紅旗征戎

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姫路のロダン

2006-11-03 23:54:58 | 芸術
先日、姫路まで足を伸ばして、11月3日まで開催されていた『ロダンの系譜』展を見た。昨年から今年にかけて大阪の国立国際美術館で見た『ゴッホ展』や『プーシキン美術館展』は大変な混雑で、絵を見たのか、人を見たのかわからないほどだったが、姫路駅からも少し離れた姫路市立美術館であるためか、休日にもかかわらず、かなり空いていて、ゆっくり彫刻や絵を鑑賞することができた。

ロダンは好きな彫刻家の一人で、以前、このブログでも、ロダンの弟子で愛人であったカミーユ・クローデルについて取り上げたこともあった。フィラデルフィアのロダン美術館に閉館時間直前に入れてもらって、豊富なコレクションを堪能したのも懐かしい思い出である。今回の展示は、ロダンの作品そのものをたくさん見せるというよりも、ロダンがその後の西洋美術史に与えた影響について、影響を受けた作品を展示しつつ、考えさせるような構成になっていた。

1967年にロダン没後50周年に記念してパリで開催された展覧会に出品されたヘンリ・ムーア(1898-1986)、オシップ・ザッキン(1890-1967)、ロベール・クーチュリエ(1905-)、ベルト・ラルデラ(1911-1989)、アンリ・ジョルジュ・アダム(1904-1967)によるロダンへのオマージュと題した、五枚の版画に始まり、まずはロダンの有名な『カレーの市民』の試作品を展示し、高い台座から地平に彫像を降ろすことによって、偉人たちの苦悩が見る人々と同じ地平にあることを表現しようとしたロダンの意図を説明し、続いて生命力や生き生きとした人体表現を得意にしたロダンとその系譜を引くエミール・アントワーヌ・ブールデル(1861-1929)、コンスタンティン・ブランクーシ(1876-1957)らの作品を展示し、ロダンの影響と近代彫刻の発展を追っていた。やがて二つの大戦を経験することになる20世紀美術を展示した部屋では、ロダンがジャンルとして確立した、頭部や手足を欠いた彫像「トルソー」が、人間性を剥奪された表象としても利用されるようになったことを、ナチスのポーランド侵攻により、目の前で母親が腕を失うという壮絶な体験をもつマグダレーナ・アバカノヴィッチ(1930~)の『立つ人』という作品を展示して解説していたのが強く心に残った。

各展示室ではロダンの言葉も巧みに引用されていた。例えば

「どのような表面も、内側からそれを押している量の先端としてごらんなさい。あなたの方を向いている先端だと思って、ものの形を心に思い描いてごらんなさい。あらゆる生命は、中心から湧き上がり、そして内から外に向かって芽を出し、花を咲かせるのです。同様に美しい彫刻には、内側からの強い衝動が感じられるものなのです」(ロダン『遺言』)

といった言葉とともにロダンの彫刻を眺めていると、まさに内部から外部へエネルギーが放出されているような感覚にとらわれずにはいられなかった。

ロダンの作品とともに、メダルド・ロッソ(1858-1928)、ザッキン、フリオ・ゴンザレス(1876-1942)、アンリ・ローランス(1885-1954)らの作品を展示し、彫刻において、物質と光と空間の三者がどのように交錯しているのかを解説した展示室も興味深かった。光を吸収する彫刻と、鏡のような表面にして光を反射するようにしたもの、さらには網目のように隙間を作ることで、閉じた塊としてのイメージが強かった彫刻像を一新させたもの(例えば右写真のようなザッキンの作品)などなど、彫像一つ一つが説得的に迫って見えた。ピカソやブラックが、二次元の絵画で三次元を表現しようとして試みたキュビスムが彫刻にも影響を与え、反対に立体であるはず彫刻で平面を表現しようとしたアンリ・ローランスの作品「イヤリングをつけた女の顔」なども面白かった。

出品点数こそ67点と決して多くはなく、しかもほぼ全ての作品が日本の地方美術館の所蔵品を集めたものだったが、ロダンを軸にしながら、西洋近代彫刻史の流れと表現技法の変化を一望できる、優れた構成の展覧会だったと思う。徒に話題作や有名作品を集めたり、海外美術館から多大なコストを払って借り出して来なくても、企画力さえあればこれだけの展示ができるのかと感心させられた。作品が多すぎると、いつの間にか終わりまで見ることが義務のようになってしまいがちだが、手ごろな作品数で、一つ一つ考えながら見られたのも良かった。

常設展の方は、『近代フランス絵画-モネからマティスまで』と題して、コロー、クールベ、モネ、ピサロ、ヴラマンク、ユトリロ、マティスなど私たちにも馴染み深い巨匠たちの作品が、これまたコンパクトだが、美しい絵画ばかりセレクトされて展示されていて、ロダン展と併せて、近代西洋彫刻と絵画の流れを一遍に鑑賞することができて、贅沢な気分になった。旧陸軍のレンガ倉庫を改築した瀟洒な明治建築の美術館である。ほぼ姫路城内にあるが、登城の折にはぜひこの美術館にも立ち寄ることをお勧めしたい。なおこの『ロダンの系譜』展は、11月11日からは福井市美術館に移って、一ヶ月同じ展示が行われるようなので、そちらにお住まいの方はご覧になられるといいだろう


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