日が傾きかけの夕方。空が青から赤に染まりかけ、なんとなく紫がかってきたなぁという、一日の疲れが押し寄せるそんな時間帯。
スポーツ少年団帰りの3人組が、話をしながら現れる。ひとりは、グローブ、一人はひざあて、一人は、バスケットシューズを持ち、ボールを抱えている。
ユウ 野球やってるやつってわかりやすくていいよな。
タク 何でだよ。
ユウ そうやって、グローブ持ってれば、野球ですよって感じだよね。
タク そうか?
テン でもさ、ドリフのコントだったらさ、バットにグローブ 通して肩にかついで
るから。
タク ありえねぇ。そんなことしたら、グローブだめにしちゃうじゃないか。道具は大事にしろってイチローにしかられちまうぞ。
テン (ユウにむかって…)お前もバスケットのシューズにボール。フルセットで、
わかりやすいな。
ユウ 明日、試合なんだよ。ボールも分けて持たされてさ…。
タク っていうか、ちゃんとエナメルにでもしまっとけよ。田臥(たぶせ)にしかられるぞ。
ユウ おまえ、知ってんねぇ。
テン タブセって誰だ。
タク バスケの有名な選手。桜木花道だって知ってんぞ。
ユウ やるねぇ。
テン 誰だ、それ!
ユウ バスケの神様だ!ジャンプコミック『スラムダンク』全巻貸してやるから読んでみろよ。
タク いやいや、その前に『メジャー』読まなきゃ。
ユウ お前のひざあては、わかりずらいね。
テン 良いの。わかってくれる人がわかってくれれば…。
タク って、お前、何かスポーツやってんの?
テン …バレー
タク バレエ?
テン バレー
ユウ バレエ?
テン バレーボール
ユウ バレーボールね。
テン 気づけよ!
【演奏1】
ユウ 今日のレッスン誰から行く?
タク ジャンケンで決めようぜ!
テン でも、さ、今日はちっちゃい子たちが、いっぱいいるから、先にさせてあげよ
うぜ。
ユウ どうしたんだよ。いい先輩になっちゃって
【演奏2】
タク その間に遊ぼうって魂胆だろう。
テン ばれたか。
ユウ 暗くなる前に小さい子にレッスンをさせてあげたっていえば、母さんも何もいえないしね。
タク 悪の大王だな!
テン そんなに褒めるなよ。
ユウ 『悪の大王』は、褒め言葉かよ!
【演奏3】
ユウ 悪の大王といえば…。
テン 持ってきたか
タク もちろん
三人、カードを出す。
ユウ さすが、抜かりは無いな。
テン お前たちもね。
三人車座に座ってカードゲームを始める。
【演奏4】
三人、カードゲームに夢中だ。
タク よし、ここでこの技だ!
テン あっ、ちきしょう、やりやがったな。
タク さぁ、どうする。
ユウ どうする。
【演奏5】
タク さぁ、どうする
ユウ どうする。
不適に笑う、テン。
テン 俺が、このカードを持っているなんて知らなかっただろう。
タク 何だよ。
ユウ やれるもんならやってみろよ。
テン この世から、音楽の全てを無くし、無音の恐怖で世界を包み込んでしまう。
ユウ まさか!
テン 『リズムバスター』召還!
タク・ユウ げげげっ。
テンが床にたたきつけたカードが光る出す。
【演奏6】(激しい曲があればここでお願いしたいです。)
舞台に煙が立ち込めて、後方に、ひとりの影がシルエットで浮かび上がる。
タク あれっ。なんか出てきたぞ。
ユウ 何だよこれ!
バスター 吾を、冥界の深い眠りから呼び戻したのは誰だ。
テン 本物のバスターだ!
【演奏7】
ユウ やばいよ。本物を召還しやったよ。
タク 母さんに知られたらやばいよ。
テン そういったレベルじゃねぇから。
【演奏8】
バスター お前たちか、吾を呼び戻した者どもは…。
タク はい、
テン いいえ。…、おまえ正直に言ってどうすんだよ。
タク あっ。はい。いいえ。
バスター どっちなんだ。
ユウ 正確に言うと、おまえたちは『いいえ』で、(テンを指差し)こいつは『は
い』です。
テン あっ、お前、仲間を売るのかよ!
【演奏9】
タク こんな時って、本音が出るよね。
ユウ 許せ友よ。生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。
テン おまえみたいな奴、友達なんかじゃねぇ。
ユウ そんな言い方はねえじゃねぇか。
テン うるせぇ!
バスター いいねぇ、そうやって、さっきまで友達だと思っていた奴らがいがみ合ってののしりあう姿。最高だぞ。それ、もっとやれ。もっと、罵り合え!
【演奏10】
タク バスターのペースに乗せられちゃってるよ。
ユウ 気を取り直そう。俺が悪かった。
テン 許してやろう。
バスター ぬぬぬぬ。
タク どうだ、バスター思い知ったか。俺たちの友情は薄っぺらだから、壊れやすいが、すぐにもとにも戻りやすいのだ。はっはっはっはっ。
テン あんまりフォローになってないんですけど。
バスター さぁてと、そろそろこの世界を壊し始めるか…。手始めに、暗雲を呼び、雷を落としてみせよう。そりゃぁっ。
バスターのかけ声で、会場が薄暗くなり、雷が落ちる。
タク ひえぇぇぇ。
【演奏11】
三人肩を組み、相談し始める。
タク バスターには、弱点とかないの?
テン 音楽が嫌いで、この世から音楽を消そうとしているのだから、弱点はそう
ユウ『音楽』
テン まずは、俺が弾くよ!
【演奏12】 ※ 三人の演奏順は、台詞の順番さえ変えれば、誰からでもいいです。
バスター 音楽に縁の無さそうな奴が、音楽を奏でられるとは…。
タク 結構、効いてるみたいだぞ。
ユウ 次は、俺だ。
【演奏13】
バスター 不快! 不快!
テン 効いてるぞ、効いてるぞ!
タク よし、最後は俺が行く!
【演奏14】
バスター 我輩に、こんな苦しみを与えるとは…。
バスター、ひざを折る。
テン もう一歩だ。
タク どうする、もういないぞ。
ユウ だれか、上手い奴を連れて来いよ。
舞台袖から、ひとり連れてくる。
【演奏15】
バスター 猪口才な奴らめぇ………。なぁんてなぁ、こんなことで、やられるバスター様ではないわ!この世から、音楽の全てを消し去ってやる!
タク やべぇ、かえって怒らせちゃったよ。
ユウ ちょ、ちょっと待ってください、バスターさん。
テン お前、なんか作戦でもあるのか?
ユウ 無いよ。…でも、とりあえず、この世の全ての音楽を消されたら、大変だろう。
タク そうだな。
テン 攻撃の手は緩めるな。
タク 何か無いのか?
ユウ ようし、俺のスペシャルダンクシュートで!
ユウ、ボールをバスターに投げつける。バスター、ひょいとボールを受け、巧みにボールを操る。
バスター このバスター様にバスケで勝負を挑むとは百年早いわ!
ユウ バスター、運動能力めっちゃ高すぎ!
【演奏16】
テン 俺たちの武器は、ピアノしかないか…。
バスター 聞こえたぞ。そのとおり、お前たちの武器は、そこにあるピアノだけだな。とりあえず、そこのピアノの音を消してやる。耳障りだ!
タク まずいよ。
テン バスターさん、それだけはご勘弁を!
バスター、ピアノに呪いをかける。
バスター 『エッチスケッチワンタッチ、オウ、モ~レツ。オマエノカアチャンデベソ。イヤァァァ!』
テン ま、まずい
テン、ピアノに近づき、音を出してみる。音が出ない。テンの顔がこわばる。
テン バスターに音をとられちゃったよ。
タク・ユウ えぇぇっ。
代わりに、タクが弾く。やっぱり音が出ない。ピアノ発表会で、ピアノの音が出なくなってしまった。前代未聞!このままでは、ピアノ発表会を続けることはできないのか!
【後半につづく】