その4 慶美院大学穴口准教授
スバル ぎょぇっ。
ナオ びっくりするなぁもう。
長内 穴口先生じゃないですか。こんなところで何をしているんです。
穴口 き、君は…。誰だっけ。
長内 先日、洞窟案内人の講習会でお世話になった、長内と申します。
穴口 失敬失敬。キクガシラコウモリの個体ならそれぞれ識別できるんだけれども、ちょっと人間の識別は苦手でね。
長内 今日は、子どもたちをつれて、その成果を試してみようと。
スバル 俺たち実験台。
ナオ 人体実験だ。
長内 うるさい。先生は、今日は何かの調査ですか。
穴口 えぇ、まぁ、定期的に行っている学術調査の15日目で…。あぁぁっ、そこぉ!!!
アキ はいっ。
穴口に指差された場所から、あわてて足を引っ込める。
穴口 そこは、貴重な鉱石タラナカイト!めったなことでは、ふんではいけない。あぁぁ、
それに靴は泥だらけじゃぁないですか。雑草の種とか持ち込んだりしたら、ここだけの貴
重種が絶滅してしまう可能性だってあるんですよ。あぁっ。そして、こっちぃ!!
スバル はいっ。
穴口 いま、踏みましたね。
スバル 何をでしょう。
穴口 君の足の下には、キタカミホラツチカニムシの個体が数ひき…。あぁぁ。ここ一週間、彼らの行動を見続けてきたのに…。
長内 すみませんでした。
穴口 仕方がないですよ。素人なんだから。
穴口、長内を端に連れていく。
穴口 こないだの講座で重要なことをたくさん話したよね。どれも守れていなんですけど。
長内 すみません。でも、子どもたちに貴重な体験をさせたくて。
穴口 たぁしかに悪いことではないですね。でもですね、子どもたちのため、子どもたちのためと言って、社会的なモラルを守らないそんな先生が非常に増えている。いや、失敬。先生といっても、あなたは学童クラブの指導員のようだから、そこまで求める気はないんですけどね。でもね…、
リックン壁に登ろうとする。
穴口 そこのきみぃぃぃぃっ。
リックン はいっ。
リックン。その場に気を付けをして立つ。
穴口 頼むから、スパイクシューズで、貴重なセピオライトを削り取ってしまうのだけはやめてもらえないかなぁ。その靴、もしかして、スパイクピンをしまえるタイプかな。もし、そうできるんだったら、ピンをしまって、やさしく歩いてもらえるとうれしいなぁ。
スバル、穴をほじくろうとしている。
穴口 そして、そこのきみぃぃぃぃっ。
スバル は、はいっ。
穴口 いいところに目をつけたね。その穴こそは、キクガシラコウモリが隠れている穴だ。
スバル 本当ですか。
もう一度、手を突っ込もうとする。
穴口 だ・か・ら。野生のコウモリはそっとしておいてもらわないといけませんね。君たちは年端も行かない子どもたちだから、優しく話すようにしているんだけど、それ以上しちゃいけないことのオンパレードを繰り広げたら、先生もちょっと人間代わっちゃうかもしれないよぉ。
スバル わかりました。気をつけます。