第一話 もみじ場所の悲劇 <o:p></o:p>
中央の半円のリングを囲むように、ひな壇状の観客席が組まれている。観客席には、まばらに観客が座っている。観客席上手上方に、アナウンス席が設定されている。<o:p></o:p>
アナウンス席には、女性アナウンサーの照深と、解説者の小千谷が座っている。<o:p></o:p>
中央のリングには、栗毛色の牛、『内間木王』と、全身が漆黒の『グレートガタゴン』が居る。<o:p></o:p>
内間木王と、グレートガタゴンは、体にフィツトした、ウエアを全身にまとい、角を表現したエナメル質のグローブを両手につけている。彼らは、人間のフォルムをした存在であるが、この物語では闘牛である。<o:p></o:p>
両者の腰には綱がつながれていて、それぞれの勢子がその手綱を握っている。内間木王の手綱は、大上が静かに持っている。ガタゴンの手綱は、上舘勢(いさお)が持っている。<o:p></o:p>
観客席には、内間木王のオーナー栗木や、上舘の娘の勢子(せいこ)が居る。<o:p></o:p>
『グレートガタゴン』は、やる気満々で鼻息が荒い。吠え声をあげ、跳びあがり、『内間木王』を挑発している。<o:p></o:p>
照深 ガタゴンは、やる気満々ですね。<o:p></o:p>
小千谷 7歳といえば、血気盛んな年頃ですからね。<o:p></o:p>
照深 そうなんですか。<o:p></o:p>
小千谷 牛の年に5をかけてください。そうすると、人間の年としてだいたいわかりますよ。<o:p></o:p>
照深 7かける5で、35!35歳ですか。ガタゴンくん、男として匂いたつ頃、旬ですね!<o:p></o:p>
小千谷 旬も旬、今、闘わないでいつ戦うのってところですね。<o:p></o:p>
照深 もう、興奮しすぎちゃって、ウンコもらしてますよ。<o:p></o:p>
小千谷 ア…アナウンスで、そんなこと言っちゃって良いんですか。<o:p></o:p>
照深 失礼いたしました。お糞をお漏らしですね。<o:p></o:p>
小千谷 丁寧にすれば良いってもんでも無いでしょう。<o:p></o:p>
ガタゴン 内間木めぇ。今日こそは貴様のどてっ腹に、この角を突き刺してくれるわ!<o:p></o:p>
内間木 やれるものならやってみるがいい。<o:p></o:p>
ガタゴン その上から見下したようなものの言いよう。まるで、俺が悪役のやられキャラみたいじゃないか。<o:p></o:p>
内間木 そうなんだから、仕方ないじゃないか。<o:p></o:p>
ガタゴン くっそ~。<o:p></o:p>
内間木 興奮して、糞をしたのはお前の方だ。<o:p></o:p>
ガタゴン いちいち、気に障る!!!。<o:p></o:p>
ガタゴン、またもや跳び上がる。<o:p></o:p>
勢子 ガタゴン、落ち着いて!<o:p></o:p>
上舘勢、手綱を引く。<o:p></o:p>
上舘勢 挑発に乗るな。相手は、若いお前の体力をそうやって消耗させて、弱った所を一気に崩す作戦だ。<o:p></o:p>
ガタゴン 危ない、危ない。上舘さん、御嬢さん、ありがとう。こいつのペースに乗せられるところだった。<o:p></o:p>
内間木王 お前がここまで登って来られたのも、上舘さんのおかげだな。<o:p></o:p>
ガタゴン それと、俺自身の実力だ。<o:p></o:p>
内間木王 有り余る自信は、時として自らを滅ぼすこともある。<o:p></o:p>
ガタゴン その台詞、そっくりお前に返してやる!<o:p></o:p>
両者、睨みを利かせて一定の間を保ちながら回り込み、立ち位置を変えながら相手と組むタイミングを計っている。<o:p></o:p>
ガタゴンのビクッという反応の後、一瞬の隙ができた。<o:p></o:p>
内間木王は、その間を逃さず踏み込もうとするが、その瞬間、ガタゴンの脱糞で足を滑らせ、ガタゴンの方に背腹をみせる。<o:p></o:p>
ガタゴン もらったぁぁぁぁ!<o:p></o:p>
ガタゴン、内間木王の横腹に、角を突き刺す一歩手前で、手綱が張られ、腹まで角が届かない。<o:p></o:p>
上舘が持つ綱はピンと張られ、その先には内間木王の腹に角が今にも届きそうなところで、静止状態になっているガタゴンがいる。<o:p></o:p>
かなり、長い時間に感じられるストップモーション。実は、それほど長い時間では無いのだが、張りつめた綱と、勢いづいたガタゴンの不自然な静止状態が、その時間の長さを感じさせる。<o:p></o:p>
小千谷 ここで、終了です。<o:p></o:p>
照深 どうしてですか。<o:p></o:p>
小千谷 ここの闘牛では勝敗はつけさせないんです。<o:p></o:p>
照深 そうなんですか。<o:p></o:p>
小千谷 ここの闘牛は育成を目的としているので、勝負は付けさせないです。<o:p></o:p>
照深 じゃぁ、なぜ闘わせるんですか。<o:p></o:p>
小千谷 えっ。<o:p></o:p>
照深 あの子たちは、命がけで精いっぱい闘っているんじゃないんですか?。<o:p></o:p>
小千谷 それは、ここの伝統ですから。<o:p></o:p>
照深 …あっ。すみません。生意気なことを言っちゃって…。<o:p></o:p>
舞台前方には、腹を突く寸前の状態で止まったままのガタゴンと、手綱をピンと張ったままの鳥谷峰勢。内間木王は、舞台後方を悠々と去りかける。<o:p></o:p>
ガタゴン なんでだよ。なんで、やらしてくれなかった。この一手が決まれば、俺が横綱なのに!<o:p></o:p>
ガタゴン、その場で荒れ狂う。上舘勢、ガタゴンを抑えるために、ガタゴンに近づく。<o:p></o:p>
ガタゴン 何で、何でだよ!うむぉぉぉぉぉ!<o:p></o:p>
ガタゴン、大声で吠える。上舘がガタゴンを落ち着かせようと体に触れる。<o:p></o:p>
ガタゴン たたかわせろぉぉぉぉぉ!<o:p></o:p>
その刹那、暴れるガタゴンの角が上舘勢の腹に食い込む。上舘の体が一瞬宙に浮き、鳥谷峰がどうっと倒れる。<o:p></o:p>
ガタゴン うぉぉぉぉぉ。<o:p></o:p>
錯乱して雄たけびをあげるガタゴン。<o:p></o:p>
その光景を立ち止まって、見つめる内間木王と大上。<o:p></o:p>
立ち上がり上舘に駆け寄ろうとする、栗木。<o:p></o:p>
リングの中に飛び込もうとする勢子。<o:p></o:p>
栗木 上舘!<o:p></o:p>
上舘勢子 兄さん!<o:p></o:p>
上舘を助け起こそうとする人々、錯乱して吠え続けるガタゴン、どうしたら良いかわからず立ちつくす人々、そのストップモーションの景色が真っ赤に染まる。<o:p></o:p>
赤転。の後、暗転。<o:p></o:p>
タイトルバック『闘牛王の憂欝』<o:p></o:p>
『メランコリー・ブル 』(タイトル曲) <o:p></o:p>
闘うために生まれ 闘うために生きる<o:p></o:p>
そんな 光を追い続けている<o:p></o:p>
それが、ファイティング ブル<o:p></o:p>
愛や恋や友情なんて、そんなメランコリック関係ねぇ。<o:p></o:p>
生きるため、明日のため、ストイックに生きる日々<o:p></o:p>
耳に残る声援 入場料は千円<o:p></o:p>
血走るマナコ、食ったことねぇナマコ<o:p></o:p>
次の勝利は誰のため<o:p></o:p>
誰の為でも無いon my life !<o:p></o:p>
蹴散らし、なぎ倒し、進め前へ。<o:p></o:p>
後戻りなどない、目的は一つ、Get a victory!<o:p></o:p>
誰のために闘い 誰のために生きる<o:p></o:p>
そんな 苦悩を持ち続ける。<o:p></o:p>
それがファイテイング ブル<o:p></o:p>
想い続けることなんて、そんなロマンチック関係ねぇ。<o:p></o:p>
人のため、今日のため、try my bestで過ごす日々<o:p></o:p>
勢子たちの激打 今やってるのは劇団<o:p></o:p>
振り上げるしっぽ 持ったことねぇジッポー<o:p></o:p>
明日の勝利は俺のため<o:p></o:p>
闘志を燃やすOn my mind!<o:p></o:p>
押し進み、突き倒し、進め明日へ。<o:p></o:p>
闘牛界の頂点へ Get a victory!<o:p></o:p>