（5）大谷さん詐欺事件 芝信用金庫 多田政則籠城顛末

(4)大谷詐欺事件　芝信用金庫、恐喝　共同正犯

続きです



私はそのメモを持って芝信用金庫日本橋支店に出向いた。
支店長に会いたいと申し出るが
「今会議中なので、無理です」
応対した職員に多田政則のメモを見せる。
「これを支店長に見せなさい」
暫くすると支店長がカウンター席に現れた。
メモを見て呆然とする。
2階の支店長室に案内される。
副支店長も同席。
支店長はメモを見て、なんて馬鹿なことする。
青ざめる。
充電した私の携帯電話が鳴る。
多田政則の名前が表示される。
副支店長が江古田支店に多田政則の所在を確認。
既にタイムカード押されていた。
多田正則はそのまま、江古田支店に戻りタイムカードを押すと
再びバイクにて日本橋事務所に向かっていたのだ。
直ちに数名の職員と支店を出る。
副支店長と私は事務所内で待機。
副支店長に職員から電話が入る。
銀座通りの三越本店前をバイクで向かうのを発見。
多田正則はバイクを逆走して逃亡したと連絡。
暫くして事務所ビル非常階段を駆け上がり
6階事務所に現れた。
荒い呼吸で玄関に立つ。
副支店長が叫ぶ。
「何をするのか」
多田が言おうとするのを制止
居合わせた支店職員が捕まえた。
支店に連行。
私はデザイナー女性とビッグサイトで開催
されるギフトショーの会議のため
新橋からゆりかもめに乗車。
車内で知らない電話番号が鳴る。
ONにすると横領犯多田政則の声。
直ちに切る。
何故　多田政則が電話できるのか？
後に判明したのは、芝信用金庫本店内一室で
取り調べ中に多田政則が一人になった時
室内外線電話でかけたのだ。
何とも凄い執念。
しかし、一見おとなしそうな多田が練りに練った
巧妙な犯罪。
被害者を抱き込み加害者にする。
認知症の夫と寝た切りの老夫婦を助ける為だと
一心に同情心を煽り、老夫婦の預金を引き出す。
これ程、卑劣で邪悪な犯罪はない。
その状況を同期の警視庁警視に連絡する。
警視は言った。
「奴は精神錯乱状態であるから
何をしでかすか分からん
お前を口封じで殺す可能性もあった」
ところで、どうすると尋ねた」
私は言った。
そちらの警察署で事件として取り扱いを頼んだ。
私が事務所へ戻っていれば
殺されたかもしれない
その大学同期は剣道部で
体育会執行部委員長であった
警視庁に勤めるのを知って
「なんでだよ」訊ねた。
民間企業落ちたから
「5体満足であれば警視庁に入れた」
自虐的に笑って言った。
今から33年前
六本木でヤクザ同士の抗争事件があった。
正午、撃たれたヤクザが地下の焼肉店に逃げ込んだ。
当時、警部補であった同期は部下二人を伴い
瀕死のヤクザを後ろに睨み合いをした。
当時テレビ報道が現場を生中継
警視庁ヘリコプター、テレビ局ヘリが旋回
六本木は非常線が張られた。
生中継だ。
記憶がある。
凄いことが事件が起きているのだ。
警察官とヤクザが撃鉄を起こし
夕闇まで緊張が続く。
射撃する。
最後は投降する。
その主役をしたのが同期であったのを後に知った。
10年近く警部補で甘んじていたが
直ぐに警部に昇進。
その年の武勇でもあり有名警察官であった。
その事件の裏詳細は語れない。

余談だが、事件発生の連絡時
もう一人の警部補は、出前のラーメンを食べるので
同期が向かった。
出前ラーメンの警部補は昇進しなかった。
運命の交差点は、撃ち合いで殉職のあり得たが
後に管理官となる。
今も天下り先で元気だ。
続く


心のこり／石川さゆり　1979.9.3放送　演歌（東京12チャンネル）