元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

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さすらい少女2004夏 11

2021-08-07 06:27:52 | 夢洪水(散文・詩・等)
さすらい少女 2004

-11-


 フワーっと冷気と供に、引き出しみたいのから現れたのは、ズバリ、透明なビニール袋に入れられて、名札を付けて前から順に横向きに並べられた黒焦げの死体が3つだ。ニコニコが、いちいちビニール袋についたチャックを開けてるよ。焼死体丸出しにしやがった!

 うぅ、覚悟はしていたものの、うえ。げろげろ!げろげろ!なぁんてね!ふん!輝く鋼鉄の心臓とダイヤモンドの神経を手に入れた私はもう何があっても堂々だ!こい!来るならこい!なんでもこい!だ!とは言うものの、お父さんにお母さん、グチャグチャだけど全然分かるじゃん!げー!うぅっ!うわぁ~ん!ううわぁ~ん!何で私は、こんなに辛い目にぃ~ひぃ~!あんまりぃ酷すぎます~!この世は地獄ですか~!骨が突き出てるよ~、マスクしててもオエオエなこの臭い、何?これ、喉に引っ付いてくるような、げほげほ!だー!うが!うが!しっかりするんだ!キャプテン!キャプテン!見守ってくれー!

 そして、私。

 私だった。間違いない。実に私で。ちゃんと私で。私が見ても私だった。私が言うんだから本当だ。役所や警察はさすがだ。私は真っ黒け。身体は半分くらいしか残ってなくて下半身は無いし、胸も黒いくすんだ色の骨が突き出したりしてメチャクチャで、両腕は酷く焼け焦げた感じでメチャクチャな胸の上で両手を合わせるようにしてる。顔っていうか、頭は黒焦げで無い。穴が開いてて脳味噌みたいのが黒ずんでぐにょぐにょ見える。目や耳や鼻も溶けてくっついたみたいになってる。けど、私だ。全体はハッキリしてる。私以外の何物でも無い。そして隣りにニコニコがいるのも忘れて私は絶叫したよ。

「ぎゃぁーーー!なんなのよーーー!私は今、生命力バリバリで身体の底からボウボウと細胞が活性化して燃えてるのよぉぉぉ!なによぉおおお!死んだくらい!死んだくらいぃぃぃいいい!死んだくらい、なんだってのよぉぉおお!いいわ!私は幽霊だったんだ!家を出る前に焼け死んでたんだぁー!だからなによ!シックスセンスまるだしじゃん!死んだのに気づかずに思いを遂げたんだぁー!じゃ、このムクムクと湧き起こってくる生命力はなによぉぉおおお!この生命力は!私を!ちゃんと!生身の幽霊として!ちゃんと!生かしているじゃないのぉぉーー!」

 あんまりにも堂々と絶叫するもんだから、隣りにいたニコニコはさすがに驚いてたよ。あはは、実は私は幽霊だったんだ。そんで、それを目の前にして、目をむいてるよ、無理も無いや。あったしだって、気が狂いそーだー!で、なんだっけ、私は何?幽霊なんだ、生きてる、あはは、世の中にはそんな事もあるんだねぇ、これからどうしよー、キャプテン!隣りのニコニコは面食らって遺体と私を見比べて、さすがにこれだけ損壊した遺体でも目の前で生身で絶叫してる私自身そのものだとハッキリと確認したようで、ぶつぶつと、もう分かりました、もう、いいでしょうって、私の腕を握って引出しを閉めようとするんで、 ちょっと待ったぁー!気になるのは遺体の私の握り締めた両手!黒焦げのボロボロの私は絶対に何か握ってる!私は、それを確かめるまで絶対に引き出しを閉めさせない!

 私はバッとニコニコの腕を振り払うと、自分の遺体に飛びついたよ。飛びついたって言っても比喩だけど、だから、ガッと自分の黒焦げの両手を幽霊の私が手袋した手で掴んで、思いっきり開いてみた。意外と固くてべりッと折れるように遺体のメチャクチャな胸の上で組まれた両手は剥がれて、あ、あ、やっぱ、

 出てきたのはケータイだよ。

 死ぬまでケータイを握り続けた私。そして幽霊になってケータイを捨てた私。うん、これは確実に私のケータイ。そう、この黒焦げ遺体はキャプテンの捨てた時計だよ。過去の煮詰まってた私、ケータイ・メール・掲示板・いらいらいらいら、いっつも気にしてストレス・バリバリの私!この私はケータイとともに死んで!ケータイ捨てたさすらいの幽霊の私は、リセットされて、旅でウルトラ生命を得たのよ!

 そうか!ニカッて笑った、あの駅員、あの旅館の老人や亀石のお婆さんたち!分かった!ニカッ“おや、あんたもかい”だ!なんだ、みんな、生きてる幽霊だったんだーーー!仲間だったんだー!だっからさ、あんなに優しかったんだー!あははは、世の中、捨てたもんじゃないかもねー!あはは、あいつ、あの亀石で会ったオッサン、キップルとか言ってたな、あのオッサン電波系ってやつだ、幽霊が見えたりすんだよ!だからか!私が幽霊だって見抜いて絡んできたんだよ!オールOK!自分が幽霊だって自覚した途端に色んな事がわかってきたよ。

 それから私は胸を張って霊安室を後にしたよ。ニコニコは、うろたえていたけど、私には何となく分かったよ、彼女、以前にもこんな事があったんだね。世の中には不思議な事があるって知ってんだ。なるほど、そっかだから私を規則破って連れてってくれたんだな。以前、ニコニコが経験したのは誰の幽霊なのか、ちょっと気になるけど、もう、どうでもいいわ。





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