2月の頭に奈良県社労士会の「平成25年度第2回必須研修」に参加した。
1.個別労働紛争解決制度施行状況
(奈良県労働局 労働紛争調整官 渡邊慎一氏)
2.脳・心疾患・精神障害の労災補償状況
(奈良県労働局 地方職業病認定調査官 箸方康志氏)
3.これからの社会保障制度のあり方と社労士業務の役割
(立命館大学産業社会学部教授 唐鎌直義氏)
1は「個別労働紛争解決制度」について、
・「個別労働紛争」が増加している状況・背景
・総合労働相談センターにおける情報提供・相談等、口頭による助言、
紛争調整委員会によるあっせん、といった制度の運用について
・全国と奈良県における件数の推移の紹介
合計の件数はあまり増加していない、或いは減少傾向にあるが、
「いじめ・いやがらせ」の件数は増加傾向にある。(全国・奈良県とも)
厚生労働省も「職場のパワーハラスメント」を問題視しており、
提言を取りまとめている。
あかるい職場応援団 -職場のパワーハラスメント(パワハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト
2は「脳・心臓疾患」と「精神障害」に関する労災補償状況について、
・「脳・心臓疾患(過労死)」は長距離トラック運転手に多い。
・精神障害については、平成23年12月に「認定基準」が設けられて労災認定件数が増加した。
特に、具体的な労働時間数が「認定基準」に含められた影響が大きい。
例えば「発病直前の1ヵ月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合」
(=1ヵ月におおむね320時間以上働いた場合)で精神障害を発病した場合は、
労災補償の対象となる可能性が高い。
3は、まず日本の社会保障の構造的な問題を指摘し、
社会保障に携わる社会保険労務士への期待を説いて頂いた。
・日本の社会保障の構造的な問題
「階層の中で支え合う」仕組みになっており、
「階層を超えた格差是正」や「貧困を克服する」仕組みになっていない、ということ。
※そもそも「貧困は存在しない」前提で政府が行動している
(「貧困サミット」に代表を出していない、など)。
・公的年金
「保険料納付済期間(=雇用の安定度)」と「現役時の賃金水準」に正比例する算定方式であり、
年金格差が非常に激しくなる。
・失業手当(基本手当)
被保険者期間によって受給期間が決まる。
完全失業者に占める失業手当の受給者比率は20%以下。
80%を超えるEUはおろか、アメリカ(約50%)にも劣る。
・生活保護
稼働能力を持つ貧困者は生活保護を受給できない。
資産要件が厳しいため「丸裸にならないともらえない」。
・健康保険
疾病リスクの高い人が国民健康保険、
さらに高い人が後期高齢者医療制度に加入する状態になっている。
・介護保険
介護保険料(第1号被保険者)は段階制であり、高所得高齢者が相対的に有利。
介護サービスを利用すると1割負担があるので、低所得高齢者は利用限度額まで使えない。
サービス利用の自己抑制が進んでいる。
・住宅政策
階層によって住宅も異なる。
生涯を通じて「持家」を取得できず、
設備に比べて割高な「木賃アパート」に住み続ける層が存在。
・教育政策
高等教育の「自己責任化」が進んでいる。
学生支援機構による「進学ローン」を組んで大学に入学する生徒の増大。
大学卒業で「ゼロから」ではなく、「マイナスから」スタートするケース。
個人的には3.が印象に残っている。
既にある制度を前提にしている社会保険労務士として、
どこまで「福祉」「社会保障」、或いは「格差解消」「貧困解消」に対して貢献できるか、とも感じるのだが、
ある程度知識や情報を持っている者として、
また何と言っても「このままではまずい、何かしたい」と思う者としては、
探せば役に立てる部分はあるだろう、と思った。