R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

憑鬼 ①

2007-09-30 20:53:16 | インポート

 序 章  月  影

 会場内に数人の人物が現れ、物語のプロローグの群唱をはじめる。

人はなぜ、生まれそして死んでゆくのか。

 ここに生れ落ちたということには果たして意味が在るのだろうか。

 存在の意味、そんなものは宇宙の営みから見ればちいさな埃が観た世迷いごと

 そんな小さな埃であっても

 一人一人の中では、

限りなく世界は広がっている

これは、一人の少年が、自分の運命を見た夢かもしれない

これは、一人の女が神がかり的に見つけた世界かもしれない

これは、一人の男が自分の欲望のため広げた世界かもしれない

これは、鬼たちがあまりの退屈さに創り上げた世界かもしれない

全てが夢幻の世界かもしれない

ただ、ひとつの真実は

自分がここで呼吸をし続けてることのみ…。

本当の真実は、

それぞれが自分の手で!

 小暗転とともに、会場の幕が上がる。

 月影に天まで届きそうな欅の巨木が三本、堂々と立っている。その木の周りに三つの塊が存在している。その塊は、月の光でそのものが陰になり漆黒の姿のままであり、石のようにも見え、また、森の一部のようにも獣のようにも見える。シンとして、何一つ動く気配が無い。ただ、時折そよぐ風に、『ざわわっ。』と、巨木の上部だけが、ざわめきたつ。

 木の周囲の塊が人型になり、もさもさと育ち始めた。

 塊がそれぞれ自我を持ち、形あるものとしての存在を示すと、語り始める。

鬼1 あぁぁぁ。退屈だ。

鬼2 退屈って、いいじゃないの。平和な証拠だ。

鬼1 俺は、その退屈って言うのが最高に嫌いなんだ。

鬼3 気が短いと長生きしないよ。

鬼1 うるせぇ。

鬼2 おっと、今血管切れたぞ。

鬼1 どいつもこいつも…。

鬼2 もっとのんびり考えなよ。

鬼1 人間たちは、俺たち鬼の存在を忘れちゃいねぇか。

鬼2 俺たちの存在ねぇ。

鬼3 忘れただろうね。最近じゃ、私らがするより残虐非道な行いをする人間が増えて、お株を奪われたって感じだもんね。

 鬼1、きびすを返して、立ち上がる。

鬼1 一人、殺してくらぁ。

鬼3 なんだよ唐突に。

鬼1 俺が、鬼の存在感ってやつをもう一度見せてくるよ。

鬼3 誰を殺すんだい。

鬼1 その辺にちょうどいた奴でいいよ。

鬼2 何も悪さしてねぇ人を殺さなくったっていいじゃねぇか。

鬼1 悪いやつなら、殺してもいいってわけだね。

鬼2 …悪いやつならね。

鬼1 ちょっと、勝負をしてみねぇか。

鬼2 勝負?

鬼1 人間は、善か、悪か、人任せの悪か。

鬼3 なんだい、人任せの悪って。

鬼1 自分の中にある悪を人のせいにして逃げる卑怯者さ。

鬼3 それ、それ、人間はそれに決まってる。

鬼1 俺は、人間は本物の悪だって思うな。お前は…。

鬼2 俺は

鬼1 善だろう。そうじゃなきゃ、勝負にならねぇ。

鬼2 そんな人間、なかなかいねぇかも知れねえけどな。

鬼1 止めるか。

鬼2 …いや、待て。いる、いる。そんな人間。勝負しようじゃねぇか。

鬼1 ようし成立。それぞれが、人間と契約して、人間の本来あるものをさらけ出させれば勝ちだな。たとえば、俺は、人間に殺しを依頼されるとか。

鬼2 俺は、身を投げ出して仲間を助けようとする人間が見つかれば、

鬼3 わたしは、全てを嘘で固めた人間が見つかれば、

鬼1 それぞれが、目的の人間を見つけたら勝負だ。

鬼3 面白いね。

鬼1 とりあえず、一人殺してくらぁ。

鬼2 どうしてだ、やめろって。無益な殺生は!

鬼3 いいじゃない、別に。人間の一人や二人。

鬼1 お前、今まで何人の人を殺した。今更、何だよ。

鬼2 だから、だからこそ、俺はもう殺したくねぇんだ。

鬼3 偽善者だねぇ。

鬼2 何とでも言え。俺は、もう殺しはしねぇ。

鬼1 わかったよ。お前にやれっていってるわけじゃぁねぇんだ。俺がやるんだから…。

鬼2 そうじゃなくて、俺は鬼と人間の共存を…。

鬼3 偽善者!

鬼1 悪行の雫を一滴人間界の中に垂らしてやるんだ。その一滴から、人間の本当の姿が見えてくる。

 鬼1、大鎌を構えて、仁王立ちになる。

鬼2 やめろよ。

鬼1 さぁ、暇つぶしの戯れの始まりだ。

鬼1、思い切り大鎌を振り下ろす。

鬼3 やめろぉぉぉぉ。


再始動!脚本完成!

2007-09-29 23:24:37 | インポート

 一週間、仕事も休みました。体がどうのということではなく、働き続けていて、気がついたら休みが大幅にたまっていたからの休みでした。しかし、月曜から、金曜までの休みというのも、体のサイクルが狂っていますね。

 『槻の使者』は、『憑鬼(つき)の一滴』と改題して、完成しました。複線をしくためにいったりきたりの手直しをしたので、もう一度連載をしなおします。そして、再連載をしながら、もっと書き込みをしていき、完成度をあげたいと思います。最後まで、手は抜きません。

 おらホール劇場(久慈市民劇場設立準備劇団)も、順調に行けそうです。心配なのは、移動距離が長く、自分の体が持つかどうかといったところです。市民劇場としてやってみたかったこと、現場主体の制作委員会の主導、メディアミックスとして脚本の出版やテーマソングのCD化を伴う若手の人材の育成、制作発表会の開催、等、やれることはやっていこうと思います。

 釜石にも顔を出して、新しい脚本をもらって、舞台装置等の構想も練りたいですし、10月14日上演の、こむろ作の陸前高田の舞台も観に行きたいし…。岩手県、もっと狭くならないかなぁ。

 


ブレイク・タイム

2007-09-22 07:29:23 | インポート

 疲れてくると、目の前に強烈な発光物体があって映像を歪めるかのような現象が起こります。そうすると、新聞も読めず、テレビも観れず、ましてや、パソコンを前に脚本を書くこともままなりません。

 今は、回復していますが、心配なので、ちょっとお休みをいただきます。


槻の使者⑩ 第7章 化 身 (2)

2007-09-21 07:15:39 | インポート

川井  そんな、大声で、どならなくったっていいじゃないですか。

霜畑  後は、何か無いのか?

川井  現場に残された足跡から調べたんですが、何やらこの村には『ガタゴン』という怪獣が出るそうで…。

霜畑  そんな、ウルトラQなことは調べなくていい。

川井  はぁ。

霜畑  今回の捜査には、俺の刑事生命がかかっているんだ。

川井  刑事生命?

霜畑  お前は、なぜ刑事になった。

川井  そうですね、人々の安全を守るため…。

霜畑  そんな、教科書にでも書いてあるような偽善的なことじゃなくて…。

川井  本当言えば、大きな事件を解決して、新聞一面にバ~ンと出て、『これ、解決したのは、私で~す。』って、言いたい衝動を肩でニヒルに笑ってこらえている。あぁぁ、カッコいい。たまんねぇ。

霜畑  だろう。でもさ、次の人事で昇進がほぼ決まっているわけ。

川井  そうなんですか。おめでとうございます。

霜畑  めでたいっていやぁ、そうなんだけど、管理職となればもう現場に出られないわけで、自分で事件を解決することなんてできなくなるわけで…。

川井  昇進、断ればいいじゃないですか。

霜畑  上からの推薦だよ。そんなの断っちゃ、後もないし…。

川井  そうですね。給料もバ~ンと上がるんでしょうしね。

霜畑  そうなんだよ。…で、今回の事件何だけど、お前はどういった線で考えている。

川井  えぇ。どう考えても、事故じゃないかと…。

霜畑  事故?

川井  でなければ、現場にあった足跡から考えれば、『ガタゴン』の仕業かと?

霜畑  『ガタゴン』?

川井  この村に現れるという未確認生物のことで、

霜畑  現場には、足跡が残されていたんだな。

川井  はい。

霜畑  どうして、それを早く言わない。

川井  何度も、話そうとしたのですが…。

霜畑  言い訳はするな。

川井  は、はい。

霜畑  これは、未確認生物を装った連続殺人の始まりかもしれない。

川井  連続殺人。

霜畑  これで、終わってしまったら、つまらないだろう。

川井  つまらない?

霜畑  次は、村の宝、子どもたちが危ない。

川井  子ども?どうしてわかるんですか。

霜畑  刑事の直感ってやつだ。行くぞ。

 霜畑、去る。

川井  かっこいい。

 川井も去って暗転。


槻の使者⑨ 第7章  化 身

2007-09-20 06:25:00 | インポート

 刑事風の男たちが明かりの中に浮かび上がる。

 二人、ジャズの音に合わせて軽快に踊りだす。

霜畑  何か手がかりは見つかったか。

川井  はい、隣のおばさんは豆腐作りの名人です。

霜畑  ……。それから?

川井  炭は消臭効果もあるそうです。

霜畑  それは、どこからの情報だ。

川井  出張所の木地谷さんです。あっ。それと、これは澤山さんからの情報ですが…。

霜畑  なんだ。

川井  三上さんのところで、昨日、馬の赤ちゃんが生まれたそうです。

霜畑  …おまえ、いつから、地元密着情報誌の記者になった。

川井  えっ。

霜畑  それは、今回の事件と関係があるのか。

川井  何が、警部のインスピレーションにヒットするかわかりませんからね。

霜畑  その、心がけだけは誉めてあげよう。もう少し、役に立つ情報は無いのか。

川井  あっ。ありました。下斗米さんの話ですが…。

霜畑  何だ。

川井  あっ。これは誰にも話しちゃいけないって言われていました。

霜畑  話せ。

川井  でも、私と下斗米さんとの信頼関係がこれで崩れてしまったのでは、今後の捜査にも支障をきたすのではないかと…。

霜畑  いいから話せ。

川井  でも。

霜畑  いいから。

川井  じゃぁ、警部だけには話します。

霜畑  あぁ。

川井  誰にも言わないでくださいね。

霜畑  あぁ。もったいぶらずに話せよ。

川井  わかりました。よくきいてください。三日前の夜、そう事件のあった日のことです。

霜畑  事件の日?

川井  その夜は、月明かりが淋しげに光る夜だったそうです。ふと、彼はある予感を感じ、誰もいない台所へ一人で行ってみたそうです。

霜畑  なるほど。そして…。

川井  彼は日ごろから奥さんに任せっきりで、台所へ入ることはめったに無かったのですが、その日は台所へ行ってみたら、あるものがあったのでそうです。

霜畑  あるもの?

川井  えぇ。それは…。

霜畑  それは、

川井  『宇治金時しぐれアイス』

霜畑  『宇治金時しぐれアイス』?

川井  彼は、メタボリックを気にするあまり、大好物のアイスを絶って半年、ついに我慢しきれずに、むさぼるようにそのアイスを食べてしまったのです。

霜畑  で、

川井  小豆は太らない。そんな都市伝説さえも、彼の気持ちを後押ししてしまったようです。彼は、ものの三分もしないうちにアイスの全部を平らげてしまったそうです。

霜畑  あっ、そう。

川井  問題はこのあとです。この『宇治金時しぐれアイス』は、娘のカリンちゃん(四歳)が、楽しみにとっておいた、最後のひとつだけのアイスだということだったのです。翌日の朝、お父さんがアイスを食べてしまったことを知った、カリンちゃんは、どんなにか泣き叫び、朝食の食卓は修羅場と化したことは言うまでもありません。

霜畑  よくぞ、調べた。

川井  誰にも内緒ですよ。

霜畑  あぁ、わかった。この話、絶対誰にもしゃべらないからな。

川井  流石、警部。

霜畑  なぜなら…。

川井  なぜなら?

霜畑  この話には、誰かにしゃべるような。

川井  誰かにしゃべるような。

霜畑  そんな、価値なんて、ひとつも無いからだ!!!!!