くまえもんのネタ帳2

放置してたのをこちらに引っ越ししてみました。

乙女心とうわの空

2009-10-09 02:11:00 | ノンジャンル
「乙女心とうわの空」???
まぁ、それを言うなら「乙女心と秋の空」なのだけれど、学生時代にかなり天然の入ってる後輩がふと口にした言葉があまりにも真実をついていた?ので、記憶に残っていたのだった。




次第に色づいていく雲海を陶然と眺めていると、傍目からはただうわの空のアホ親爺にしか見えないだろうねぇ。
地質年代的な造山運動の果てに、なぜ今この瞬間こうして此処に僕が立っているのか、なんてしょうもない事を考えていても、周囲に悟られる心配もないから何とものんびりした気分に浸れるのだよ。

そんなとき、頭の中で静かに響き続ける曲がこれだったり。


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Arvo Pärt の My Heart is in the Highlands 。
Hilliard Ensemble の David James がカウンターテナーを歌っている。
他にもいろんな人が歌ってはいるけれど、敬虔な祈りに達しているこの演奏が僕には一番ピッタリ来る気がする。映像で紹介されている男性は、この曲を作った作曲家のArvo Pärtだ。
年をとっていくことと道を切り開いていくこと儚い一生になしえることなど、ほんわか考えさせてくれて、お気に入りの映像なの。




Pärt の静謐さは、この完璧な静寂の中で一層引き立つようにも思えるのだよ。

歌詩はバーンズによるもの。1789年に作られたんだねぇ。
ロバート・バーンズはスコットランドの詩人で、彼の詩によるスコットランド民謡は、わりと馴染みなはず。
日本でもAuld Lang Syneは「蛍の光」として、Comin Thro’ The Ryeは「故郷の空」として歌われている。
ちなみに今年は彼の生誕250周年なんだよね。




僕は高原の端に立って、これを口ずさみながら歩いていたんだけれど、詩に出てくる Highlands ってのはスコットランドのハイランド地方のことで、僕みたいに単純に「高原が好き~!」ってな話しではないのね。
ちなみに、ハイランド地方の風景はこんな感じ
Pärt にかかると、「我が魂はいと高きところに」なんて具合に聞こえてくるから、何ともステキだ。


歌詞を引用してみようかしらん。





My Heart's In The Highlands (1789)

My heart's in the Highlands, my heart is not here,
My heart's in the Highlands, a-chasing the deer;
Chasing the wild-deer, and following the roe,
My heart's in the Highlands, wherever I go.
Farewell to the Highlands, farewell to the North,
The birth-place of Valour, the country of Worth;
Wherever I wander, wherever I rove,
The hills of the Highlands for ever I love.

Farewell to the mountains, high-cover'd with snow,
Farewell to the straths and green vallies below;
Farewell to the forests and wild-hanging woods,
Farewell to the torrents and loud-pouring floods.
My heart's in the Highlands, my heart is not here,
My heart's in the Highlands, a-chasing the deer;
Chasing the wild-deer, and following the roe,
My heart's in the Highlands, wherever I go.

我が心はハイランドにあり
我が心はハイランドにあり,我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
野の鹿を追いつつ,牡鹿に従いつつ,
我が心はハイランドにあり,我何処へ行くも。
いざさらばハイランドよ,いざさらば北の国よ。
剛勇の生地よ,価値ある者の国よ。
我何処を彷徨うも,我何処を漂泊うも,
ハイランドの山を我永遠に愛す。

いざさらば山々よ,高く雪におおわれたる。
いざさらば大豁よ,また下なる緑の谷よ。
いざさらば林よ,また生い茂れる森よ。
いざさらば急流よ,どうどうと流るる川よ。
我が心はハイランドにあり,我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
野の鹿を追いつつ,牡鹿に従いつつ,
我が心はハイランドにあり,我何処へ行くも。

 中村為治訳「バーンズ詩集」(岩波文庫)より




上のリンク先には「スコットランドをこよなく愛したバーンズは,詩にスコットランド方言を積極的に用い」ているなんてことも紹介されてるんだけれど、どの辺がスコットランド訛りなのかまたまた調べてみたら、この詩の場合は最後の方の1行にあったんですねぇ。

Burns Original
Farewell to the straths and green valleys below,

Standard English Translation
Farewell to the broad valleys and green valleys below,

「straths」はエキサイトの翻訳で調べると、ちゃんと「広い谷」として訳されてくる。

ところで、スコットランド方言ってのは?
ゲール語だとかなり違うんだろうから、英語に似ているというゲルマン語系のScots語「スコッツ語」なのかしらん?
ゲール語の線が全く消えたわけでもないのだけれど、webだけで調べるのはやっぱり限界があるねぇ。
同じサイトからこんな記述も見つけたし。
ちょっと抜粋

**************
スコットランドゲール語は言語としてアイルランド語に酷似するが文法、用法、単語のいずれにも違いがある。ポルトガル語とスペイン語と同じように区別される。 スコットランドゲール語は大きく二つの地域(北ハイランド地方、西ハイランド地方)の方言に分類できるが、各地方の中で場所によって言葉や発音の違いがたくさんある。違いはあっても、日常のコミュニケーションにおいては、全く問題がない。なぜかというと、50年代にゲール語のラジオ放送、70年代にテレビ放送が全国放送となったので、ゲール語が広く理解されるようになったからだ。
**************

つまり比較的最近まで、ハイランド地方でも言語弾圧が行われていたのね。日本でも北海道や沖縄でその手のことは行われてきてたわけだし、よその話しってな気分にはなれないねぇ。




チョイと昔の話し、2丁目の今はない行きつけのバーで、ちょっとしたもめ事に巻き込まれたと事があったっけ。

そこのダブルマスターの一人はカナダ人なんだけど、ある時、当時僕が付き合ってた相手がイギリス人の友人ってのを連れてきたことがあったのよ。前もってのカレシからの紹介では、そのイギリス人の友人はとてもグローバルな考えの持ち主で非常に公正な判断を常に下せるってなね。
が、初対面でいきなりこんな事を言い出した。

「おまえはスコットランド人だろう?」
僕もマスターも、彼が何を言い出したのかとまどった。
で、マスターが「私は、カナダ人ですけど....」
と、さらにそのイギリス人は、
「いや、おまえはスコットランド人のはずだ、隠してもわかる!」
......なんて押し問答がしばらく続いて、みんなで「まあまあまあ」って割って入って何となく一段落させちゃったんだけどね。

こんな地球の裏側まで来て、なんなのあの人?って思ったのさ。
確執の根深さがうかがい知れて、ちょっとうんざりだったんだけど。
何が公正な判断だよ、とか思ったしね。
┐('~`;)┌




ハイランド地方の事をもう少し調べてみると、もう少しだけ「My Heart's In The Highlands」の詩の意味が飲み込めるような気がしてくる。
詩の背景を知るのって、やっぱ大事なのかもねぇ....じゃないと、上っ面の美しさだけで満足しちゃうかもだから。

またまたちょっとだけ、今度はここから抜粋

**************
ゲールの「中心地」は西方へと後退し、ゲール語を母国語としていたコミュニティでも最初に東部の人々が、次に中央ハイランドの人々がゲール語を放棄するようになりました。また19世紀中期にアイルランドでじゃがいも飢饉が起こり、コレラが蔓延したため、ハイランド地方の人口はさらに減少することとなりました。当時進められていたハイランド放逐は多数の人々に飢餓や死を招きました。また第二次ハイランド放逐では、家族は自主的に移住。さもなければ強制退去の措置が取られました。子供達や老人が数多く亡くなりました。
**************

......あぁ、こんな話しをするつもりじゃなかったんだけど。
A(^_^;


「音楽には、ただそれ自身のみを表現する機会を与えなければならない。
言葉が現れてくると、たちまち音楽の豊かさを貶めてしまう。」
http://sekihi.net/stone/8360.htm">アルヴォ・ペルト

気を取り直して、最後に、その美しさにいつの間にか放心してしまう、こんな音楽と映像に浸ることにしようかしらん。

My heart's in the Highlands, my heart is not here
そうよアタシはいつもうわの空


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