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酵素・微生物の有機化学への利用 その3

2018-07-30 10:44:41 | 化学
前回、凍結乾燥したり固定化した酵素や、パン酵母などの菌体が有機溶媒中でも活性を発揮し、いわば通常の有機化学の触媒と同じように使えるということを書きました。

これによって非常に多くの化合物を酵素でどんな反応が起きるかを簡単に検証することができるようになりました。前回書きましたがこれがいわば流行りの学問となり、非常に多くの大学や企業でこういった研究が活発になったわけです。

しかしこれは研究者の興味を引き、酵素触媒でどんな反応が生じるかを調べることで終わっていました。

私は企業研究者ですので、こういった反応が企業化できるかも当然研究していたわけです。その結果前回最後に書きましたように、採算が取れるような反応を見つけるのは非常に難しい事でした。

一つが反応濃度の問題です。酵素というのは反応点に基質(原料)が入り、そこで目的とする反応が起きると生成物が離れるということを繰り返しています。この時濃度が高いと当然生成物も増えてきますので、基質の代わりに生成物が入るようになります。そうすると反応はほぼそこで止まってしまうのです。

これを生成物阻害と呼んでいますが、これが起きない程度の濃度で反応させることになると、通常の化学反応の何倍も薄い条件となってしまいます。その他大量の酵素を使うためのコストなどもかかり、現実的なプラントとすることが難しいことが分かりました。

ところがこの時期に面白い仕事が出てきました。医薬品を開発するためには、動物に投与して代謝物なども調べるのですが、それがどういうものかを詳しく調べなければいけなくなってきたのです。

ところがこの動物の代謝というのは、大部分が水酸化というOHを入れるのですが、これが化学的には非常に難しい部位に入るのです。そこで動物の酵素で反応が進行するのならば、微生物にも同じような酵素があるのではないかということで、微生物のスクリーニングをやってみました。

すると細菌や放線菌、酵母類はあまりそういった能力はなかったのですが、ある種のカビが動物の代謝物を作ることが分かりました。この過程で動物代謝物中にあるのに少量過ぎて構造確認ができないようなものもできてきて、開発グループから大いに感謝されました。

この様に私の興味も医薬品の微生物変換という方向に変わっていったわけです。こういった医薬品を水酸化するカビというのを集めておき、新しい薬剤の依頼が来ても比較的早く対処できるようになりました。

この微生物変換というのが、こういった方面の私の最後の研究となりましたが、医薬開発支援研究としてなかなか面白い仕事ができたと思っています。


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