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国際関係研究の最新の動向

2014年09月02日 | 研究活動
今日は、ある研究会で読んだ学術図書を紹介します。Bear F. Braumoeller, The Great Powers and the International System (New York: Cambridge University Press, 2012)です。同書は、ISA(国際学学会)の2014年度最優秀学術図書賞を受賞しています。



『大国と国際システム』は、国際関係研究の最近の方向性をよく示しているようです。第1に、国際関係研究において定量的手法と定性的手法の両方を使うということです。このような傾向は既存のIR研究でも示されており、本書でも、第3章が定量分析、第4章が定性分析に充てられています。第2に、同書から、理論研究にける「主義(ism)」の後退が、進んでいる印象を持ちました。著者のブラウメラー(と読むのでしょうか)氏曰く、「理論というものは、いかなる単一のパラダイム、あるいは『~主義』とも関係ない」(同書、XVページ)ということです。

私が思うに、この『大国と国際システム』が最も評価された理由の1つは、著者が仮説・検証にとどまらず、新しい「システム理論」の構築に挑戦したことです。ブラウメラーの主張のポイントは、市民(個人レベル)と国家(国内政治レベル)、そして国際システム(システムレベル)の相互作用を理論化することにあります(29-43ページ)。これを彼は「入れ子政治モデル」(21ページ)と呼んでいます。詳しくは、同書の第2章を読んでください。著者が、それに成功しているかどうかは、これから厳格に評価されることになるでしょう。

『大国と国際システム』は、分析レベルを統合するグランドセオリーを構築しようと試みた、久しぶりの本格的な国際関係研究だと思います。