内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

夏休み日記(20)― 戦後日本の思想史・精神史・文学史を考えるための必読文献(その一)

2019-08-22 23:59:59 | 読游摘録

 今回の帰国中、例によって、フランスに持ち帰る書籍を少なからず購入した。最も多くその著作を購入した著作家は、この五月に亡くなられた文芸評論家の加藤典洋である。それにはいくつかの理由がある。来年度後期サバティカルで不在の同僚に代わって「現代文学」の講義を担当するので、その準備のための参考文献としてというのが一つ。戦後日本の思想史・精神史について考察するにあたって読むべき文献としてというのが一つ。そして、憲法問題、特に第九条について考える上で外せない論考であるからというのが一つ。
 これらの条件に該当する加藤氏の著作に限っても、とても全部は買いきれないので、八つの著作を持ち帰ることにした。そのうちの四冊について今日の記事に摘録しておく。
 『敗戦後論』(ちくま学芸文庫、2015年、初版1997年)。本書に収録された論文「敗戦後論」(『群像』1995年1月号)は、多くの批判を巻き起こし、戦後を代表する大論争にまで発展したことで有名である。同じく収録された「戦後後論」「語り口の問題」と併せて、本書は、戦後日本思想の特異性を考える上で必読文献の一つである。
 『戦後的思考』(講談社文芸文庫、2016年、初版1999年)。『敗戦後論』の続編として構想された。「文芸文庫版のためのあとがき」によると、『敗戦後論』が受けた批判を正面から受けとめ、これを「黙らせよう」と、「このときだけは、手加減なし、批判者たちの『息の根』をとめるつもりで書いた」という。
 『[増補改訂]日本の無思想』(平凡社ライブラリー、2015年、初版1999年)。西欧に生まれた公共性の思想への抵抗のうちに、「日本の無思想の精華でもある現今のタテマエとホンネのニヒリズムが、そこからありうべき日本の思想に向けての自己更新を行うカギも見つかるはずだ、というのが、私がこの本で結論として述べようとしたことにほかならない。」(300頁)
 『増補 日本人の自画像』(岩波現代文庫、2017年、初版2000年)。本書は、『敗戦後論』『戦後的思考』での所説に対して、その「原論」のような位置を占めると著者自身によって規定されている(391頁)。「人は『内在』の方法からはじめるしかない。しかし、その『内在』の方法をどこまでも愚直に貫徹すれば、必ず、関係世界のとば口で、躓く。けれども、その躓きがなければ、人に、『関係』の方法へと転轍しなければならない理由は、生まれない。」(同頁)