内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

私の精神の行為としての哲学 ― ピエール・アドとルイ・ラヴェル

2019-08-27 21:30:00 | 哲学

 昨日紹介したピエール・アドの本には、ルイ・ラヴェルのコレージュ・ド・フランスの開講講義と十年間の講義要旨が一書に纏められた L’existence et la valeur. Leçon inaugurale et résumés des cours au Collège de France (1941-1951), 1991に寄せた序文が収めれている。ラヴェルのこの本は、UQAC のこちらのページからWORD版 ・PDF版・RTF版が無料でダウンロードできるし、開講講義だけならアマゾンで電子書籍版を 5,99€ で購入することもできる。
 アド自身が序文の中で断っていることだが、数頁の序文にしてはラヴェルの著作からの長い引用が多い。れは、当時まだラヴェルの大半の著作がきわめて入手しにくい状況にあったので、読者にできるだけラヴェルの文章そのものの息吹に触れてほしいという願いからだった。それに、当時は現在ほどラヴェルに対する関心も高くなかったから、より広い読者層にラヴェルの哲学を知ってほしいという願望もあっただろう。
 アドは、他の著作の中でも、若い頃からの愛読書としてラヴェルの L’erreur de Narcisse にしばしば言及している。この序文でもかなりのスペースを割いて同書を紹介している。アドがこの序文の中で特に強調しているラヴェル哲学の要諦は、哲学とは、各自己の現在の精神の行為(acte)であり、その行為によって志向されるかぎりにおいてしか真理は存在しないし、それなしには真理を目指す者たちの間のコミュニケーションも成り立たない、ということである。ラヴェルの公刊されたすべての文章は、その都度のこの行為の実践であり、それらの文章は読者に自らそれを実践することを促してやまない。