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アンケート調査員出血ブルース 8

2021-06-01 07:36:20 | 夢洪水(散文・詩・等)

アンケート調査員出血ブルース

 吉祥寺の街が活気づいてきている。

 昨夜の暗雲は、拭いさられ、古い卵の黄身みたいに平べったい太陽が、どんよりと大気に光を浴びせている。

 人々が、あちこちから湧き出してくる。

 あっという間に行列歩行の、いつもの雑踏地帯と化す。

 子供、老人、会社員、パンクス、主婦、店員、警官、学生、ぷーたろう、勧誘員、ゴミ清掃員、クルマくるま車、バイク、自転車、アドバルーン、キップル、その他色々。

 皆、舗装された道路にへばりついている。

 蒸し暑い一日になりそうだ。

 群衆。

 一見、平穏そうな見慣れた光景だが、群衆は何かを感じている。

 淀んだ空気がキーンと張り詰めたり、うねうねと歪んだりしているのを感じている。

 誰もが徐々に大きくなっている地鳴りを感じている。

 群衆は、それを湿度の高い、この暑さのせいだと思っている。

 しかし、群衆は次第に、その地鳴りのような響きが、これから始まろうとする何かの前触れだと感じ始める。

 いよいよ群衆は、はっきりと大地の蠢動を感じ、同時に地下から響いてくる恐ろしい悲鳴のような唸りを聞く。

 群衆は、どよめく。

 地盤沈下か?地震か?

 確実に何かが、これから起ころうとしている。

 ぎゅうぎゅう詰めになった都市の真ん中で群衆は逃げ場を失って、立ち止まり、腰を落として、顔をしかめて待っている。

 震えている者もいる。

 口を開け、呆然としている者もいる。

 ビルから次々に蟻のように人々は外に出てくる。

 そして硬直状態になり、キョロキョロとまわりを見回す。

 すでに大地は大きく揺れ、群衆の足元からは耳を聾せんばかりの怒りに満ちた咆哮が聞こえてくる。

 群衆は、ちょこちょこと動きだすが結局、余りにも密集度が高く、静かに地面に身を伏せ始める。

 外れの方でいくつかパニックが起きている。

 停止した車の群れに身体を乗せてうつ伏せている者もいる。

 宅地地区の住民は、ほとんどが家の中に籠もって成り行きを静観している。

 唯一の抜け道である車道は歩道や私道まではみ出して渋滞し、あちこちで事故が起き始めている。

 小都市、吉祥寺は超渋滞した車両によって、完全に閉ざされてしまっている。

 伊勢丹の裏側に都市開発のために墓石だけ移設された場所がある。

 見捨てられた骨達は今や道路や商工会議所や店舗やデパートの下で静かに眠っている。

 咆哮は、そのあたりから聞こえている。

 咆哮は、まばゆい陽光に包まれた歪んだ大気をビリビリ震わせる。


 突如、伊勢丹裏の車道に身動きできなくなってセイウチのようにかたまっている車両どもと道路が、瘤のように盛り上がる。

 車はガラガラと歩道や店舗にずり落ちていき、そこにいる人々を押し潰す。

 道路は、ぐんぐん新山の隆起のように突き出してゆき、ちょうど頂点の対向車線から亀裂が入ってゆく。

 一瞬の静寂をおいて、爆発したようにアスファルトやらコンクリやら、瓦礫が飛び散り、山肌と化した道路が剥げ落ち、無数の触手が粘液を垂らして、うねうねと現れ、辺り一面を逃げ惑う人間達の頭上からふりかかってくる。

 触手は通りにいた人間達を1人残らず捕まえると、高く、高く、空中に掲げる。

 地面の亀裂はどんどん広がってゆき、ビルが倒壊してゆく。

 亀裂から無数の触手が次々に現れ、街中にうねうねとのたうち広がり、人々を捕まえては高く掲げる。

 最初に亀裂の入った伊勢丹裏から触手に埋もれた無数の牙を生やした巨大な口と、無数の膜のかかった目が現れる頃には、すでに数万人の人間達が触手に捕獲され高く宙に掲げられている。

 亀裂はどんどん伸びて大きくなってゆく。

 東北に於いては月窓寺を越えサンロードを越え東急デパートを越え、五日一街道を越え住宅街に達し、南西に於いてはパルコを越え吉祥寺駅を越え、丸井を越え、井の頭公園の外れまで達している。

 もちろん触手も、そこまで達していて、そこにいる人間たち全てを捕獲し掲げている。

 伊勢丹裏を中心に次に亀裂の中からパンパンに膨れ上がった付着した無数の赤黒い腫瘍のような斑点を芋虫のように蠢かして、黄色い体液を流しながら臓物のような胴体が上昇してくる。

 パルコから五日市街道まで、直線距離にして約0.5キロメートルはある。

 胴体の登場により吉祥寺の繁華街は、ほぼ完全に崩壊していく。

 JRや井の頭線の高架線は、すでに電車もろとも崩れ落ち、2階建て以上のビルはほとんど倒壊し、細かいガラスの雨が降り注いでいる。

 亀裂から胴体が完全に抜け出してくると、今度はピンピンに勃起した巨大な7本のペニスが倒壊したビルや炎上する車の山やガラスの破片に埋もれた広場や駅ビルの中から突き出されてくる。

 空中に掲げられた人々は上空からそれらを見ている。

 狂って絶叫している者もいるが、だいたい皆、放心状態である。

 ペニスが7本、全て地上に出ると、「僕」は3本の足を亀裂から出してパルコと東急デパートと駅ビルに重心をかけて、思い切り力を入れて亀裂から身体全身を完全に地上に露出し、立ち上がる。

 これで上空の奴らは「僕」の全身像を拝めたわけだ。

 「僕」の姿をどう思うだろう。

 怪物。

 化け物。

 そんなところだろう。

 「僕」は上空に掲げた十数万人の人々を大きく揺すってやった。

 赤ん坊もいる。老人もいる。老人が喚いている。

「わしは知っているぞ。井の頭公園の端に蛇の胴体をした女の石像があるんじゃ。こいつは、それじゃい。地霊じゃ。あの蛇女は、ここらの地霊なんじゃ。これは地霊の怒りじゃ!奢った人間への怒りじゃ!」

 「僕」は感心している。

 あの石像は、「僕」に対する人身御供の象徴なんだ。

 「僕」が、そう思った瞬間、地面が核爆発のような音と煙を立てて陥没を始める。

 この繁華街一帯が、ずぼりと地下空洞に落ち込んだのだ。

 上から見ると綺麗な円形に陥没している。

 クレーターみたいだ。

 さて、「僕」は仕事をいそがなきゃ。

 都心の方からヘリコプターが近付いてきている。

 そのうち自衛隊もやってくるだろう。

 爆撃されたらたまらない。

 「僕」は口を出来るだけ大きく開けて、触手で空中に吊り下げていた十数万人の人々を口の真上に来るように集めて、心と力を込めて丸めて巨大な人肉の血塗れ団子を作り、一気に触手を引き抜く。

 血塗れ人肉団子は一瞬、空中で躊躇したように見えたが、すぐに「僕」の口の中央(剃刀みたいな牙が密集し延々と続く咽)に、すんなりと落ちる。

 十数万人の絶叫は、とても心地よく「僕」の咽を通り抜けてゆく。

 「僕」は体内での血飛沫と大量の絶命の余韻を楽しんでいたかったけど、そうもしてられない。

 「僕」の身体は再び膨張を始めている。

 放っておいたら関東一円を埋め尽くしてしまう。

 「僕」は思いっきり背伸びをして東京湾から、ぐるっと三浦半島を眺めながら3本の足をシュルシュルと胴体にしまい込んで、ひっくりかえり、7本の勃起したペニスで逆さになった身体を支えて再び口を大きく開ける。

 そして血で染まった無数の触手を使って人間どもの驕り高ぶった文明の瓦礫を掻き集めて、次々と口に放り込む。

 次第に「僕」の膨張は止まっていく。

 上空でヘリコプターが何機か集まってきて、とてもうるさい。

 下半身の触手を使って、それも捕獲して口の中に放り込む。

 今、世界中に、この事件を中継しているんだろう。

 早く、戻らねば。

 これは「僕」の、お前らへの警鐘なんだ。

 闇側に手を触れるな。

 どこの都市にも「僕」はいる。

 間違えちゃいけない。

 「僕」らは、お前らの守護者なんだ。

 フォーム・ホルダーなんだ。



 触手は、あらゆる人工加工物を手早く完璧に集めて「僕」の口に放り込んでいる。

 「僕」は、どんどん収縮してゆく。



9へ続く・・・


kipple


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