R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

海女照(AMATERASU)Vol.8

2014-09-17 22:41:04 | インポート

 第 誤 景 穢浄狐の出生の秘密

 

 浜には、5人の海女が集まり、漁具の手入れをしている。手入れをしながら、ひとり、ひとり、ぼそぼそと呟き始める。

波  オジョウコは来るかな。

浜子 来ないって。

波 いや、来るかもしれない。

浪子 来ないかもしれない。

磯愛 オジョウコは来ないよ。

波  どうしてそんなことが言いきれるんだい。

磯愛 だって、オジョウコは来ないんだもの。

浜子 オジョウコは来ないんだ。

波 オジョウコは来られないんだ。

磯愛 どうしてオジョウコは来られないの。

波  だって、オジョウコは来られないんだもの。

浪子 だからどうして。

磯愛 どうしてって。

浜子 それは、どうしても

波  どうしても?

浜子 そう、どうしても。

波  どうしても、オジョウコは来られないんだ。

 そこへ、凪沙が現れる。

凪沙 また、禅問答してんのかい。全くもう!

 

 凪沙、お客さんに向かって話しかける。

凪沙 ちょっと、聞いてくださいよ。去年ね、雲丹がすごくとれたんですよ。例年の   

   2倍、いや、3倍だったかな。そんでね、この子たちにね、ボーナスとして東

   京旅行をプレゼントしたんですよ。実は、この子たちすごく頭が良くて、タダ

   の田舎もんで終わらせちゃいけないって、漁協の銛之助さんの配慮なんですが

   ね。そして、新幹線で東京へ行って、芝居を見てきたわけですよ。あぁ、せっ

   かく行くんだから、テレビとかで見られるようなミュージカル劇団とかじゃな

   くて、もうちょっと違うのをってことで、ビルの地下で公演をしていた劇団の

   芝居を見てきたらしいんですよ。そしたら、刺激が強くって、芝居にかぶれ

   ちゃって…。

 凪沙、海女たちに視線を移す。

波  無意味こそが美しい。

浜子 そう、その無意味な存在こそが、私が生きている証。

磯愛 私の血流はどくどくと流れている。

浪子 でも、生きてはいない。

波  息をしているだけで、ちっとも生きてはいないの。

海女たち 私たちは、ただ、息をしてるだけ。

 凪沙、両手を広げて、肩をあげる。

凪沙 …このざまよ。私もね、2年ほど東京で暮らしてきたんだけど、こういうの

   も、ありなわけですよ。賢い人たちは、分けがわからないものが面白いって思

   うこともあるんですよ。私は、賢くないからさっぱりわかりませんけど…。

    でもね、この面白さがちっともわからないくせに、カッコつけて面白ぶってい

   る人も、中にはいるわけですよ。こんなわけがわからないものが面白いってい  

   うと、賢く見えそうだなって…。

 磯愛、凪沙に視線を向ける。

 凪沙、磯愛と目が合う。

磯愛 何よ。 

凪沙 そう、無理しないで自然体で行こういよ。

波  …無意味こそが美しい。

凪沙 わかった、わかった、無香料こそが臭わない。

浜子 そうよね。あたりまえよね、だって無香料なんだかねぇ。あれっ。

凪沙 そうそう、無理しない方が良いわよ。

磯愛 無理はしていないわ。

浪子 そう、無理しないで。

凪沙 無理?

磯愛 そう、無理。

凪沙 無理は承知のうえよ。前回から、十代の子たちの中に混じって、『あれっ、

   ちょっと間違ってるけど、なんか面白いぞ。』の線をねらうことにしてるんだ

   から。

磯愛 それって、意味がある。

凪沙 意味は無いわよ。美しくないわよ。でも、これって面白いじゃないの。あれ?

波  逆。

凪沙 逆?

浜子 立場がさっきと逆。

凪沙 意味はあるけど、美しくないけど、面白い。あれっ…これなら納得ね。

波  意味はあるけど

浜子 美しくないけど

磯愛 面白ければ

浪子 何でも良いじゃん。

海女たち 面白ければ、何でもいいじゃん。

 

 海女たち笑い転げる。

 

海女たち 面白ければ、何でもいいじゃん。

凪沙 壊れた…。

 そこへ、オジョウコが現れる。

 オジョウコ、桟橋から海へ飛び込む。

波  オジョウコは来たね。

浜子 来たね。

波 いや、来ないかも知れない。

浜子 来たよ。

凪沙 オジョウコは来ないよ。

浜子 だから来たって。

凪沙 だって、オジョウコは来ないんだもの。

浜子 オジョウコは来たんだ。

波  オジョウコは来たんだ。

凪沙 どうしてオジョウコは来たんだ。

波  だって、オジョウコは来てしまったんだ。

浪子 だからどうして。

波  どうしてって。

浜子 それは、どうしても

波  どうしても?

浜子 そう、どうしても。

浪子 どうして、オジョウコは来たんだ。

 ザパァンと、オジョウコ海から上がる。腰の網には沢山の雲丹が入っている。

オジョウコ 雲丹を採りに来たんだよ。

 オジョウコの立ち姿の後方から光がさし、シルエットとして海女たちの眼前に燦然と輝きを放つ。

波 本物の海女だ。

凪沙 海女の神様だ…。

浜子 海女照らす…。

磯愛 アマテラス…。

 オジョウコは、海女たちにほほ笑みかけると、大声で話しかける。

オジョウコ 一緒に、雲丹、もっと採ろう。

 オジョウコはそう言い残すと、雲丹を置いて、また海へと潜ってゆく。

 その神々しさに一瞬我を忘れた海女たちだったが、ハッと気がつくと取り憑かれたように、次々に海へと飛び込んでゆく。

 そして、浜には誰も居なくなった。