木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

保護範囲論の原則

2012-12-04 13:05:10 | Q&A 憲法上の権利
どうもです。
久々に憲法についてのご質問への回答記事など。

気分は飛車角落ち様からのご質問です。

ブログ、急所共にいつも拝読させて頂いております。
早速の質問で恐縮なのですが、是非お聞きしたいことがありましてお答え頂ければと思います。
権利の保障範囲についてなのですが、なにが保障範囲に含まれ、何が保障範囲に含まれないのか正直よくわからなくなってしまいました。
急所の第三問で他人の物を利用して表現する自由は表現の自由の保障範囲にそもそも入らない旨の記事を紹介していらっしゃいます。私も他人の家に入ってまで表現をする自由などというものは基本的に認めるべきではないと思っております(パブリックフォーラム論を採用するかはまた別の問題ですが)。
しかし、この部分についての理由付けが、情けないことに私には「感覚的に」とゆうことしか説明できません。
そこで、どういった場合であれば保障範囲に含まれ、逆にどういった場合には保障範囲には含めるべきではないのか、その指標となるものをお教え頂ければ幸いです。
自由権の概念に関係しているのではないかと基本書を読み漁りましたが、明確に触れているものも見あたらず途方に暮れております。
もしよろしければ参考となる文献だけでも示して頂ければ有難いです。
大変図々しいのですが、もしお暇であればよろしくお願いいたします。
最近めっきり寒くなって参りましたので、風邪などひかれないようお体にお気を付けください。今後もブログの更新楽しみにしております。

  
確かに、おっしゃるとおりで、あまり細かい解説がなくてこまってしまいますよね。

ということで、とりあえず大原則をおさえましょう。

まず、自由権の保護範囲論の大原則ですが、
「自分の財産を使った行為」だけが、保護範囲にはいる、というのが大原則です。

他人の土地を使った宗教活動、
他人の著作権を侵害する表現活動、
他人の建物を(賃借などがないのに)使った営業活動は保護されません。

そして、財産の配分がどうも不自由だ、という問題は
「公共の福祉にしたがった財産法をつくれ」という請求権(29条2項)の問題になります。

そこから先、
基本的には、保障根拠論から保護範囲が定まります。

たとえば、営業活動は、分業社会での人格の発現であり、
一回的・単発的行為(ヤフオクでの販売など)は、
人格との結びつきが弱く保護されない、とか、

国家が人の思想を誰何するのは、
思想弾圧目的以外ではあり得ないから
思想を守るという19条の趣旨から沈黙の自由が保護される

といった感じで、保護範囲を確定します。

要するに、保障根拠論の帰結として、語る癖が必要だ、ということです。


このあたり、新しい分野で参考文献があまりないのですが、
芦部先生の『憲法学Ⅲ』と長谷部先生の『憲法』を中心に
様々な教科書を読み比べる、のが王道といえます。

個人的には古い部分はあれど伊藤正巳先生の『憲法』(弘文堂)が
保護範囲や保障根拠の記述が充実している、と思います。


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14 コメント

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Unknown (とおりすがり者)
2012-12-04 16:37:19
他人の財産を使用する自由も保護範囲に入ることを前提に、他人の財産を使用する自由は保護の程度が低いから自由の制約が正当化されやすいとの考えもあり得ますでしょうか。
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>通りすがりの者さま (kimkimlr)
2012-12-04 18:58:58
憲法29条2項の関係からすると、
そのような保護範囲論は不自然だと思いますし、
あまりそういうことを明言する学説はないですねえ。
返信する
御礼と少しの質問を (気分は飛車角落ち)
2012-12-04 22:48:02
木村先生

大変お忙しい中、一読者に過ぎない私の質問に丁寧にお答え頂きまして誠にありがとうございます。
まず、「自分の財産を使った行為」だけが保護範囲に含まれること。その上で、各権利ごとの保障の根拠から保護範囲を導くこと。というように、二つの段階を区別するということを明確に整理することができました。

なんとなく二つの性質が異なるような感覚を抱いておりましたが、木村先生に示して頂いたことで理路整然と理解することができました。

また、参考文献も丁寧に示して頂き本当にありがとうございます。芦部先生の「憲法学」は愛読しておりますが(本当に連載の終了を待たずに亡くなられてしまったのが残念で仕方ありません)、再度読み込み、長谷部先生や伊藤先生の基本書も読み比べてみたいと思います。

重ね重ね、お忙しいのに御回答頂き本当にありがとうございました。
図々しいついでに恐縮なのですが、少し本文でお聞きしたいことがありまして、お暇なときにお答えいただければ幸いです。
自分の財産を使った行為だけが保護範囲に入ることが大原則とおっしゃられていますが、その理由付けを詳細に教えて頂ければとおもいます。

本記事のコメントで(通りすがり者)様の質問に対して木村先生は「憲法29条2項の関係からすると、そのような保護範囲論は不自然だと思います」とおっしゃられていますが、恥ずかしながら私にはその真意を正確に汲み取ることができません。

それは、「憲法29条2項は『公共の福祉に従った財産法を作れ』との請求権を規定している。目的物の自由な使用・収益・処分を定めた民法206条は公共の福祉に従った財産法である。他人の所有物を用いた行為を権利の保護範囲に含めることはこの所有権の概念に反する。故にこのような他人の所有物を用いた行為を権利の保護範囲に含めることは、公共の福祉に従った財産法たる民法206条に反し、ひいては憲法29条2項に反する」という論理でしょうか。
どうにも自分で理解をしようとすると論理に飛躍があるような気がしてなりません。
細かい点で、本来ならば自分でもっと詰めて考えてから質問すべきなのですが御教授頂ければ幸いです。
何度も質問ばかりして申し訳ありませんが、よろしく御願いいたします。
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>二枚落ちさま (kimkimlr)
2012-12-08 13:06:55
おおむねそういう方向です。

財産法は29条2項の要請を受けて
みんながなっとくできるように(公共の福祉に適合するように)
つくってあるわけで、
それを自由権条項で再修正するのは不適切な解釈論ということでしょう。

あるいは、自由権条項の趣旨に反するような
財産法は、すでに公共の福祉に反している
といってもいいかもしれません。
返信する
ありがとうございました (気分は飛車角落ち)
2012-12-08 22:20:44
木村先生

お忙しい中質問に応えて頂き誠にありがとうございました。

確かに憲法が自由権と財産権で既に対立している権利を規定していると考えるのはいかにも解釈として不自然かつ不合理ですね。大変納得させて頂きました。ありがとうございます。
更に憲法の理解を深めていくなかで、また、お聞きすることがあるかもしれませんがよろしく御願い致します。

本当にありがとうございました。

p.s.私は棒銀を心から愛する「超」のつく初心者なのですが、将棋の記事も楽しみにしておりますのでまた更新期待しております。
返信する
>気分は飛車角落ちさま (kimkimlr)
2012-12-10 19:24:34
ご連絡ありがとうございます。

私も方向性だけ読んだだけで
深く考えたことのない問題でしたので、
楽しかったです。

棒銀ですか。すばらしいです。
随時がんばります。
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「保障」と「保護」の違い? (iwa)
2012-12-16 11:26:46
iwaと申します。はじめまして。
細かい話で恐縮なのですが、一つ質問をお許し下さい。

保障根拠にいう「保障」と保護範囲にいう「保護」は全く同じ意味と考えてよいでしょうか。
もし同じ意味であれば、憲法20条、21条、23条が「保障」という表現を使っていることもあり、保護範囲を改めて保障範囲とし、保障根拠と表現を揃えたいと思っているのですが、問題ないでしょうか。
いくつかの本を見ましても、三段階審査に関して、保障範囲ではなく、保護範囲や保護領域という表現が使われており、気になっております。
返信する
>iwa様 (kimkimlr)
2012-12-21 16:23:32
保障と保護ですが、
日本法・日本語としては、
自由権というのは保護範囲を持ちますが、
請求権には保護と言う言葉はあまり使いません。

前者は、人々が持っているもの(自由)を守ってやるという
権利で、
後者は、人々が持っていないものを与えるという権利
だからでしょう。

もちろん、自由権も憲法により保障された権利なので、
保障の方が保護よりも広いニュアンスを持っているんでしょう。

また、保護範囲は、ドイツ語で言うとschutzbereichで
Schutzが保護、Bereichが範囲とか領域と言う意味です。

これについては、関西の学者の先生は
保護領域と訳す人が多く、
関東では、保護範囲と訳す人が多いです。

どちらの翻訳が適切かという点は
石川先生が法律時報74巻7号の論文で論じているので
参照してみてください。
返信する
続・「保障」と「保護」の違い? (iwa)
2012-12-23 12:11:19
ご回答いただき、ありがとうございました。
ただし、情けなくも未だしっくりときていないところがあるので、失礼ではありますが、再び質問させてください。
もっとも、先生が紹介して下さった文献について、現時点では未だ入手できておらず、またそのことについては、全くの私の事情によるものであり、「正当な理由」(行政事件訴訟法14条拝借?)がないため、もしその文献に本質問の答えが載っているようでしたら、本質問についてばっさり却下してください。

私の疑問は、言い換えると、
憲法の急所P19の「各防御権の①保障の根拠、②保護範囲、③保障の程度という基本事項が理解できていれば、……」という記載について、
「①保障の根拠、②保障範囲、③保障の程度」でもなく、
「①保護の根拠、②保護範囲、③保護の程度」でもなく、
「①保障の根拠、②保護範囲、③保障の程度」となっているのはなぜなのか、
広辞苑を見ても、
「保障」は「障害のないように保つこと。侵されたり損なわれたりしないように守ること。」、
「保護」は「気をつけてまもること。かばうこと。」とあり、
そもそも「保障」と「保護」の言葉の意味の違いもよくわからず、
その結果として、それらを使い分ける意味もよくわからない、
というものでした。

そして、先生がお答え下さったことは、
「保障」と「保護」は全く同じ意味ではなく、
「保障」の方が「保護」よりも広いニュアンスを持っており、
「保障」は自由権・請求権双方で使われる表現であるが、
「保護」は請求権で使われず、自由権においてのみ使われる、より狭いニュアンスの表現である、
つまり、「保障」と「保護」の関係は、一般法と特別法のような関係にある、
ということであると、私は理解しました。

しかし、そのような理解で正しいとすると、
「①保障の根拠、②保護範囲、③保障の程度」は、
「①保護の根拠、②保護範囲、③保護の程度」とした方がよりニュアンスに適っている、
ということになるのでしょうか。

一方で、少し違った観点からの質問になりますが、
ドイツ語でも「保障」と「保護」で使い分けられているのでしょうか。
Schutzが「保護」と訳されたのに対し、「保障」は何か別のドイツの言葉が訳されたものなのでしょうか。

貴重な場であるこちらのブログで細かい話に細かい話を重ねて申し訳ありません。
返信する
>iwaさま (kimkimlr)
2012-12-24 09:09:36
私としては、
①保障の根拠、②保障の内容、③保障の程度
という項目立てが本来的だと思っています。
(芦部先生の『憲法学』なんかだと、
 そうなっていますね)

ただ、「保護範囲」については、近年、
こういう用語でいこうという学会の空気があるので
それに合わせたという感じです。

保護範囲という訳語については、
石川先生の論文をよんでください、という感じですね。

ちなみに、ドイツ語だと、保障はGarantieでしょうか。
制度的「保障」なんかの保障は、この単語のはずです。
ただ、日本語で権利保障という場合には、
必ずしもドイツ語の訳語というわけではないので、
これをそんなに意識する必要はないと思います。

まとめると、「保護範囲」Schutzbereichという言葉だけは
ドイツ語の専門用語の訳語であることを意識しよう
ということですね。
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