R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

闘牛王の憂鬱【第10回】

2013-10-16 00:00:19 | インポート

 第十七話 決勝戦 内間木王 VS グレートガタゴン<o:p></o:p>

 会場には、観光振興協議会の人たち、子どもたち、テレビ局スタッフ当、一同が勢揃いしている。<o:p></o:p>

 アナウンサーがコールをする。<o:p></o:p>

江根知 それでは、本日の最後の取り組みとなります。

   新生ヒラニワ闘牛の初代チャンピオンは、内間木王とグレートガタゴンのいったいどちらになるのでしょうか。お待たせいたしました、本日結びの一番。両闘牛の登場です。<o:p></o:p>

 クイーンの『We will Rock You』が流れ出す。<o:p></o:p>

 観客も今度は慣れたもので、曲に合わせて腿と手を使ってリズムを取りはじめる。<o:p></o:p>

 グレートガタゴンが静かに現れる。<o:p></o:p>

 続いて、音楽が流れ出す。曲はアリスの『遠くで汽笛を聞きながら』。<o:p></o:p>

 こちらも静かに内間木王が上手から現れる。<o:p></o:p>

 両者、リングの中央で相まみえる。<o:p></o:p>

 

ガタゴン 前回のけりはきっちりとつけさせてもらいますよ。<o:p></o:p>

内間木王 お前、一回り大きくなったな。<o:p></o:p>

ガタゴン 俺は一人で闘っているのではないことがわかりましたから。<o:p></o:p>

内間木王 俺もだ。<o:p></o:p>

 ガタゴンと内間木王は角(腕)をがっしりと組み合わせる。牛としては、角を突き合わせている格好だが、絵的には、両手を頭のわきに掲げた両者が、それぞれの手をがっぷりと組み合い、力勝負をしている格好となる。<o:p></o:p>

ガタゴン 年だからって、容赦はしませんよ。<o:p></o:p>

内間木王 望むところだ。<o:p></o:p>

 一旦 離れる。間合いを保って、懐に入り込むのを窺う二頭。<o:p></o:p>

内間木王 冷静だな。<o:p></o:p>

ガタゴン あなたこそ。<o:p></o:p>

内間木王 前回とは偉く違うな。<o:p></o:p>

ガタゴン 背負っているものがありますから…。<o:p></o:p>

 二頭、再び組み合う。<o:p></o:p>

内間木王 これでこそ頂上決戦にふさわしい。<o:p></o:p>

ガタゴン この闘いを勝つ意味は大きい。負けませんよ。<o:p></o:p>

 内間木王、押し込む。<o:p></o:p>

 ガタゴン、押された分、押し戻す。そのまま、ガタゴンは、内間木王の角の付け根を掘る。<o:p></o:p>

 内間木王たまらず、一旦離れる。<o:p></o:p>

内間木王 やるな。<o:p></o:p>

ガタゴン 横綱、目指してますから。<o:p></o:p>

 ガタゴンの一瞬の隙を突いて、内間木王はガタゴンの首筋を攻める。<o:p></o:p>

 一旦受けるような形になったが、ガタゴンは首をひねりそれを流す。<o:p></o:p>

 そのまま、両者、距離を取って隙を窺う。<o:p></o:p>

ガタゴン 今日は動きが見えますよ。<o:p></o:p>

内間木王 俺も、今日はまだまだいけるぞ。<o:p></o:p>

ガタゴン やせ我慢はしないことです。<o:p></o:p>

内間木王 せいぜい強そうなふりをしているがいい。そのうち、化けの皮が剥がれる。<o:p></o:p>

ガタゴン もう、今ままでの俺とは違いますよ。そんな挑発には乗りませんよ。<o:p></o:p>

内間木王 …強くなったな。相手に不足は無い。<o:p></o:p>

ガタゴン お互い様です。あなたにも同じ言葉をお返しします。<o:p></o:p>

 両者、睨みあったまま、硬直している。<o:p></o:p>

 会場が、ざわつき始める。<o:p></o:p>

江根知 いかん。お客さんが飽き始めた。例の演出だ。やれ!<o:p></o:p>

 と、突然会場がストロボ照明になる。<o:p></o:p>

栗木 何だ、これは。<o:p></o:p>

江根知 斬新なパフォーマンスです。<o:p></o:p>

栗木 これじゃ、牛が試合に集中できねぇ。<o:p></o:p>

江根知 観客は試合に集中できます。<o:p></o:p>

栗木 それじゃぁ…(牛はどうだって良いってことか。)<o:p></o:p>

江根知 お客さんは、こういった斬新な演出を求めています。<o:p></o:p>

栗木 わしは納得できねぇ。中止だ!<o:p></o:p>

 ライトは変わって、観光振興協議会。<o:p></o:p>

大畑 あんまりだべ。<o:p></o:p>

野田 そうだな。<o:p></o:p>

田子内 会長…。<o:p></o:p>

小林 テレビの人たちは田舎もんはこんなんで喜ぶだろうと決めて、上から押し付ける。これは違う。ここの闘牛をなめんじゃねぇ!<o:p></o:p>

  小林たち、立ち上がる。<o:p></o:p>

 内間木王、ガタゴン、共に目がくらんでわけがわからなくなってる。<o:p></o:p>

ガタゴン 何だこれは。<o:p></o:p>

内間木王 試合に集中できねぇ。<o:p></o:p>

ガタゴン くそお!<o:p></o:p>

 ガタゴンのたうちまわる。勢子、精一杯、ガタゴンを止めようとする。<o:p></o:p>

勢子 ガタゴン、落ち着いて。落ち着いて! <o:p></o:p>

ガタゴン うぉぉぉぉ。<o:p></o:p>

内間木王 俺はこっちだ。そっちじゃない!<o:p></o:p>

 ガタゴン、ストロボライトが設置してある土俵わきの柵に突っ込む。<o:p></o:p>

 柵が壊れ、ガタゴンは柵の外に…。<o:p></o:p>

 大破するストロボライト。<o:p></o:p>

 逃げ惑う人々。<o:p></o:p>

 更に暴れるガタゴン。<o:p></o:p>

 ケーブルをくわえ引きちぎろうとすガタゴン。<o:p></o:p>

 会場の後ろの方で、機材が崩れ落ちる音。<o:p></o:p>

 発電機らしきところから、火があがる。<o:p></o:p>

 赤く染まった会場の中、人々の叫び声と、牛の雄たけびが交錯する。<o:p></o:p>

 暗 転<o:p></o:p>

 第十八話 後の祭り<o:p></o:p>

 一夜明けた、闘牛場。<o:p></o:p>

 会場は機材が飛び散り、柵が折れ曲がり、混乱した状態のままだ。<o:p></o:p>

 そこへ、江根知、照深の、テレビ局のスタッフが現れる。<o:p></o:p>

照深 江根知さん。やってしまいましたね。<o:p></o:p>

江根知 俺のせいじゃないぞ。俺は、依頼された通りに演出を手掛けたまでだ。<o:p></o:p>

照深 私たちの仕事は、メディアを使って人々により良い暮らしを提供することですよね。<o:p></o:p>

江根知 もちろんだ。<o:p></o:p>

照深  地域の文化を壊すことは、良い暮らしにつながるんでしょうか…。<o:p></o:p>

江根知 再構築するためには、壊すことも必要なことはあるんじゃないか。<o:p></o:p>

照深 しかし、今回は、壊すべきじゃ無かったかと…。<o:p></o:p>

江根知 ここの人たちが、望んでいると思ってやったんだ。<o:p></o:p>

照深 そう。誰も悪くは無い。でも、<o:p></o:p>

藤井 でも…。<o:p></o:p>

照深 残ったものは、良い結果だとは思えない。<o:p></o:p>

江根知 おれも、そう思う。<o:p></o:p>

 そこへ、勢子たちと、川向が下手から、観光振興協会のメンバーが上手から現れる。<o:p></o:p>

 大上、江根知を見つける。<o:p></o:p>

大上 あっ。<o:p></o:p>

 大上、江根知をにらみながら歩み寄る。<o:p></o:p>

大上 てめぇ!ここの闘牛をめちゃくちゃにしやがって!<o:p></o:p>

 大上、江根知につかみかかろうとするところに、小林が割って入る。<o:p></o:p>

小林 この人は悪くない。悪いのは、俺だ。闘牛をこうしてくれと頼んだのは、俺だ。殴りたければ、俺を殴れ!<o:p></o:p>

 小林、大見えを切って立ちはだかる。が、大上に殴られ、地べたにはいつくばる。<o:p></o:p>

小林 ここで、殴るかい…。<o:p></o:p>

 栗木、妻と共に現れる。<o:p></o:p>

栗木 大上、それくらいにしろ。<o:p></o:p>

大上 おやっさん。<o:p></o:p>

栗木 許してくれ、俺はここのために、この土地の振興のために良かれと思って今回の興業を許した。しかし、これはここの闘牛じゃなかった。<o:p></o:p>

川向 そうですね。<o:p></o:p>

江根知 すみませんした。<o:p></o:p>

大畑 江根知さんだけを責めるのは間違いだわ。<o:p></o:p>

田子内 そうです。我々にも責任があります。<o:p></o:p>

野田 そうだ。<o:p></o:p>

栗木 …やったことに、意味が無かったわけじゃない。<o:p></o:p>

小林 栗木さん…。<o:p></o:p>

栗木 やってみたからこそ、ここの闘牛の良さ、何を大切にするべきかがわかった。<o:p></o:p>

川向 そうですね。<o:p></o:p>

栗木 失った物もあるが、得たものもある。<o:p></o:p>

小林 …栗木さん…。<o:p></o:p>

栗木 挑戦なくして、成功無しだ。<o:p></o:p>

大上 おやっさん。<o:p></o:p>

栗木 本当に良いものは、何があっても受け継がれて残るものだ。それを、この若いやつらが自分たちで見ただけでも、価値がある。<o:p></o:p>

勢子 ちゃんと、見たよ。大上さん、見たよね。田代さんも、大欅さんも見たよね。<o:p></o:p>

田代 あぁ。<o:p></o:p>

大欅 心に刻んだ。<o:p></o:p>

栗木妻 これからの闘牛は…。<o:p></o:p>

栗木 これからを考えるのは、俺らではねぇ。任せるべ、こいつらに。<o:p></o:p>

大上 ようし、来年の闘牛は…。<o:p></o:p>

勢子たち よっしゃぁ。やるぞぉ。<o:p></o:p>

 大上の最後の言葉は勢子たちの声にかき消され聞こえない。<o:p></o:p>

 夕焼けの空を背に、闘牛に関わった人たちが影だけになり、その影も次第に暗闇の中に同化していく。<o:p></o:p>

 夕闇の闇の端には、闘牛たちが現れ、そのシルエットを残す。<o:p></o:p>

 終  幕<o:p></o:p>