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さすらい少女2004夏 10

2021-08-06 06:29:40 | 夢洪水(散文・詩・等)
さすらい少女 2004

-10-


 それから私は、その女の人に連れられて、公民館の霊安室という嫌な名前の場所に行くことになったんだ。まず、市役所に戻った。弟さんには、なにせ親族として遺体を判別できる唯一の生存者だったため仕方なく1度確認してもらったけど、それ以来ずっと、状態が悪いので入れることはできないっていうので、ああ、と私にしがみ付いて震えてる弟を見て、同感だと思った。それに同意すると、今度は遺族リストというのを出して、そこに署名だ。何とか何とかに同意します、もしも何らかの不都合が生じた場合は自己責任と伝々、ショックを受けて頭がおかしくなったりしたら、あなたの責任ですよって事らしい、じゃ弟のこの状態は弟の責任なのかよ!って何だか面倒な手続きをいくつか済ませると、こんな時にも事務的なニコニコ笑う、その実は結構親切な女の人と一緒に近くにある公民館に向かったんだ。弟は一緒に来たけど、霊安室の前で待つことにした。

 公民館に入ると警官がけっこう沢山いて、あーそうか、テロリストが爆弾を誤って爆発させたんだっけ!まったくどいつもこいつもドジばっかね!そこで、今度はマスクとビニールの上っ張りと手袋を渡されたよ。そんで、また署名。ハンコ持ってないから指で捺印だ。ペタ、ペタ。指が赤いわ。じゃ弟は、ここで、待っててねと不安がるのを不憫に思いながらも、マジ、ヤバそうなんで、しょうがない。マスクしてビニールの上っ張りを着て、手袋をして準備OKしてると、さっきの事務的にニコニコ笑う女の人がマスクと上っ張りと手袋をして、へんな事に神妙な顔をして強面の2人の男の警官と一緒に私のトコにやってきて、その片方の強面の警官が、こう言ったんだ。

「だめですよ、偽名使っちゃ。この名前は御遺体リストに載ってるんです。はい、関係ない人は出てってください!親戚の方なら、ちゃんと本名を書いてくれないと、ちゃんと、こっちは調べますからね。」だってぇーー!

 えー!そりゃないよー!キャプテン!それで引き下がるわけにはいかないので、私も意地だ。

「偽名じゃありません!親戚でもありません!本人です!娘です!私は生きてます!そのリストが間違ってるんです!」

 って言うと、もう片方の強面の警官が、ちょっと待ってなさいって、また待たされたよ。弟が戸口の方で不安そうに震えてるじゃん!早くしてくれよ!私は、ここで、こうして肉肉肉肉して、心臓どっくんどっくん、ちゃんと生きてるでしょーに!その事実は御遺体リストに載っていようと、書類がなんだろーと絶対に!絶対に!誰にも否定なんかできやしないんだから!

 しばらく待っても、その警官はちっとも帰って来ないので、そばでポカンとしながらも事務的にニコニコ笑う女の人に、私は生きてるんだ!ほら、ここに思いっきり、生命力ブッチギリで生きてるんだ!って思いをぶちまけたわよ!そしたら、その女の人、一瞬、笑いを止めて遠くを見るような目をすると、いきなり私の腕をグイって握って、警官を振り切って戸口から外に出たんで、私は引き摺られるようなカッコになって、おっとっとっとな感じだ。残された一人の警官がポカンとして止まってんの!やるじゃん!ニコニコ!ニコニコって愛称で呼んであげるわ!

 それからニコニコは、私の腕をぐんぐん引っ張って公民館の敷地の中を、ずんずん進んで行くんだけど、黒っぽいいかにも霊安室って感じの建物が近づいてくるにつれて握る手が弱々しくなり、こう言ったよ。

「いい?私は、あなたを信じるけど、何があっても取り乱しちゃ駄目よ。それからマスクは絶対に外さない事!喉がおかしくなって咳が止まらなくなって吐いちゃうから。でもね、このリストは、かなり正確なのよ。まさか間違って生きてる人間を載せてたりなんか有り得ないの!数も合ってるし、いくらひどい焼死をしたからって、あそこは基本的に住宅地でしょ、全部確認してるのよ。1人1人、いい?あなたとあなたの御両親の遺体を確認したのは弟さんなのよ。この書類に署名してあるでしょ。これ、弟さんよね。それに、もし何だったらDNA鑑定や復元って作業も出きるの。爆発自体以外には、事件性は確認されていないの。だから誰か他の人の死体が、あなたの代わりに何らかの理由で火事現場に遺棄されたなんて可能性も、まずないの。」

 って、ニコニコは、又、立て続けに喋ってるよ。イー加減にうんざり。もー見れば分かるよ。見ればさ。だって私だよ。いくら燃えて黒焦げになっちゃってたって自分くらい見分けられるって!って言うか自分の訳ないじゃん!ニコニコは、そうは言うけど世の中には訳の分からない事だっていっぱいあるんだ。どっかの変態が午後7時前に私の部屋に入って来て私を殴って気絶させて、新幹線に乗せてった、そんで私の代わりに誰かの死体を部屋に置いて、私はバカで、記憶が飛んじゃって夢でも見てて、名古屋で正気に戻った・・・く・苦しいか!

 とか考えてるうちに霊安室に入ったよ。あちこちに警官がいて、遺族らしきマスクにビニールの上っ張りに手袋の人たちがうろうろしてるよ。大惨事じゃん!全然知らなかった、ケータイもNETも捨ててたわけだし、TVも見なかった。でも知ったらどうだっての?さすらいの一人旅のせいじゃないよ。起こったものは起こったんだ、知ってたら戻るか。生き返るか。

 って、うぇ!見る前から気持ち悪くなってきた!まさか床にシーツかなんか被せて置いてあるんじゃないでしょーね!って、そうじゃなかったよ、霊安室って1階は事務室と待合所になってて、遺体は地下に安置してあるそうで、すぐにニコニコが手続きを済ませてくれて、階段を下って行くと、地下は幾つかの部屋に分かれてて202ってボードが貼ってある部屋に入ったよ、もちろんニコニコに案内されてね。

 ニコニコはリストを見ながら202の部屋の中の壁一面に幾つもの大きな洋服箪笥が埋め込まれたみたいにズラズラと並んでる銀色の冷たそうな引出しみたいなのを、いちいち確認して、その中から私の苗字が書かれた引出しみたいのに手をかけて思いっきり引っ張ったよ。おいおい、市役所の職員がこんなことしていいのかい!って思ったけど、どーもニコニコはけっこう偉い人みたいで、実はテロ対策員死体処理班だったりして、ってケッコウあたってたりするんだ、こういうの。





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