内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

哲学史と技術史の交叉点としての〈鏡〉

2019-01-26 10:28:25 | 哲学

 Sabine Melchior-Bonnet, Histoire du miroir, Éditions Imago, 1994(サビーヌ・メルシオール=ボネの『鏡の文化史』法政大学出版局、「りぶらりあ選書、2003年)は、西洋の心性史研究の最良の成果の一つであると言って差し支えないと思う。古代から現代まで、科学史・技術史・哲学・宗教・文学・芸術などの諸分野を縦横無尽に博捜するその目も眩むばかりの博識と複雑な問題を鮮やかに解きほぐしてみせる知的にきわめて高度な表現力とには圧倒される。
 「鏡の中のフィロソフィア」というタイトルで二年連続で集中講義を行ったときも、本書を第一の参考文献としながら、その中に取り上げられている哲学的な諸問題を全部カヴァーすることはとてもできなかった。
 今回読み直してみて、いわゆる哲学書の中よりも、文学作品と技術の歴史の中にこそ、今日もなお重要な哲学的問題が内含されいることにあらためて気づかされた。それらの問題は、しかし、当然のことながら、文学作品の中にも技術的製品の中にもあからさまに問題として提起されてはいない。
 本書は、それら言表化されていない認識論的・存在論的問題性に概念的表現を与えることが哲学の一つの仕事であること、そのような哲学的な仕事がもっとも必要とされる技術的対象の一つが鏡であること、技術史と哲学史との交叉点において〈自己〉とは何かという問いが先鋭化された仕方で問われることを、万華鏡のように多彩な例を通じて読む者に知的愉悦を与えながら教えてくれる。