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ブタの心臓移植の事例からの医療倫理

2022-03-08 10:31:50 | 健康・医療
このブログでも簡単に取り上げましたが、アメリカでブタの心臓を移植する「異種移植」が1月7日に行われました。

現在でもこの心臓は機能しているようですが、ここでは異種移植の問題を考えてみます。今回の移植は、救命のための緊急避難の実験的治療であり、あくまでピンチヒッターの「中継ぎ」という位置付けのようです。

再度の手術が必要であり、脳死者を提供者とする心臓移植を待つ状態であることは変わりはありません。今後こうした異種移植の技術が安定して来れば、重度の心臓病はブタの心臓の移植で治療することが一般的になるかもしれません。

ブタの心臓弁はすでに心臓弁膜症の治療に広く使われいますので、可能性はあるのかもしれません。しかしブタの臓器の移植というと何となくためらうような気になりますが、医療倫理という程の問題ではないような気もします。

異種移植を可能にしたのは、2010年代に入って加速度的に広がった遺伝子編集技術です。このブタは通常の遺伝子に10個の遺伝子改変を組み込んでいます。4つのブタの遺伝子を壊して活動できなくしたうえで、6つの人間の遺伝子を新たに組み込んでいます。

人間の免疫による拒絶反応を抑えること、ブタが持っているレトロウイルスを活性化させないこと、心臓がそれ以上成長しないようにすることなどを目的とした遺伝子編集となっています。

臓器移植が一般に実用化され始めたのが1960年代で、このころから異種移植の実験も開始されました。当時チンパンジーの腎臓を末期の腎臓病患者に移植した結果、患者の生存期間は9カ月だったという報告があります。

以後動物からの移植は種の壁のによる強い拒絶反応のため実用化されず廃れていましたが、この数年遺伝子編集のおかげで異種移植の研究は盛んになっています。

ブタからサルなどの霊長類への異種移植の実験の成功が積み重ねられ、いよいよ人間の患者への応用段階に入ったのが現状です。

実際に異種移植研究が進んでいるのは腎臓移植で、脳死者によるテストまで終了していますが、これは透析医療というオプションがあるためハードルが高くなっているようです。

実際に移植用の臓器を販売しようとする企業も出ているようですが、今回の心臓移植のように救命という緊急性がない場合は、なかなか異種移植に踏み出すことはできないようです。

ここで医療倫理の問題などはないと思われますが、実用化の域まで進んでいるブタの腎臓移植が実行されていないのはまだまだ異種移植に対する患者と医療側に抵抗があるのかもしれません。

重い心臓病などで臓器提供を待っている患者に対しては、救命という観点で異種移植の整備を進めても良い時期になっているような気もします。


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