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「国家民営化論」書感

2010年04月23日 16時37分31秒 | 社会
「国家民営化論」(笠井潔)読了。
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自己増殖する政府に対する「アンチテーゼ」として
「ラディカルな自由主義」の立場から国家の様々な役割をぶった切る。
「市場」「個人の意思決定」に委ねる立場を押し通し、
描写された社会は興味深い。

ただ、ここで描かれた社会・制度は実現するとは思えないし、
実現すべきかどうかも疑問はあるなあ。

まず、どのように「国家」「政府」を解体して
「個人の自由」で動く社会に還元していくのか。
書かれている通り、一国で実現するはずはないが、
利害が対立し、国内の状況の異なる他国を巻き込んでいくことが現実に可能なのか。
また、その実現のためには、一時的には強大な権力に
「国家から与えられた権利」を委ねる必要があると思うのだが、
それは結局、スターリン的共産主義と同じ轍を踏むことになるのではないか、という
懸念がある。
ソ連とて、最初は「資本家からの解放」を目指したはずが、
いつの間にか党官僚支配の国になった訳で。

また、人はそこまで「自由」を重視するのだろうか、とも思う。
国家が利権を振舞ってくれるのであれば、
結局その甘い蜜にたかるものではないか。
そのあたり、楽観的に過ぎるように思う。

上記を克服して、仮に「マーケットで全てが決まる」社会ができたとして、
本当にその社会は「自由」な社会と言えるのか。
仮に長期的・マクロには筆者の言う通り需給関係で全てが決まり、
それぞれの意志に基づいて社会が動いていくとしても、
それは個々人がその場その場で自分の自由を充足できることを意味する訳ではない。
例えば「私立裁判所」という例が挙げられていたが、
仮に最終的には裁判所間の調和が成り立つとしても、
そこに行き着くまでの具体的・ミクロな場で妥当な結論が出るのか。

全体に抽象的な「思考実験」としては面白いのだが、
個別具体的な検討や必ずしも理性で動く訳ではない「人」への視点が
含まれていないように感じた。
「アンチテーゼ」は重要だし、
新たに見えてくるものも多く、値打ちがある本ではあるが、
間違えても鵜呑みにする類の本ではないだろう。

# 図書館で借りて読んだのだが、
 絶版になっているのかなあ。
 新品で買って手元に置いておきたい本ではあるのだが。
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