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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

岡本太郎著「今日の芸術」を読んで

2021-11-30 13:18:32 | Weblog

 

照る日曇る日第1675回

 

1954年に書かれた伝説の名著が、おなじ光文社から復刊されました。

 

芸術は絶対に新しくなければならない、とか、「新しい」といわれればもう新しくないとか、芸術は自己回復のよろこびであるから、すべての人に解放されている、とか、芸術は「いやったらしいもの」で、「ここちよくあってはいけない」、とか、芸術は「きれい」であったり「うまく」あってはならない、とか、絵はだれでも描けるし、描かねばならない、とか、いろいろためになることが列挙してありまする。

 

最後の第6章「われわれの土台はどうか」、では芸術と芸事の違いを指摘し、なんじゅねん経っても変わらないわれわれ日本人の「謙譲の美徳」「しおらしい卑屈さ」「らしくあること」を徹底的に攻撃し、古い自分と古い伝統にしがみつくわれわれの無責任をはげしく指弾しているずら。

 

          野球終わり相撲終わりて霜月尽 蝶人


カラヤン指揮「KARAJAN70」を聴いて

2021-11-29 10:57:37 | Weblog

音楽千夜一夜第488回

 

名人カラヤンの管弦楽曲を録音年代別に収録した88枚組のCDをやっとこさっとこ聴き終えたずら。

 

誰のどんな曲でも彼がベリリンフィルで演奏すれば、並みの指揮者以上の仕上がりになるのは知れたことだが、世界各国の国歌まで2枚組で録音しているのには驚くというよりウンザリしてしまう。

 

しかし仕事中毒の彼は、マーラーの大曲を録れるのと同じ労力を、それらの小曲にも注ぎ込んだことが感じ取れるのである。

 

シェーンベルクやベルクなどの新ウイーン楽派やR.シュトラウスも結構だが、チャイコフスキーの交響曲全集などを、「さすがカラヤン!」と呟きながら、楽しく聴いた。 

 

 もう一度呼んで呉れるのを待っている「お父さあーん、ご飯だよおー」 楮人

 


2つの「水原紫苑歌集」を読んで

2021-11-28 10:46:41 | Weblog

照る日曇る日第1673、74回

 

1)「びあんか、うたうら」

颯爽とデビューを飾った第1歌集は、やはり只者の仕業とは思えない光彩陸離たる出来栄えである。

 

「光線をおんがくのごと聴き分くるけものか良夜眼とぢゐる」で始まり、「すれちがふ風は元雅、能果てて内耳のごとき廊下ありけり」で終わる歌集だが、彼女の本領は、たとえば「汚名また美しきかな江青はいかなるひびきの河にありしや」のごとき現実と幻想が程よく融合した作品にあるのだろう。

 

2)「えぴすとれー」

2017年の第9歌集で、古今東西の玉石を自在に散りばめて天空を飛翔する華麗な言語空間は、師の春日井建よりも塚本邦雄の世界に近似する。

 

美辞麗句のファンタジーの展開に食傷する向きも多いだろうが、例えば「梨の實がすきとほる夜を永世中立爪先立ちて希ふひとはや」とか、「たとへなき暗愚の男を戴きてくれなゐ病めり大和言の葉」のような、その独自の美形に時事ネタを果敢に取り込んだ2物衝突のスパークが、おしゃれでシックである。

 

しゃあけんど頻出する「犬妻」とは何やねん?

 

 「30年経てば日本はこう変わる」なんてふ記事を読み飛ばしけり 蝶人


東京で3つの展覧会をみて~蝶人物見遊山記第336回

2021-11-27 09:43:43 | Weblog

 

コロナを懼れて上京を避けていたおらっちだったが、諸般の事情で3つの展覧会を速足で駆け巡ったのであった。

 

1)新宿伊勢丹のセイ・ハシモト新作絵画展

 

リーマン時代の上司が毎年このデパートで開催している個展で、例によって「巴里の細道」を描いたパステル画、油彩、版画がずらりと並んでいる。

 

昔から熱烈なファンが多いとみえて、初日の午前中に訪れたのに、早くも数点が売約済みになっていた。

 

ハシモト画伯はモンマントルにアトリエを構えておられるが、「コロナでなかなか現地に行けず、しかも家賃は払わなればならないので大変だ」と洩らされていた。

 

なお本展は6階アートギャラリで今月11月30日まで好評開催中。

 

2)東京芸大陳列館+正木記念館の「ゆうれいたちのソウマトウ」展

 

この度退官される芸大の小山穂太郎教授の研究室(油画科)主催の展覧会である。

 

同窓のメンバーが思い思いの作品を出品していて退屈しないが、次男も最近一部で俄かに有名になってきた雑巾画の連作(雑巾大学)を出展しているので、纏めて見物する。誰かが評していたが、妙に哀愁が漂う作品である。

 

なお本展は本日土曜日27日まで侘びしく開催ちう。

 

3)都美術館でゴッホ展(響きあうヘレーネとフィンセント)

 

オランダのクレラー・ミュラー美術館にあるゴッホの作品を中心にした68点をざっと見物した。

 

2,3の有名作品は別にして全体してはどことなく落ち穂拾いのようなこぶりコレクションの印象は避けられない。

 

しかしゴッホの厚塗りはなかなか激烈で、わが岸田劉生にもけして引けをとらないことが確認できただけでも、わざわざ鎌倉くんだりから出撃してきた甲斐はあったずら。

 

なお本展は来る12月12日まで同館で開催中。

 

    ワクチンを3回接種する国とまだ1回目も打ち終わらない国 蝶人

 


西暦2021年霜月蝶人映画劇場その2

2021-11-26 10:20:37 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2689~98

 

1)蔵原惟繕監督の「憎いあンちくしょう」

1962年、浅岡ルリ子、裕次郎主演の本邦初の青春ロードムービー。この頃の浅岡選手は可愛かったなあ。

 

2)ピーター・ファレリー監督の「グリーンブック」

黒人のピアニストを乗せて南部を旅するイタリア系移民の白人が主人公という取り合わせが面白いが、それが実話だというから驚く2018年の秀作。ラストで思わず落雷じゃない、落涙します。

 

3)チャールズ・ヴィダー監督の「ギルダ」

伝説のファムファタール、リタ・ヘイワース主演の1946年の伝説のカルトムービー。2転三転してグレンフォードとハッピーエンドになるのは意外の感があるが、アニタ・エリスが歌う "Put the Blame on Mame"の妖艶さに魅了されない男性はいないだろう。

 

4)セバスティアン・レリオ監督の「ナチュラルウーマン」

元男性の主人公と愛しあっていた男性が急死したために起る様々な悲劇と相克を描く2017年のトランスジェンダー映画で、ダニエラ・ベガが熱演。

 

5)リチャード・ドナー監督の「オーメン」

1976年グレゴリー・ペック主演のオカルト映画。ウィキによれば撮影2か月前に息子が拳銃自殺を遂げていたそうだが、そうと知ってみれば、なお陰翳を増す。

 

6)加藤泰監督の「炎の城」

シェークスピアの「ハムレット」を時代劇に翻案した1960年の佳作なり。大河内傳次郎と高峰三枝子、そして大川橋三の配役がぴたりと決まった。

 

7)大林宣彦監督の「花筐」

壇一雄の原作と佐賀県唐津がインスパイアした2017年の大林美学の結晶ここにあり。唐津くんちのおじいさん、品川徹の長科白に感嘆。

 

8)リチャード・ブルックス監督の「ロード・ジム」

1965年にピーター・オートゥール主演で再映画化。遭難船を見捨てて逃亡したトラウマは最期まで祟るものだ。若き日の伊丹一三にも注目。

 

9)フィル・カールソン監督の「サイレンサー 沈黙部隊」

ディーン・マーチン主演で007をコミカルに真似してみた1966年のお色気ムンムン国際謀略サスペンス映画。セクスイー女優がわんさと出るところだけがいい。

 

10)ヘンリー・レヴィン監督の「サイレンサー殺人部隊」

1966年製作、ディーン・マーチン主演お色気偽007映画のシリーズ第2弾。アン=7マーグレットがいまいちずら。

 

  巨大なるアンテナ立てしコセキ家を尋ねてみたが誰もいない 蝶人


主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.93」

2021-11-25 10:12:37 | Weblog

 

蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第400回

 

○義父の古希を祝う嫁のスピーチ

お父さま、古希おめでとうございます。

 

お父さまは、昔から囲碁・将棋、ゴルフ、釣り、登山など、たくさんの趣味をお持ちですが、*1そこに突然新しいレパートリーが加わりました。それはなんと日本画です。

 

そして、素人のわたくしが申し上げても信用していただけないかも知れませんが、その日本画がとってもお上手なんです。ご専門の法律ではなく、最初から美術学校に進学されていたら、あの平山画伯よりも有名な絵描きさんになられたのではないかと、先日もお母さまと台所で内緒話をしておりましたがそれくらい素敵な作品なんですよ。*2

 

わたくし、来年のお母さまの還暦祝いを兼ねて『小町ギャラリー』で父の個展を計画しておりますので、どうか皆さま楽しみにしていてくださいね。でも、個展は作品がないとできませんので、お父さま、どうかそれまでに最低15枚の傑作を仕上げてくださいね。*3

 

モデルはお母さまとわたくしが破格の割安料金でご奉仕させていただきますので、遠慮なくご指名くださいませ。

 

○アドバイス

  • 1こういう場面では、遠くの親戚もやってくるので、近況報告を兼ねて、話者だけが知っているアップ・トゥー・デイトな話題を盛り込んでみよう。
  • 2義父だけではなく、同居している義母の存在と功績もあわせてクローズアップすると列席者の共感を呼ぶだろう。

3ちょっとしたジョークがスピーチを楽しくする

 

   司会者にミヤネ屋てふ奴がいて政権寄りの発言をする 蝶人

 


ヨシタケシンスケ作「あんなにあんなに」を読んで

2021-11-24 08:41:28 | Weblog

照る日曇る日第1669回

 

「あんなに「ほしがっていたのに、もうこんな」

「あんなにきれいにしたのに、もうこんな」

「あんなにわらっていたのに、もうこんな」

「あんなにないていたのに、もうこんな」

 

というふうにして、決め打ちのシェーマで最期まで押し通す頭でっかちの理屈っぽい絵本なり。

 

  一時間おきにトイレに行く我は正確無比の体内時計 蝶人

 


瀬戸内寂聴著「いのち」を読んで

2021-11-23 08:33:32 | Weblog

照る日曇る日第1668回

 

先頃99歳で亡くなった作者の「最後の長編小説」だというので手に取ってみました。

 

内容は主に河野多恵子と大庭みな子というビッグネームにまつわるあれやこれやで、知らない話が次々に飛び出してきて、面白いことは面白いのだが、これのどこが「小説」なのかさっぱり分からん。

 

2人の親友だった作者ならではの思い出話だから、むしろエッセイとか随筆というべきではないでしょうか。

他界してなお、なんとのう、なまぐさ坊主を思わせる寂聴はんであります。

 

    紫の花を尋ねて崖見れば竜胆見えず盗掘の穴 蝶人

 


横浜での2つの展覧会~蝶人物見遊山記第335回

2021-11-22 15:47:44 | Weblog

 

1)県立神奈川近代文学館で「樋口一葉展」をみて

 

次々に面白い出しものを繰りだして来る同館ですが、とうとう一葉をやってしまうというので、決死の覚悟で港の見える丘までやってまいりました。

 

わりとオーソドックスな展示で、一族の来歴から一葉の個人史までを実に丹念に辿り、小学の卒業証書、愛用の文机、笄や髪飾り、中島歌子の歌塾「萩の屋」メンバーとの交友、様々な作品の本原稿に到るまで、何ひとつ見逃せない代物ばかりが登場します。

 

特筆すべきは、彼女が生涯に亘って転々と移動した下宿や住居兼用の店舗、小説の舞台となった銘酒屋などを、精密に再現した小型模型で、なるほどここで彼女が最期を迎えたのかと嘆息しながら、奥の畳の間を覗きこんだりしたことでした。

 

無数というてもいいくらい数多い資料の中で目に付いたのは、妹の邦が清書した一葉の日記で、姉と違って夭折しなかった彼女のお陰で、これらの貴重なドキュメントが後世に遺されたのは不幸中の幸いでした。

 

それにしても一葉の真価と存在が世に知られるようになったのは、彼女の短い24歳6カ月の死の直前で、せめて天があと数年の寿命を彼女に与えてくれたならと、鴎外、露伴、孤蝶、緑雨共々今更ながら臍を噛んだ次第でした。なお本展は11月28日まで開催ちう。

 

 

2)大佛次郎記念館で「パリ・コミューン150年記念展」をみる

ドキュメンタリー小説の傑作「パリ燃ゆ」をあらわした大佛次郎らしい記念展です。普仏戦争の大混乱に乗じて巴里の無名の人々が決起したのは1871年でしたから、たしかに今年は150年目に当たるわけです。

 

大仏蘭西革命以来幾たびも決起しては弾圧され、また立ち上がってはバリケードを組む。そんな不屈の反権力意識が遺伝子の中に内蔵されているからこそ、仏蘭西はあの血なまぐさいラ・マルセイエーズを国家にして斉唱しているのでしょう。

なお本展は来る12月25日まで同館にて開催ちう。

 

     捨てられた白いマスクが列をなし鎌倉街道北上中 蝶人

 


加藤典洋著「9条の戦後史」を読んで

2021-11-21 10:07:54 | Weblog

照る日曇る日第1667回

 

本巻の最後で著者は、日米安保の解消とその対案、その対案実現のための戦略的方法として、憲法第9条を以下のように改定しようと呼びかける。

 

「9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 以上の決意を明確化するため、以下のごとく宣言する。日本が保持する陸海空軍その他の戦力は、その一部を後項に定める別組織として分離し、残りの平和維持活動や、国連憲章第47条による国連の直接指揮下における平和回復運動への参加以外には、発動しない。また国連憲章第7条のめざす体制の完成後、国の交戦権はこれを認めない。

3 前項で分離した軍隊組織を、国土防衛隊に編成し直し、日本の国際的に認められている国境に悪意をもって侵入するものに対する防衛の用にあてる。ただしこの防衛隊は、国民の自衛権の発動であることから、治安出動を禁じられる。平時は高度な専門性を備えた災害救助隊として、広く国内外の災害救援にあたるものとする。

4 今後、われわれ日本国民は、どのような様態のものであっても、核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず、使用しない。

5前4項の目的を達するため、今後、外国の軍事基地、軍隊、施設は、国内のいかなる場所においても許可しない。」(長すぎる引用終わり)

 

憲法第9条を最大に生かすための著者の提案のキモは、前著「戦後入門」と同様、‘国連とのつながりを回復する’という一点に尽きる。

 

既に死に体となった9条と国連を諸共に一挙に救済し、革命的な世界平和を実現しようではないかという超浪漫的にして殆ど実現不可能な、しかし唯一無二の現実的改定案を後世に遺して、加藤典洋は逝った。

 

政治の未来に暗黒と絶望しか展望できない現状にあって、それが蟷螂の斧を掲げて前進するドンキホーテの最後の姿と重なるのはやむを得ないが、著者はその栄光と悲惨を百も承知で死んでいったのである。

 

   外壁を薄いピンクに塗りし人寝られないほど悩んだであろう 蝶人


葉祥明著「ジェイクと海のなかまたち」を読んで

2021-11-20 11:02:39 | Weblog

照る日曇る日第1666回

 

犬のジェイクが、「もぐろう海へ!」とかいうて、海に飛び込んで、イルカやウミガメや、ジュゴンなどの仲間と遊ぶ環境大切絵本だがあ、あんなに長いこともぐっていれば、溺れ死んでしまうのではなかろうか?

 

         九十でノーベル賞を獲る翁 蝶人

 


葉祥明著「ジェイクのむぎわらぼうし」を読んで

2021-11-19 09:00:53 | Weblog

照る日曇る日第1665回

 

西條八十の「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?」を思わせるプロットで、作者が好きなNYのセントラルパークで犬のジェイクの麦わら帽子が空高く舞い上がる。

 

しかしなんで犬が帽子をかぶっているのだろう?

 

それにしても夏に失くした妻の黒い帽子は、どこへ飛んでいったのだろう?

 

      ミンミンを喧しと聴く力士哉 蝶人  


桐野夏生著「日没」を読んで

2021-11-18 09:39:44 | Weblog

照る日曇る日第1664回

 

昨今の阿呆馬鹿クレーマーや右翼、国家主義者などによる筆禍事件を危惧して書かれた憂国?小説であろう。

 

が、そもそも小説家である主人公が、「総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会」の呼び出しに応じて、呼び出し日にJR線C駅改札口に「出頭」するという出だしが、小説としてあり得ないよね。

 

いうたらなんやけど、耳くそほどのリアリテイもありゃしない。

従って普通の人なら後は読まないだろうが、それでも悲惨な結末まで書き続けた作家は、それなりの根性があるとはだけは言えるだろう。

 

  夕刊が2時半に来るとは早すぎる明日の朝刊と同じ記事なり 蝶人

 


サン=テグジュペリ作・内藤濯訳「星の王子さま」を読んで

2021-11-17 10:31:47 | Weblog

照る日曇る日第1663回

 

「なぞは、みんなおれがとくさ」という黄色い蛇とか、「砂漠が美しいのは、どこかに井戸を隠しているからだよ」、とか「家でも星でも砂漠でも、その美しいところは、目に見えないのさ」などと、金子みすか世阿弥の「秘すれば花」もたいなことをいわれても、別に驚くほどのことはない。

 

が、バオバブで覆われた小さな星の絵や弱い羊の、棘のある花、そして「1本の木が倒れでもするように、静かに他終えた倒れた王子さまの絵なんかを見ると、そこに秘められた妙に深い謎が潜んでいるような気がして来るから不思議だ。

 

つまり、サン=テグジュペリの絵は、この世で唯一無二の「へたうまのへた」絵なのであらあな。

 

   米国の番犬であるとは露知らず中韓の民にギャンギャン吼える 蝶人


主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.92」

2021-11-16 10:38:50 | Weblog

蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第399回

 

  • 喜寿のお祝いで本人のスピーチ

本日は私の数えで七十七の祝いに駆けつけていただき、まことに恐縮の至りであります。実は私は2年前に家内に先立たれまして一時は日々暗澹たる思いに閉ざされ、悲嘆に暮れて生きる気力を失ったのですが、*1

 

幸い同居しております息子夫婦はじめ、皆々様の暖かい励ましとお力添えによりまして、徐々に元気を取り戻すことができました。*2

 

やはり独り者の老人は、ほんのちょっとしたことで手ひどく落ち込んだり、ヒポコンデリーになってしまうものだなあ、と身にしみて分かりました。お医者さんからもらった睡眠薬を間違えて飲みすぎたりする危険が、孤老にはつきものなのです。

 

いやあちょっとクライ話になってしまいましたが、これはあくまでも一昔前の私の話なので勘弁してくださいね。*3

 

皆々様のお陰で現在は、喜寿ならぬ還暦くらいまで一気に若さを取り戻すことに成功いたしまして、毎日元気はつらつと過ごしておりますので、何卒ご休心ください。

 

さて最近の私は、鎌倉市のシルバークラブに加盟いたしまして、市内の名所旧跡の観光ガイドをボランティアでやっております。鎌倉はテレビドラマや雑誌などでしょっちゅう取り上げられていますので、耳にタコの方も大勢いらっしゃるかと思いますが、観光客が知らない穴場が実はまだまだいっぱいあるんです。私は、主にそういう穴場中心の私設観光コースを次々に開発?いたしました。

 

最初は散歩をかねて、家内といっしょに歩いていたのですが、あるとき「杉並歩こう会」の皆さんに即席ガイドをしましたら好評で、以後すっかり病み付きになってしまいました。現在は毎週金曜日に駅前でメンバーを募っていろんなコースへお客様を案内しています。

 

お客様といったって、そういう過去の歴史に興味のある年輩の同好の士をこっちが勝手に選んでごいっしょさせていただくわけですから気楽なものです。先週は藤原時代に創建された杉本観音から報国寺を経て岩殿寺にいたる3里の道を訪ねました。

 

この道は源頼朝と政子の娘乙姫が木曾義仲との恋に破れて病んだとき、頼朝政子の夫婦が毎晩娘の回復を願って参拝したといわれる古代からの巡礼路です。高度成長時代に開発に狂奔した業者が山全体を掘り崩してしまったため、この歴史的な街道が途中で絶たれてしまっているのがとても残念です。

 

その他私だけが知っている?特別コースが各種ございます。*4

 

今度皆さまが鎌倉見物にいらっしゃる折には遠慮なく声をかけてください。本日はご清聴まことにありがとうございました。

 

  • アドバイス
    • 1同居して世話になっている息子夫婦への感謝を盛り込む。
    • 2年を取れば病気にもなる。暗い話題も、それを克服したあとなら一場の笑い話として楽しんでもらえる。
    • 3スピーチを生かすのはちょっとしたユーモアである。自分も他人もエンジョイできるあいさつができたら一人前である。
    • 4ここでは配偶者なきあとの孤独と精神的な危機を脱した主人公の回復の軌跡が語られている。年令を感じさせない如才のないサービス精神で、なかなかユーモラスな結びとなっている。

 

       右翼共一味神水同心し一瀉千里に国を傾く 蝶人