R45演劇海道

文化の力で岩手沿岸の復興を願う。
演劇で国道45号線沿いの各街をつないでいきたいという願いを込めたブログ。

ドラマのように眠りたい01(vol.2)

2010-08-02 21:19:41 | インポート

SCENE 1  最後の晩餐

          

女1    『宇宙の複雑さに比べれば、この我々の世界などミミズの脳味噌のよう

      なものだ。』私の尊敬するハートフィールド先生がおっしゃった偉大な

      言葉よ。

男1    何だそれ。

女1    素晴らしいじゃないの。スケールが違いすぎるわ。私は、この言葉を聞

      くまで、ミミズに脳味噌があることに気づきもしなかったわ。

男1    ミミズって脳味噌があるんだ。

女1    無きゃ、生きていけないじゃないの。

男1    すると、ミミズも進化する可能性を持っているってことだ。広いこの宇

      宙には、土を食って糞にするとても大地に優しい知的生命体がいること

      だって考えられるな。そして、糞を多くする奴が王様になるんだ。

女1    どうしてそういう発想になるのかしら。

男1    会ってみたいな…ミミズの王様…。

 男1遠い目をして、コーヒーを一口飲む。

男1    人類はいつかミミズの惑星にたどり着くことができるんだろうか。

女1    人類がもっと進化したらね。

男1    …僕たちはもっと進化するんだろうか。

女1    私たちじゃぁむりじゃない。私たちの…

男1    私たちの?

女1    子どもの、子どもの、そのまた子どもあたりが…

 男1、女1の手を取る。

          

男1    ありがとう。やっと決心してくれたんだね。

女1    何?

男1    十年待った甲斐があったよ。

女1    何のことよ。

男1    君は、さっき進化の過程のことで話したじゃないか。私たちの子ども

      の子どもがって…。

女1    一般的な話よ。

男1    進化の過程を踏むために、まずはしなきゃいけないことがあるじゃない

      か。

女1    しなきゃいけないことって?

男1    進化の過程を探る男女の営みっていったらあれしかないじゃないか。さ

      ぁ行こう。

女1    全然話を聞こうとして無いし…。

 男は、伝票をわしづかみにする。

          

男1    さぁ、行こう。

女1    行こうって?

男1    僕たちの進化の第一歩を刻みに。

女1    何処へ?

男1    あの場所へ。

 女1、男1を殴り飛ばす。

 

女1    冗談じゃないわ。あなたってデリカシーっていうものが無いの。

男1    僕は僕の世界でのデリカシーを持っているさ。勿論、それが一般的なデ

      リカシーだとは断言できないけれどもね。

女1    現実を見なさいよ。現実を。あなたはいつも、頭の中で私を百歩も置き

      去りにして次の展開に進んでいくわ。人はそれを妄想と呼ぶわ。

男1    だから、僕なりに現実に立ち戻って進化の過程を考えた訳で…。僕はた

      だ単に僕たちがこの席を立ち上がって次の行動に出ることは、新たな第

      一歩を始めることにつながるということを言いたかったのであって、も

      し、それ以上の何かを考えたとしたならば、それは現実的に考えた君の  

      妄想であって…。

 女1、コップの水を男の顔に思いっきりかける。

女1    やっぱりあなたにはデリカシーが無いわ。あなたの話を聞けば、まるで

      私は、ささいな言葉でも欲情してしまう乾き切った行かず後家のように

      聞こえるじゃない。

男1    そう聞こえたのなら素直に謝るよ。ごめん。

 女1指でテーブルをせわしく叩き、いらつく。

女1    あのね。私、男にはそう簡単に頭を下げて欲しくないの。

男1    そうは言っても、話の展開上、どうしても君は優位な位置に立ち、相手

      を打ち負かしてしまう。君の話には従順で、なおかつ君をも凌ぐ尊大な

      人間が、この世にいたらお目にかかってみたいものだよ。

女1    そんな人…なかなかいないから…あんたなんかと夕食をこうして食べて

      いるんじゃないの。

男1    それは光栄なことで。宇宙の広さに比べれば、君の恋愛なんて、ミミズ

      の耳糞のようなものだ。

女1    …そうね。(ふてぶてしく)

男1    でも、それは、君の内宇宙の中では、銀河系よりも広大なものかも知れ

      ない。

女1    そうね。

男1    恋愛は、科学的な数式を持ってしても解き明かすことができない、永遠

      のなぞで有る。

女1    …それ、誰のことば。

男1    今考えた。