R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

たなびく想い2016

2016-03-27 11:05:53 | 脚本
第一章 一九四五年八月九日。釜石市内

 幕が上がる前、一人の老婆が頭(こうべ)を垂(た)れうずくまっている姿が、スポットライトに映し出される。明かりと共に老婆は、息を吹き返したかのように頭をもたげ、目を見開いて語り出す。

ハル 昭和二十年八月九日。太平洋戦争末期(まっき)のその日は、蝉の声が響き渡る熱い夏の日でした。前の月の七月十四日。アメリカ軍の海からの攻撃を受けた釜石の町は、傷跡(きずあと)がまだ生々しく、あちらこちらに細く煙がたなびいているのが見えました。それは、体(てい)よく言えば、艦砲射撃で亡くなった人を火葬(かそう)しているのですが、本当の目的は、生きている人々のため、身元も確認できない、暑さで腐(くさ)ってきた死体を広い場所で処理(しょり)するという作業だったのです。焼け焦(こ)げる臭(にお)いが、細くたなびく煙とともに切り立った山々の間を流れていきました。大人たちは沈(しず)んだ顔で、黙々(もくもく)と死体を焼いていました。
  この日に、釜石が、もう一度アメリカ艦隊の総攻撃である艦砲射撃を受けることも、同じ日に人類史上最悪の化学兵器、原子爆弾が長崎に落とされることも、誰も知る由(よし)も無かったことです。

『タイトルバック』  たなびく想い

 大人たちが沈(しず)んだ顔で、黙々(もくもく)と死体を焼いている中を、子どもたち二人が駆(か)け回り、はしゃいでいる。

義一  敵は幾(いく)万(まん)ありとても…。
信一  ややっ。前方に敵の兵器を発見。
義一  伏(ふ)せ。

 二人、地面に伏せる。

信一  白浜上等兵、どうするでありますか。
義一  橋野一等兵。ここは思案(しあん)のしどきですぞ。
信一  むむっ。そうですな。 
 
 そこに、義一の母、白浜ミワが現れる。

ミワ  ちょっとあんたたち、そんなところで軍隊ごっこ?
信一  ややっ。あんなところに、白浜上等兵の母君、母親軍曹(ぐんそう)がおられる。
義一  あいわかった。
ミワ  あなたたちはまだ小さいんだから、軍隊なんてまだまだよ。
信一  軍曹が危ない。
義一  ここは足の速い自分が…。おまえは、ここに残り、軍曹をお守りせよ。
信一  上等兵は優しいですね。かっこいいです。
義一  白浜上等兵、行きます!

 二人、立ち上がる。

信一  ご武運(ぶうん)を!

 信一、敬礼をする。義一、棒きれをもって、不発弾に近づく。

ミワ  ほんとにもう。何やってるの…って、義一、それ本物よ!危ない。

 義一、不発弾を棒でつつくと同時に爆発が起きる。
 義一、吹き飛ばされる。信一、茫然(ぼうぜん)とその場に立ち尽くす。

信一  …義一…くん。
ミワ  義一…! 義一…!義一!………。

 号泣する女。近くを通りかかった男たち(佐野勲・平田倫太郎)が、義一を運び出す。一人の女性(栗林)が、ミワの背中をさすりながら連れてゆく。

信一  人って…。簡単に死ぬんだね…。

 信一の母、平田昭子が現れて、信一を抱きかかえ、連れていく。信一は、なすがままふらふらと昭子と共に去ってゆく。

 入れ替わるように、かばんを肩から提げ、頭巾(ずきん)をかぶった女(松川甲子)がその様子をうかがいながら歩いてくる。
二人の男(小川、大橋)が、反対の方向から事件の様子を気にしながら現れる。小川は足を引きずって、大橋に支えられるようにやってくる。
 甲子、爆発の有った方向を見ながら、男たちに尋(たず)ねる。

甲子  あのぉ。何かあったンですか?
小川  暴発(ぼうはつ)だ。

 大橋、甲子だとわかると笑顔になる。

大橋  あぁ、どうも、甲子さん。
甲子  あ、はい。大橋さんでしたっけ。
大橋  そんな、他人行儀な。良平さんって呼んで下さいよ。
甲子  …先ほどの爆発は。何かあったんですか。
小川  子どもが不発弾をいじって爆発させたらしい。
甲子  …それで。
小川  …一緒に居た子は大丈夫だったようです。
甲子  一緒に居た子?
小川  不発弾に直接ふれなかった子は、生きているらしいです。
甲子  『触れなかった子』って…。触った子どもはだめだったんですね。

 小川、無言のままうなずく。

甲子  一緒に居た子は、手当てを受けられるんですか。
大橋  どうだろう。手当が十分できないのが本当のところです。
甲子  負傷者は、まだまだ沢山いますからね。
大橋  それで、戦地から引き揚げてきた小川さんも治療を受けられなくなって引き返すところなんです。
甲子  それは、お気の毒に。
小川  …生きて帰ってきただけでありがたい。
大橋  しんみりさせちゃってすみません。…甲子さん。今度、製鉄所で握(にぎ)り飯が
配給(はいきゅう)になったら、持ってきてあげますから。
甲子  …え、えぇ。
大橋  それじゃぁ。
甲子  は、はい。

 甲子、引きつった笑顔で二人を見送る。
 代わりに野田がやってくる。野田がやってくると、一瞬引き締(し)まった表情の後、優しい笑みを浮かべる。

野田  あっ。どうも。
甲子  あっ。巌(いわお)さん。
野田  …配給(はいきゅう)はいただけましたか。
甲子  えぇ。久しぶりに…今日は食べました。
野田  それは良かった。
甲子  戦地(せんち)で食べるものもままならない方々に申し訳ありません。
野田  生きるためです。遠慮なさることはありません。

 甲子、うつむき加減(かげん)に顔を伏(ふ)せて尋(たず)ねる。

甲子  今日も、高射台へ行くのですね。
野田  あぁ。
甲子  …今日は行かないというわけには…。
野田  そうはいかないでしょう。
甲子  それはそうですよね。大日本(だいにっぽん)帝国(ていこく)のために敵を倒(たお)さねばなりませんからね。でも…。
野田  でも?
甲子  今日だけは行って欲しくないんです。
野田  どうしてです。
甲子  心配なのです。
野田  私に行くなと…。
甲子  すみません。非国民(ひこくみん)のような発言をしました。誰にも話さないでください。
野田  あぁ。
甲子  もし敵が攻めてきたならば、刺(さ)し違(ちが)えてもお国のためにこの土地をお守りいたします。お許しください。
野田  沖縄(おきなわ)のひめゆり学徒隊(がくとたい)のように…ですか?
甲子  そう。彼女たちはお国をまもったのですよ。お国をまもって死ねるのであれば本望(ほんもう)ではありませんか。
野田  死ぬとういことは、そんなにきれいなものじゃない。
甲子  えっ。
野田  あなたは家族や友人の死に立ち会ったことはないのですね。
甲子  は、はい。
野田  それはうらやむべきことです。十四日の攻撃で、私は目の前で友人を失いました。
甲子  すみません。いやなことを思い出させてしまいました。

 野田、天を仰(あお)ぎ。大きくひとつ息を吸い込む。

野田  さぁ、行くか。上に居る男に、芋(いも)を食わせる時間をあげたい。
甲子  高射砲はこの街を守るかなめですからね。よろしくお願いいたします。
野田  (不敵(ふてき)な笑み)…高射砲で、敵の戦闘機を打ち落とすことはできないんだ。
甲子  えっ。
野田  (あきらめの笑み)届かないんだよ。
甲子  ……。
野田  爆撃機からこっちは攻撃できても、爆撃機に弾(たま)は届かないんだ。
甲子  ……嘘(うそ)…。
野田  (さとりの表情)本当だ。

 野田は、一旦目を閉じその後、甲子に鋭い眼差(まなざ)しを投げかける。

野田  …誰にも話すな。
甲子  は、はい。

 気まずい間が生じる。別の話題を切り出そうと甲子は焦(あせ)る。

甲子  先月の十四日の空襲は…。
野田  空襲じゃない。
甲子  空襲じゃない?
野田  爆撃機は飛んでいなかった。
甲子  どこからの攻撃ですか。
野田  軍ではくわしいことは話してはくれないのです。

 再び気まずい間が生じる。今度は、その静寂(せいじゃく)を破ったのは野田の方だ。

野田  …そういえば年寄りが言っていたよ。海から弾が飛んできたので、あれは真珠(しんじゅ)湾(わん)から日本に向けて撃って来たんだと…。
甲子  本当ですか。
野田  わからん。届くとは到底思えないが…。亜米(アメ)利(リ)加(カ)ならやりかねない。
甲子  恐ろしいです。
野田  一番恐ろしいことは、本当のこととは何かがわからないことだ。

 野田、天を仰(あお)ぎ大きく息を吸い込んで話し始める。

野田  自分は何のために戦っているのだろうか。
甲子  お国のため…では無いのですか。
野田  …本当に国を護(まも)るつもりで戦っているのだろうか。
甲子  そうなのではないんですか。
野田  街を、そして、あなたを護(まも)ろうという気持ちはあります。
甲子  ……。
野田  しかし、大日本帝国を護(まも)ろうとして戦っている実感はありません。
甲子  そんな話は、やめてください。誰に聞かれているかわかりません。
野田  あなたは私に、お国のために死んで欲しいのですか。
甲子  お国のためなら。
野田  それは、本当の気持ちですか。
甲子  …は、はい。(本当は違いますという表情)
野田  いつか、戦争をしようとする人が、つかまる時代が来るかもしれない。
甲子  えっ。
野田  そんな時代を生きてみたいもんだな。

 暗雲(あんうん)が立ち込める中、空襲警報のサイレンが鳴り響きだす。
 空虚(くうきょ)な瓦礫(がれき)の空間の間を大きく反響しながら、サイレンの音が木霊(こだま)する。
 
甲子  また、攻撃ですか?
野田  それでは行きます。…楽しいひと時でした。
甲子  ありきたりの言葉ですが…、頑張ってください。

 甲子、野田に礼をする。

野田  もし、あなたがこの戦が終わっても生き続けることができたならば、私のような男がいたことを、みんなに面白おかしく話してください。
甲子  冗談でも、そんな話はよしてください。

 野田、甲子に対して敬礼をする。

甲子  できれば…。
野田  できれば?
甲子  また、明日お会いいたしましょう。
野田  …できれば、また、明日。
甲子  約束ですよ。
野田  できれば…。

 野田、去ってゆく。甲子、警報(けいほう)が響く中、いつまでも男を見送っている。



第二章 高射砲

 野田が、高射台へ駆け寄ろうとすると、二機の戦闘機が近づいてくる。野田のそばを飛び去りながら機銃(きじゅう)掃射(そうしゃ)が行われる。野田は、身を屈(かが)めて弾(たま)をよけながら、高台へと向かう。
 高台へつくと、一人の男が、高射台の側で倒れている。もう一人の男は、高射台の陰で身を潜めている。
 
野田  佐野!大丈夫か!
佐野  腕をやられた。もう砲は撃てない。後は頼む。
野田  倫太郎はだいじょうぶか。
平田  私は、大丈夫です。
野田  では。指示を!
平田  は、はい。

野田、高射砲を操作して、戦闘機に照準を合わせる。

平田  左舷四十五度。
野田  左舷四十五度。
平田  打て。
野田  打て!

ダン!

野田  くそう。当たれ!

平田  右弦三十五度。
野田  右弦三十五度。
平田  打て。
野田  打て!

 男たちは無我夢中で高射砲を撃ち続ける。
 『ブーン』という旋回(せんかい)音とともに、戦闘機は海へ去って行く。

佐野  助かった。ありがとう。奴ら我等の勇猛さに恐れをなして尻尾(しっぽ)を巻いて逃
げ出したな。へなちょこめ!
平田  逃げたのではありません。
佐野  えっ。
平田  先月のあの日と同じです。
佐野  あの日?
野田  戦闘機は海へ飛んでいった。
佐野  海へ!
野田  …あの日と同じだ。
佐野  …空母が居るということか。

 佐野と平田、静かにひとつ頷(うなず)く。

佐野  この町を散々(さんざん)破壊(はかい)したのにまだ来るか。
平田  勝つまで徹底(てってい)抗戦(こうせん)は、敵とて同じことです。
野田  迎撃(げいげき)の用意をする。
佐野  俺は何を…。

 野田、懐(ふところ)から芋を取りだし、佐野に渡す。

野田  まずは、食え。それが仕事だ。
佐野  すまん。

 かすかに空気を切り裂(さ)く音がする。

平田  来ます。

 軍事工場に数発の弾が着弾する。コンクリートが炸裂(さくれつ)する鈍(にぶ)い爆発音が聞こえる。

佐野  やはり工場か!
野田  いや。もう、工場への攻撃は止んだぞ。今日のねらいは違うぞ。

再び、キーンという空気を切り裂(さ)く音が聞こえ始める。砲弾は、工場を越えて山手に飛んでゆく。

佐野  どこを狙(ねら)ってるんだ。へなちょこめ。

 次々に山手で建物が破壊(はかい)される音が聞こえる。次々に砲弾(ほうだん)は打ち込まれる。その光景を見ながら、男たちはわなわなと震(ふる)えだす。

平田  住宅をねらっています。
野田  打ち落とせないか!くそう!
平田  民間人を殺してどうするっていうんです。奴(やつ)らは日本人を皆殺しするために、またやって来たんです。

 男たち、砲弾(ほうだん)に向けて高射砲を撃(う)ち続ける。
 一旦、砲弾の飛来(ひらい)が止む。

佐野  今日は終わりか。
平田  だといいのですが…。
佐野  攻撃(こうげき)目標を変えたか?
野田  来るか。

 野田、海に向かって砲身を向ける。

野田  芋(いも)は食ったか。
佐野  流石(さすが)の俺も、攻撃を受けているさなかに芋(いも)を食うほど肝(きも)が据(す)わっては居ないさ。
野田  そりゃぁそうだ。
佐野  お前たちとともに戦えて嬉(うれ)しかった。
平田  何を言ってるんですか。あきらめないでください。
佐野  万歳(ばんざい)でも三唱(さんしょう)するか。
野田  そんな格好(かっこう)をつける暇があったら、最後の瞬間(しゅんかん)まで戦うだけだ! 

 三度、風を切る金属音が聞こえる。

佐野  来た!

 高射台の傍(そば)に着弾(ちゃくだん)し、爆発が起きる。佐野と平田が吹(ふ)き飛ぶ。

野田  …佐野!…倫太郎!

野田、高射砲を空に向かって闇雲(やみくも)に撃ち続ける。

野田  まだまだ!まだまだ!まだまだぁぁぁぁぁ!!!!!

 眩(まばゆ)い閃光(せんこう)が迸(ほとば)る。高射砲直撃(ちょくげき)とわかる、ひときわ大きな爆発音が響き渡る。

 暗  転



第三章 防空壕での誓い

 空気を切りつけるような音が鳴り響く。
甲子、近くの防空壕に入ろうとするが、入り口の戸が閉められて開かない。甲子は、戸を殴りつけるように叩く。

甲子  開けてください。私です。松川です。ここは私が掘った壕です。入れてください。

 中から、平田昭子の低い声が聞こえる。子ども(信一)がその奥にいて膝(ひざ)を抱(かか)えてうずくまっている。

昭子  入る隙はないよ。悪いけど死にたくないんだ。よそに行ってくれよ。
甲子  私が掘った壕ですよ。
昭子  分かってるよ。
信一  母ちゃん。怖いよぉ。
甲子  攻撃が始まっているんですよ。
昭子  だから開けられないんだよ。
信一  母ちゃん。おれも死ぬの?
昭子  母ちゃんが守るからだいじょうぶだよ。
甲子  弾が飛んできます!怖いんです!
昭子  中には、子どもがいるんだ。もう入りきれないんだ。せっかく助かった命なんだ。お願いだから他に行ってくれよ。子どもを守りたいんだ。
甲子  そんな…。

甲子、諦(あきら)めて立ち去る。着弾(ちゃくだん)と爆発音が響き渡る。腰(こし)を抜(ぬ)かしてふらふらしながらもしばし歩くと、近くで壕(ごう)の扉(とびら)が開いているところを見つけ、走り出す。
 
甲子  ここに入れていただいても…。

 そのとき、大きく風を切る音がして、付近(ふきん)で爆発が起こる。甲子が、後ろを振り向くと、先ほどの壕が吹き飛ばされている。

甲子  あ~。
勢津子 あそこに入っていたら、あんたも死んだね。死にたくなければ、早く入って閉めな。

 甲子、ためらいがちに破壊された壕の方をちらりと見やり、壕の中に入って急いで戸を閉める。

 暗  転



第四章 防空壕の中

 暗闇の中で男の子どもの声が聞こえる。

  かあちゃん。足が痛いよ。
寿子  我慢(がまん)おしよ。
治郎  だって、…右足が痛いんだよ。
寿子  右足って…。
治郎  痛いよ。痛いよ。
寿子  痛いって…。お前…、………右足は無いだろう。
治郎  でも、痛いんだよ。

 爆発音は遠くなる。どうやら攻撃対象が変わったらしい。キーンという風を切る音だけが妙に響き渡る。
 仄(ほの)かに壕の中が明るくなる。明かりがついたというよりは、暗い壕の中で目が慣れてきたという感じだ。壕の中には、数人の女と子どもたちが居た。寿子が、ささやくように息子の治郎に話しかける。

寿子  ごめんよ。あたしはお前の苦しみをわかってあげられない。お前の苦しさを感じてあげることしかできないんだよ。

 その様子をいらいらした様子で、一番奥に陣(じん)取っている勢津子が横目で見る。

勢津子  あんたは、苦しみを分かち合える子どもが生きていただけ良いよ。そんなに悲しいんなら一緒に外へ出て死んじまえば。

 聖子、清書を持ったまま、すっくと立ち上がって語り出す。

聖子  主よ我らを救い給え。アーメン。

聖子、讃美歌(さんびか)を歌い始める。

勢津子 うるさい。歌なんか歌っていたら、敵に知られて攻撃されるよ。

 聖子、讃美歌を歌うのをやめる。

勢津子 おや、よくみたら男が居るじゃないの。男のくせに、のこのこと防空壕の中に入って震(ふる)えているのかい。
一弥  来年には戦えるんだ。弱虫扱いするな。
勢津子 それだけ体格がよければ、もう戦場にやってもいいのにね。今、出て行って戦ってきたら?

 一弥、握りこぶしを震わせながら立ち上がる。

一弥  俺も戦いたいんだよ。出て行って戦えばいいんだろう!。
寿子  およしよ。訓練(くんれん)もろくに受けていないお前が出て行ったって足手まといだ。ここにいておくれ。
勢津子 非国民!戦おうっていう男をとめるのかい。
寿子  勘弁しておくれよ。うちの息子はまだ徴兵(ちょうへい)されていないんだよ。
 
 一弥、防空壕を飛び出そうとしかける。甲子その腕をつかんで止める。

甲子 待って!この国であなたが必要になるときが絶対きます。今はその時ではありません。今は戦わないことも大事な務(つと)めです。

 一弥、甲子の腕(うで)を振(ふ)り解(ほど)くがその場にどっかりと腰(こし)を下ろす。
 甲子は、勢津子の傍(そば)に近寄り話し出す。

甲子  悲しいことが有ったんですね。わかります。

 勢津子、カッとなって甲子を殴(なぐ)る。甲子、突然(とつぜん)のことで驚(おどろ)いてしまう。

勢津子 わかるって?何がわかるんだい。あんたになんか私の気持ちがわかってたまるかい。
甲子  …すみません。
勢津子 自分が一番だと思って偽善者(ぎぜんしゃ)ぶるんじゃないよ。苦しんじゃいるけれど、苦しみながらも精一杯(せいいっぱい)に生きているんだ。同情されるくらい不愉快(ふゆかい)なことはないね。

 治郎、地面を這(は)いながら勢津子の側に近づく。

治郎  おばちゃん。怒ったって政男は帰ってこないよ。
勢津子 えっ。
治郎  おばちゃん。政男のかあちゃんだろ。
勢津子 政男のことを知っているのかい。
治郎  空襲(くうしゅう)のとき、一緒に遊んでいたんだ。その時、撃たれて…。俺、脚はなくなったけど、政男の分も一生懸命生きるよ。だから、怒らないでおくれよ。

 勢津子、俯(うつむ)いてすすり泣き始める。

治郎  政男の代わりに俺が死ねばよかったのかな。そうすれば、おばちゃんは怒らなくて済(す)んだもん。
勢津子 いや…。

 勢津子、治郎の頭をなでる。

勢津子 生きていてくれてよかったよ。ひとつ教えておくれよ。…政男の最後はどうだったんだい。
治郎  ちっちゃい子を家の陰(かげ)に隠(かく)れさせたんだ。その時…。
勢津子 ありがとう。政男は最後まで男だったんだね。
治郎  男だった。

 聖子、寿子に向かって話しかける。

聖子  あなたの息子さんはすばらしい力を持っています。人の心を癒す力は何者にも勝る宝
です。

 静寂(せいじゃく)が防空壕の中を包み込む。



第五章 戦火の跡で

一弥  …音が止んだ。
寿子  爆撃は終わったのだろうか。
甲子  外に出てみるかい。
一弥  俺が行ってみる。

 一弥、外へ出て行くが、落胆(らくたん)して壕の中に顔を出す。

一弥  どうやら、攻撃は終了したようだけど…。
寿子  どうしたんだい。
一弥  悔しいよ…。

 一弥はその場に座り込み泣きじゃくる。
 防空壕の中の人たちは、恐る恐る外に出てみる。眩しい光が、人々を包み込む。

勢津子  あぁぁ。みんな焼けちまってるよ。
聖子  主(しゅ)よ、我らを救い給え。
治郎  人がいっぱい寝(ね)てる。
寿子  寝ているんじゃないよ。みんな死んでるんだよ。
聖子  自分達が生きていることに感謝しましょう。 
治郎  これでも、戦争に勝てるの。
寿子  めったなことを話すんじゃないよ。

 ふらふらと、一弥も防空壕から出てくる。

甲子  自分には…負けないことよ。
一弥  えっ。
甲子  誰が負けても、何が負けても、自分は自分に勝たなくちゃ。
一弥  負けても勝つ?
甲子  もうだめだって思う自分の気持ちに負けちゃいけない。
寿子  そうね。自分に負けたらお仕舞いね。
治郎  母ちゃん、山の上の大砲が燃えている。
寿子  えっ。
治郎  やられる前の工場の煙突から煙が上がっているのと同じようだよ。

 甲子、高射砲のほうを見つめて立ち尽くす。

甲子  あれは自分の想いとは裏腹(うらはら)に、お国のために亡(な)くなった人が、正しく天の国へ行きなさる道筋(みちすじ)となる煙なのよ。 
治郎  そうなんだ。

治郎、煙に向かって敬礼(けいれい)をする。

甲子  さっきはあんなこと言ったけど。…自分の気持ちに負けてしまいそうだわ…。
一弥  負けるな。
甲子  そうね。自分に負けるな。
 
 甲子、もう一度、高射砲の方をしっかりと見据(す)える。

甲子  できれば…。

 甲子の頬(ほお)を一筋(ひとすじ)に涙が伝う。

甲子  できれば、もう一度お会いしたかった。

甲子も、敬礼をし、高射砲から立ち上る煙を見つめ続ける。いつまでも、いつまでも…。

  終  焉 (しゅうえん)


魔法少女ズングリとムックリ

2015-09-13 22:46:17 | 脚本
 【登場人物】

ズングリ … 外見はボーイッシュで、活動的に見られがちだが、内面はロマンチストで夢見がち。将来の夢は、黒魔女になることだが、誰にも話していない秘密のことである。
ムックリ … ズングリとは保育園時代からの友だち。読書家で、多くの知識を持っている。現実的で冷静。しかし、ズングリが自分の夢に向かってひたすら付き進んでいる姿に憧れを持っている。

 明りがつくと、舞台下手側にピアノが一台。舞台上手側には、本棚が2~3本並んであり、難しそうな本がぎっしりと詰め込まれている。(本棚に並んでいる本は段ボール箱に背表紙を付けたものや、外箱だけで構わないので、全体的に軽くして、キャスターを付けるか、キャスター付きの台に乗せたもので構わない。棚は多いほど図書館らしさが出てくる。)
ここは、公立図書館の一角。本棚に並んでいる本は難しそうなものばかりである。本棚の前に、閲覧用テーブルが一つと、椅子が2つ、客席側に向かって並べて置いてある。
 そこへ、一人の女の子(ズングリ)が黒いローブに身を包み、小さな鞄(かばん)を持ってやって来る。きょろきょろと周囲を見回し、人気の無いことを確認してから、本棚を物色して、棚の上の隅の方から何やら難しそうな皮の表紙の本を1冊取り出し、数ページめくると2~3回頷き、目的の本であることを確認する。その後、またしても周囲を確認し、静かにテーブルの方向に進み始める。明らかに挙動不審である。
もう一度辺りを確かめ、本を持って椅子の一つに座ると、鞄から、辞書・ノート・筆記用具を取り出す。準備が整うと、分厚い本をめくり真剣にページをめくり始めるが、すぐに難しい顔をして頭を傾げる。鞄を無造作にひざの上に置くと、鞄から辞書を取り出して調べ始める。分厚い本に目を通し、頭をかしげて辞書を調べ、何やらノートに書き記す。その作業をし続けているが、次第にその流れもスムーズになり、集中して作業ができるようになってくる。
 明りが、ズングリの場所に絞って落とされると、ピアノにも明りが落とされ、ピアノ演奏が始まる。

 
 そこへ、背筋をシャンと伸ばした、利発そうな女の子(ムックリ)が本を抱えて現れる。彼女は、最初からズングリを探しに来たという雰囲気を醸(かも)し出している。
ズングリは、集中して調べ物をしているので、ムックリが現れたことに気がつかない。ズングリは、集中して本のページをめくりながら、辞書で何やら言葉を調べたり、ノートに書き写したりしている。
ムックリは友だちのズングリが調べ物をしているのを見つけ、音がしないように静かに近づき、後ろから本を覗き込む。

ムックリ ズングリ、何読んでるの。

 ムックリが、後ろから突然現れ声をかけられたので、ズングリは椅子から腰が浮かび上がるように跳びあがって驚き、あわてて本を閉じる。

ズングリ な、何でもない…。
ムックリ 何でもない割には、ずいぶんと慌ててるね。

 ズングリ、冷や汗を拭い去る。

ズングリ 本当に、な、何でもないって…。びっくりするなぁもう。驚かさないでよ。
ムックリ ごめん、ごめん。

ムックリ もしかして、その本。中世ヨーロッパの…。
ズングリ 違う、違う。
ムックリ 『黒魔術』について書かれている本だよね…。

 ズングリ、ムックリの口をふさぐ。

ズングリ しっ。声が大きい。…何で知ってるの?

 ムックリ、ズングリの手を振り払い、話し始める。

ムックリ そりゃぁ、保育園からの付き合いだもの、ズングリの考えていることくらいわかるよ。
ズングリ 考えていること?
ムックリ そう、考えていること。
ズングリ 私が今、何を考えてるっていうの。
ムックリ 将来の夢
ズングリ 将来の夢?
ムックリ 黒魔術を使う、魔法使いになろうとしている!

 ズングリ、ムックリの口を又してもふさぐ。

ズングリ 油断も隙もありゃしない。どうして分かったの?
ムックリ ムゴホホホホヲ…。(だから、あんたのことは全部分かるって…。)

 ムックリは口を押さえられているので、言葉が聞き取れない。

ズングリ 命が惜しかったら、それ以上話さないで。

 ムックリ、ズングリの手を優しく振りほどいて。

ムックリ はい、はい。
ズングリ どうして分かったの?
ムックリ 昨日、イオンに行って、箒(ほうき)を買おうとしていたでしょう。
ズングリ 買わなかったけどね。
ムックリ 空を飛ぶ理想の形の箒が無かったからでしょう。
ズングリ プラスチックの平べったいものしか無かったのよ。家に有るのは、座敷箒だし。
ムックリ それで。
ズングリ プラスチックの箒とか座敷箒じゃ、絵にならないじゃない。
ムックリ 魔女の宅急便のキキは、デッキブラシで飛んでたじゃない。形じゃないよ。
ズングリ そうか。…って、何でそんなことまで知ってるのよ!

ムックリ それから、隣の家の黒ネコを欲しそうに見ていたでしょう。
ズングリ やっぱり、魔女は黒ネコだよね。
ムックリ 菅野さんちのおばちゃん、思い切り警戒してたよ。
ズングリ そう?
ムックリ 隣の猫が子猫を産んだら、それをもらって飼うところから始めるつもりじゃ無いと。
ズングリ そうか、そこから始めないと猫と話ができるようにはならないか…。
ムックリ …話ができるようになるかどうかは分からないけどね…。

ムックリ 箒に黒ネコ。分かりやす過ぎでしょう。
ズングリ …そうか。
ムックリ 隣の菅野さんのとこのおばちゃんも、イオンにサンダルを買いに行っていた熊谷さんのところのおじいちゃんにも、ピアノ教室の田村先生にもバレバレだよ。

 ズングリ、自分に言い聞かせるようにつぶやきだす。

ズングリ ちょっと、用心が足りなかったかな。…甘かったな。
ムックリ 甘すぎ。メイプルシロップでコーティングしたドーナツに砂糖を直接かけるくらい甘すぎ。
ズングリ そりゃぁ、甘すぎだ。

ムックリ はい、これ。

 ムックリ、ズングリに本を渡す。

ズングリ 何、この本。『黒魔術入門』…!これって!
ムックリ これは、あんたが読もうとしているその本。中世にヨーロッパで書かれた英語で書かれているその本を日本語に訳した本。
ズングリ どこで見つけたの?あんたって凄い!

 ズングリ、疑心(ぎしん)暗鬼(あんき)の表情でムックリを覗(のぞ)き込む。

ズングリ あんた、この本全部読んだの。
ムックリ 読んだよ。
ズングリ …理解できた?
ムックリ 理解できた。

ズングリ、泣きそうな顔でムックリに訴(うった)えかける。

ズングリ じゃぁ、あたしに魔法の使い方を教えてよ。
ムックリ それは出来ないね。
ズングリ どうして?
ムックリ その本の中には、魔法の使い方は書いていないから…。
ムックリ えっ?

 ムックリ、愕然(がくぜん)とする。

ムックリ タイトルは『黒魔術入門』だけど、あんたの想像しているような魔法の使い方なんて、これっぽっちも書いていないよ。
ズングリ 本当?ちょっと、その本見せてよ。
ムックリ 良いよ。

ムックリ、ズングリに持っていた本を渡す。

ズングリ 『トリカブト…心臓を止まらせて死に至らせるには、この植物を用いるべし。』何これ。
ムックリ 黒魔術。
ズングリ 毒草の使い方の本じゃないの?
ムックリ そう。それが『黒魔術』。
ズングリ 何それ。

 ズングリ、またページをめくる。

ズングリ 『ナタマメには腫れた炎症を抑える効果が有る。また、鼻のつまり、歯の病にも効果が有る…。』これなんて、毒じゃないし、黒く無いじゃない。
ムックリ 自分の身を守るためのことも学ぶことも魔女には大切なことなの。
ズングリ かなり残念…。ん~、でも、あたしのアレルギー性鼻炎にはナタマメが効くのかもね…。参考にはなるね。

ムックリ 普通の人が知らない知識があって、色々なことに対応できることが中世では魔法。
ズングリ 魔法じゃ無いよ。
ムックリ お腹が痛く痛くて仕方ないときに、不思議な粉を持って来て飲ませれば、すっと痛みが無くなる…。魔法じゃない。
ズングリ じゃぁ、お医者さんは魔法使いってこと?
ムックリ そう。
ズングリ えぇっ。夢が無さ過ぎ…。

ズングリ じゃぁさ、何にもない真っ白な紙に、見たことのない出来事を描いたり、会ったことが無い人を本物の様に映し出せれば、それも魔法?
ムックリ そう。
ズングリ だったら、絵描きさんだって魔法使いじゃない。
ムックリ そうだよ。レオナルドダビンチは、魔法使いだったとも言われているし…。
ズングリ がっかり。

ズングリ この世には、魔法は無いってこと?
ムックリ そんなこと無いよ。世界は魔法で満ち溢れている。
ズングリ どういうことよ。
ムックリ 試してみる。
ズングリ うん。

 ムックリ、ピアノのところへ行き、呼吸を整えるとメロディーを奏で始める。

ムックリ ね。
ズングリ 音楽も、魔法。
ムックリ 魔法。
ムックリ あんたにもできるよ。
ズングリ どういうことよ。
ムックリ やって見てよ。ほら。
 
 ムックリ、ズングリをピアノのところまで連れて行き、一つ頷く。ズングリもそれに応えるようにピアノを弾きはじめる。

ムックリ どう?
ズングリ ピアノが今まで魔法だなんて考えたことが無かったけど…。
ムックリ けど?
ズングリ 魔法かなって考えると、
ムックリ そう考えると、
ズングリ 家族のみんなを幸せな気持ちにできる方法だって思えてきた。
ムックリ そう。
ズングリ そう考えると、ピアノを弾くことも魔法かなって思えてきた。
ムックリ そうでしょう。

ムックリ ズングリは、ピアノだけじゃなく、いろいろな力を持っているよ。
ズングリ いろいろな力?
ムックリ 私には無い凄い能力だよ。
ズングリ 能力?
ムックリ 魔法について調べることもそう。本気になって調べているから、バカになんてできない。何でも一所懸命やることって大事なんだって、気付かせてくれる。
ズングリ 何にも考えていないよ。
ムックリ 何も考えて居なくても、人に大きな影響を与えられる。
ズングリ そんな力が有るのかな?
 
ムックリ ズングリは、他の人が『私ももう少しがんばってみようか』と、思える力をくれる…。
ズングリ そう?
ムックリ そうだよ。
ズングリ そんなに凄い?
ムックリ 凄いよ。これって魔法じゃない。

ムックリ 私は、 あんたと一緒に居るだけで、幸せな気持ちになれるんだ。
ズングリ えっ。
ムックリ これって、誰にでも出来ることじゃ無いじゃよ。
ズングリ そう?
ムックリ 魔法だよ。
ズングリ えっ?

ムックリ 君は、現代の大魔法使いだ!
ズングリ そう、かな。
ムックリ 人々に幸福をもたらす大魔法使いが、この町に降臨しました。
ズングリ そんな、大げさな。
ムックリ おおげさじゃないよ。自分に自信を持って…。
ズングリ そうかな。
ムックリ そうだよ。

 ズングリ、立ち上がり…。

ズングリ じゃあさ、明日から、マントを着て杖を持って歩いて良いかな。
ムックリ それはやめた方が良いかな…。
ズングリ 何で?
ムックリ 本物の大魔法使いは、偉ぶらないでいつも静かに笑っているものではないかな。
ズングリ そうね。

ズングリ あのさ、
ムックリ 何?
ズングリ 私が大魔法使いだっていうことに気付かせてくれてありがとう。
ムックリ べ、別に。本当のことを言っただけだから。
ズングリ それでさ、

ズングリ 私さ、大魔法使いだったんだけど、友だちで居てくれる。

 ムックリ、笑顔で応える。

ムックリ あたりまえでしょう。ずっと、ずっと、友だちだよ。

 二人、堅く握手をする。

ズングリ そうとわかれば…。

 ズングリ、そそくさと魔法の本を棚に返し、ムックリから借りた本も返す。

ズングリ この本、返すね。ありがとう。
ムックリ 魔法の勉強をしなくていいの?
ズングリ 何もしなくても大魔法使いだって教えてくれたのはあなたじゃない!
ムックリ それで、もう勉強しないの?
ズングリ そう。そんな暇は無いの。
ムックリ 暇は無い?
ズングリ 魔法使いは達成したから、次はアイドルにならなきゃ!

 ズングリ、黒のローブを脱ぎ去ると、その下にはメイド服を着ている。

ムックリ 切り替えが早いというか…。
ズングリ 歌の練習つきあって!。
ムックリ はい、はい。

 ズングリ、ムックリの手を引っ張って去ってゆく。
 凸凹コンビの友だち関係は、この後も続いてゆく。

終 幕
平成27年8月15日


魂心からの書簡(メッセージ)

2015-05-04 21:10:08 | 脚本
【登場人物】
アレン   …アメリカフランクリン出身のプロテスタント宣教師。
小原クニ  …生涯、アレンの片腕としてアレンの活動を支える。
小原キミ  …小原クニの妹
矢幅武司  …盛岡の薬屋の次男。久慈幼稚園の経営を担当し、久慈教会の 牧師となる。小原クニの夫。
平谷鉄男  …現存する久慈幼稚園園舎を建設した棟梁。
嵯峨清貴  …醸造業を営む久慈町会議員。
新渡戸稲造 …岩手県出身、国際連盟事務次官。アレンの岩手移住を決意さ
せる人物。

【舞台構成】
 舞台の基本は、前後を斜幕で区切る形で構成される。斜幕前が演技エリアで、舞台後方センターにはピアノが配置され、その両側に雛段が設置されている。
 芝居を舞台前方で演じているうちに、斜幕後でのスタンバイを完成されるようにし、斜幕前後の明りの切り替えでタイムラグ無く、場面の転換が行われるようにする。
 演技エリアの舞台前方には、昭和初期の様相を醸し出すオブジェが置かれていて、タマシンアレンが生きた時代の空気感を伝えている。
 場面を表現するセットは必要最低限にとどめ、斜幕に情景を思い浮かべることができる写真やデザイン画等をプロジェクターで映し出し、観客を物語世界へ誘う工夫を施す。


1.序章(1918年 新渡戸稲造とアレンとの出会い アレン29歳)

 舞台暗転の中。静かに波の音が聞こえてくる。波の音は徐々に静かな音楽へと変わってゆく。
 斜幕にはタイトル『魂心からの書簡』と映し出される。
 ここで、登場人物もテロップとして入れば、観客は物語世界をつかみやすいかもしれない。
 最後に
 『1918年』
 『新渡戸稲造とアレンとの出会い』
 『アレン29歳』
 のテロップの後、舞台下手に一人の老紳士(新渡戸稲造56歳)がスポットライトで映し出される。

新渡戸 岩手という地は、人々に魂の平安がもたらされている場所です。しかし、厳しい自然環境と、東京から遠いという立地条件により人々は疲弊し、満ち足りた生活をすることは困難な地となっています。
 私の出身の彼の地に、農業技術や医療、教育といったものが今以上にもたらされれば、必ずや理想郷となり得る地域であると、私は考えています。

 新渡戸が話している途中に、舞台上手に、一人の若い女性(タマシンアレン29歳)がスポットライトでふわりと現れる。

アレン 私は、イエスキリストの愛の言葉を通じて一人ひとりの生活を変えていくことを目指して、この日本にやってきました。
新渡戸 岩手の人々は、持っているポテンシャルは低くはないのですが、それを導くことができる人材が少ないのが現状です。
アレン もしかして、それをなし得ることが、私がこの世に生を受けた意味であるようにも思われてきました。
新渡戸 ミスアレンがその役を買って出てくださると言うのであれば、岩手は人々が満ち足りて暮らすことができる理想郷(ユートピア)として、生まれ変わって行くことでしょう。岩手の人々の灯明になって下さるというのであれば、こんな幸いなことはありません。
アレン あぁ、ミスター新渡戸。あなたこそ、私にとっての灯明です。私の行くべき道が見えてまいりました。私は、これから、私を待ってくださっている、みちのくのいや果ての果てまで参りましょう。そして、神の御加護のもと、その地を誰もが憧れる理想の地へと導くお手伝いをさせていただきたいと思います。
新渡戸 そうたやすいことではありませんよ。
アレン たやすいことでは無いからこそ、私に与えられた使命の大きさを感じ、やりがいが持てるというものです。
新渡戸 ありがとうございます。
アレン 私は、神のお導きの下、Eternity『永遠なる慈しみ』の地という名をもつ、久慈という土地に赴きましょう。その場所に、ユートピアを…。
新渡戸 神の御加護を…。

 新渡戸静かにお辞儀をすると、明りと共に消えてゆく。
 アレン、笑顔で決意を表す。

2. 合唱(アリア)
 
 舞台を前後に分ける斜幕の後ろから、合唱の歌声が聞こえてくる。
 次第に舞台後方に明りが落ち、合唱をしている生徒たちが浮かび上がってくる。

 合唱が響き渡る。

 歌の終了と共に、斜幕後方暗転。
 斜幕前方上手側の一部が明転。

3.昭和三陸津波の久慈(1933年3月3日 アレン44歳)

  斜幕にテロップが入る。
  『1933年 夏』
  『久慈へ移住』
  『アレン44歳』
  ミンミンゼミの声が響き渡っている。
  舞台前方が明転した一角に、旅支度のアレンがさっそうと登場する。立ち止まり汗を軽く拭き、遠景を眺める。その後に、二人の女性が息も絶え絶えに追いついてくる。

キミ  アレン先生。置いていかないでください。
アレン ごめんなさい。ちょっと私のペースは速かったかしら。
クニ  …はい。
アレン ごめんなさい。ちょっと休みますか。
キミ・クニ はい。
 
 クニ、その場に足を広げて寝転がってしまう。

キミ  姉さま。疲れたのはわかりますが、はしたなさすぎますよ。
クニ  大丈夫です。こんな山の中ですし、誰も来やしませんよ。
キミ  そうですか…。
クニ  後から来る矢幅さまも、半日は後に出立の予定。男の足だとしても、追いつけるはずは有りませんよ。
キミ  姉さまにお会いしたくて、駆けてくるかもしれませんよ。
クニ  何を言うの。照れるじゃないの。
アレン 恋をするのは素敵なことです。
クニ  アレン先生まで…。

 そこへ、大きな荷物を背負った武司が走りながら現れる。
武司 いやぁ、追いつきました!

武司の登場に、クニは着衣の乱れを整えて、その場に正座をする。
 武司は、荷物をその場に置く。

武司  いやぁ、女史の皆さまは健脚でいらっしゃる。もう少し早く追いつけるものと思っていましたが…。
アレン 武司さんは多くの荷物をまとめて、それを背負って半日は後の出立の予定でしたのに。 
武司  はい。
クニ  どうやって、この時間にここまで。
武司  駆けてまいりました。
キミ  姉さまに早く遭うために。
武司  はい。えっ、いえ。あっ、はい。

 武司、顔を赤らめながら、話をそらそうとする。

武司  さ、流石クニさん。こんな場所に居ても清楚に正座をなさっているとは…。
クニ  えぇ。淑女のたしなみでございますわ。(汗)
キミ  姉さんは武司さんの前だと、こうだものね。
クニ  何よ!
キミ  いいえ、別に。
アレン あなたたち姉妹は、とても仲が良くて羨ましいわ。武司さんとクニさんもね…。

 キミだけが晴れやかな笑顔で、後の二人は微妙に恥ずかしげな表情を浮かべる。
アレンは、そんな三人を優しいまなざしで包み込んだ後、目を閉じて風を感じながら深く息を吸う。

アレン 皆さん。風に潮の香りが感じられますよ。海はもうすぐそこなんですね。

 全員、目を閉じ深く息を吸う。

武司  本当だ。潮の香りがする。
アレン 潮の香りは心を元気にします。
キミ  そうですね。
クニ  久慈の方々が私をお呼びくださって嬉しいです。
キミ  津波の後の林間学校を開催したのが好評だったようですね。
武司  そうです。津波で疲弊した方々が、今、何を望み、どうしたいのかを聞きながら、地域の人の望みに従い、できることをしてきた成果です。
アレン 私ができたことは小さなことです。
クニ  そんなことはありません。
アレン 私はただ、つないだだけですから。
武司  それが、できそうでできないことなんです。
クニ  盛岡や仙台、そしてアメリカとつながりがあるアレン先生だからこそ、できたことです。
アレン 多くの方々のご支援の下、必要なものは必要とするところに届けるこ
とができました。沢山の方が動いてくださいました。
キミ  アレン先生のお手紙のおかげです。
アレン 私は手紙として言葉を綴っただけ…。
クニ  アレン先生の手紙で人も物も動いたのです。
アレン 着るもの、食べるもの、住むところが有ると言うことは大切なことです。
キミ  それを与えてくださったのが、アレン先生。
アレン いえいえ、与えてくださったのは、神と神のご意思を受けた多くの方々なのです。私がここの人たちにしたことは、紡いだ言葉を伝えただけ…。
キミ  生きようと思える勇気と希望こそが、人間にとって何よりの源となるものです。
クニ  アレン先生のことばでどれだけの方々が、生きようと思ったことか。
アレン あなたたちにそういってもらえると、とても嬉しいわ。
武司  私たちも、アレン先生のおかげで、自分が生きる価値を見つけることができたんです。だからこそ、今こうして生きていられる。  
クニ  だからこそ、こうして一緒にここまでやって来た。
アレン 皆さん。ありがとう。

武司  さぁ、もうひと踏ん張りですよ。久慈の皆さんが待っていられる。行きましょう。
クニ・キミ・アレン えぇ。

 4人、笑顔で歩き出す。

 暗転。


4.ピアノ演奏

 演者が去ると同時に、舞台後方中央に有るピアノにスポットが落ちる。
 ピアノの演奏が始まる。

 【演奏】

 演奏が終わると同時に、スポットが消える。


5.終戦後再び久慈へ(1947年5月12日 アレン57歳)

 シュポーッ
 蒸気機関車の汽笛の音が聞こえる。
 明転すると、久慈駅の駅表示があり、その前に一人の男、嵯峨が立っている。嵯峨は帽子をかぶった身なりの良い、老紳士である。紳士は、しきりに、舞台上手側の八戸方面を気にしている。
 そこへ、職人風の男、平谷が現れる。

平谷  嵯峨議員さん、ずいぶんと早いお待ちで。
嵯峨  そりゃぁそうだろう。アレン先生が戻って来るって聞いたら居てもたってもいられないさ。
平谷  恋しい人でも待ってるような感じだな。
嵯峨  何を言ってるんだ。不謹慎な!
平谷  そう、怒りなさんな。
嵯峨  棟梁も早いじゃないか。
平谷  あたりまえだろ。俺が今、おまんま食っていけてるのは誰のおかげだ
と思う。
嵯峨  アレン先生。
平谷  その通り。あんなシャレた幼稚園を俺につくらせてもらったおかげで、仕事をいっぱいもらえてんだよ。神様、仏様、キリスト様、アレン先生様って感じだな。

 そこへ、キミが現れる。

嵯峨  キミさん、牧師さんは来ないのか。
キミ  今、来ますよ。来ないわけが無いじゃありませんか。
平谷  そりゃぁそうだ。

 フォォォッ。
 と、汽笛の音が聞こえる。

嵯峨  汽車が来たぞ。
平谷  牧師さんは…、あっ、来た来た。奥さんも一緒だよ。

 そこへ、武司とクニが現れる。
 『いやぁ、すまんすまん。』と言った会話が列車の車輪の音でかき消される。
 列車が停車した音が響き渡る。
 舞台に集まった人たちが会場の方向に顔を向けて見守る中、華やかな音楽と共にアレンが会場から舞台に現れる。
 人々は、笑顔で口々にアレンの名を呼び、手を振っている。
 クニは感極まって泣きだしてしまう。

アレン クニ、キヨ、武司さん。そして嵯峨さん、棟梁。皆さんお元気でしたか?
嵯峨  アレン先生、良く帰って来てくださいました。
クニ  本当に、もう二度と会えないかと思いました。
キヨ  帰って来てくださってありがとうございます。
アレン 武司さん。牧師として教会と幼稚園を守って下さってありがとうございました。
武司  私だけじゃありませんよ。久慈の人たちみんなで守りました。
平谷  そうそう。
クニ  主も園を守って下さったと思います。
アレン 町のほとんどが焼ける大きな火事が有ったようですが…。
平谷  キリストさんが守ってくれたんだろう。巽町から南の幼稚園の方は焼けなかった。神の御加護っていう奴ぁ大したもんだ。
武司  これで、園も安泰だ。
アレン 今回、私が戻って来たのは、主の教えを伝道することと、園を運営するためだけではありません。ビックなニュースが有ります。
嵯峨  何ですか。
アレン 日本赤十字社の協力を得て、この久慈で無料診療を行うことになりま
した。
平谷  何っ!病院の先生が来るのか!
嵯峨  それも、タダで診てくれるんですね。
アレン えぇ。
平谷  夢のようだ…。
アレン 夢は思っただけでは叶いませんが、思ったことを誰かに話すことによって、形が見えてきます。そして、その形は、神の御加護と多くの人のつながりによって、実現するのです。Dream come true.です。
嵯峨  本当だ、アレン先生さえ居れば、夢は夢のままで終わらない。ありがとうございます。
クニ  アレン先生は、どうしてそんなことができるのですか。
アレン 私がしてるわけではありません。神のお導きです。

 アレンの笑顔に、人々は勇気と希望を持った表情をする。
 アレンの荷物を持つもの、談笑し合うものそれぞれがリアクションを取りながら、舞台下手に去ってゆく。

6.楽しいクリスマス(マンドリン演奏) 

 役者が去りかけると、斜幕後方に明りが入り、マンドリンの演奏が始まる。
 【マンドリン演奏】
 演奏が終わると、斜幕後方の明りが消える。

7.アレンの手記
 
 静かに老女となったアレンが舞台中央に歩み出てくる。
 アレンは一冊の手帳を取り出すと、静かにほほ笑みながら、その手記の一節を朗読し始める。

 “Dwell Deep” Thomasine Allen
Dwell deep,
My soul, dwell deep.
I am not my body,
my body is only the physical
house in which I live.
The essential thing about me
is my spiritual life.
So long as I am honest
and true and trust in God,
my soul is beyond
the reach of all adversity.
No,no trouble can touch
the essential and eternal”me”
Because Iam God`s child
I can meet all that comes
in the day`s work
bravely and serenery.

アレン 久慈の皆さん。いつ久しく、慈しみを持つ人たちで居続けてください。私は、この土地の自然に溶け込んで、皆さんの傍にそっと寄り添い続けます。いつまでも、いつまでも。

 アレン、満面の笑顔で、会場の人たちを包み込む。 

8.吹奏楽(アメリカ)フィナーレ

 朗読が終わると同時に、舞台後方の明りがつき、吹奏楽の演奏が始まる。
 大団円の明るい曲の演奏。

 そのままカーテンコール風の総合開会式のフィナーレとなり、役者、演奏者等が紹介される。

 終幕

 
 多くの方々の手を借りて素晴らしい舞台になることを願って。
 神のご加護を…。

並行螺旋

2015-04-19 21:42:01 | 脚本
【登場人物】
姉(29歳)… 碧(みどり)。市役所生涯学習課文化財室勤務。
        多くのことを背負いこんではいるが、表面上は明るく過ごしている。
妹(23歳)… 洋海(ひろみ)。ローソンアルバイト店員。
        震災以降、時として強迫観念に襲われ、自暴自棄
な行動をとることが有るが、日常的には無気力。

※ 設定年齢は2011年の年齢。舞台の終焉には、2015年と
なる。その時点で、姉は33歳、妹は27歳である。未婚女性
が29歳から33歳へと4年の歳月を費やす姉のリアリティ
と、定職が無いまま23歳から27歳へと時を経る妹のリアリティを念頭に置いて物語世界を構築していって欲しい。

 ~ゼロ~ 二〇一一年八月十日 基準日

 舞台(そこ)は、何もない菱形に区切られた4畳半の空間。
奥の2面だけに壁がある。上手側の壁には玄関に繋がるらしき口が一つ開いている。殺風景な部屋(ばしょ)である。
 明りがつくとその殺風景な部屋(ばしょ)に、妹が、レジ袋を左手に下げたまま、蛍光灯のスイッチの紐を引く仕草で止まって立っている。
 妹は、そのまま、その部屋(ばしょ)をぐるりと見回す。
 そこへ、姉も大量のレジ袋を抱えて現れる。

姉 大体のものはそろっているでしょう。
妹 …だいたいね。
姉 だいたいそろってるって言っても、やっぱり食料は無いからね。
持ってる袋…そこ、置いといて。冷蔵庫にしまうから。

 妹は虚ろな目をしたまま、姉を視野の中に置きながらも見つめるでもなく、ただぼうっとして、部屋(そこ)の全体像を眺め続けている。
姉はあくせくと荷物を片付け、新たな荷物を部屋(そこ)に運びこむ作業をし続ける。部屋(そこ)の隅の場所には、レジ袋に入っている衣類とおぼしきものを置く。
 姉は、荷物を運び終えると、妹の斜めに向かいに座る。二人は精神的に安定できる九十度の角度で相対する。

姉 何か飲む。
妹 何があるの。
姉 避難所で、スティックコーヒーもらって来た…。

 姉、隅の無造作に積み重ねられたレジ袋をかき分けて、スティックコーヒーを見つけだす。

姉 あった。
妹 …残っている人たちの分じゃないの。
姉 大丈夫。私たちがほとんど最後だったじゃない。
妹 …そう?
姉 そう。
妹 …まだ居たじゃない。

 姉、どこを見ているとも判断できない中空に視線を漂わせ、記憶たどる。

姉 あぁ、齊藤さんとこも、明日には仮設に入るって。ここの仮設
じゃ無くて、小学校の校庭の方…。小学生が居るから、学校に
近い方がいいって…。
妹 そう。でも…。
姉 コーヒーは、避難所で生活していた私たちが持って行ってくれ
た方が助かるって…。
妹 誰かそう言ったの。
姉 避難所を運営していた、福祉協議会の小野さん。
妹 そう。
姉 断るだけが美徳じゃないよ。
妹 そう。
姉 空気読んであげなきゃ。
妹 …あたしには読めない。

 姉、気まずそうな表情を浮かべ、

姉 無理して、気を使って、空気読む必要もないけどね。

 気持ちの置き場が無いことが、手のおき場所が無いところから読み取れる。

姉 …お湯沸かすね。

 姉、立ちあがって玄関口の台所へ行く。

 タラァァァッ。テッテッテッテッ。ジョゴジョゴジョゴ。

水圧の低い水道から水が流れる音は途中から、ステンレスの洗い場に落ちる音から、ヤカンに落ちる音、そしてヤカンに溜まった水をさらに満たす音に微妙に変わってゆく。
 チチチチ。チチチチ。ボッ。

ガスレンジが点火する音が聞こえる。
 妹、台所の方へ向って、彼女としてはがんばって出した少し大きめの声で問い掛ける。

妹 ガス、もう出るんだね。

 玄関口の台所からも、少し気を張って大きな声を出した姉の声が返ってくる。

姉 えぇ。昨日のうちに、手続きしといた。

 妹、天井の蛍光灯を見やりながらつぶやく。

妹 そうだよね、電気もついてるしね。
姉 えぇ。
妹 …姉ちゃん、凄いなぁ。
姉 何が。
妹 何でもできて。
姉 やらなきゃ無ければ、仕方ないでしょう。

 姉、戻ってきて、妹の脇に座る。

姉 避難所の隣(の場所(とこ))にいた菅原さんたちは、夫婦で息子さん
のところへ行くんだって。
妹 息子さん、銀行に勤めてるんだっけ…。
姉 えぇ。
妹 仙台…?
姉 泉だって、仙台駅から地下鉄で北の方に行ったとこ。
妹 そこは、大丈夫だったの。
姉 山手だから。店も普通にやってるってよ。アウトレットもある
んだって。
妹 ふぅん。
姉 断水とか、停電とかはあったみたいだけど、今はもう普通みた
い。
妹 ふぅん。
姉 菅原さんの旦那さんってあんまりしゃべらないけど、奥さんが
おしゃべりだから、色々聞いたなぁ。旦那さん、切手集めが趣
味なんだって。
妹 切手?
姉 旦那さんが、毎日切手の事を言うって、奥さんが愚痴ってた。
妹 ふぅん。
姉 大事にしていた切手のコレクションが流されたんだって。
妹 ふうん。
姉 『見返り美人』はもう手に入らないだろうなって。
妹 『見返り美人』?
姉 切手のコレクターの中では有名な一枚何なんだって。5円の切
手が1万円もするらしいよ。
妹 ふうん。
姉 そしたら、『見返り美人なら、ここにいるのにねぇ。』って、菅
原さんの奥さんがポーズ作ってたんだよね。おっかしくてさ。
妹 菅原さんの奥さん、ぽっちゃり系だよね。
姉 そう。でも、それが妙に色っぽくてさ…。

 お湯が沸いたことを知らせる、ケトルの笛の音が聞こえてくる。

姉 あっ。(沸いた)

 姉、立ちあがって台所に消える。
妹、天井の蛍光灯をぼうっと見ている。
 
妹 姉ちゃん。
姉 なぁに。

 台所から声が聞こえる。

妹 私たち、どうなるんだろう。
姉 …さぁ。
妹 姉ちゃんにもわからないの。
姉 わかる訳ないでしょう。
妹 ちっちゃいときから、いっつも、姉ちゃんは明日のことを話し
てくれてたでしょう…。
姉 想像してただけ。
妹 ソウゾウ?
姉 明日が怖いから、こういうことが有ったらこうするって、全部
考えるの。
妹 凄いね。
姉 心配性なだけよ。

 妹、過去を夢想するような遠い目をする。

妹 姉ちゃんは、何でも全部わかってると思ってた。
姉 私はわからないことだらけ、何もわかっちゃいない。
妹 私よりはわかっているでしょ。
姉 そうでもないわよ。あんたのソウゾウには敵わないわ。
妹 私のソウゾウは、夢の世界なだけ。
姉 だから、『創造(クリエイティブ)』なんでしょう。私の『想像』は現実的で夢が無いけど、あなたの『創造』は夢が有る。
妹 そうなのかな。
姉 人間、無い物ねだりなものよ。
妹 …そうなの?

 姉、カップにコーヒーをいれて現れる。 

姉 でも、私たちは、それぞれ無いものを持っている。

 妹を見つめる。

姉 二人一緒なら最強だよ!

 妹、姉を見つめて、ふっと笑う。

妹 そうだね。
 
 妹、中空を見つめながら。

妹 …姉さん。
姉 何?
妹 ここにいつまでいるの。
姉 いつまでって…期限が2年だから、それくらいじゃない。
妹 その後、どこへ行くの。
姉 …どこでもいい。
妹 どこでもいい?
姉 そう住むところが有れば…。

 姉、カップに口をつけた状態でほほ笑むと、二人の居る空間が二人の内面空間へと変わる。
 そして、妹、すっと立ち上がる。
 二人は、誰にともなく語りだす。

妹  私たちはいつまでも
姉  繰り返す
妹  繰り返す
くりかえし続けるこの
   平行螺旋の空間の中で
姉  いつまでも
妹  いつまでも
   もがき続ける。
   私たちは
   先へは進めない
姉  後へも戻れない
妹  いつまでも
姉  いつまでも
妹  いつまでも
姉  …いつまでも
妹  この場所に
姉  この空間に
妹  しがみついて、生き続けている。
姉  生き続けなければならない。
二人 命、続く限り。


 二人、お互いの顔を見合わせ、不惑に笑う。
 空間は青い薄闇に包まれる。
 青い薄闇と音楽の中、二人の日常は繰り返される。
特別なことが無い一日一日が繰り返されるうちに、八カ月が経過する。
 その月日は、部屋の装いが夏から冬に徐々に変わってゆく様子から読み取れる。それは日々繰り返す日常の中で、テーブルが次第に炬燵(こたつ)になり、二人の衣服も次第に軽装になり、毎日の積み重ねにより、部屋(そこ)の中にある『モノ』が増えてくる様子から、八カ月もの歳月が過ぎたことが感じられる。

 ~イチ~ 二〇一二年三月 一周忌

 引き続き、仮設住宅の一室。
 窓から夕闇が近いことを知らせるオレンジ色の斜光が差し込んでいる。
 その部屋(ばしょ)には生活感のある『モノ』が存在感を増しつつある。
 二人が八か月を過ごした生活感が散りばめられている。
 その部屋(ばしょ)と台所の空間を区切る狭間の長押(なげし)には『がんばろう岩手』と書いてある暖簾(のれん)が掛けられてある。
 壁が屹立している角にはカラーボックスが置いてあり、その上に小さなテレビが一台。テレビの上には、丁度三角を作るように洗濯紐が張られていて、洋服がかけられていて、物干しの紐がそのままクローゼット状態になっている。
 4畳半の部屋の中央に炬燵(こたつ)がひとつ。座布団が二つ。
 炬燵の上には、片付け切れていない新聞や雑誌、スナック菓子、お茶を飲んだらしいコップが雑然と置かれている。
 玄関チャイムの音が一つ鳴る。
ピンポ~ン。
暫(しば)しの時間を置いてもう一つチャイムの音が鳴る。
 ピンポ~ン。
 チャイムを押した人物が帰ったかと思われるほどの間の後、狂ったようにチャイムが連打される。
 ピポピポピポピンポ~ン、ピポピポピピピピピンポ~~~ン。
 ガチャガチャと回して開けるタイプの鍵を開ける音がする。
 無機質なサッシ戸とレールの間につまった砂が擦れる音がする。
 ドカドカと、誰かが一人、靴を脱いで部屋の中に入ってくる音がする。
 『がんばろう岩手』の暖簾をくぐって、コンビニの袋を手にぶら提げた妹が、部屋の中に入ってくる。

妹 ピンポンしたのに…。

 妹は、炬燵の先までずんずん進むと、くるりと振り向き、入口の暖簾を凝視(ぎょうし)する。

妹 がんばろう?……。

 妹、目を見開き息を大きく吸い、震えながら叫ぶ。

妹 がんばってるってばあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 妹、コンビニの袋を投げ捨てると、暖簾を剥(は)がし取る。
次にテーブル上のものを全部床に落とし、洗濯紐にぶら下がっている衣類をむしり取る。その暴挙を働いた後、茫然と立ちすくむ。
 暫しの間の後、妹は、その場にしゃがみ込み顔を伏せる。
 
 「ただいまぁ。」という、声が聞こえる。
 「洋海(ひろみ)いるの?」と続けられる。
 姉がその部屋(ばしょ)に入ってくると、荒らされて散らかっているのを目にする。姉は一瞬驚くが、目を閉じあきらめの表情になる。
 周囲を見まわし、妹がひざを抱えるようにして、下手側の壁にうずくまっているのを見つける。

姉 どうしたの。
妹 ……。

姉、全体の様子を把握するように見回した後、粛々と片付け始める。 
姉は無言で片付ける。姉が暖簾を拾い上げ、広げた時に、突然、妹が話し出す。

妹 こんなにがんばってるのに…『がんばろう』って言うから。

 姉、もう一度暖簾を広げて見て、『あぁ、これね。』という表情を浮かべる。

姉 ごめんね。ボランティアの人がくれたんだ。捨てるわけにもいかないし…。今度新しいのを買ってくるから…。

 姉、暖簾を、丸めてレジ袋に詰めると、また粛々と片付け始める。

妹 だったら、我慢する。…捨てないで。
姉 我慢する必要無いよ。
妹 だって、私たちのために色々やってくれた人でしょう。
姉 我慢すること無いよ。
妹 だって、自分には関係ないのに、一生懸命にやってくれた人が
くれたものでしょう。
姉 我慢すること無いよ。
妹 もっと私たちにがんばって欲しいんだよ!
姉 我慢すること無いって!
妹 ……。
姉 …ごめん。
妹 なんで、姉ちゃんが謝るの。
姉 ごめん。
妹 だからなんで。
姉 良かれと思ってしてることなんだから。
妹 だから、なんで姉ちゃんが謝るの…。
姉 お世話になったからだよ。
妹 そう。
姉 良いことだと思ってしてるんだよ。ゆるしてあげてよ。

 妹、確信めいた表情で、すっと立ち上がる。

妹 …偽善なんだ。
姉 えっ。
妹 被災地支援に来てる人たちはみんな偽善者なんだ。
姉 そんなことは言わないで。
妹 でも、そうでしょう。偽物の善意をあたしたちに押しつけてる。
姉 ……。
妹 もう、壊れそう!
姉 偽物なんかじゃないよ。本気で、ここの人たちのためにやって
くれている人たちがほとんどなんだよ。
妹 でも、それで、私たちの心を傷つけている。
姉 傷つけたくてやってるわけじゃないよ。
妹 じゃぁなんで。
姉 えっ。
妹 なんで、こんなことになっちゃうわけ。
姉 私たちの心の中までは見えないから…。
妹 心の中が見えない?
姉 一生懸命に考えても、ここで生まれてここで暮らしていないか
ら、本当はわかってもらえないんだよ。
妹 そんなこと…。
姉 でも、それでも、精一杯考えてくれて、それでやってくれてる
んだから。
妹 ……。
姉 口ばっかりで、何もしない人より、よっぽど偉いよ。
妹 あぁぁぁぁぁぁ。

 妹、錯乱して叫び声をあげて机をたたきだす。

姉 ごめん。自分を責めたつもりだったのに…。
妹 あぁぁああぁぁぁあ。

 姉、暴れる妹を抱きしめる。

姉 ごめん。

 妹、少し落ち着いてくるが、体と声を震わせながらつぶやく。

妹 …誰が悪いの。
姉 …誰も悪くない。
妹 …じゃぁ、どうしてこんなに辛いの?
姉 津波が悪いの!海が悪いの!
妹 …海…。
姉 そう、海。
妹 …………海は悪くない。
姉 えっ。
妹 海は悪くない!
姉 ……。

 妹、声を震わせながらつぶやくように語りだす。

妹 海を悪く言わないでよ。あたしたちの、みんなの、大切なものを皆持って行ったよ。憎いさ、腹が立つさ。でも、海は、海はそうしようと思って津波が起きたわけじゃない。海は悪くない。海は悪くない。海は…。
姉 海は?
妹 海は私だもん…。

 妹、ペタンと座る。

姉 …そうだね。海を悪く言ったら、洋海(ひろみ)の名前に海を
入れた父さんと母さんも悪者になっちゃうものね。
妹 そうだよ。海も悪くない。
姉 ……。
妹 父さんも悪くない。
姉 ……。
妹 母さんも悪くない。
姉 そうだね。
妹 母さんも悪くない…。母さん、母さぁ~ん…。

 妹、泣き出す。
 姉、妹の頭を抱きかかえる。

姉 洋海(ひろみ)…。大丈夫だから…。大丈夫。

 泣きじゃくる妹を姉が抱きかかえながら…場面は青に包まれる。

 ~ニイ~ 二〇一三年八月 当初の入居可能期限日

 その部屋(ばしょ)は、次第に、そこで更に二年以上暮らした生活感が漂っている雰囲気を醸し出してくる。一年半前は炬燵だったものは、布団が取り除かれ、テーブルになっている。
 夏になっている。それも、その後二度目の夏だ。
妹、壁に設置してあるエアコンの前に立って、顔に涼しい空気をあてながら突っ立っている。
 そこへ、姉が帰ってくる。

妹 あ~~~。
姉 ただいまぁ。…何やってんの?
妹 エアコンだと、扇風機みたいに声が震えたりしないんだね。
姉 あたりまえでしょう。
妹 …外、凄く熱の?エアコンの室外機が沢山あるからかな。
姉 全国的に暑いみたい。ここの仮設だけじゃないよ。
妹 そう。
姉 気楽なもんね。あんた、ここから出てないんだから、暑くない
でしょう。
妹 暑い。この部屋から出たらとけちゃう。
姉 あんたはアイスか。
妹 こんなに冷やしているのに、玄関の方からむんむんの空気が来
るもんね。
姉 あたりまえじゃない。でも、ここは私の職場から比べれば楽園
よ。
妹 職場って、発掘現場。
姉 そう。
妹 こんなに暑いのに今日も外にいたの?
姉 そう。早く発掘を終わらせないと、フッコウジュウタク建てら
れないでしょう。
妹 大変ですねぇ。
姉 ホント、他人ごと何だから…。
妹 倒れる人とか居ないの?
姉 現場周って、水分補給を促すとか、そんなことも私の仕事。
妹 ご苦労さんです。
 
 妹、立ったままで、エアコンの風を受けながら目を閉じている。

姉 仕事に行かなくて良いの?
妹 行きたくない。
姉 そりゃぁ、そうでしょう。あたしだって行きたくない。
妹 行かなきゃいいのに。
姉 そういうわけにもいかないでしょう。二人とも働かなくてどう
やってご飯を食べるの?
妹 どうにかなるんじゃない。
姉 どうにもなりません。これだけ発達した現代社会で、飢え死に
する人もいる。それが、今の日本なのよ。
妹 ふうん。
姉 どうせ、一日そうやってフラフラしてるんなら、仮設の中のお
じいちゃん、おばあちゃんの家(とこ)を回って、ご機嫌伺いのボラン
ティアでもしたら。
妹 大学生が来てるじゃない。
姉 去年までね。
妹 去年まで?
姉 もう、ここにはほとんど来ないよ。自治会長さんとか、『去年
までは流しそうめん』とかやってくれたんだけど、リーダーに
なっていた子が、就職したとかで、今年は来られないって…。
妹 えっ?
姉 はがきをもらったんだって。就職しましたって。
妹 そりゃそうだ。他人のことより自分のことが大事だもん。
姉 代わりに、あんたが何かしてみたら…。
妹 人に会いたくない。
姉 仲間でもいれば何かできるんだけどね。
妹 みんな、仙台とか盛岡に出て行っちゃった。
姉 そうね。
妹 みんな知らない土地で無理に笑って暮らしてるのかな。
姉 営業スマイルも、慣れればどうってことないよ。
妹 無理な笑顔を作りたくない。
姉 そりゃぁ、そうだ。
妹 笑いたくもない。
姉 笑う相手がいなきゃね。
妹 だるい。
姉 …私も。…あんたといると、気が滅入るわ。
妹 ごめん。…消えるか…。

 姉は妹の発言に対し、適切な答えを暫し考える。

姉 …そういうこと言ってるんじゃないの。言いすぎた。ごめん。
妹 こっちがごめんだよ。
姉 ごめん。
妹 …お互い気を遣いすぎだね。
姉 そうだね。姉妹なんだから、無理せずいこうよ。
妹 そうだね。

 妹、相変わらず、エアコンの前に立ちっぱなしでいる。

妹 …今月中なんでしょう。
姉 何が。
妹 仮設にいられるの。
姉 そうでもないみたいよ、
妹 そうでもないってどういうこと?
姉 延長になったみたい。
妹 延長?
姉 そう、延長。
妹 何それ。
姉 コウエイジュウタクの建設が思うように進まないから、延ばし
てくれるんだって。
妹 何それ。
姉 ありがたいことでしょう。行く先が決まっていないのに、出て
行けって言うことは言わないでいてくれてるんだから。
妹 ただ、ただ、先延ばしにしないで、早くコウエイジュウタクを
作れっちゅうの。
姉 そんなこと言わない。
妹 だって。
姉 用地買収とか、予算のこととか、色々あるんだから。それと、
私の仕事の関係のことも…。
妹 また、何か出たの。
姉 まぁね。
妹 何が出たのよ。
姉 貝塚。
妹 なぁんだ、ゴミ捨て場か。
姉 貝塚は、その当時を知る貴重なタイムカプセルなのよ。
妹 不法投棄の現場も、後5000年後くらいには、貴重なタイム
カプセルだなんて、言われるのかもね。おぉ、これがこの時代に化石燃料を加工してつくられたペットボトルと言うものか…何てね。
姉 不法投棄の現場と、貝塚を一緒にしないでよ。
妹 一緒です。ゴミ捨て場じゃないの。
姉 合法的に住民が指定して捨てた場所なんだから、不法投棄とは
違うでしょう。縄文の人たちは、今の人たちのように、自分だ
けの利益のために、環境を破壊する行為はしていません。
妹 そうですね。縄文人は素敵な人たちです。
姉 そうよ、現代人は縄文をちっとも理解していない。地球環境に
優しい、究極のエコな生活を何世代も実践してたのよ。素晴ら
しいことじゃないの。
妹 姉ちゃんは、仕事の話になると熱くなる。
姉 だって、縄文人はすごいんだから…。
妹 姉ちゃんは、縄文人と結婚すればいいんだ。
姉 縄文人がここに居れば、迷わず結婚させていただきます。

 妹、ふっと寂しそうな表情を浮かべる。

妹 そうしたら、私を置いて出て行くの?

 姉、妹の心もちを感じ取る。

姉 あ、あんたにも、縄文人のイケメンを紹介してあげる。
妹 あたしは、縄文というより弥生がいいなぁ。
姉 贅沢言わない。夏の盛りにエアコンの前から動かないような人
と結婚してくれるんなら、縄文でも弥生でも文句は言わないの。
妹 へいへい。しかし、不毛な妄想だね。
姉 全く…。
妹 姉ちゃん…。
姉 何?
妹 アイス食べたい。
姉 は?
妹 ハーゲンダッツっては言わないから、ガリガリ君で良いから…。
買ってきて…。
姉 よし、アイス買いに行こう。
妹 え~っ。姉ちゃん買って来てよ。
姉 働かざる者食うべからず。一緒に行ってあげるから、あんたが
買いなよ。
妹 え~っ。今日、せっかくの休みなのに…。
姉 コンビニじゃ無くて、でっかいスーパーができたから、そっち
に行ってみよう。
妹 暑くて行きたくなぁい。
姉 じゃあ、アイスは諦めてね。
妹 …仕方ないなぁ。行くか。

 姉はその気になった妹を押し出すように、二人で部屋(そこ)から出て行く。
 その部屋(ばしょ)はまた時間の経過を表す青い陰に包まれる。
テーブルには炬燵掛け布団がかけられる。炬燵の上にはミカンが置かれる。冬の装いに部屋が変わってゆき、半年の歳月が流れ去る。

  ~サン~ 二〇一四年三月 
進めず戻れないスパイラル

 年月の経過は、壁に掛けてあるカレンダーを見ることによって感じられる。しかし、部屋(そこ)は、夏の装いが冬のものになっているだけで、今までのような大きな変化は見られなくなってきている。
 妹、部屋の中で胸のところまで炬燵に入って寝転がっている。
 姉が厚手のダウンジャケットを羽織って、現れる。

姉 あぁぁ。寒い。

 姉、ダウンジャケットを脱ぎながら…。

姉 仕事行かなくて良いの?
妹 来なくていいって。
姉 えっ。
妹 先週から、高校を卒業したばかりの子が来た。
姉 へぇ。でも、あんたの方が、仕事できるでしょう。
妹 私より、愛想笑いが上手。
姉 そう。
妹 簿記検定も持ってるし、ソロバンもできる。
姉 へぇ。
妹 震災で停電になった時、何もできなかった私とは違うの。電卓
使って会計もできる。
姉 あんただって計算機使って計算くらいはできるでしょう。
妹 計算の仕方は知っているけど、計算はできない。
姉 どういうこと。
妹 計算の仕組みは知っているけど、計算の使い方は教えてもらわ
なかった。
姉 誰も、そんなこと教えてもらわないわよ。
妹 教えないことまでするのは、良くないって教わった。はみ出す
なって…。
姉 そう。
妹 若い子たちははみ出しても誉められる。
姉 …あの時から、人を計る価値観も変わったのかもね。
妹 そう、それから、新しい子はパソコンもできるし、運転免許も
持っている。英語検定もジュン2キュウだって。
姉 そんなにできる子がコンビニでバイト?
妹 優秀でも、この町で暮らそうと思ったら、仕事が無いんだよ。
姉 えっ。
妹 姉ちゃんみたいに役場に受かるか、介護関係の資格が無ければ、
ここじゃぁ、仕事は無いんだよ。
姉 えっ。
妹 この町が好きでここで暮らしたくても、仮設店舗で営業してい
る店じゃ、新しく人を雇う余裕はないし、おっきな会社も無い
し…。
姉 建設業の求人はあるでしょう。
妹 でも、女の子の求人は少ないし、ここの復興道路ができれば、
別のところへ行かなきゃならなくなるでしょう。この町で仕事
をして暮らして行くことはなかなか難しいんだよ。
姉 ごめん。仕事がある私は、わかってあげることができて無かっ
たね。
妹 また、ごめんだ。
姉 だって。
妹 姉ちゃんは悪くない。
姉 ……。
妹 悪いのは私。
姉 ……。
妹 私がもう少しがんばれば良いんだ。
姉 仕事、探してくるから。
妹 ……。
姉 あんただって、賢いんだから。仕事はあるって。
妹 ここでは、賢さは必要ないんだよ。
姉 えっ。
妹 賢さよりも、笑顔なんだよ。
姉 そう、なの。
妹 あたしには一番難しいことだ。
姉 そんなこと無いって…。
妹 …だるい。
姉 えっ。
妹 考えるのも面倒くさい。
姉 ……。
妹 生きるのも面倒くさい。
姉 あきらめちゃ、だめよ。
妹 消えるのもめんどくさい。

 姉、妹に何と声をかけて良いかとっさに思いつかず、考えあぐねるが、遂にあることを思いつく。

姉 …そうだ、小説書いてみない?
妹 小説?
姉 あんたなら、書けるんじゃない。昔からたくさん本も読んでい
たし…。
妹 ……。
姉 小学校での将来の夢に『小説家』って書いてたじゃない。
妹 何で知ってるの!
姉 あんたの学年の小学校の卒業文集、全部読んだ。
妹 変なところがマメなんだから。
姉 あんたのことは全部知っておきたくて。
妹 お母さんみたい。
姉 今は、そんな(お母さんみたいな)もんじゃない?
妹 違う。
姉 えぇっ。
妹 姉ちゃんは、姉ちゃんだ。
姉 そりゃ、そうだ。
姉 どう?
妹 …もう…。
姉 書いてみない?
妹 …う~ん…。
姉 小説なら、ここでパソコン一台あれば書けるじゃない。ネット
使って、ここから、応募することもできる。
妹 小説か…。
姉 印税が入れば、ぐでぐでしていても生活できるよ。
妹 小説ねぇ。

 姉、妹の顔を覗き込む。まんざらでもなさそうな表情を見て、目を輝かせて自分自身に語りかける。

姉 そうね。新しい価値観ね。そうだよ、ネットがこれだけ普及し
てるんだから、才能さえあれば住んでいるところなんて関係な
いよね。
妹 姉ちゃん、何熱くなってるの?
姉 とりあえず、ネットで調べてみるね。小さいのからコツコツと。
妹 まだ、やるって言って無いでしょう。
姉 やってみようよ。
妹 え~っ。
姉 やらないの。でも、顔に『まんざらでもないかな…。』って書
いてあるわよ。
妹 変なこと言わないでよ。

 妹、顔を手で隠し、暫く考えを巡らせた後、ぼそりと呟(つぶや)く。

妹 …ダメでも誰にも迷惑かからないよね。
姉 かからない。
妹 姉ちゃんには迷惑をかけるよ。
姉 何もしない迷惑より、何かしての迷惑なら、買ってでもしたい
くらいだ!
妹 姉ちゃんは、良いの?
姉 良いに決まってるよ。応援する。
妹 この部屋から出なくても怒んない。
姉 本気でやるんなら。
妹 アイス買ってくれる?
姉 ん~。
妹 いいじゃん。
姉 じゃぁ、短編でも良いから、雑誌に掲載されたら、ハーゲンダ
ッツ。
妹 ハーゲンダッツ!
姉 ハーゲンダッツ!
妹 じゃぁ、…やってみるか…。
姉 そうこなくっちゃ。

 姉、笑顔でパソコンを開く。

姉 ハーゲンダッツ凄いねぇ。
妹 そりゃそうでしょう。ハーゲンダッツは特別な時にしか食べら
れないんだから。
姉 お父さんが買ってきてくれたのは、高校合格の時!
妹 それと、運動会のチャンスレースでまぐれで一等賞を取った
時!
姉 あんたが生まれた時!
妹 あ~っ。ずるい。その時、あたし食べてない。

 妹、本気でふくれっ面をする。
 その顔を見て、姉、ほほ笑む。

姉 何か、本当に久しぶりに目の前が明るくなったって感じだね。
妹 えっ。
姉 人間って、先へ進めるかもって思えることが生きることの糧に
なるんだね。

 姉、カチカチとキーボードをたたく。

姉 あっ。これなんてどう。『日常のさりげない出来事をエッセー
に』掲載作品には二千円。

 妹、パソコンを覗き込む。

妹 良いかも…。姉ちゃんのことを書いても良い?
姉 でも普通よ。
妹 普通だと思ってるのは自分だけ。客観的に見ると、面白いんだ
から。『濃い顔の縄文人に恋をしている縄文女子』…。

 妹、姉の顔を正面から見る。
 姉、吹きだして、話を続ける。

姉 仕方ないわね。良いよ。好きに書いてください。
妹 楽しみにしててね。…ふふっ。
姉 笑ったな!何想像したのよ。
妹 内緒。書いたら見せたげる。楽しみにしていて…。
姉 楽しみ!楽しみ!作家先生、がんばってくださいね。
妹 …姉ちゃん。
姉 何?
妹 姉ちゃんにつられて、あたしも何だか楽しい。
姉 そう♡

 二人、笑顔で見つめ合う。二人を青い光が包み込む。青い光の中は相変わらず時間の進みは早い。しかし、時間は進んでも、その部屋(ばしょ)の装いは変化しない。これが惰性に包まれた生活だ。一年前と一年後では違いが感じられない。しかし、確実に二人の時間だけは経過している。
 
 ~シイ~ 二〇一五年三月 
過去の母からのメッセージ

 炬燵の上にノートパソコンが一台開きっぱなしのままになってる。
 妹、炬燵に潜りこむようにして眠っている。一年前と同じ状態だ。
 そこへ、玄関口から姉の声が聞こえてくる。

姉 居る?
妹 ……。
姉 居るよね。雑誌買ってきたよ。…あいたっ。

 ずぼっという、変にこもった音が聞こえる。
 炬燵の中の妹が、むっくりと体を起こし、台所の方に向かって話す。

妹 どうしたの。

 姉、台所の方から妹に声をかける。

姉 とうとうやってしまいました。腐った床板を踏み抜いてしまい
ました。はははは。
妹 姉ちゃん。良いの壊したのに…。
姉 良いの、良いの。壊そうと思って壊したんじゃないから。

 姉、コンビニの袋と小さなかばんと重そうな大きなバックを抱えて現れる。姉の足からは血が流れている。
 しかし、姉は、そんなこともお構いなしに、コンビニの袋から雑誌を取り出す。

姉 そりゃぁ、二年のつもりで建てている仮設に、四年も住んでれ
ば、床も腐るわ。明日、住民生活課に電話して、直してもらう
よ。でも、良いのこれくらい。
あれれっ。血が出てるわ。でも、まっ、良いか。はははは。
妹 テンション高いよ。
姉 いいの。これでテンションあげないで、いつテンションあげろ
って言うの。 
妹 大丈夫?
姉 これで、掲載五本目だよ。作家先生、凄いよ。よくやった。よ
しよし。

 姉、妹の頭をぐしゃぐしゃにして撫でる。

妹 凄くないよ。
姉 凄いよ。全国紙だよ。それも賞金は今までの最高!
妹 五万でしょう。
姉 五万だよ!
妹 今までのところ、二千円、五千円、五千円、一万円。
姉 そして、今回遂に五万円!やったじゃない。もう、作家じゃな
い!
妹 年収七万二千円。これで作家なんて恥ずかしくて言えないでし
ょう。
姉 でも、被災地の誇りよ。何もない町に住んでいて全国誌に掲載されるなんて。作家だよ!
妹 作家じゃ無いって。佳作だし。
姉 着々と印税生活が近づいているねぇ。
妹 姉ちゃんは前向きだねぇ。
姉 ゼロじゃないんだから。自信持ってよ!
妹 姉ちゃんが一番嬉しそう。
姉 そりゃぁそうよ。あなたの才能を見出したプロデューサーは私
なんだから。

 姉、ふと気がついて、持ってきたバックを開く。

姉 それから…ちょっと待ってて。良いものが届いたんだよ。次回
作のネタになりそうだから…。

 姉、得意気な笑顔で、ブリキの缶を取り出す。

姉 じゃぁぁぁん。
妹 何それ。
姉 タイムカプセル。家が有った場所から掘り出された。
妹 タイムカプセル?
姉 父さんが、洋海が生まれたのを記念して庭に埋めたもの。嵩(かさ)上げ工事をするときに出てきたんだって。文化財室に届いたし、名前も書いてあったから、もらって来た。
妹 本当に家のなの。
姉 間違いないよ。名前ついてるんだから、ほら。

 姉、缶の表を見せる。

妹 本当だ。下手な字で『みどり』って名前も書いてる。姉ちゃん
の好きだったセーラームーンのシールが貼ってある。それも、
マーキュリーだ!

 姉、缶を開ける。

姉 この缶ね、ビニルでしっかり包まれていたから、中にも水が入
らなかったらしいよ。

 姉、パカッと缶のふたを開ける。
 姉、缶の中を覗き込み、一つ頷く。

姉 やっぱりね。
妹 何が入ってるの。
姉 ビデオテープだよ。
妹 ビデオテープ?
姉 たぶん、お母さんが映ってる。
妹 姉ちゃん知ってたの。
姉 埋めた後に、内緒だって言いながら父さんが何度も教えてくれ
たから。ビデオテープ、それもVHSだと言うことまで見越し
て…。

 姉、もうひとつの大きなバックから、ビデオデッキを取り出す。

妹 用意周到。
姉 任せて。

 姉、コードでビデオデッキとテレビをつなぎながら話す。

妹 良く、ビデオデッキが有ったね。
姉 ふふぅん。
妹 ビデオデッキってもう既に骨董品なのに…。
姉 だからこそ、文化財室にあったって言うこと…。
妹 職権乱用。
姉 何とでも言いなさいよ。
妹 でも、流石ね。
姉 つながった、かけるよ。
妹 うん。

 姉、ビデオテープをデッキの中に入れると、デッキが動き始める。
 テレビに映像が映し出される。
 テレビの中の映像には姉と瓜二つの人物が映し出されている。
 
妹 あっ。母さんだ。
姉 そうだね。
妹 姉ちゃんとそっくり。
姉 今の私と同じくらいの年だもん。

 テレビの中の人物は、小さい子と一緒だ。テレビの中の人物のお腹は、こんもりと膨れている。

妹 あっ姉ちゃんだ。
姉 お腹には、あんたもいるね。

 テレビの中の女性は、カメラに向かって話し始める。

女性 どうして、こんなことをするのよ。はずかしいわよ。…仕方
ないわね。
 
 咳払いをする。

女性 大きくなった、碧(みどり)ちゃんそれから、洋海(ひろみ)ちゃん。洋海くん
かもね。お父さんが、碧ちゃんがお嫁に行くときに披露宴で流すんだと言って、このビデオを撮っています。

妹  男でもひろみだったんだ。

 映像の女性は話し続ける。

女性 碧の結婚式の設定だったよね。とりあえずおめでとう。今日
は私の思う幸せの形について話をするね。結婚は、幸せの形の一つです。旦那さまとの幸せを大事にしていってください。でも、幸せの形はそれだけじゃ無いのよ。きちんと仕事を持って生活ができることも幸せの一つの形、夢に向かって走り続けることも幸せの形の一つ。
   そんなあなたの色々な形の幸せを、全部受け止めてくれる人が、貴方の隣にいることを、私は確信しています。
姉  母さんごめん。まだ居ないや。
女性  でもね、一番大事なことは、自分の傍にいる人を全力で幸
せにしてあげようと毎日一生懸命に暮らすこと。そうすれば、
自然と自分も幸せになれるってこと。それこそが、ずっと幸
せでいられる秘訣かな?
   
 妹、姉の顔を見る。

妹 お母さん、隣の部屋であたしたちのことを見てるんじゃない。
姉 このコメントを聞いてると、そう思えるよね。

 二人、またビデオに視線を移す。

女性 そして、今の幸せのために、過去を忘れることも大事なこと
かもしれない。隣にいる誰かのために、お母さんお父さんを忘れることも、次の幸せをつかむために大切なことかもしれない。あなたたちの幸せのためなら、私たちは忘れられても構わない。今の幸せを大切にしてください。…ちょっと、カッコつけすぎかな…。はい、カット。

 テレビの画像が消える。二人は消えた画像を見続けるが、それぞれ一筋の涙がこぼれ落ちる。

妹 …お母さん、そんなこと言わないでよ。
姉 母さん、未来が見えているような話しぶりだったね。
妹 あたしは、あたしは、母さんと父さんのこと、絶対忘れないよ。
姉 忘れるってすごく悲しいことだけど、忘れるから生きていける
っていうこともあるんだ。
妹 私は忘れない。
姉 忘れても良いんだね。
妹 私は忘れない。
姉 良いよ。あんたは忘れなくて。忘れないことを力にして生きて行けば良い。
妹 うん。
姉 私は忘れる。
妹 うん。
姉 だって、お母さんが忘れても良いって言ってくれたんだもん。
妹 私は忘れない。
姉 良いよ。
妹 忘れない…。

 妹、泣きじゃくりながら、小さく一つ頷く。
 姉、涙を拭い、笑顔を浮かべる。

姉 さぁ、入賞祝いだ!

 姉、立ち上がり、玄関口の台所へ一旦消えると、ハーゲンダッツのアイスを持って現れる。

姉 じゃぁぁぁぁん。
妹 ハーゲンダッツウ~~~~!

 姉、持っていたアイスの一つを妹に渡す。

姉 乾杯!
妹 乾杯!お母さんにも乾杯!ビデオを残してくれたお父さんに
も!

 二人、アイスで乾杯をし、黙々と食べ始める。

妹 ハーゲンダッツ一個でも幸せだよ。
姉 そうだね。
妹 沢山の幸せなんていらない。今ならハーゲンダッツ一個分の幸
せで十分。
姉 それだ!
妹 何?
姉 次回作!『ハーゲンダッツ一個分の幸せ』!
妹 それだ!姉ちゃん天才!
姉 あんたが言ったんじゃないの。
妹 そうか。『ブリキのタイムカプセル』は、どうする?
姉 それもあったか!ネタはあるねぇ。どんどんいけるね。
妹 姉ちゃん。
姉 何。
妹 …笑顔と勇気、ありがとう。
姉 あんたに私は、希望をもらってるんだから…。こっちこそあり
がとう。

 幸せそうな二人の笑顔を包み込むように音楽が流れてくる。
 ゆっくりとゆっくりと二人は立ちあがる。
二人の表情も、笑顔からゆっくりとゆっくりと、何かを決意したような凛とした表情に変わる。
 二人、遠くの未来を見つめるような表情で語りだす。

二人 私たちのこの生活は
二〇二〇年の東京オリンピックが来るまで
何ら変わりはありません。

いえ、東京オリンピックがあったとしても
何ら変わりません。

床板が腐り
自分が立っている場所が不安定になっても

年月が過ぎ
私たちに残された未来の時間が
短くなっていっても

  私たちの生活は何ら変わることはありません。

生きるということは
怠惰な二十四時間というロットの繰り返し

人が生まれ
人が生きるということには
何の理由も無いけれど

生きる価値は
後からつけたされたものだけれど

そのつけたされたものは
何かのつながりから
そして父さんから
母さんから
関わった多くの人たちから
脈々と
つながってるものだから

同じような毎日でも
つながりがあるからこそ
私たちには
明日がある。

明日を暮らすため
とりあえず
小さな幸せを信じてみよう

小さな幸せを繰り返すことで
幸せが毎日になるから

  そのために、忘れよう
  忘れてはいけないこともあるけれど
  自分たちが生きて行くために
  大切なものも
そっとその場において
ちょっと先に行ってみよう
 
  忘れよう
  繰り返す平行線の輪廻を断ち切って
  前に進めることができるよう

  忘れない
自分たちがここに生まれてきた
その根本になるものだけは

忘れない
そして忘れよう
忘れない
だけど忘れよう
そうやって暮らし続ける
私たちの生活は
言葉だけだは表し切れない
矛盾だらけの
平行螺旋

 二人の姉妹は笑顔で明日を見据える。
 二人はシルエットで包まれた後、青い暗闇の中に溶けて行く。
  
 終 幕



劇団もしょこむ

2015-02-25 21:24:56 | 日記
 書き下ろし作品『並行螺旋』(へいこうスパイラル)を、『劇団もしょこむ』の旗揚げ公演で上演していただくことになりました。
 仮設住宅での日常という、仮設住宅では当たり前の日常で、被災地では無い地域にとっては非日常的な芝居を、仮設住宅の中で行うという、何ともインパクトのある企画です。
 お近くの方はもちろん、お近くでは無い方も現在、まだ仮設住宅に住んでいいる方が沢山いらっしゃるという現実を知るために、釜石に足を運んでみてください。

日時:3月29日(日)14:00~ 17:00~
場所:釜石市平田第6仮設団地内平田パーク商店街1階
料金:前売り400円 当日500円