あまでうす日記

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辻原登著「陥穽 陸奥宗光の青春」を読んで

2024-08-07 10:10:56 | Weblog

 

照る日曇る日 第2088回

 

明治時代の外務大臣として、部下の原敬と共に、米英など列強6か国との不平等条約の改正と領事裁判権の撤廃に取り組んだ陸奥宗光の青春時代を描く長編小説である。

 

陸奥がその短かった生涯の最晩年に、日清戦争の外交指導について、その実態を後世への遺書として書き残した「蹇蹇録」はつとに有名だが、維新政府で重きをなしたその同じ人物が、薩長、とりわけ大久保の有司専制を、西郷軍の蜂起とは別に、土佐の立志社&和歌山藩内の日本最強武装集団による協同クーデターで打倒しようと準備していたとはつゆ知らなかった。

 

著者によれば、この企ては、われらが主人公が、「理念の「現実性」と計画・手段の「非現実性」の間に穿たれた陥穽に真っ逆さまに墜落した」ことによって失敗し、陸奥は長きに亙って獄中生活を余儀なくされたそうだが、その間のベンサム翻訳などの沈潜と沈思が実を結び、明治天皇の反対を押し切った伊藤博文の推輓で政界の第一線に返り咲くや、誰もが知る獅子奮迅の大活躍で、ニッポン帝国の国威を大いに発揚することに成功したのであーる。

 

さはさりながら、日経新聞に垂れ流し的に長期連載されたと思しきこの小説は、作者の文体に個性も魅力もなく、時折主語が(父親なのか、息子の本人なのか?)が曖昧になったり、物語の時系列をみだりに捻転させることの弊害が甚だしく、到底一流のストーリーテラーの作品とは思えない。

 

かてて加えて、ノイバラの芳香やアーネスト・サトウの思い人が、眉目秀麗だった陸奥夫人だったとする「浪漫文学的虚構」も恥ずかしくなるほどわざとらしく、小説の結構から奇妙に浮き上がっているようなのだが、辻原先生、以て如何となすや?

 

太陽が真っ赤に殺してくれるやろキシダ、プーチン、ネタニヤフから逃げても 蝶人

コメント
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