R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

新作

2014-12-26 22:56:11 | 日記
 本年度最後の新作を年内執筆中です。
 来年2月あたりに、釜石で上演できればというところで、画策しているものです。
 もう少し、形になりましたら、アップさせていただきます。

牛熊様(その10)

2014-12-17 21:43:11 | 脚本
十の場面 牛熊様
 時は過ぎ、同じ草原には若芽が芽吹き出している。
 舞台の中央、大熊と『黒』が息絶えた場所には、祠が建っている。祠には『牛熊様』という、文字が刻まれた木片が掲げられてる。
 そこへ、源治とキヨが、供え物を持って現れる。
 供え物を、祠に供え、それぞれ手を合わせる。
 そこへ、清助とナヲが現れる。

源治 清助さん。すまねぇ。『黒』のために、こんな立派な祠を建ててけで。
清助 いやぁ、めったなことでは見ることができない、熊と牛の真剣勝負を見せてもらったんだスけ。せめてものお返しだ。
キヨ 『黒』は、幸せだったと思うのす。
ナヲ えっ。
キヨ 命をかけて渡り合える仲間と出会え、精一杯生きることができたんだもの。
源治 そうだな。
キヨ そして、命をかけて、死んだ『大熊』への想いを伝えようとした。
源治 …そうだ。
清助 そんな牛が居たことを、いつまでもいつまでも後の世まで伝えてあげなきゃぁいけねぇスけ。
ナヲ そうだね。
清助 この祠があれば、『黒』は死んでも、『牛熊様』として、この地に言い伝えられていく。
キヨ 『黒』の想いをいつまでも大切にしていってあげたいね。
ナヲ そう、いつまでも。
源治・清助 いつまでも…。

 祠の前で、四人ほほ笑みながら、幕が下りる。

 端神岳の麓に昭和十年まであることが確認されていた、『牛熊様』の祠は、今はどこにあったのかもわからない。
 
 幕

牛熊様(その9)

2014-12-16 20:30:14 | 脚本
九の場面 悲哀の『黒』

 場面は『黒』の牛舎。
 源治とキヨが、憂いを持った表情で掃除をしている。
 そこへ、清助とナヲが元気に現れる。

清助 源さん。昨日は良いものを見せてもらったなぁ。
ナヲ あんな真剣勝負の試合を生で見られるなんて、すごく良かったぁ。
源治 あぁ、どうも。
清助 どうしたんだい、そのうち横綱の牛主になる源さん!
ナヲ そうだよ。これからは原さんの家も、良いんでねぇの。
キヨ それが…。
清助 何かあったのかい。
源治 『黒』が帰って来ねぇんだ。
ナヲ また、どこかへ行ったのすか?
源治 いや。
キヨ 昨日のあの場所から一歩も動かねぇんだ。
清助 昨日のあの場所…。
源治 そう、あの場所。
ナヲ 熊と闘った、あそごすか。
源治 あぁ、死んだ『大熊』の脇に寄り添って、一歩も動かねぇんだ。
ナヲ えぇ?
キヨ そして、時々、悲しそうに小さく啼くんだよ。「もうっ。」って。
ナヲ あらぁ。
清助 『黒』は勝ちたくなかったのかな?
源治 『黒』は、『大熊』をやっつけたくは無かったのかもしれねぇ。
ナヲ えっ。
源治 ただ、闘いたかったのかもしれねぇナ。
清助 …そうか。
源治 『大熊』と毎晩取っ組み合いをして、どんどん自分が強くなって…、それが、おもしれぇがったんだべぇな。
ナヲ そうか。
キヨ えさを持って行っても食わねぇんだよ。
清助 そいつはダメだ。縄をつけても連れてきて世話をしねぇば…。
ナヲ そうだ。せっかくのあの体格、食わねぇば、持たねぇ。
源治 ダメだ。やってみたけど、ひとっつも動かねぇ。
キヨ 口に藁を入れてやっても、食わねぇ。
ナヲ …だいぶ、悲しいんだろうな。
源治 俺ぁ、良かれと思って余計なことをしてしまったんだ…。
清助 そんなことはねぇ。
源治 あいつにとって『大熊』は、大事な、大事な友だちだったんだ。

 キヨ、泣きだす。

源治 そいつを自分の手で殺させてしまった。おれは、取り返しのつかないことをしてしまった。
清助 『黒』もそのうち、戻って来てくれるよ。そしたら、もう一度きたえて、横綱にしてあげよういじゃないか。
ナヲ そうですね。

 四人、お互いを慰め合う。
 
 暗  転

 九の場面 『黒』の最期

 季節は過ぎ、寒い冬の季節となった。『大熊』と『黒』との、最期の闘いから、もうすでに数カ月が過ぎている。
場所は、山の中の草原だが、草も枯れ果て、寒々とした景色が広がっている。雪が舞い散る中、雪をかぶった『大熊』の死骸の傍らに、横たわり首だけをもたげた『黒』が、こちらも雪に埋もれてたたずんでいる。
 『黒』はやせ衰え、見る影もない。

そこへ、源治とキヨがえさを持ってやってくる。
源治は、『黒』の目の前にえさを置く。『黒』は、見向きもしない。

源治 『黒』よぉ。俺が悪かった。
黒  ……。
源治 お前の気持ちも知らずに、お前には、酷なことをさせてしまった。
黒  ……。
源治 謝るから、俺のことも許してくれよ。頼むから、頼むから、えさを食ってけで。

 源治、『黒』の脇で、崩れ落ちる。

源治 頼むよ。なぁ、『黒』。

 キヨ、『黒』の傍にやって来て、肩を撫でながら話す。

キヨ 『黒』。もう良いよ。お前も『大熊』のところへ行きな。

 『黒』微かに、キヨの方に顔を向けて小さな声で一つ啼く。

黒 もう~っ。

 キヨ、それに笑顔で応え一つ頷くと、『黒』は、ゆっくりと首を地面に下ろし、そのまま動かなくなる。

源治 『黒』…。
キヨ 良いんだよ。これで。『黒』には、夢を見させてもらったんだから。
源治 あぁ、『黒』。お前には、好きなことを精一杯して生きることが、何より大事なんだっていうことを、教えてもらった気がする。
キヨ …幸せって、…生き方って、それぞれ形は違うんだよね。自分が良いって思うことが、相手がそう思わないことだってあるんだな。
源治 もう、無理に人間の理屈を押しつけることはしねぇよ。大切な友だちのと
ころへ行って、もう一度思い切り闘いな。…『黒』。

 二人、泣き崩れる。

 暗  転

牛熊様(その8)

2014-12-15 22:01:08 | 脚本
 八の場面 最期の立ち合い

 場面は、山の草原に代わる。今夜も月が出ていて、草原は、ほんのりとした明りに映し出されている。
 最初に『黒』が、ゆっくりと現れる。
 そして、『黒』に気付かれないような間合いを取って、4人の人が現れる。

ナヲ ここの場所さぁ、熊が来んの?
源治 あぁ。
キヨ こっから、見えるね。
ナヲ 月も出でるしね。
清助 最高の観戦場所だ。

 『黒』山に向かって吠える。

黒 むぅぉぉぉぉ。(来たぞぉ!)

 少しの時間を置いて、山からも吠え声が帰ってくる。

大熊 うぉぉ~っ。(待ってろ!)

 ざざざざっ、と笹をかき分ける音が聞こえると、大熊が現れる。

大熊 うぉぉぉぉぉっ。

 源治以外の人間、ぎょっとして腰を抜かす。

ナヲ で、出た。
源治 しっ。静かに。
清助 で、でっけぇなぁ。
源治 あぁ。
キヨ 『黒』はあんな化け物と闘っていたのが。
源治 んだ。

 『黒』と『大熊』は、前夜のように間合いを取って、にらみ合う。

黒 むぉっ。(行くぞ!)

 『黒』は、一つ吠える。

大熊 うぉぉっ。(来い!)

 しかし、『黒』は、なかなか飛びこんでは行かない。

大熊 うぉぉっ。(今日は、こちらから行くぞ。)
黒  むぉっ。(臨むところだ。)

と、大熊は『黒』に突進していく。
大熊は、『黒』の眉間に握りこぶしでドスンと一つ突きを入れて、もう一度離れる。

黒 むぉっ。(やるなぁ。)
大熊 うぉぉぉ。(さぁ、かかってこい。)

 今度は、『黒』が、『大熊』に突きかかってゆく。
『大熊』はいつもの夜のように『黒』の角を両手でつかもうとする。
 しかし、『大熊』の手はつるりと滑る。
 『大熊』が、ありゃっという表情をした瞬間、そのまま『黒』の角は『大熊』のわき腹に滑るように食いこんでゆく。

『ズサッ!』

大熊 うぉぉぉぉぉぉっ。

 『大熊』は絶叫する。
 その様子を歓喜の表情で立ち上がって見る人間たち。

黒 むぉっ。(どうした。)

『大熊』はどぅっと倒れる。
『黒』は、何が起こったのかわからないような表情で、その様子を覗き込む。
『大熊』は、最期に一つピクリと痙攣すると、そのまま動かなくなってしまう。

人間たち、草原の広いところに出てくる。

源治 『黒』!良くやった。お前は強いぞ!
キヨ 次は、闘牛大会でも勝つね。
源治 あたりめぇだ。
キヨ これで、『黒』を売らなくても良いね。
源治 あぁ。
ナヲ 横綱『熊嵐』が生まれる!
清助 楽しみだすけ。

 人間たちの歓喜をよそに『黒』は、悲しそうに一つその脇で吠える。

黒 もぅぅぅぅぅっ。

 暗  転

牛熊様(その7)

2014-12-12 22:36:15 | 脚本
七の場面 最期の呼びかけ

 場面は変わらず、牛舎の中。時間だけが過ぎ去り、夜になっている。今夜も月がきれいに出ている。
 『黒』は無心に草を食んでいる。
 そこへ、4人の人が気付かれないように静かに入ってくる。

キヨ 今日もいくべぇか。
源治 行く。毎晩行ってるんだから、間違いなく行く。
ナヲ そうだと良いね。
清助 なんだか、ドキドキするなぁ。

 その時、遠くから『大熊』の吠える声が聞こえる。

大熊 うぉぉぉぉぉっ。

 その声に、『黒』も反応してビクッと体を動かす。

黒 むぉぉぉぉっ。

 『黒』は、その声に応えるように一つ吠えると、牛舎を出て行く。
 4人の人間は、『黒』が出て行くのを見送った後、中央に出てくる。

源治 行くぞ。

 源治の呼びかけとともに、清助たちはそろって、『黒』の後を追って去ってゆく。