R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

ドラマのように眠りたい(Vol.6)

2010-08-07 08:31:39 | インポート

 SCENE 5 捜索隊

 ここは、さっきの公園。そこにはもう誰もいない。男2、ロングコートをはおって現れる。その後から女1が現れる。

女1     何のつもりよ。

男2     何のつもりって?

女1     そんな年代物のロングコートなんか羽織って。

男2     何を言ってるんだいワトソン君。

男2     ワトソン?

女1     捜査をするにはまず形から入らなければならないんだよ。

 と、ポケットからパイプを取り出す。

女1     何よ、そのパイプ。

男2     捜査の基本だよ。被害者は?

女1     私。加害者は(男2に向かって指をたてる。)

男2     …被害ある。

女1     頭いたくなった。バファリンある。  

 女1、頭を抱え込む。

女1     家出人を捜しているのに、加害者も、被害者もないよ。

男2     何ぃ!それでは何かい、彼は殺されてはいないという確たる証拠でも        

        あるというのかい。

女1     あいつを殺したいわけ。

男2     いや、そうじゃなくて、

女1     そうやなくて、何。

男2     殺しの線を捨てることはできないよなぁ。なんて思ったりして、別に死んでるとか何

        とか言ってるわけじゃなくて…。

女1     あんたね、そんなにあいつを殺したいわけ。

男2     殺したい?そうか、おまえは、秘かにかねてから思いを寄せていた、彼を永遠に

        自分のものとしたいが為に殺しにまで至ったという訳か。

女1     そんなに惚れてりゃ、100年前に結婚してます。

男2     そりゃそうだ。

女1     部屋には書き置きとか何かなかったの。 

男2     もちろん一番先に捜査しました。

女1     そこには何か。

男2     メモと紙切れが残されてあった。

女1     えっ。何て書いてあったの。

男2     『ハングリー』と書いた紙が、机の上にあり、その側にはガタゴンサライの広告が

        切り刻まれてあった。

女1     『ハングリー』。切り刻まれた広告。何だか意味深ね。

男2     私は、灰色の脳細胞を働かせて、ある一つの結論に至った。

女1     その暗号が解けたのね。

男2     その上、とてつもない事実も判明した。

女1     じらさないでよ。その暗号の謎って?

男2     『ハングリー』その名前に記憶はありませんか。

女1     はい。それは私と彼が会った最後の場所です。

男2     そうでしょう。そして、切り刻まれた広告はある一部がくりぬかれていた!

女1     ええっ。何それ。何か関係があるわけ?

男2     私は、自分が勤めている店の新聞をくまなく捜して、くりぬかれている部分にはい  

       ったい何があったのかを探し出すことに成功したのでした。

女1     すごい!そして、何があったの。

男2     『ハングリー』割引券!

女1     何それ。

男2     彼は、それほどお金に困っていたんでしょう。彼女とのデートの食事に割引券を使

        うなんて…。  

 女1、あきれ果てて、去りかける。

男2     どうしたワトソン君。

女1     あなたの探偵ごっこにはもうつき合えないわ。戻ってまじめに仕事をするわ。

男2     また、すぐそうして、現実的になっちゃう。つまんないの。

女1     楽しく暮らしているだけじゃ、人間、生きてはいけないよ。

男2     あくせく働いているだけでも人生詰まりませんよ。

女1     いいの。私は仕事を楽しんでいるんだから。

男2     もう少し遊んでよ。

女1     …さよなら。あなたも、早く大人になりなさいよ。

男2     見てろよ。きっとおまえをアッといわせるようなものを見つけてきてやるから。びび

        んなよ。

女1     せいぜい楽しみにしているわ。  

 男2、去る。

女1     あ~ぁ、行っちゃった。しかたないなぁ、一人で捜すか。おぉい!山崎けいじ!どこ

        行った。…っていって出て来たら世話無いよね。

男1     誰か呼んだ?

 草むらから男1が現れる。

女1     けいじ!  

 と、女1は草むらの方を振り替えるが、そこにいたパンダを見て、金縛りになった後、

女1     きゃぁ~っ!

 と、悲鳴を上げる。

男1     会いたかったよ、よし子。  

 女1の方に親しみを持って近づく男1。しかし、女1は、はうようにして逃げる。

女1     こ、来ないで。私は、おいしくないわよ。

男1     お、俺だよ。外見はパンダだけど…。食ったりなんかしないよ。

女1     そ、そうか。パンダは草食か。

男1     お陰で、一週間その辺に生えている笹の葉を食べてるだけで生きてこれたけど。 女1     でも、パンダがしゃべってる…。

 女1、気を失いかけるが、気をとり直して、立ち上がる。

女1     警察。警察に連絡しなきゃね。いつ人を襲うかもしれないものね。どこの動物園か

        ら逃げ出してきたんだろう。

男1     だから、俺だって。

女1     こいつ、けいじの声色真似してる。ひょっとして、けいじ、こいつに食べられちゃっ

        たんじゃないの。

男1     ま、待ってよ。

女1     どうどうどう。静かにそこで待ってるのよ。

男1     俺の話も…。  

 女1、車の多く通る道に駆け出して行きながら、去る。

女1     す、すいません。パ、パンダなんです。警察に電話してくれませんかぁ?あっ。自

        分で電話すればいいんだ。来ないで、来ないで。来ないでって言ってるんでしょう

        が。  その声を聞きながら、男1は、立ちつくしている。

男1     まさか、よし子に、追い込まれてしまうとは思わなかったよ。人生は、ドラマよりも

        奇なりか。

 公園に、人々のざわめきが近づいてくる。  そのざわめきを避けるかのように、女1が去った方向とは、反対の方向に、男1去る。         

   暗 転