くろたり庵/Kurotari's blog~since 2009

総務系サラリーマンの世に出ない言葉

まさに「泣いて馬謖を斬る」

2011-11-28 22:53:09 | これが会社で生きる道

<o:p>もう何年も前に知り合いから聞いた話しです。
その知り合いが勤める会社の管理部長に匿名の投書がありました。
それは、ある営業所長が「経理の不正処理をして着服している」というものでした。

この営業所長は社内でも評判のやり手で、
必ずノルマ以上の利益を達成し、</o:p>
支社長からの信頼も厚い社員でした。

管理部長は投書した者が誰なのかを探る一方で、
不正処理の真偽の調査をその知り合いに指示したそうです。

その結果、その営業所長は
約三年前からタクシー代の二重精算という方法で月々10万円前後、
年間で100万円近い経費を着服していることが判明しました。

具体的な手口の一つとしては、無線タクシーの運転手と親しくなり、
タクシーチケット使用時も領収書を発行してもらって会社で精算するなどです。

管理部長は支社長に報告し、本人を呼び出して事実を問いただしました。

営業所長は投書にかかれていたいくつかのことは否定しましたが、
経費の不正精算については証拠を突きつけられ、素直に認めたそうです。

そして使途について問われると、
彼は「夏と冬の二回、ボーナスとして自分の部下に商品券を配ったほか、
所内の忘年会や送別会の費用にあてた」と説明しました。

その後の調査で、彼の説明にウソはないようでしたが、彼の釈明は、
「私利私欲ではなく、部下の苦労に報いるためであり、悪いことはしていない」
と言っているようでもありました。

彼の処分について、支社長は寛容でした。
彼は毎年ノルマ以上の利益を出しており、やったことも部下の苦労を思ってのこと。
したがって譴責と降格程度が妥当ではないか、ということでした。

これに対して管理部長は厳罰、すなわち解雇を主張しました。
理由は何であれ、所長の行為は会社に対する背信行為であり、
このような不正を行なう社員は、仕事が優秀でも信頼できない。
また、投書をした人物は判明しなかったが、彼の不正に気づいている社員たちは、
会社が不正に対してどのような処分を下すのか経営者を見ている。
管理部長は「泣いて
馬謖を斬る」のたとえで支社長を説得したそうです。

結局、彼は事実上の諭旨解雇でありながら、
表向きは希望退職という形をとって退社していきました。
退職金まで支給したのは、彼の能力をかっていた支社長の「武士の情け」でした。

そして彼が解雇された半年後、会社は決算の時期を迎えました。

彼のあとを引きついだ営業所長が、
帳簿と実際の支出を照合していくとどうしても合いません。
過去に遡って詳細を調査した結果、
彼は会社から求められたノルマを確保するよう支出を調整し、
巧妙な手口で毎年翌期へ繰り越していたことが判明しました。
その金額は、積もり積もって数千万円にのぼていたそうです。

「あいつには裏切られた」と支社長は激憤しましたが、あとの祭りです。
彼がいなくなったその年、
その営業所では、適正な経理処理にもどすため、
大きな損失を計上しなければなりませんでした。

蜀の国の馬謖は、たった一度の軍令違反のために処刑されました。
馬謖は、処刑を指示した当の諸葛孔明が涙を流して惜しんだほど、
優れた人物であったといいます。

しかし、処罰される人間が、
司令官に惜しまれるほど優れた人物であることはまれです。
なぜなら、不正や命令違反をする人間というものは、
多かれ少なかれ他でも同じようなことをしているからです。
発覚するのは、不正行為のほんの氷山の一角に過ぎないものです。

この会社の管理部長は、投書の調査をしながら、
この所長に対する部下の憤懣を感じ取っていました。
そして、彼の人間性に疑問を感じ、信頼するにたる管理職ではないと判断しました。

結果的に、会社の損失が深手になるまえに解決できたといえます。
もし、支社長の言うとおりにして寛大な処分で終わっていたらどうでしょうか。

経費の不正処理はなくなったかもしれませんが、
彼の不正に気づいている社員の憤懣ははちきれんばかりに膨らみ、
モラルもモラールもますます低下するでしょう。
そして、翌期に繰り越していた損失はさらに増大していたに違いありません。