R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

海女照(AMATERASU)Vol.2

2014-09-11 23:37:50 | インポート

 序 景

  赤子をだき抱えた黄色い女と、それを庇護するような男(海男神)が、誰かに追われるようにして上手から現れる。女が抱えている赤子を包んだおくるみから魚の背ビレのようなものが見えている。

 下手からも、赤子を抱きかかえた赤い女とそれを守っている男(山神)が現れる。女が抱えているこちらのおくるみからは、ふさふさした動物のしっぽのようなものが見え隠れする。こちらも、誰かに追われている。

 海女・狐女 この子はあんたらには渡さないよ。

  青い波の人々と、緑の波の人々が上手と下手から次々に現れ、4人を取り囲む。女を守ろうとして立ちはだかる男たち。その男たちのもとに、大神(オオカミ)と海次神(アジガミ)が波の間から湧き上がるように現れる。

  オオカミは、山神の背後から襲いかかり、首にかぶりつく。

  海次神(アジガミ)は、ロープのような長い手で、海神(ワダツミ)の首を締め付ける。

 山神と海神は絶命する。

 波は雄たけびをあげ、その渦の回転速度をあげる。次第に青と緑がまじりあった渦は、エメラルドグリーンの大渦となって残された二人の女を飲み込もうとしている。

海女神・狐神 この子は、

海女神 海の

狐神 山の

海女神・狐神 最後の希望なんだ。誰にも渡しはしない!

 青と緑の波の人々は二人の周囲をぐるぐると回り続け、二人の存在はその渦の中に埋もれてゆく。

 いつの間にか、赤子はそれぞれの女の手からもぎ取られている。

 背ビレがついた赤子は、緑の波に連れ去られている。しかし、背ビレを持つ赤子を抱いていた黄色い女は、青の波に連れ去られ二人は引き離されている。

 ふさふさのしっぽのついた赤子は、青の波に連れ去られる。しかし、こちらも、赤い女は、緑の人々に連れ去られ、赤子とは離れ離れになっている。

  青い波たちと、緑の波たちは、赤子と母親を引き離した後、母親を連れ戻し、赤子を奪い去り、狂気の笑い声をたてながら流れてゆく。

 波は、舞台上手と下手に二つの渦を作る。波は次第に静けさを取り戻す。

 その二つの渦が消え去った後、波の上手中央と、下手中央には二人の盲(めし)いた老婆が現れる。上手には海の老婆が、下手には山の老婆が鎮座しているのが、一筋の明りの中に浮かび上がる。

 二人の老婆は、淡々と物語を語りだすと、それに呼応するように、舞台上手と下手に、それぞれの二つの物語の絵が映しだされる。

海の老婆・山の老婆 むがぁすむがぁす、あったずもな。

海の老婆 海の底のずうっと奥に、海のものと人のが混ざったような生き物が住んで  

     いたったど。

山の老婆 山のずうっと深ぇどこに、人ど獣が混ざったような人たちが住んでいた

      ど。

海の老婆 魚のよっただ、人たちばっかりなんだども、その中になんでか、狐のしっ

    ぽが生えた娘が一人混じっていたど。海の中だども、きんぎょばちひっくり

    げぇしたようなもの用意して、その中に居で、海の人たちど楽しく暮らして

    いたど。

山の老婆 獣のような人たちばかりなんだども、ひとりだけ、背中に魚のよっただ鰓(えら)

 と背ビレを付けた男わらすがおったど。山ん中だども、川の淵の滝坪さざぼん  

    と飛びこんでは、一時間(いずつかん)もではってこねぇくれぇ、潜ってい

    たんだど。

海の老婆 娘ぁ息はできねぇども、ずうっと海の中で暮らしてれば、それぁ潜りだっ

    て上手くなる。四半時も息をしねぇで潜れるようになっていたど。

 山の老婆 ある日、そのわらすは、滝坪のうらっけさある、祠の脇さ、鎖につながれ 

    だ女ば見つけたんだど。

海の老婆 ある日、しっぽのある娘は、雲丹をとりさ行って、岩のかげっこさ、鎖で

    つながれでだ女の人ば見つけたんだど。

山の老婆・海の老婆 女人は語ったんだど。お前は、

山の老婆 山のものではねぇ。

海の老婆 海のものではねぇ。

山の老婆 海さ帰ぇれ。

海の老婆 山さ帰ぇれ。

山の老婆 その時、わらすは自分他の者たちと自分が違うことに気がついた。背中に

     背ビレや、鰓がついてる奴は誰もいねぇ。。

海の老婆 その時、娘は自分のけっつさふさふさのしっぽがはえでるのに気がついた

     んだど。周りの奴らには、尻尾はついてねがった。

山の老婆 わらすは、その女の鎖を力づくで引きちぎるど、川を泳いで山を降りで

     いったど。

海の老婆 娘はとんがった歯で鎖をかみちぎるど、上へ上へど、あがって行ったど。

山の老婆・海の老婆 これをきいでどっと笑え!だけど、このお話はこっからだ!

 二人の老婆不敵に笑う。不敵な笑い声は、嘲りの笑いとなり、狂ったような笑いへと変わってゆく。

 そして、その笑いをかき消すかのような大音量で音楽が流れ出す。

 ビートの効いたヘビーメタル系の音楽だ。

 二人の老婆にサスペンションライトが静かに落ちる。

 クロスフェードで、舞台中央に浮かび上がった少女と少年が、狂おしく歌いはじめる。

 AMATERASU (テーマ曲)

緑青の波しぶき 

垣間見える妖艶なる姿

この世のものとも思われぬ

眩しき影が 蒼に還る

手の届かない遥か彼方に

逝ってしまいそう

波間での危うげな漂流

打ち寄せ、引き寄せ

くりかえす切なさ

儚き夢 届かぬ想い

隠れないで、その姿、現わしてくれ

我らに光 差し伸べてよ

AMATERASU

見捨てないで、この者たちを

君がいなければ 行き先さえ見えない

AMATERASU

雷鳴と共に、音楽ダウン。歌い手もダウン。

明りもダウンし、1秒の暗転。