釜石へ行って、それぞれの役者がなかなか思うような演技ができなくて困っていました。演出も、なかなか意図が伝わらなくて困っていました。役者には今何が必要なのでしょうか。
それは、自分を知ることです。素直に自分らしい自然な演技をするためには、自分の自然な姿を客観的に観察して、それを感覚として体で覚えていくことが大切です。歩くときは、どっちの足を先に出すとか、意識していないで話をするときに手はどのような位置にあるとか、飲み物を飲むときのコップなどの大きさと、もしそれが手に無かったらどのくらい手を広げているとか…。そんな小さなことを一つ一つ確認していって、広い舞台なのでそれを20%ほど誇張したものにすれば、自然な演技ができるはずです。
両手を広げて肩に力を入れて話す、手持ち無沙汰になってすぐ両手を組んでしまう…、そんな不自然な演技はこの日常の稽古で『自分の素』を知ることによって解決してくるでしょう。
台詞の言い方についても同じです。人は、普通に話せば、今自分の言いたいことが言い終わるまで息を吸うことはありません。(息も絶え絶えなときは別ですが。)それなのに、舞台では大きな声を出そうとして息が続かなくなるので、区切って台詞を話してしまう人が多くいます。
『私は…、あなたが…、好きです。』
これでは、まどろっこしくて、本気なの?って思っちゃいますよね。観客であれば、この絶妙なゆっくりとした息を吸うための間によって、心地よい眠りの世界に誘われてしまいます。
ダイレクトに気持ちを伝えるためには、
『私はあなたが好きです。』
と、想いを一息で言い切らなければなりません。それを言えるための、発声練習でもあるんですよね。
今回は、自然な演技について書きました。芝居を始めたばかりで、今、どんな演技をしたら良いか、どう話せば役者はわかってくれるのかと、悩んでいる皆さんの参考になればと思います。