いつまでも山の上でぐずぐずしていると思ったら、いつの間にか街に秋が降りてきた。
あたり一面、金色に染まる。
ところかまわず金箔を散らし、どこもかしこも金蒔絵の世界になる。
そのまばゆさに、張りつめた大気の中には、なにやら笙(しょう)や篳篥(しちりき)の気配さえ漂い始める。
そして、不意に差し込む龍笛(りゅうてき)のような金色の日差しに、思わず目を細める。
人はこの豪奢な時間を前にして、ただ押し黙るばかり。
吸い込む息も、金色になる気がしてくるくらいだ。
人はただ、この金蒔絵の世界の中で、雅楽を吸い、雅楽を吐き出しているかのよう。
梢は、絶え間なく金の破片を振り蒔いている。
地上のあらゆる嘘や嫉妬や悪巧みの上に降り注いで、息がつまるほどに芳醇な香りを放つ無垢な色彩に、金一色の世界に塗り込めようとしている。
混沌の灰色に金を重ね、漆黒の苦しみに金を重ね。
無垢な金一色の世界を紡ぎ出そうとしている。
しかしやがて、この樹々のもくろみも破られる。
鬱金に塗り込められた世界にも、再び血潮が通い始めるのだ。
ちはやぶる 神代もきかず 竜田川
からくれないに 水くくるとは
在原業平
そしてあたりは竜田の錦に彩られる。
が、季節はめまぐるしく流転するものだ。
鈍色に暮れかけた空に目をやれば、そこには既に銀彩と漆黒に綾取られた、螺鈿の輝きの冬が佇んで居るではないか。
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