このは紅葉のお絵かき日記

トランプ大統領・たつき監督・irodoriの味方だよ

#840 雪ゆかば(3)軍師

2009年03月02日 | 思い出話

#838 雪ゆかば(1)束の間の幸福
#839 雪ゆかば(2)暗雲
…のつづきです。

*    *


旧来の「雪合戦」は、単なるケンカの延長線上のものでありまして、両軍入り乱れた中で各員がただひたすら「雪玉を作っては投げ、作っては投げ」して、力尽くで相手を屈服させるものでありました。
それがある戦を境にして、雪合戦の様相ががらりと変わりました。
統制のとれた組織的戦闘により、弱小勢力が劇的勝利を収めたのです。

その時の戦術は――
(1)後方(敵の有効射程外)に基地を設営。総員で雪弾を大量生産。さらに防塁を築き、塹壕を掘る。
(2)雪弾製造が一段落付いたなら、総員が雪弾を輸送しながら前進。
(3)有効射程内に達したなら直ちに集中射撃。息もつかせぬ猛攻撃で、敵に反撃の余地を与えない。
(4)弾を撃ち尽くしたなら直ちに基地に戻り補給。
(5)敵に攻め込まれたなら、総員速やかに基地に戻り、豊富な弾量で応戦し、返り討ちにする。


この戦術があまりに効果的であったためにたちまち広く普及し、「基本戦術」と呼ばれるようになりました。
そして、その戦術を考えたのは、誰あろう、わたしです。
わたしが思うに、戦術そのものが優れていたと言うより、無秩序の戦の中に初めて戦術というものを導入したことが画期的であったのでしょう。


この戦術は粉雪の戦場で特に威力を発揮しました。
さらさらの粉雪から雪弾を作るのは容易ならず、ただ握っただけではすぐに粉々になってしまい雪弾の用をなしません。形成しながら表面に焼き入れ加工を施すことにより形状を保つことが出来、さらに威力も増します。

ここで言う「焼き入れ加工」とは、温かい息をかけて雪の表面を溶かす(すぐに再凍結する)ことにより、硬化させることを意味します。素手で直接雪弾を作れば手っ取り早いのですが、すぐに手が冷え切って使い物にならなくなる上、無理してやり続ければ重度の凍傷になる危険性もあります。

このように粉雪からの雪弾製造には手間と時間がかかるため、敵前で雪弾を作っているようでは、格好の標的にされてしまうのがオチです。


かよ「敵が来るぞ!」


かよ「空襲警報! 伏せろ!」


「弾幕薄いぞ! 間を置かずに、気合いを入れて撃て!」


かよ「反撃!」


「後退! 戻れー!」
「あいつ、女のくせに、威力のある弾を投げる。しかも、コントロールも良い」
しかし、かよちゃんがいかに優れた射撃手であっても、一人では限界がありました。


かよ「戦力が違いすぎる! 攻め込まれるのは時間の問題か…」
戦況は、はっきりと悪い。
かよ「前は紅葉の戦術に助けられたけど、今度はまさかそれにやられる側になるとは…」
前に戦ったときは味方の人数も揃っていましたし、敵は戦術を知らなかったのですが、今回はまるで状況が違います。


まゆみ「紅葉ちゃん、大丈夫? 敵の攻撃中もずっと弾を作り続けているけど…」


まゆみ「ああっ! ずっと素手で雪弾を作っていたの!」
かよ「何だって! 手を見せてみろ!」


かよ「手がこんなになるまでやるなんて…むちゃだ! (手が凍傷になって)切断しなくちゃいけなくなったらどうするんだ! すぐに手を温めて――」


かよ「敵襲!! 応戦する! まゆみは、紅葉の手を温めてやるんだ!」


まゆみ「紅葉ちゃんの手が氷みたいに冷たい! もう戦うのは無理だよ、逃げようよ」


かよ「うん、紅葉のことが心配だし、(敵が補給に戻っている)今が撤退の潮時か」


紅葉「わたしは大丈夫だよ…まだ戦える…」
まゆみ「え?」


紅葉「そして…この戦に勝つわ…」

つづく…

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5 コメント

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Unknown (コウ)
2009-03-03 00:22:48
ナルホド、
前に「雪合戦は戦」と言うのは、こゆことなんですね

サラサラ粉雪と言うモノは2、3度見たことありますが…
確かに雪合戦向きじゃないですね


素手で、雪球作りは長時間は痛そうです
(僕も基本的に素手ナンですが…寒さも時間も違いますよね
この後どうなるのか不安です
返信する
司馬仲達か竹中半兵衛か (プリンス)
2009-03-03 00:37:40
世に名軍師と呼ばれる歴史上の人物は数あれど
 
なるほど合理的です
後世にまで伝わる「基本戦術」を編み出したのが、まさか紅葉さん御本人だとは
 
ところで『雪合戦』ですが
・・ナメてました  m(_ _)m
本当に申し訳ありませんでした
環境の差による文化の違いということでどうかご容赦下さい
 
 
 
この男子グループとかホンマ腹立つわァ
もうパンパンにシバたりたいッスけどね
 
かよちゃんやっぱり頑張ってますやん
リーダーシップ発揮しながら孤軍奮闘ですやん
紅葉ちゃんも手ぇボロボロですやんか
まゆみちゃんなんかもう泣いてしもてますやん
もう止めとき!降参しとき!
 
・・ってアンタこの状況で”勝つ”つもりなんかいな・・・
 
 
      つづく…


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ありがとうございます (このは紅葉)
2009-03-03 22:11:52
コウさんへ
手は痛みを通り越して、しびれて感じなくなっていました。かなり無茶だったと思います。
手袋と耳の隠れる帽子は必須装備でした。
今は昔ほど寒くはないのですけれど、外で遊んでいる子どもの姿を見かけることもありません。
現代では遊び場の取り合いで争うなんてことが起きそうもないです。

プリンスさんへ
今は競技としての「雪合戦」もあるそうです。
同じ言葉を聞いても人それぞれ意味のとらえ方が違うのは当然のことなので、気にしないでくださいね。
わたしの軍師としての能力は大したことはなかったと思います。ほかに軍師がいなかったというだけじゃないかな。
それに、わたし一人だけだったらすぐにあきらめていたと思います。かよちゃんとまゆみちゃんがわたしの力の源でした。
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すごい事になってますね~。 (some舎)
2009-03-03 22:42:28
 雪国の【雪合戦】って、ハードですね!
でも。今、思い出すと。
やっぱり、いい思い出ですか?
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ありがとうございます (このは紅葉)
2009-03-04 21:58:00
雪合戦のことは強く印象に残ってはいますが、あまり良い思い出ではありません。とにかく恐ろしかったです。
飛んでくる雪弾は、当たれば痛いですし、当たらなくても、耳元をかすめたときに聞こえるうなり音はとても恐ろしいものでした。

雪合戦に限らず、小中学生の頃はわたしにとって毎日の生活がいろいろな意味でハードでした。
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