木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

園遊会事件について

2012-02-13 16:06:52 | ちょっと一言
さて、昨日、無理やり話題にのせた米長会長ですが、
米長先生のお名前は、おそらく、将棋を全く知らない法学徒の方にも
有名なのではないかと思います。

と、思っていた所、このようなコメントをいただきました。

Unknown (たんたん)
2012-02-12 21:05:57
あれ、たしかこの方ってかの有名な東京都教育委員会の委員長か
なにかやってませんでしたっけ?
以前新聞でみたような。違ったっけな…
しかし将棋連盟の会長さんだったんですね。
ずいぶん明るいかたみたいですけど★



というわけで、有名な園遊会事件です。

時は2004年10月28日。
赤坂御苑の秋の園遊会。

天皇・皇族の方々が、各界の功績者と交流する会ですね。
こちらに、米長先生も招かれていたということでした。

米長先生、当時、東京都教育委員会委員。

この時期の東京都教育委員会は、入学式・卒業式での
君が代斉唱・日の丸掲揚を積極的に推進し、
教職員には、職務命令を出してでも、
きっかり起立させ、歌いなさい、
という通達(学習指導要領解釈)・指令を出していたわけです。

そんなわけで、教育委員会と現場の軋轢が多数訴訟になっている、
というのは、みなさんもご存じの通りです。


さて、米長先生は、天皇陛下とお話しをしていて
唐突にこのようにおっしゃったようです。

「日本中の学校で国旗を掲げ、国歌を斉唱させることが私の仕事でございます。」

その時の天皇陛下のお言葉は、次のようなものでした。

「やはり強制になるということではないことが望ましい。」


ということで、これが世にいう米長園遊会事件です。
米長先生の発言は、当然のことながら、多くの批判にさらされました。



私としては、この事件、
棋士としての米長邦雄像とからめて理解しなければならない、と考え、
事件発生以来、ずーっと考えているのですが・・・。


米長邦雄。

1943年生まれ。兄弟みな東大の秀才一家に生まれる。
生涯成績1103勝800敗。順位戦A級26期。
タイトル通算19期、歴代5位。最高齢名人記録保持者。
誰もが認める一流の棋士です。

キャラクターについては、いろいろな理解がありますが、
明るいお方で、棋風は「さわやか流」と呼ばれていたそうな。
そして、実際、前回の記事に示した通りの明るくハキハキとした方です。
当然のことながら頭脳も明晰。


米長先生の棋風と、関連する発言を見る限り、
日の丸・君が代問題については、

「国旗国歌でしょ。掲げて歌うの当り前でしょ。
 学校の先生も仕事でしょう。仕事なんだからやってください。
 生徒・児童のみなさんも、立って歌って。当たり前のことだから。」

という、さわやか一直線の読み筋で指されていたのかな、
という気がいたします。


そして、米長先生の読み筋なだけあってですね、
このさわやか一直線の議論が、なかなか強力なのですよね。

これと戦うには、やはり泥沼流の終盤術が必要になるでしょう。
ちなみに、「泥沼流」というのも、米長先生の棋風の名前で、
むしろ、こちらの方がイメージにあっていて、有名だ、と言われております。

(ちなみに、そもそも日の丸君が代を国旗国歌にすること自体が違憲だという
 超序盤戦術で戦おうとする方もおられます。
 ただ、この超序盤戦術は、なかなか苦労が多く、さりとて
 それ自体は合憲だとしてしまうと、さわやか流の指し回しに対し
 変化の余地が著しく少ないということにもなります。)


まあ、この事件についてスッキリした評論・評価をするのは難しいですが、
米長園遊会事件、
教育委員会という制度論、国旗国歌強制問題、天皇の政治的権能問題
米長邦雄という人格の理解などなど
いろいろ考えるべき問題を多く含んでおりますので、
憲法の勉強をされる方は、記憶にとどめておいていただければと思い
紹介させて頂きました。


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5 コメント

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Unknown (たんたん)
2012-02-13 17:25:04
これまた記事にしていただき大変恐縮です。
はいはい。思い出しました。園遊会の件は以前にテレビでみた記憶があります。たしかあのときは、この人、なんで敢えてわざわざ天皇にそんな報告しようと思ったんかいなと考えて、頭のなか覗けた気がして、いやーな想像した覚えがあります。
しかし棋士としては大変な方のようで、皆から尊敬されていることには驚きましたです。
私としても色々考える機会にしたいと思います。
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あれですか! (YS)
2012-02-13 20:28:41
園遊会事件のあの方は,米長さんだったんですね!
たぶん報道で名前は見聞きしていたんでしょうけど,自分の中で全然一致していませんでした(^_^;)

一言で,その人の普段考えていることを推察するのは難しいです。
とりわけ園遊会というある意味特殊な場でしたし。
ただ,「国旗国歌掲げて歌うのは当たり前」というのは,当たり前な人にとっては本当に当たり前なので,当たり前なことをリップサービスも兼ねて素直に言っただけなのかもしれませんねー

そのさわやかな一手に対して,「思想良心の自由の侵害だ―!!」とさわやかに反撃するのはキツイよね,という木村先生のご見解に私も同感です。
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Unknown (めがふぉにっく)
2012-02-13 23:53:41
あ、なるほど。
このやり取りの方だったんですね。
全然気がつきませんでした…。

サービス精神がありそうな方なので、
天皇陛下に喜んで頂きたい一心による発言だったのかも知れませんね。

「公立学校の教員なんだから、卒業式とかで立って国歌歌うのも仕事のうちでしょ」
といったシンプルな読み筋こそ、
受験生が看過しがちな、しかし当たり前な「国側の反論」だと思います。
ゆえに、米長先生の意見はなかなか参考になりそうです。
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米長さん (黒井崇男)
2012-02-14 09:35:18
さすが先生は憲法学者です。私は昔将棋のゲームソフトを買って、ゲーム内に登場する米長名人(らしきキャラクター)を打倒して悦に入っていたことを思い出した程度でした。
思想信条は、今年の本試験で出題可能性が高いですか?私は憲法上の権利を主張しての義務の免脱(例えばエホバ剣道受講拒否事件)が出そうだと勝手に思っていますが…。
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>みなさま (kimkimlr)
2012-02-14 10:34:05
>たんたんさま
こんにちは。
そうなのです。米長先生は、棋士としても一流で、
将棋連盟会長としても、
(もちろんいろいろ、意見はあるようですが)
革新的で有益な采配を振るっているように見えます。

そういうわけで、園遊会事件での発言は、
ただアホなおっさんがいた、という分析ではなく、
そういう方の発言として分析する必要があるだろう
と考える次第です。

>YSさま
そうなのです。
憲法解釈というのは、
さわやか流でうまくいくこともありますが、
まさに泥沼流が要求されることもあるのです。

>めがふぉにっく様
いや、面白いものですよねえ。
私も、憲法の論文を読んでいて、米長先生のお名前を拝見する
ことになるとは、思わなかったです。

>黒井さま
今年の試験問題なぞという難解な問題は
私には、分かりません。

私は、憲法学の専門家であり、
司法試験の専門家ではないのです。

ただ、敢えて賭けろと言われたら、
営業の自由、距離規制事例に賭けます。

そうそう、思想良心の自由もしっかり理解しといてくださいね。
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