蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op. 270
第12回 結婚披露宴来賓挨拶、新婦の恩師の挨拶
但馬幸弘さん、野本ひろみさん、この度は本当におめでとうございます。
*1さて皆さま多分ご存知ないかと思いますが、実は新婦には杵屋麦秋というもう一つの名前がございまして、押しも押されぬ立派な三味線の名取りです。
申し遅れましたが、私はひろみさんに稽古をつけさせていただいております杵屋夕雪と申します。
ひろみさんが初めて麻布十番の稽古場を訪ねて下すったのは彼女が大学1年の春のことでした。恐ろしいものでして、初心者が三味線に触れて最初に音を出した瞬間に、その方がどこまで伸びるかおよそ分かりますが、ひろみさんは非常に筋が良く、その上とても練習熱心でそれこそ雨の日も風の日も通ってこられました。
「かぞえうた」、「黒髪」から始まったお稽古はいつのまにか5年を数え、3年前に“麦秋”を襲名されまして、今ではわが一門の切り札的存在となられました。それから、新郎幸弘さんとの出会いも、何を隠そうわが家のお稽古場でありまして、ペアで「新曲浦島」を演奏された折に、なにやら鋭い愛のインスピレーションがお二人の間を行き交ったらしいんですね、私は現場にいあわせなかったのでその辺は良く把握できなかったのですけれども。
それからは、ちょくちょく二人で合わせ物をなさるようになり、それが
*2琴瑟相和すと申しましょうか、ごいっしょになられる前から夫唱婦随の絶妙なアンサンブルでございました。
*3さて、ここでにわかにCMを入れさせて頂きますが、実はひろみさんが来月国立劇場の発表会にて「仮名手本忠臣蔵」の名曲「二つ巴」を独奏されることになりましたのでどうぞ皆様ふるってお出かけください。
見事本懐を遂げた四十七士たちが昇る朝日とともに高輪泉岳寺に凱旋を遂げ、新郎の幸弘さんたちが♪「名は末生まで高輪へ、苔なめらかに残すいしぶみ」と高らかに歌い上げる
有名なクライマックスを、ひろみさんがどのような見事な撥(ばち)さばきで盛り上げてくださるか、いまから胸をわくわくさせております。
*3それから余計な事ですが、新婦の新郎への鮮やかな撥さばきにつきましても師匠の私が請合います。どうか結婚されてからもこの共通の趣味をいかされて打てば響く素敵なハーモニーを末長く絶やさぬようにお願いいたしまして、私の拙いお祝いの言葉とさせて頂きます。
○アドバイス
1) よく新郎新婦のプライバシーを学生時代の友人があばくケースがあるが、これは絶対にやってはいけない。しかし予め関係者の了解を得た上で、スピーチの意外性を狙って、知られざるエピソードを紹介するのは差し支えない。この文例では最近若者の間でブームになりつつある古典芸能趣味の世界を取り扱う。杵屋は江戸長唄三味線の家名で宗家六左衛門家は貞享・元禄頃に始まった。
2) 琴はこと、瑟はおおごと。二つの楽器を弾じてその音色が良く合う。転じて夫婦間が仲良く睦まじいことのたとえ。少し古めかしい言葉だが、このようなケースではマッチしている。
3) あまりかしこまった席では一般的ではないが、ユーモアとウイットを挿入することでスピーチの情報性を豊かにし、バラエティの振幅をつける手法である。話者の人柄を嫌味なくあらわすことに成功している。
ほら見ろよ野党の質問を減らすとよあんたが投票した自民が 蝶人