あまでうす日記

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岩井寛口述・松岡正剛構成「生と死の境界線」を読んで

2024-08-29 11:34:43 | Weblog

 

照る日曇る日 第2099回

 

著者は1931年に生まれ、美学から転じて精神医学を学んだ医師、学者、思想家であったが、ガンに冒され1986年に55年の生涯を閉じた。

 

本書は、迫りくる最後の瞬間を迎え、生と死のはざまにあって自己を凝視し、「生きるという意味の実現」に賭けた一人の人間の魂のドキュメンタリーである。

 

これまで私もいくつもの闘病記や末期の記録文集を読んだが、これほど壮絶な人間ドラマを目にしたのは初めてのことで、全身を襲う猛烈な痛みと恐怖の中で、生きることの意味を問い続ける不撓不屈の精神のありように無類の感銘を受けた。

 

ここには岩井寛という人間の全てが開陳されていると思われるが、その生涯最期の委託を全身全霊で受け止め、このように貴重な記録を遺し得た松岡正剛という人物も、またなく立派な振舞いだったと思うのである。

 

その言動のあれやこれやを引用する気力も余裕もなくて申し訳ないが、岩井氏が語った戦争中の中学2年の折の体験が忘れがたい。

 

当時下丸子の工場で戦車を造っていた彼が、満員電車に飛び乗ったら、同じ工場で働いていた絣のモンペで三つ編みの大好きな女の子と隣り合わせ、顔中が熱くなる。

 

自分の恋心を震えながら噛みしめていると、彼女の三つ編みが、彼の肩にかかって2匹のシラミが移って来たので、彼はそれを大切にマッチ箱の中へしまったが、家に帰ると逃げてしまったようでいなかった。

 

それから4、5日後、ギャーという物凄い悲鳴が上がったので、駆けつけてみると、腕を無くして真っ青な顔をした女の子が、血だらけで担架で運ばれていったが、結局その初恋の人は死んでしまったという。

 

「風速が60米で家倒壊」といつものようにテレビが脅す 蝶人

 


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