大黒さんの金魚鉢

黒金町の住人の独り言は“One”

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ケインズ伝(10)

2014年12月16日 | 労働者福祉
「約束してきたことは進める義務がある。
集団的自衛権についても国民の信任を得た」
安倍首相はこう豪語しています。
消費税増税の延期について信を問うための解散総選挙の理屈が、勝った翌日からあっという間に変わりました。
選挙期間中に1万8千円を超えた平均株価も、あっという間に1万7千円を割り込みました。
どこかの誰かが儲かり、どこかの誰かが損したんでしょうね。

さて「ケインズ伝」最終回です。

こうした現代資本主義の危機に対して、過去ケインズが提唱した「国際精算同盟」案は、きわめて有効な手段です。
それは、現在の「ブレトンウッズⅡ体制」という名の国際通貨体制の持つ欠陥を是正し、金融不安定性の除去に立ち向かう方向、ならびに債権国が外貨を蓄積することで世界経済にデフレ圧力を防ぐ方向が示されているからです。

IMFの機構にはあきらかな問題があります。
設立の経緯からして米国がその主導権を有しています。
最大の出資国である米国は理事長を欧州に譲ってはいますが、事実上は拒否権を有しています。
債務危機に陥ったときのIMFの融資は、短期資金の融資という性格上のためか債権の回収ばかりに目が向けられ、債務国の再建のための融資になっていないという批判があります。
IMFは、ケインズの主張のように反景気循環的政策のために資金を提供するというより、景気減速に耐えている国々に緊縮財政を要求するケースがほとんどですからその批判は起こりえます。
IMFの手法は景気後退の中で、増税と支出削減を要求し、債務国の景気を悪化させました。
このような批判は、現在の国際金融システムが重大な岐路にあり、もう一度ケインズの構想を再検討して新時代の国際金融システムを築き上げなければならない証拠です。
そして、国際機関を運営している先進各国が自国主義の束縛から抜け出して、世界主義に立脚しない限り、問題は解決しないでしょう。

経済理論の第一の危機は、1930年代の大量失業の中に現れましたが、ケインズの革新的理論と政策のおかげで、我々は危機をなんとか乗り切りました。
ところが、それから数十年経過した今日において、都市が荒廃し、貧富の格差が増大するばかりで世界はめちゃめちゃな状態に陥っています。

ケインズの「一般理論」には、こう明記されています。
資本主義の欠陥は二つあります。
一つの欠陥は、雇用問題が十分に解決されていないことです。
もう一つの欠陥は、分配問題が十分解決されていないことです。
『大量の失業者が町にあふれて、人々の間で貧富の差が徐々に拡大しつつある。
これこそが資本主義の欠陥であるから、早急になんとかしなくてはならない。
だから「一般理論」を一気に書き上げたのだ』、とケインズは明確に述べています。

ケインズは「実務家」として実に多様な生き方をしました。
ケインズは普通の学者だったとは決して言えず、会社の社長でもあったし、財務省の役人でもありました。
バレリーナの奥さんと結婚しましたし、有名な美術品の収集家でもありました。
ケインズ自身は、こうして「複眼思考」で、実に多様な生き方をしました。
彼は金銭一辺倒の「経済人」ではなく、ゆとりがあり豊かな生活を目指す「生活者」だったわけです。
IMF(国際通貨基金)とWorld Bank(世界銀行)という戦後経済を支える国際的な枠組みを作り終えたケインズは、その創立総会に出席後、1946年4月21日、亡くなりました。


『参考文献』
マクロ経済入門‐ケインズの経済学‐(佐々木浩二)
現代に生きるケインズ(伊東光晴)
なにがケインズを復活させたのか?(ロバート・スキデルスキー)
危機の中でケインズから学ぶ(ケインズ学会)、ケインズ100の名言(平井俊顕)
ケインズは、今、なぜ必要か?(ケインズ学会)