くまえもんのネタ帳2

放置してたのをこちらに引っ越ししてみました。

我が命を支えし美しき君よ

2004-11-12 16:56:53 | ノンジャンル
我が命を支えし美しき君よ
古いマドリガルの題名なのだ。
シンプルな旋律だけれども、切なく美しく深い幻想に満ちた曲。
30年前に聞いて、それ以来体にこびりついている。
今では僕の一部になってしまっている曲だ。



今週の初めまで、函館にある北大水産学部の学園祭に取材に行ってきた。
ゲイなお仕事。
鯨関係の取材だったのだ。

取材現場の隣の教室を覗いたら、オーケストラの連中がスープバーを出店していた。
チェロやバイオリンが無造作に置いてある。
聞いてみるとさわらせてくれるという。
らっき~!
30年ぶりにチェロを弾かせてもらった。


バッハの無伴奏なんて、もうとうてい弾けるわけもなく、とにかくどんな手触りだったか感触を思い出すのがやっとだった。それでもボーイングは体に染みついていたと見えて、何とか音は出せる。チェロは良いね、やっぱり深い良い音が出る。
しばらく音階練習をして指もなじんできたんで、リアドフの「8つのロシア民謡」の中の「悲歌」にチャレンジしてみた。短い曲だけどこの沈鬱な曲は大学1年の時、初めてのコンサートで弾いた曲だ。もちろんその時、僕が弾いていたのはビオラなんだけどね。
「悲歌」の前半はチェロだけで演奏される。後半もほんのちょっとだけほかの弦パートが重ねられるだけのシンプルな構成なんだけど、荒涼とした風土の中でのかすかな憧れのようなこの曲が大好きで、ビオラの2重奏に編曲して練習してたことがあった。だから、このメロディーも僕の体の一部になっている。
たどたどしい演奏。
でも、当時の音楽へのひたむきな憧れがよみがえったような気がした。
なんて長い間、僕は歌うことを忘れていたんだろう。

オーケストラの女の子と、弦楽合奏の話をした。
その子は子供の頃からヴァイオリンを習っていて、大学に入ってからアンサンブルを始めたんだそうな。
ブリテンのシンプルシンフォニーでちょっと盛り上がったけれど、グリーグのホルベルグ組曲とか、レスピーギの古代舞曲とアリアだとか、ペーターワーロックのキャプリオール組曲なんて言うのは聞いたこともないという。
そんなものなのかねぇ、世の中のいわゆる音楽ファンって言うのは。
世の中には、気も転倒するほど美しい曲ってのがいっぱいあるのに、いわゆる大作曲家のラインナップを少しでもはずれると、ほとんどの人が興味を示さなくなる。

ビオラを持ってきてくれたので、弾かせてもらった。
MATAGIの1周年以来だ。あのときパーティーの合間にちょこっと弾いていた、キャプリオールのパヴァーヌを弾いてみた。古いマドリガルの旋律を弦楽アンサンブルに編曲した作品。「我が命を支えし美しき君よ」と歌い出すこの曲は、静かな幻想に満ちていて大好きな曲。パーティーのさなかにこの旋律を弾くのは、なかなか楽しかった。誰にも曲のタイトルを言い当てられる心配はないからね。「我が命を支えし美しき君よ」なんて口ずさんでいたら、きっと聞きとがめられちゃうだろうけど、その点器楽曲は良いね。密かに愛の言葉を歌うことが出来る。

密やかな恋、片思いで終わった恋というのは、それを失った後も甘く悲しい思い出として長いこと体の中に居座っていたりする。
何年も一緒に一緒に暮らしたあげく、ひどい裏切りで終わる愛の暮らしみたいに、心にまがまがしい傷跡を残したりしない。
時々思い出すたびに、ひそかな後悔の念を呼び覚ますぐらいだ。
そんなことを思いながらパヴァーヌを弾いていた。



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