人間についてもう少し調べて推測してくださいよ。そこから立てられた推測であればもう少し信憑性があって、わくわくしながら読めるわけです。

また、あなたの「政変説」をサポートしているのは97年の経済危機の説明ですが、ただ途上国に短期資本が流れることが悪いという中途半端な素人考えになっています。その「臆病な短期資本」がなぜタイ経済に大量に流れたのか、その原因となったタイの経済構造をほとんど理解していないとお見受けしました。金融のグローバル化だけが原因だったでしょうか?他の記事を見ても、各国比較が中途半端です。

またどうして海外資本が長期の資本ではなく、短期の資本に大部分を頼ったのか、ただ「金融の自由化がよくなかった」という論調では説明が付きません。金融の自由化は金融危機のリスクを高める一因程度にすぎず、それを見越した制度の整備や、長期の資本を招きいれるための規制緩和や情報公開が不徹底だったことのほうが大きな原因です。そのために投資家との長期的な信用関係を築くことができなかった。また長期の資本市場の成熟には短期市場の成熟が必要である、ということにお気づけになれたらいいですね。

経済音痴ならば、それに言及することをやめて、せめて、暫定政権のソンティ氏の人物のプロファイルについて言及し、彼の政治家としての度量について分析でもしていたら、もうすこし地に足の着いた議論になったかもしれませんね。結局のところ、あなた自身がよく理解していないものを「だいたいこんなものだろう」という主観的な印象を述べたり、実際に把握できていないものを無論拠で想像で書きすぎているんですよ。

論拠に乏しい主観の集積を読者に押し付けるだけで、実際「市民を啓蒙する」というジャーナリズムの本来の目的を著しく見失っていると思います。事実を報告し、読む人に対し主張しすぎない程度に論点を提示し、その最終的な判断を読者に委ねるのが、本当のジャーナリズムだと思いますよ。
返信する
疑問を持つこと (中司)
2007-02-06 16:07:46

僕が最も言いたいことは、ものごとに疑問の眼を向ける、ということです。
特に、政府の発表や、メディアによる報道には相当な注意が必要です。
そこには数多くのウソやごまかしが潜んでいます。
鵜呑みにしているととんでもないところに流されてしまいます。
しかし、すべての真相を見抜くことなど誰にもできません。
「あのときあの真相を見抜いていたのオレだけだ」と誇らしく書いている人もいたりしますが、はずれたことはたいてい書かないものです。
図書館の政治や経済の棚を見れば、予測ははずれることの方が多いということが分かります。
だからといってそれらが無意味ということではありません。
当たりはずれにこだわるべきではないです。
それよりも、いったい世界では何が起こっているのだろうかと、考えをめぐらせる行為にこそ意味があります。
しかし、そうした行為は学者や専門家、ジャーナリストなど一部の職種だけのものではありません。
あるゆる人が行うべきなのです。
そしてそこにはどのような考え方があってもいいのです。
ひとつの考えに統一されることが危険なのは言うまでもないです。
二つの考えが対立するのも同じです。
さまざまな発想が自由自在に飛び交うべきなのです。
ウソやごまかしに流されず、自分で自由に発想するために必要なのが「疑う」という行為です。
あらゆることに対して、ひとまず疑問の眼を向けることが自由な発想の第一歩です。

覇権者や権力者にとって、本当の現実を覆い隠して、偽りの現実を描くことは簡単なことです。
メディアはそうした偽りの現実を流布強化します。
メディアは権力から独立した存在などではなく、権力とほぼ一体化しています。
覇権者や権力者はメディアを使って、いくらでもウソの世界を描くことができます。
メディアの報道を鵜呑みにしていては、思いも寄らないところに流されてしまいます。
そして、何の罪もない人々の頭上に爆弾がふりそそぐ結果さえまねくことがあります。
「油まみれの水鳥」や「ナディア証言」「大量破壊兵器」だけが捏造ではありません。
ウソ、ごまかし、隠蔽、捏造はそこらじゅうにあります。
現実を知るためには、まず、疑ってみること、そこからはじまります。
疑問の眼を向けている限り、誘導操作される危険は格段に低くなります。

そして疑問は思考につながります。
ただし、考えるという行為は、必ずしも答えを得るためのものではありません。
学校教育の場では、すべての問いには答えが用意されています。
しかし、社会の中で起こる出来事や現象に関して、同じようにすべて答えが得られるとは限りません。
答えの出ないことの方が多いです。
答えが出ないなら考えるだけ無駄、ということにはなりません。
答えを得ることよりも、答えに向かう過程の方が重要です。
その過程の中は、思いもよらない発見で満ちています。
答えよりもその発見の方がはるかに価値があります。

僕が書くものも大いに疑ってください。
返信する
論拠なき過度な疑いは被害妄想 (青のクリスタル)
2007-02-09 10:00:53
社会で起こっている出来事を疑問視するということは確かに世界の出来事を読む上での必要最低限もつべき心構えではありますが、あなたの疑問は十分な論拠を持たずに発展させすぎている。

上の記事で行くと、まずあなたは今回のクーデターの先進国メディアの取り上げ方が適切なものかどうか疑問を持った、そこまでは正しいとしましょう。

そして、今回のクーデターの影響が先進国の資本に対し悪影響を及ぼすものであることと推察した。そこまでは論拠も十分に提示されて正しいととることができましょう。

しかし、それを、あなた流のタイの政変の解釈でいくと、タイの「政変」はタイの社会が正常に向かっている証拠であり、先進国がこれを歪曲して報道し阻止しようとしている、ということになりますが、今回のクーデターがタイの社会にどのような影響を及ぼすのか十分に評価を行わないままこれを論理だてています。すなわち、本当に「歪曲」されているかどうかについて十分な証拠を提示していません。

それどころか、先進国の動向が途上国の不利になるものというように考えを固定し、そこには一切疑っていません。タイの利益と先進国の利益は本当に相容れないものなのでしょうか?

そして先進国メディアを敵対視する形で、タイの今後に関して、あえて楽観的な見方をしていますが、そこに不安はないのでしょうか?政情が不安定な国とみなされるだけで短期国債は信用を失い、よって長期国債も信用を築くのに一から出直しです。共通通貨バスケットも他に参入する国の同調がなければ実現しません。今回の件で周辺国からその信用は得られるのでしょうか?

あなたの論調はメディアに対して常にだまされているという考えが念頭にあり、その逆を行くことしかしていない。その考えは冷静さを欠いた被害妄想のように見て取れます。

イラク戦争の時、確かに大量破壊兵器の存在が米政府によって主張されました。NY Timesなどはそれを「ホワイトハウスの見解はこうだ」という形で報道しました。それはホワイトハウスの見解を報道したのではないですから、それ自体は捏造などではないはずですよ。その社説やOpinion面には戦争を支持する意見と反対する意見との両方が提示され、戦闘終了後もアメリカのイラク政策に批判的な記事もあれば、早期撤退する意見についての批判的な意見もバランスよく載せられていました。

イラク戦争前のアメリカの反応はあなたが思っているほど戦争一色単ではありませんでしたよ。全米各地で規模の大小はありますが、戦争反対のデモがありました。戦争という言葉に感情的に反応していただけかと思える部分もありますが…その時期のTimeやNewsweekをバックナンバーをとって読めばわかることです。

世の中の人間はあなたが憂慮するほどだまされてはいません。先進国のメディアもあなたが思っているほど軟弱ではありません。もちろん、先進国のメディアの報道がすべて本当だとはいえませんが、あなたはそれを言う時、信憑性の捕らえ方のさじ加減を著しく間違えていいます。あなたは疑いを持つ前に、まずきちんとメディアの言わんとしていることを理解しているのでしょうか。

あなたは疑うことが、あたかも高尚な思考作業であるように上の書き込みで書いてらっしゃいますね。そうして「答えを出すことが重要でない」といいながら、しかし、結局私の提示した議論にたいし自分の見解を説得することを放棄しています。あたかも意見の多様性を主張したことで、私の一見無礼とも取れる反対意見を包容し、自分の寛大さを主張したように見せかけてはいますが、そこからあなたの心の弱さと自分の主張に対する自信のなさが、はっきりと私にはわかります。

あなたの「疑え」というのは「疑うことを楽しめ」といっているようにしか聞こえません。ただ権力をコケおろしていくことに楽しみを感じているとしか取れない部分が多く見られます。「退屈な毎日に華を添えましょう」ぐらいのものでしかなく、志の低さを読むたびに感じます。

そういうあなたの記事には夢がありません。今回のタイの記事で言えば、あなた自身が、「タイにとって何が今必要なのか」ということを、タイそのものを産業構造・歴史・人々の暮らし・政党政治の構造といった社会の側面に照らして分析し、それに基づいて開発課題を洗い出してはいません。

そういう記事を読んでも読者のほとんどは、「タイという国をもっとこうすればよくなるに違いない」といった、未来の展望を持つことができないはずです。批判だけでは、あなたの作り出した、被害妄想の世界の住人になるだけです。

あなたにうらみはないが、ネットで3ヶ月くらい前に見つけて以来、あなたのような自信満々で風説を流す人間とそれに同調する人間が以外に多いことを危惧していました。なんの証拠や展望もなく悪戯に実際に政治を行う人間と民衆との距離を広げているだけだと感じました。ネットの上での検索結果の件数はたいしたことありませんでしたが、あなたを支持するトラックバックが他のブログに比べて多いことが気がかりでした。

こんなことを言っても、前のコメントからわかるように、おそらくあなたからまともな答えは来ないでしょうし、あとはこれを読んでいる皆さんにあなたの評価を任せましょう。言いたいことは全部言いましたから、これで、あなたが僕の意見をどうコケおろそうと、他の人がどんな酷いコメントをしようと、往生して黙ってみています。人を説得するってのは難しいですし、ここにコメントしている人はあなたにずいぶん心酔しているみたいですから。

ところで最後に、あなたの「疑え」という主張に反して、読者にあなたが心酔し批判性を欠いている、というその矛盾にあなたが気づいれば、あなた自身こんなブログそうそうに止めていたと僕は思うんですけどね。自分の主張が真に伝わってないことに不満を感じなかったのでしょうか?もしかしたら、あなた自身、自分が言っていることをよく分かってなかったりするんですかね?
返信する
礼節 (中司)
2007-02-09 23:27:24
ブログに対する悪意のコメントや「荒らし」というのはいとも簡単に行える。
ハンドルネームを次々と変えて複数意見を装ったり、一人二役でケンカを演じたり、それこそ何でもできるのだ。コメント欄をオープンにしている限り、それを防ぐことはできない。相手がどこの誰であるかは、こちらには永遠に分からない。たいていの場合は。

こんな話がある。あるサラリーマンのブログに、しつこいいやがらせのコメントが続いた。いやがらせのコメントはエスカレートし、ついには警察が動くことになった。そして犯人はつきとめられた。捕まった犯人は、被害者のとなりのデスクで毎日仕事をしていた同僚だった。とても象徴的な話だ。被害者は最初からコメントに応対すべきではなかったのだ。ダン・ギルモアも言っている。無視するのが一番の方法だと。

悪意のコメントに不用意に応対すれば、よけいにいやがらせはエスカレートする。
なぜなら、彼らの目的は相手の時間を奪うことだからだ。
もっともらしい口上を並べ立ててさそいこむのが常套手段だ。自分は議論をしたいだけだ、なぜ逃げる、議論に応じないのは負けを認めているからだ、などなど。なんとでも言えるのだ。そして自分が壁の後ろに隠れていることはかまわないらしい。

このブログでは、政府の政策やメディアを批判しているので、これまでもいろいろな異論反論罵倒をもらった。しかし、ほとんどのコメントに対しては真摯に返答している。郵政民営化論議が沸騰していたころは、かなり迫力のあるコメントをもらった。たった二行の文面に背筋が寒くなったこともある。しかし、そうした批判コメントにもきちんと答えた。なぜなら、文章にあれだけの迫力が宿るのは、それが心の底からの声だからだ。それは、魂の言葉だ。
当時の批判コメントからは多くのことを学んだ。いまでも、とても感謝している。

しかし「荒らし」は無視することに決めている。本人に「荒らし」の自覚があるかないかは関係ない。礼節を欠くようなコメントに応じるのは愚の骨頂だ。上記のサラリーマン氏の轍を踏むことになる。

これは僕だけの問題ではない。僕は悪意のコメントに対して無視すればいいだけだが、このブログを読んでいる人にとっては、そうではない。僕が何かを書く。悪意のコメントがくる。そして、それを読んだ人がひどく嫌な気分になる。実際、そういう声を聞いた。悪意のコメントは、僕の時間は奪えないが、別の意味で目的を達成してしまう。これ以上同じことは繰り返さない。
これからは、コメントのセッティングを事前承認にする。コメントはプールされ、承認しない限り反映されない。最初は、こんな設定はブログについていなかった。
TBはオープンのままだ。また、メールアドレスはプロフィール欄に記載されている。

互いに顔が見えない形でコミュニケーションしなければならない以上、人間として最低限守らなければならないものがある。
返信する
荒らしと批判 (一学生)
2007-02-11 23:18:06
お久しぶりです。一年ほど前の記事に経済学に関するコメントを投稿致しました一学生です。

さて、この一連のコメントに関してですが、青のクリスタルさんはあなたが書いた事について真摯に疑問点を指摘し、その論拠となる事実を提示し「反論」をしました。

自分がが見る限り、それに対しあなたはまともな反論をしていないよう見受けられます。

青のクリスタルさんが提示された疑問点に対し、あなたはメディアを疑え権力を疑えの一点張りでそもそも議論が成立していません。一年前の自分のコメントに関してもそうでしたが。これはこのような場を設け、ジャーナリストを名乗るものとして非常に不誠実な態度であると考えます。まともな反論をしないことは一読者から寄せられた都合の悪い意見を無視することと変わりません。

青のクリスタルさんはそのようなあなたの態度に対し批判をしたのであり、簡単に荒らし認定をするのはいかがなものでしょうか。
確かに少し過激な表現も含まれていましたので青のクリスタルさんにも落ち度はあると思いますが、彼の指摘するところは概ね同意できます。

ブログを見ている他の方々がどのように考えているのか気になるところであります。
それと果たしてこのコメントが載るのかどうかも・・・
返信する