第 産 景 生まれる繋がり
ウミネコの声が響き渡る。波の音も静かに聞こえ始める。
舞台が明転すると、そこは穏やかな浜の風景となっている。
桟橋付近に浜の男たちが神妙な面持ちで集まっている。
漁 夫 見たか。
礁三郎 あぁ。
洋太郎 俺はまだ見てねえ。
碇 俺は見た。
洋太郎 どうだった。
碇 あれは、人ではねぇ。
洋太郎 人でねぇってどういうことだ。
銛之助 とうとう、来たんだ。
漁 夫 言い伝えで、本当のことだとは、思わなかったが…。
礁三郎 もったいぶらねぇで、教えろ。
漁 夫 この浜には…。
碇 この浜には…。
そこへ、磯治が現れる。
男たち、それに気づくと口を閉ざす。
磯治 何か言いたいのか。
洋太郎 いや。
磯治 じゃぁ、そんな目で俺を見るな。
洋太郎 磯治。
磯治 馴れ馴れしく、俺の名を呼ぶな。
漁夫、怒りだして磯治に食ってかかる。
漁夫 生意気な。
磯治 何、因縁つけてんだ。
漁夫 化け物に魂持ってかれてんだろ。
磯治 何!
磯治、漁夫に殴りかかろうとする。銛之助、碇は磯治を止める。
礁三郎と洋太郎は、漁夫を止める。
磯治 あいつのことを悪く言うな!
碇 もうよしなよ。
漁夫 このやろう。
銛之助 やめておけ。
漁夫 お前、どこから流れてきた。
銛之助 やめておけ。
漁夫 ちょっと、漁が上手いからって調子こいてんじゃねぇえぞ。
磯治、漁夫の声が聞こえたのかどうかわからないまま、去ってゆく。
漁夫 あいつ、背中に鰓(えら)と鰭(ひれ)が有るらしいぞ。
碇 鰓と鰭?
漁夫 そう、鰓と鰭。
洋太郎 じゃぁ、泳ぎがうまいだろうし、何時間だって潜っていられるな。
漁夫 そう。
礁三郎 山から来たのにか。
漁夫 そう。
洋太郎 あいつも、化け物か。
漁夫 化け物は化け物同士ってわけか。
碇 そんな言い方はするな。
銛之助 よそ者を受け入れられない、閉ざされた浜は消滅する。
漁夫 それが、化け物でもか。
銛之助 そうだ。鰓が有っても鰭が有っても、人は人だ。
礁三郎 それでも、人か?
銛之助 人のことばが通じて、気持ちが伝えられるなら、人だろう。
漁夫 俺は、そうは思えねぇ。
礁三郎 俺もだ。
銛之助 悪い奴らじゃねぇ。そう、毛嫌いするなって。
銛之助、他の連中をなだめる。浜の男たちが去り際に、視線を投げかける。その先の一角が区切られたように明りが落ちる。
区切られた場所に明りが落ちると同時に静かに、浜の男たちは去ってゆく。