♪ある晴れた日に 第55回
親子三人手と手を取り合い海辺の墓地に死すさながら西方浄土にあらずや
遥かなるインドエローラ、アジャンター石窟から渡来したり鎌倉のやぐら
坊やさあいらっしゃいとたばら蟹のごとき両肢で僕の下半身を絡めとる高樹のぶ子
もしかすると大衆革命成就するやと一瞬妄想した日もありしが
少年にして少女のかんばせカルジャが撮りし17歳のランボー
われのことを豚児と書かれし日もありきもいちど豚児と呼ばれたし
真夜中の携帯が待ち受けている冥界からの便り母上の声
新幹線ではビュフェでカレーがいいよと教えてくれしおじもビュフェも今はなし
春の朝甲本ヒロトシャウトせり人には優しく
洛北の北白川なる重度しょうぐあい施設湯船を埋めし黄色い雲古かな
我が風呂にゆらゆら浮かぶしょうぐあい者殿のうんちのかけらは愛しきものかな
青池さんより頂戴せし土佐文旦残り3個となる惜しみて食べられず
土佐文旦手に持てばわが失いしもの程の重さかな
息をしていないよと叫ぶ妻に驚きて飛び起きし朝もありき
吾のため子のため母のためたった7年で地球を2周せしカローラの妻
北海のとどろに寄せる荒波の彼方に聳える白亜の孤峰
言葉だけで築かれた遥かな弧城に一人の女王が棲んでいました
隣席にどさり腰かけ携帯す若き身空でニコチンにおう
金はないのに無茶苦茶に無駄遣いしたくなる
月並みの俳句を詠みて月並みの男となりにけり
己の屁の臭い嗅ぐああ生きているな
懐かしき人死して鶯さわに鳴く
春三月わたしの園を荒らすのは誰だ
千葉県で太陽に向かって吠える男
コブシとハクモクレンの見分けがつかぬ男かな
蛇のような棒か棒のような蛇か
いつも物見の上にいる鷹のやうに
―ある回想
夢の中でKに会った。Kは言った。W大闘争を総括してみろ。
俺は答えた。あれはスポーツだったよ。
夢の中でWに会った。俺は言った。
貴様は俺をリストラしたうえ会社を目茶目茶にしてしまったな。
Wは怯えた目をして走り去った。
にんげんは過去のしがらみからはどうしても逃げられないものである。
♪新宿ビックカメラで60円で売れたCD-RWうれしいやら悲しいやら 茫洋