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工芸品から医療までの用途が広がる「天然の接着剤」

2023-12-04 10:34:33 | その他
私は定年後高分子樹脂の研究をしており、接着剤に興味を持っていました。

接着剤は本当に様々な用途と性質が求められ、無数に存在しています。これらはすべて高分子ですが、その構造と特性にどのような関連があるか非常に興味深い事でした。残念ながら勤務した研究所では接着剤を研究できませんでしたが、是非やってみたい分野と言えます。

最近生物由来の素材による接着が注目されているようです。ここでは漆(うるし)の接着性能と、別の生物由来の接着剤であるニカワの研究について紹介します。

漆はウルシという落葉樹の幹を傷つけて、そこから染み出す樹液を集めたものです。主成分はウルシオールという樹脂分です。

もともとは液体ですが、ウルシオールに含まれるラッカーゼという酵素が働き、吸気中の水分から取り込んだ酸素とウルシオールの酸化反応によってウルシオールが高分子樹脂に変化します。

このように複数の分子が結合して分子量の大きな化合物を作ることを重合反応と呼び、それによって液体だった漆が硬化します。例えば陶磁器の接着はこの反応を利用します。陶磁器は内部に細かい穴を多く含む多孔性物質で、漆を塗ると表面に出た小さな穴に液体状の漆が入り込みます。

時間が経つと漆は固まり、ミクロなレベルで破片と漆が物理的に食い込み接着されます。漆を使った接着や補修では、漆が乾燥することで破損部分をしっかりと固定・補填します。

一般的に「乾燥」と言えば高温・低湿の環境下で進むものですが、漆の場合は高湿度(60〜80%)と一定温度(20〜30℃)である必要があり、温度が40℃を超えると乾かなくなります。

次がニカワですがこれも古くから絵画をはじめ建造物や工芸品、楽器などを接着するのに使用されてきました。動物の皮や骨、爪を煮だした液体を分離、冷却、乾燥させて作ります。水につけて溶かして使う接着剤として、長く利用されてきました。

高温では液体のように振舞う一方で低温になるとゲル状になる性質を使い、漆と同じように物理的に接着させます。近年このニカワを精製して純度を上げたゼラチンを使った医療用接着剤の開発が進められています。

医療用接着剤とは外科手術において血管の破れや臓器に空いた穴をふさぐために使われるもので、その肝となるのがスケソウダラの皮から抽出したゼラチンです。

以上漆とニカワについて紹介しましたが、こういった生物由来の接着剤は生体と馴染みがよく、安価であることもメリットのようです。

高分子樹脂の研究も進んでいますが、こういった生物由来の接着剤も可能性は計り知れないと言えるのかもしれません。


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