雪の日の翌朝、山の斜面に日が射すのを待ってシャッターを押す。
梢をうっすらと雪の花が覆う。
この軽やかな眺めは、ドカ雪なんかの後では返って望めない。
雪が融けてしまわぬ内にと山道を登っていくと、冬枯れた野のくさぐさにも粉雪の花が灯っている。
心ざし
ふかく染めてし
をりければ
消えあへぬ雪の
花とみゆらん
古今集 よみ人しらず
確かこんな歌があったよねぇ。
春を心待ちにするのは、今も昔も変わらないってことかな。
時ならぬ花盛りの山道に浮き浮きしながら、更に歩みを進める。
霞たち
木の芽もはるの
雪降れば
花なき里も
花ぞ散りける
古今集 紀貫之
向かう先は、リスの餌台を作った、まぁ仮に「リスの広場」なんて何のひねりもなく呼んでおこうと思っている、先日の場所。
餌台へと渡したリスのための渡り廊下にも雪が積もって、朝日に輝いていた。
ちょうど木漏れ日の落ちているあたりに、枯葉を並べてみる。
早春の日射しの移ろいは思いのほか早い。
カメラを向けている内にも表情が変わっていき、止まることがない。
と、すぐ近くにシジュウカラの警戒音を聞く。
チチチチチッ!っと鋭い鳴き声は、何だか叱りつけられているような勢い。
見ると、ほんの1m先の枝の間に、数羽の群れが来てこちらを見ている。
彼らの聖域に侵入した不埒者を追い出そうというのだ。
「なんだ、こんなに近くにまで寄ってくるんだったら、目隠しなんか要らなかったのかな」なんて思いながらも、いそいそと立ち退く。
観察用の目隠しの陰に回り、改めてカメラを向けて待つと、今しがた置いたばかりの餌をついばみにやってきた。
それでも、気の強い連中ばかりではないらしく、一粒くわえるやいなやすぐ下に散乱したままのソダの中に隠れて殻をつついていたりする。
果敢な連中が次々と戦利品をかすめ取ってくるようになってくると、次第に群れは大胆になってきて、餌台の上でゆっくり食事をはじめる者も出てくる。
お気に入りの一粒をくわえると、足場の良い餌台の縁に移動して......
両足で挟んで、一心不乱に殻をつつく様子はなかなか愛らしい。
早く連中と紳士協定を結んで、至近距離からのんびり撮影したいとも思うのだけれど、それでは野生が失われてしまうねと思い直したりもする。
ひとしきり撮影もしたので、午後の予定は周りの様子のチェック。
目指すは、去年一番最初に作った餌台だ。
昼休みの後出来てみると、雪はほとんど融けてしまってましたね。
春の淡雪は、儚いねぇ。
縁に飾った木の実もなくなっています。
周りにも落ちていないので、鳥たちがついばんだんじゃないかなって思うんですよね。
周辺の林の中も、実を着けたままの枝はすっかり無くなってしまっているし。
この餌台に飾った実が、確か一番遅くまで残っていたんだからねぇ。
餌台の中を覗いてみると、山盛りに入れてあったクリやドングリはほんの数個までに減っていました。
餌台の足下にはドングリの殻やクリのしいながいくつか散らばっていました。
それだけじゃありません、餌台の中に入れてないはずのヒマワリの殻がいくつか見つかったりして。
ってことはこの餌台の周りに立てた新しい餌台に入れておいたヒマワリをくわえてここで食べていたって事になりますね。
さて、周囲の林を調べに行っていた仲間が戻ってきて、鳥の群れが見られたのはこのエサ台を置いた周辺に限られているってなことを教えてくれました。
どうやら、この2日間に見かけた十数羽の混群がここを利用しているようです。
たぶんここの木が切り払われる前から見かけていた連中なんでしょうね。
と言うわけで、この餌台たちは間伐による影響を最小限に抑えてくれているようです。
気をよくした僕たちは、ここを観察スポットとしてふらりと散歩に来た人たちにも使いやすくなるようにって言うんで餌台を並べた小径からリスの広場へと階段を造ることにしました。
材料はもちろん間伐したままになっていた枝や幹(えぇ、放置していたらエコスタックって呼ばれてしまう運命の)です。
階段の設置場所は、この冬の間に何となく出来てしまった踏み分け径を流用することにしました。
そうすれば改変する場所が最少に抑えられるだけでなく、感覚的にも利用しやすく(人間が作った獣道みたいなものですね)自然に足が向く階段になるわけです。
よくある公園の、いかにも図面の上だけで位置を決めた感じの小径って、まず例外なくあらぬ場所に踏み分け径が出来てますよね。
径のカーブや周りの障害物、木立やビューポイントとの配置関係を考えずに、図面上の平面的美観だけで線引きすると実情に合わない散策路が出来て、そこを利用する人たちがショートカットルートを造っちゃうんですよね。
で、たいていの場合そっちの方が歩きやすいし理にかなっている。
A(^_^;
でも、ほとんどの場合、公園側はその踏み分け径に進入禁止の立て札なんか立てたり柵をしたりしている。
でも、いくらそんな障害物を作ってもすぐにまた人が踏み込んでいく。
散策路をデザインした人は、自分の不明を恥じてルートを付け替えるのがいちばん良い解決策だと思うんですけどねぇ....そうすればもっと洗練された公園デザインへの道も開けると思うのだけれど.....。
そう言えばこんな話しがあったっけ。
母校のキャンパスの庭が整備されたとき、新しい庭にはまっすぐの径が1本もなくなってたんですよね。
なぜだか聞いてみたら、設計者が雪の日に通行人が残した雪の足跡を見てひらめいたんだそうです。
雪の上の足跡は、どれ一つ取ってもまっすぐのものはなかった。
これが人間の気ままな歩き方の本性なんじゃないかってね。
まぁ、実際出来たキャンパスの庭は、歩き良くはなかったんですがね。
地形の細かな起伏や、目的地(例えば図書館の入り口)までの主要な最短ルートはやっぱり意識して造る必要があると思いましたねぇ。
最短時間と最短距離で移動したい目標物へのルートは、やっぱり直線的な方が使いやすい。
のんびり散策しながら小径沿いの色々を発見しながらってな、くつろぎの場所はウネウネと綾のある方が面白い。
発案者は、自分の発見に余りにも強く愛着を持ちすぎたんでしょうね。
話がそれた。
階段造りをしていたら、落ち葉の下からこんな物が出てきました。
えぇ、リスがかじったクルミの殻です。
ネズミと違って、殻の合わせ目にそって囓るのがリスの特徴。
どうやら階段脇に生えている若いクルミに以前からやってきていたようです。
リピーターがいたんですね。
ってことはこの場所にリスの観察スポットを造ったのは正解だったって事ですね。
地形や林の様子からここがよかんべって、スタッフたちとの感で決めたんですけど。
それだけ僕たちの感性が、獣じみてるって事?
汗
それはさておき、今年はここを拠点に、更に色んな観察スポットや環境回復のためのオブジェを配置していこうと思っています。
もちろん、子供達のボランティアも交えてね。
楽しみ楽しみ.....
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