十の場面 牛熊様
時は過ぎ、同じ草原には若芽が芽吹き出している。
舞台の中央、大熊と『黒』が息絶えた場所には、祠が建っている。祠には『牛熊様』という、文字が刻まれた木片が掲げられてる。
そこへ、源治とキヨが、供え物を持って現れる。
供え物を、祠に供え、それぞれ手を合わせる。
そこへ、清助とナヲが現れる。
源治 清助さん。すまねぇ。『黒』のために、こんな立派な祠を建ててけで。
清助 いやぁ、めったなことでは見ることができない、熊と牛の真剣勝負を見せてもらったんだスけ。せめてものお返しだ。
キヨ 『黒』は、幸せだったと思うのす。
ナヲ えっ。
キヨ 命をかけて渡り合える仲間と出会え、精一杯生きることができたんだもの。
源治 そうだな。
キヨ そして、命をかけて、死んだ『大熊』への想いを伝えようとした。
源治 …そうだ。
清助 そんな牛が居たことを、いつまでもいつまでも後の世まで伝えてあげなきゃぁいけねぇスけ。
ナヲ そうだね。
清助 この祠があれば、『黒』は死んでも、『牛熊様』として、この地に言い伝えられていく。
キヨ 『黒』の想いをいつまでも大切にしていってあげたいね。
ナヲ そう、いつまでも。
源治・清助 いつまでも…。
祠の前で、四人ほほ笑みながら、幕が下りる。
端神岳の麓に昭和十年まであることが確認されていた、『牛熊様』の祠は、今はどこにあったのかもわからない。
幕