木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

法人の人権、タバコの危険表示

2011-09-22 09:28:18 | Q&A 憲法上の権利
法人の人権とタバコの危険表示について
okiさまより、ご質問をいただきましたので、記事にしときます。

法人の人権共有主体 (oki)
2011-09-18 21:45:32
木村先生、はじめまして。今年度新司法試験に合格したもので、僭越ながら後輩に憲法を教えています。

疑問が生じたので質問させていただきます。

法人の人権共有主体性についてなのですが、表現の自由における自己実現の価値というものを法人には観念できない以上答案に書くのはおかしいのではと後輩に指摘されました。

個人的には、高橋先生の「立憲主義と日本国憲法」による対国家のケースでは法人の構成員個人を代表して権利行使するとの考えを前提とすれば、自己実現の価値も当然認められると考えます。

このように考えて、法人が主体であっても自己実現の価値を主張することができると考えてよいのでしょうか?


>okiさま (kimkimlr)
2011-09-19 16:16:29
おたよりありがとうございます。
合格おめでとうございます。
司法研修所の教官の方々に、ぜひ『急所』を進めてください^-^>


さて、ご質問頂いた件ですが、
法人の権利=構成員共同行使説でゆくと、
共同表現行為を目的とし、
各自の表現という資源の調達に構成員が同意している場合には、
法人としての表現の自由を行使できると思います。

例えば、「品川ダム建設反対の会」というのを作って、
これが法人格を持っていた場合(NPO法人か?)、
ダム反対の声明を出したりできるはずで、
それを制約すれば、会の表現の自由の制約に
なるはずでしょう。

これは、「法人に自己実現が観念される」というわけではなく、
「法人の活動という形式により、構成員が自己実現をしている」から、
ですね。

ちなみに、株式会社は自己実現のための団体ではないので、
原則として、自己実現のための会社の言論の自由なるものは観念できず、
(ただし、国民の知る権利に奉仕するという観点から、
株式会社にも、特別に報道の自由、取材の自由が認められる場合がある)
後輩の方は、そうした会社の言論の自由を想定して
そうおっしゃっているのではないか、と思いましたがどうでしょう?


ではでは、後輩の方にも、よろしくお伝えください。

Unknown (oki)
2011-09-19 20:56:55
ご丁寧な返答ありがとうございます。

木村先生の著書はとてもわかりやすく、試験後も勉強になったので、教官にもおススメします!

会社の場合には報道の自由等では国民の知る権利への奉仕という主張はできると思います。この点は博多駅の事件等から理解できました。

ただ、もう少しだけ質問させてください。

例えば平成18年度新司法試験のように、たばこや商品のパッケージはどうなるのでしょうか。会社が直接に表現活動をする場合で、国民の知る権利等の奉仕を援用できない場合には、やはり営利的表現の自由として、厳格な基準という方向に向かいにくいのでしょうか。

宍戸先生の「解釈論の応用と展開」では、21条を主張できるかがそもそも問題であるとの解説がされています(22条に過ぎないのではとの論点だと思います)。

その場合だと原告として論を立てる場合には、制約の程度という点を強調する方法になるとは思うのでけれど。


>okiさま (kimkimlr)
2011-09-20 12:53:53
こんにちは。コメントありがとうございます。

平成18年度の問題については、
試験委員や合格者含め、いろいろと分析が出ておりますので、
私個人の考えを書かせていただきます。

まず、商品パッケージでの商品説明の強制は、
その説明言論が、誰に帰属する言論か、が最重要ポイントになります。

「たばこ危険」を厚労省なり政府の啓蒙言論ととらえるなら、
ここで生じているのは、<言論の強制>ではなく、
<政府言論のための財産権の収容>および
<政府言論の協力を要求することによる営業の自由の制約>になります。

他方、「たばこ危険」を会社=株主全員の言論と
とらえるなら、ここでは財産収容ではなく
<言論の強制>が生じていることになります。

第一の構成なら、言論の自由の制約は生じていません。
第二の構成なら、消極的表現の自由の制約が生じている、ということになるでしょう。

原告としては、どちらの構成にも対応できるように、
両方の権利を主張します。

では、裁判官として、どちらの構成が妥当か?

私の考えはこうです。
政府の名義を表示しない以上、
パッケージは会社に帰属するものと理解するのが自然です。
なので、事案としては第二の言論強制事案ととらえるのが妥当でしょう。


そして、株式会社が行う商品説明というのは、
株主全員の言論であり、
「このタバコはおいしいですよ A社」という宣伝と
「このタバコはおいしいですよ A社株主a,b,c」という宣伝は
意味として変わらないわけですね。

で、会社が広告することは当然なので、
ある会社の株主になる、ということは、
<会社の判断で必要とされた>
営利広告に協力することに同意している
ことになります。

しかし、政府に強制された広告にまで同意しているわけではないので、
政府名義を伴わない危険性の表示に対して、
株主は消極的表現の自由(表現しない自由)を行使でき、
そうした株主の権利を、会社が代表行使してもよい、と思われます。

結論としては、
政府名義を表示するというより制限的でない手段があるので、
さしあたり政府名義なき表示強制は違憲、
くらいが私の落としどころです^-^>

>okiさま(追加) (kimkimlr)
2011-09-20 15:32:40
そうそう、ご質問は違憲審査基準の厳格度でしたね。

このように考える場合、制約された権利は
営利広告の自由ではなく、
言論を強制されない自由になり、
この自由は表現の自由の中でも極めて保障の程度が高いとされます。

なので、厳格審査ということになるのでしょうね。

本当に感謝です! (oki)
2011-09-20 19:11:51
すごくよくわかりました!!びっくりしました!目から鱗です…。丁寧なコメント本当にありがとうございます。

政府の言論は蟻川先生の法セの連載(「プロトディシプリンとして読むこと憲法」)で拝見いたしましたが、全部読んで挫折してしまいました(泣)

もう少し平成18年度及び平成23年度(ストリートビューの問題)を検討してみたいと思います。

また何かありましたらお手数ですがよろしくお願いいたします。


>okiさま (kimkimlr)
2011-09-20 21:04:17
そのようにおっしゃっていただけて、
うれしいです。
ブログをやったかいがありました。

後輩の方、司法修習所のみなさまにも
どうぞよろしくお伝えください^-^>

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17 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
構成員共同行使説の書き方について (azuki)
2012-03-05 17:58:08
木村先生はじめまして。azukiと申します。急所を使って勉強をしています。
ひとつ質問させてください。

高橋先生の構成員共同行使説は法人には人権享有主体性がないことを前提にしている説だと理解しているのですが、
この説の立って答案を書く場合には、主張適格の問題として法人が構成員の人権を代理行使できることを論じることになるのでしょうか。

本記事を読ませていただいたのですが、
「法人としての表現の自由を行使できる」等のご説明もあり、答案のどの部分で構成員共同行使説の説明を挿入すればよいのだろうかと、少し混乱しています・・・。

お時間があるときにご回答いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
消極的表現の自由 (bb)
2012-03-06 02:34:11
すいません。質問させてください。

先生の本記事での

言論を強制されない自由になり、
この自由は表現の自由の中でも極めて保障の程度が高いとされます

という説明についてなのですが、
保障の程度が高い(権利の重要性が高い)という理由だけで厳格審査になるという意味なのでしょうか?

特定の見解を強制されるという点で、内容規制にあたる、と考えることは間違っているのでしょうか?

宜しくお願いします。
>みなさま (kimkimlr)
2012-03-06 07:45:16
>azukiさま
ええと、権利制約を認める前に、
そもそもこの権利が主張できるか、と書けばいいと思いますよ。

>bbさま
表現の自由の保護範囲には、
表現しない行為(表現しない自由)が含まれ、
その部分は、極めて保障の程度が高いとされているということです。

内容規制論とは一応別の論点です。
むしろ、表現の自由とは別に
表現しない自由という自由権があるとおもってください。
ありがとうございます。一つ確認させてください。 (bb)
2012-03-06 10:06:40
ご回答ありがとうございます。
表現しない自由は別個の権利として考えるのですね・・・基本書には明確に書いていないところだったので、すっきりしました。

ひとつだけ確認させていただきたいのですが、(重ねて質問してしまい申し訳ありません)。

私は消極的表現の自由は積極的表現の自由と表裏と考えてしていたので、内容規制論も使えるものだと誤解していたのですが、
消極的表現の自由は別個の権利と考える以上、内容規制論は使えないという理解で大丈夫なのでしょうか?

よろしくお願いいたします。
>bbさま (kimkimlr)
2012-03-06 10:40:42
もちろん表裏ですが、
消極的表現の自由について
内容に着目しない規制を想定することが難しいので、
すべて内容規制的なものになるのでしょう。

うーん、この部屋に入るときは
なんでもいいからしゃべれ、
みたいな規制が、内容中立の消極的表現の自由規制。
なんじゃそりゃ、というかんじですよね?
ありがとうございます (bb)
2012-03-06 11:20:06
こんなに早くご回答いただけるとは!どうもありがとうございます!

すべての制約が内容規制的なものになるなら、それは厳格審査を行う理由にはならないということなのですね。腑に落ちました。

ありがとうございました!
Unknown (azuki)
2012-03-06 12:21:27
ご回答ありがとうございます。

確認させていただきたいのですが、
そもそもこの権利が主張できるかという部分を
法人が構成員の人権を主張できるか、という主張適格の論点として論じるのは避けたほうがいいのでしょうか。

法人が構成員の人権を主張する場合には、「主張適格」という語を使うことは避け、端的に法人に表現の自由の主張は認められるか、というような問題提起にした方が他説にも配慮した問題提起になるということでしょうか・・・?

お時間がありましたらご回答おねがいいたします。
>みなさま (kimkimlr)
2012-03-06 15:48:52
>bbさま
よかったっす!


>azukiさま
そうですね。主張適格というと、
ちょっと伝わりにくい気もします。

ただ、そういう用語の細かいところのみならず
文脈として相手に伝わる文章になっているか、
という大局的な視点も忘れないで下さい!
Unknown (azuki)
2012-03-06 16:53:08
ご回答どうもありがとうございます。

そうですね!伝わる文章を書けるように精進します。
直前期になるとどうしても細かいことが気になってしまって・・・気をつけなければいけないですね!
どうもありがとうございました。
Unknown (ss)
2013-01-22 14:39:49
消極的表現が保護範囲にはいり保障が高いということは分かりましたが、かかる消極的表現がいかに大事かの論証は不要なのでしょうか。
具体的には、A党のビラを家に貼られたけど、どの政党を支持しているかを言わない自由はどの政党を支持しているという自由の裏表なのだから、どの政党を支持しているかは自己統治に資する等の論証のことです。

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