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レニン阻害剤の開発と挫折

2018-03-01 10:47:04 | 化学
少し前にオピオイド受容体の活性型立体構造を解明したという記事を紹介しましたが、目的とする受容体の構造が分かってから、それに結合する化合物を見つけるのは大変な時間がかかります。

これをコンピュータグラフィックで成功したのが、レニン阻害剤という降圧剤です。その前に私のような有機化学者は、どうやって作る化合物の構造を決めるのか、いわゆるドラックデザインに少し触れます。

私が現役だった30年前には、ターゲットとする受容体や酵素の立体構造など全く分かりませんでした。研究の開始時に何の情報もないことは少なく、例えば微生物の生産物に弱い活性が出たとか、既存の薬剤に関して独自の情報が見つかったとか、なんらかの手がかりがあって始めることになります。

それでも最初は手探りの状態で、類似したような化合物を10~20作り、その活性がどうなるかの結果を見るわけです。これで少しでも活性が出るものが見つかれば、それを基本骨格として研究を進めます。

その後は基本骨格の一部を変えたり、大きくしたり小さくしたりと変化を進めていき、それによって活性がどうなるのかを検証します。これを構造活性相間と呼びますが、どこをどう変えるかは研究者のセンスにかかっているわけです。

当然こうやって新しい化合物を作っていきますので、運というか予期せぬこともよく起きてきます。

私の忘れられない思い出としては、ある薬剤を探索しているとき、比較的良い活性の物が見つかりました。これをさらに強めるためには、系統だった化合物を作る必要があり、何種類かの候補を考えました。ところがそのうちの一つが合成が難しく、うまく作ることができませんでした。色々回り道をすれば出来そうだったのですが、一つの化合物に何か月もかかるようでは、探索研究になりません。

そこで予定していた構造ではないのですが、それと類似の少し違った化合物を作りました。ところがその化合物が非常に強い活性を示し、それまでの100倍も強くなったのです。

この薬剤は残念ながら実用化まで行きませんでしたが、いわば偶然作った化合物が驚くほど優れた結果を出すなどと言うこともありました。このように科学者がいろいろ考えて設計していっても、なかなか目標とする活性にたどり着くのは難しくなっています。

本題のレニン阻害剤の話を書くつもりでしたが、前置きが長くなってしまいました。当時は画期的である、コンピュータグラフィックスを用いた薬剤設計をしたレニン阻害剤の話は次に紹介することにします。

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