あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

蝶人文月洋画劇場 

2019-07-31 11:42:15 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.2024~2028


1)ロバート・ゼメキス監督の「ザ・ウォーク」
今は亡きNYの貿易センタービルを綱渡る青年の冒険物語。踏破するまでの様々な苦労が偲ばれる。

2)ヘンリー・ハサウェイ監督の「サーカスの世界」
ジョン・ウェインとサーカスってと疑問符をつけながらみていたが、別れた恋人や娘とのしみじみした人情話を聞かされているうちに、こういう西部劇じゃないウェインもいいな、よ思わされてしまうハサウェイの名人芸。それにしても冒頭で沈没する船の沈没事故は凄い。あれでは大勢の死人が出たはずだ。

3)オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の「ヒトラー暗殺、13分の誤算」
2015年製作のすぐれたドイツ映画。暗殺はいけないことだが、もう少し爆発時間を早くセットしておけばと思わずにはおれない。それにしてもこの単独犯の自由で自立した主人公ゲオルク・エルザーの生き方はじつに見事なもので、いたく感銘を受けた。

4)クリント・イーストウッド監督の「チェンジリング」
2008年の製作の名人監督の秀作。アンジェリーナ・ジョリー主演の「取り替え子」の物語。そりゃあ自分の子ともが本物か偽物か実の母親なら分かるでしょう。生涯にわたって子を探し求めた母親の心根が哀れである。このテーマについては大江健三郎が小説で執拗に追及している。

5)ワリス・フセイン監督の「小さな恋のメロディ」
原作は「メロディ」。その名の女の子と男の子が相思相愛になって、未成年の学生ながらすぐに結婚したいと言いだし、仲間たちと挙式しているところに教師や親たちが乗り込んできて。という話だが、これはかなり革命的な要素がありますな。脚本のアラン・パーカーの仕掛けだね。


 天皇制の可否などについては誰一人言いだすこともなく親睦会閉じたり 蝶人
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蝶人文月邦画劇場 

2019-07-30 15:44:27 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.2022、2022、2023


1)中村義洋監督の「ジェネラル・ルージュの凱旋」

総合病院の経営と権力構造、複雑怪奇な人間模様を緊急救命センターの活躍を軸に描いた医学エンターテインメント映画の秀作なり。


2)黒澤明監督の「赤ひげ」

理想主義者の黒澤は、常に普遍的かつ絶対的な善悪と正義を描くが、それで良かった。こういう人物がいたからこそ、他の監督は単純ならざる視点から、善悪併せのむ相対的な映画を撮ることができたのである。


3)是枝裕和監督の「万引き家族」

ほんとの親がほんとの子供を虐待して殺してしまう世の中だから、じつの家族よりも寄せ集めの偽家族の方がむしろ「かぞく」らしいということは十分にありそうな話だ。中級の佳作だとは思うが、しかしカンヌのグランプリをかっさらうほどの傑作とは思えないずら。

  天皇制に触れたる歌の一首なく新聞歌壇は無難に推移す 蝶
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フラナリー・オコナー作品集「善人はなかなかいない」を読んで 

2019-07-28 13:23:39 | Weblog


照る日曇る日 第1282回


訳者の横山貞子氏が、オコナーの全短編集から抜粋した表題作と合わせた「強制追放者」「「森の景色」「家庭のやすらぎ」「よみがえりの日」の全5編を掲載。

そのほとんどで、殺人が起こる。他者への憎悪を清算する生の機械システムとしての殺人。まるでそれしか解決がないように、自然の道行としてそれが描かれている。


   一凶の巨悪に迫る一首なく新聞歌壇は身辺を雑記す 蝶人
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葉山美術館「柚木沙弥耶」展、「みえるもののむこう」展と表参道スパイラル「さとう三千魚」展について 

2019-07-27 13:01:14 | Weblog


蝶人物見遊山記 第313回

先週帰宅した息子と3人で久しぶりに葉山の美術館へ足を伸ばしましたら、ことしなんと97歳の染色家、柚木沙弥耶氏の「鳥獣戯画」をはじめとする型染布、絵本原画、立体作品などの力作をみせられてあっと驚きました。

御年97歳のことし製作された「鳥獣戯画」の自由と奔放にも圧倒されましたが、とりわけ2014年のアルシュ紙にモのタイプされたひまわりの5つの連作シリーズ(「ひまわりの花開け」「若いひまわり」「誇り高きひまわり」「去りゆくひまわり」「老いたひまわり」)は、まさに作家の人生そのものを象徴するような崇高な精神性にみちあふれ、かのゴッホの名作と並ぶ東西の最高傑作と申せましょう。
2018年に製作された「いのちの樹」「歓喜の歌」というタイトルを持ち、その名通りの光線を放射する巨大な型染もとても100歳目前の老人の作品とは思えず、その前に立って感嘆するほかはありませんでした。

9月8日までの同展には5名の若手女性作家による「みえるもののむこう」展も併催されていましたが、三嶽伊紗の動画をのぞいて私の心を騒がせる作品は皆無でした。

列島を台風が、関東地方を猛暑が襲った昨日26日は、夜7時から表参道のスパイラルビルで「浜風文庫」主宰者の詩人、さとう三千魚さんのトークイベント「自己に拘泥して60年が過ぎて詩を書いている」が開かれたので顔を出しました。

人柄通りにいかにも木訥な語りのなかに、詩人のこれまでの人世の歩みと詩への真摯な取り組みが滲み出ていましたが、「自分を裏切る言葉が出てくるまでは詩を書いたとはいえない」、「自分の中の自分が喜んでくれる詩を書けたかどうかが勝負である」といった片言隻句に大いなる刺激を受けたことでした。

  家壊す黒人の額に光る汗微笑みながら「コンニチハ」と言う 蝶人
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太平の逸民 

2019-07-25 18:31:38 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話op.315



わが帝国の領土である南洋諸島の視察出張から大宅壮一賞受賞のドキュメンタリー作家のヨシダと帰社してみると、高層ビルの最上階のオフィスの窓際の私の席がなかった。

ハシモト課長もマエ係長もワカバヤシもナガハラもヤジマも俺にはしらんぷりだ。

キリノなどは俺とすれすれに接近してきて、ぶつかる直前にツバメのように体をかわしてすりぬけていく。 なにかおかしい。まるで全員が透明人間のようだ。

窓から外を眺めると猛烈な嵐である。

このキャサリン台風の襲来のため、俺たちは現地の蛮人共の取材を中止して、マーチン社製の複葉機で帝都に帰来せざるをえなかったのだ。

おそらく風速40メートルを超える風雨のために、ビルジング全体がわなわなと震え、窓ガラスはジンジンと泣いている。

「ヤバイ。この調子では鉄骨を10本も手抜きしたこのビルは倒壊するのではないか」と俺は案じた。

そのときヨシダは、突然「ササキよお、おっらあ悪いけど、ちょっくら潜ってくっからな」というなり窓を押し開け、窓枠から垂らした縄梯子をましらのように伝ってするすると下界に降りてしまった。

いつのまにか真っ黒のウエットスーツに身を包み、アクアラングとシュノーケルをつけている。
ヨシダは岩礁からさっと身を躍らせるや大きな波頭が次々に押し寄せる嵐の太平洋に飛び込んだ。

高波に翻弄される芥子粒ほどの黒点を呆然として見下ろしていると、誰か私の名前を呼ぶ者がいる。

総務のサワダだった。サワダは、「みんな冷たいやつばっかりだな。ササキさん、僕が隣の総務の備品から椅子と机を運んでくるから、ちょ、ちょっと待っててくださいね」と言うなり、またしても窓を開けて外に出て行った。

ヨシダやサワダが超高層の窓を開けるたびに書類やノートパソコンまでが部屋の隅から墨まですっ飛んでいくのだが、みんなは平気な顔をして仕事を続けている。

やがてまた窓が開いて、サワダが大きなデスクを隣の部屋から窓伝いに空中をつたいながら運び入れようとした。

これはとても無理だ。たかが俺の机ひとつのために優秀な社員の生命を犠牲にすることはない。もしものことがあっってはいけない。

そう思った俺は必死で「サワダ、サワダ、机なんかもういいよ。俺は定年まで椅子も机もなくって構わないから、その危険な作業を早くやめてくれ。お願いだからみんなも止めてくれよ」と叫んだ。

しかしサワダときたら「大丈夫、大丈夫っすよ。まかしときなってなって」と空に向かってまるでクレーンのように鋭く突き出した巨大なイトーキの机の上にまたがって、うすら笑いさえ浮かべている…。

 「朝の会議、始めるよ」と、いつもクールなマエ係長が言った。


  大坂と錦織負ければマスコミはいと速やかに「全英」を去る 蝶人
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ある晴れた日に 

2019-07-24 14:32:05 | Weblog


これでも詩かよ 第265回

ある晴れた日に
私は遠いところへいくだろう
ギフチョウ タンポポ ホトトギス
滑川のカワセミやウナサブロウに別れを告げて

ある晴れた日に
私は遠いところへいくだろう
大好きな君たちやお世話になったみなさんに
深い感謝を捧げながら

ある晴れた日に
私は遠いところへいくだろう
まだいったことはないけれど
なぜだか懐かしいあの場所へ

ある晴れた日に
私は遠いところへいくだろう
たとえその日が土砂降りだろうと
私の心は青空だ

 「おはよう」と声を掛けても返事がない障害者を刺した植松被告 蝶人

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「なかがわりえこ作・おおむらゆりこ絵「ぐりとぐら」を読んで

2019-07-19 16:22:12 | Weblog


照る日曇る日 第1281回



巨大なたまごを見つけたのねずみの仲良し二人がカステラを作って森の仲間たちに御馳走して上げるお話しです。最後に2つに割れた卵の殻で2輌の車をつくって消えていくところが面白い。

  令和てふ上からの平和に黙々と従いながら死ぬゆく民草 蝶人
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大江健三郎著「大江健三郎全小説10」を読んで

2019-07-18 11:03:08 | Weblog


照る日曇る日 第1281回


「治療塔」「治療塔惑星」「二百年の子供」の3作を収録した本巻では、著者独特の文明批評的SF小説の腕の冴えが素晴らしい。

「治療塔」とその続編の「治療塔惑星」はいずれもが女性の語りによって進められる地球の近未来物語だが、角戦争によって汚染された地球を脱出し、新天地で新生活を切り開こうとする一握りのエリート層と、汚れた地球でそれなりの生活を維持しようとする大多数の民草との対比は、現在の地球でもその前期症状が散見されるではないか。

しかしエリートたちの大出発は失敗し、しばらくすると地球に帰還した宇宙船団は、残留民たちに対する支配体制を貫徹しようとして、古くて新しい階級闘争が展開されるのである。
けれども「古い地球」への帰還を拒んで「新しい地球」に残った人びともいた。彼らは「新しい地球」に存在していた「治療塔」を独占して孤独なゲリラ活動を継続している。

そうして新旧2つの地球に分散した2種の人類は、それぞれの環境で懸命に生き延びようとするのだが、物語の視点が近未来から遠未来に向かって伸びれば延びるほど作家の想像力は緻密かつ大胆にはばたき、恐ろしいほどのリアリティを獲得していくのである。

著者のゆいいつの新聞連載小説は、彼の3人の子供を思わせる3人組による幻想的童話で、作家がこれまでに創造してきた小説を舞台に、物語は時空を超えて未踏の新世界に向けて発射される。

3作を通じて言えることは、この作家はおおかたは身近な家族を素材にしながら、そこから射程を全社会、全人類、全宇宙へと拡大し、時空を超えた私小説でもあり全体小説でもあるような、新しい人が活躍する新しい小説を構想し続け、しかも驚いたことには部分的には成功を収めているということであり、それが彼の文学世界の谷崎や三島との決定的な違いであろう。

         丹波焼みたりで頒つ夏の夜 蝶人
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梅雨よ去れ! 夏よ来い! 

2019-07-17 11:04:26 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話op.314


去年の今頃は朝から太陽がかっと照りつけ、それこそ生命に危険なほどの暑さに七転八倒していたものだが、今年は打って変わった長梅雨で、洗濯の天日干しはおろか私の趣味の布団干しもできない。

植物の生育が遅れるので、野菜の値段が高騰しているが、動物や昆虫にもその影響が及んでいて、例年ならうるさいほど鳴くニイニイイゼミも声をひそめて、まだ幼虫のまま樹木の地下系にしがみついて気気温が上昇するのを待っている。

今朝ゴミを捨てに外に出たら、ツバメが電線にずらりと並んで雨が上がるのを待っていた。こんな梅雨空に飛ぶ殊勝な昆虫は少ないから、いくら遠方まで羽根を伸ばしても、育ち盛りの子燕が口を開いて待ち望んでいる餌はなかなか見つからない。

子燕の成長が遅れると彼らの命がけの遠洋航海にも大きな障害が出てくることだろう。
参院選で自公が敗れ、いつものような夏空が戻ってほしいものだ。


  復興に五輪は役に立つのだろうか 考えているうちに大臣辞める 蝶人
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自由律詩歌 その44 

2019-07-16 10:26:29 | Weblog


ある晴れた日に 第572回


ほこほこほこ

ほさほさほさ

ほしほしほし

ほすほすほす

ほせほせほせ

ほそほそほそ

ほたほたほた

ほちほちほち

ほつほつほつ

ほてほてほて

ほとほとほと

ほなほなほな

ほにほにほに

ほぬほぬほぬ

ほねほねほね

ほのほのほの

ほはほはほは

ほひほひほひ

ほふほふほふ

ほへほへほへ

ほほほほほほ

ほまほまほま

ほみほみほみ

ほむほむほむ

ほめほめほめ

ほもほもほも

ほやほやほや

ほゆほゆほゆ

 天人倶に許さざる罪我にあり腹に収めて煉獄に落つ 蝶人
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蝶人梅雨時映画劇場 

2019-07-15 10:30:10 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.2012~2016


1)リチャード・グラツァー監督の「アリスのままで」
若年性アルツハイマーに襲われた女性のありのままを描きつくした障害物映画の傑作。リチャード・グラツァー監督自身がALSの患者ゆえにワンカット、ワンカットに切実な思いが籠っている。

2)バズ・キューブリック監督の「ハンター」
実在した犯罪者ハンターの物語。1980年製作のこの映画をみると元気溌剌なのに、これがアスベストと関連したガンで50歳死んだガスティーヴ・マックイーンの遺作となってしまった。残念。

3)ロバート・ワイズ監督の「傷だらけの栄光」
NYのならず者ロッキー・グラジアノがなんとか更生して世界チャンピオンになるまでを名匠が描く。当初j.デイーンが演じることになっていた主役を急死で代役にたったポール・ニューマンが素晴らしい。そしてその妻に扮する、39歳で夭折したピア・アンジェリの美しいこと!

4)アラン・レネ監督の「24時間の情事」
ナチ占領下のヌヴェールでドイツ兵を愛して郷里から追放されたエマニュエル・リヴァが広島を訪れ、建築家の岡田英次と24時間愛し合うが、お互い妻子持ちだし、それぞれの人世があるので、どうしようもなくなる話。

5)デヴィッド・リーン監督の「ドクトル・ジバゴ」
ロシア革命に翻弄されながら波乱万丈の時代を生きる医師&詩人の物語で、みているうちに名匠リーンは、たった1篇の映画の中に一時代を封じ込めることに成功したのではないかという錯覚にとらわれる。はじめにバラライカがあり、最後にもバラライカがあって、
溢れ出ようとする感情をぐっと抑えたモーリス・ジャールの音楽が泣かせます。

  場所ごとに人気力士を取り上げて凋落力士は忘れるマスコミ 蝶人
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宮人芳男著「高尾山昆虫記」を読んで

2019-07-14 10:39:28 | Weblog


照る日曇る日 第1280回


内容は題名の通りで特に付け加えることも無い。

著者は写真家で、林野庁の「森林保護員」として高尾山周辺のパトロールを行っているというが、いい仕事だなあ。特にパトロールのあと森の中で昼寝をするらしい。こんな仕事でお金がもらえるなんて、夢のようだ。

ああ、うらやましい。


 厳重に梱包されたあの中に三種の神器がほんとにあるのか 蝶人
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家族の肖像~親子の対話その47

2019-07-13 13:38:07 | Weblog


ある晴れた日に 第571回


お父さん、明治はチョコレートでしょ?
ピンポン。では森永は?
チョコレート!
ブウウ。森永はキャラメルだよ。

お父さん、16はシクステイーンてしょ?
そうだよ。じゃあ17は?
セブンテイーン!
よく知ってるね。

お母さん、花ざかりって、なに?
花がいっぱい咲いていることよ。

お父さん、あなどっちゃ、だめだよね。
そうだよ、あなどっちゃ、だめだよ。

お母さん、受けとめる、は?
受ける、よ。

ヒコクニンって、なに?
罪を犯したかもしれない人よ。

お父さん、最近、は?
ついこの頃のことだよ。

お父さん、いけませんは、ダメなことでしょ?
そうだね。

お母さん、ぼくは綾部のおばあちゃん、好きだよ。
そう。

お母さん、タイミングって、なに?
ちょうどいいときよ。

迷路って、なに?
まよいみちよ。
グルグル廻る。グルグル廻る。

お母さん、ぼくピノキオ好きですよ。
そう、お母さんもよ。

お母さん、激励会って、なに?
元気でやってね、と励ます会よ。

殺虫剤、シュツ、シュツでしょ?
そうだね。
シュツ、シュツ、シュツ。

お母さん、非常口って、なに?
なにかあったときに逃げる道。

成人、はたちでしょ?
そうよ。

お母さん、ぼく鎌倉すきですお。
そう。

お母さん、成功って、なに?
とてもうまくいくことよ。

ゲームオーバーは、ゲームおわり、のことでしょう?
そうよ。

コウ君、ナナエちゃん、亡くなったんだって。
ナナエちゃん、どこで亡くなったの?
分からないけど、やすらかに亡くなったと思うよ。
ぼく、ナナエちゃん好きだよ。
お母さんもよ。

むかしは、以前、でしょ?
そうだね。

発車間際って、なに?
発車する前よ。

カドさん、どこでお仕事してたの?
国会図書館だよ。
国会図書館、どこにあるの?
東京の国会図書館だよ。
カドさん、引っ越したの?
したよ。

お母さん、知ってるはずって、なに?
知っているに違いない、よ。

コウ君、今夜は水炊きにしますか、それともオデンにしますか?
ぼく、オデンがいいですお。
そう。オデンには何を入れますか?
えーと、えーと、卵とお、ジャガイモとお、コンニャクですお。
分かりましたあ。

扁桃腺、どこ?
お口の中よ。コウ君、ノド痛いの?
痛くないですお。
そう? 大丈夫?
大丈夫ですお。

お母さん、「コロは屋根のうえ」お願いします。
はい。「みんなの歌」ですね。

平気は、大丈夫のこと?
そうだよ。

お母さん、交番って、なに?
お巡りさんがいるとこよ。

お父さん、ぼく目耕堂好きでしたよ。
お父さんも好きだったよ。あの本屋さん、どこにあったっけ?
芋川病院の下の1階にありましたよ。
そうだったねえ。

各店って、なに?
それぞれのお店、だよ。

わたし、ヨシダキョウコです。
ヨシダキョウコさん、ツメを切りましょう。
はい、分かりました。

蓮は白い花とかでしょう?
そうよ。

  本人の名前を呼ばず「You」などと呼びかける奴はやっぱり嫌いだ 蝶人
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辻和人詩集「ガバッと起きた」を読んで

2019-07-12 15:05:09 | Weblog


照る日曇る日 第1279回


私は鈴木志郎康という詩人から、「詩は自分が書きたいと思うことを自分が書きたいように書けばいいのだ」ということを教えられて目から鱗が落ち、生まれてはじめて詩を書くことの楽しさに目覚めたのだが、この作者は、自分が書きたいことを書きたいように書いて、詩の面白さと楽しさを自分だけではなく、それを読む人のすべてに分かち与えることに成功しているようだ。

むかし漱石が文学論でいうたように、文芸の面白さと楽しさは、「F(素材)+f(表現)」で成り立つが、この詩集はその両方共に面白い。

そもそも2011年の歳の暮れに突然結婚しようと思い立った当時47歳の作者が、年明けに結婚情報サービスで「婚活」をはじめ、そこでこの詩集のミューズと出会い、2013年3月に結婚し、その2年後に家を建てて新生活に突入するまでの日々。これが「F」というのだから全編の趣向が面白くないわけがない。

そしてこの天から降って来たおあつらえ向きの素材を、作者はユーモアと機知とオノマトペとメロディとリズムを駆使して、まるで喇叭を鳴らすように「演奏」する。

そう、作者の特技は、なんとラテンミュージックのトランペット奏者なのよ。
彼は18番の楽器を鳴らすように、この連作詩を即興的なラプソディー風に吹き鳴らす。だからこそ、その「f」のライブパフォーマンスの息吹が、私たち観客に臨場感をもって生き生きと伝わってくるのである。

しかし、その演奏があまりにも情緒過多で主情的に傾くことをおそれるほどに知的で冷静さも兼ね備える作者は、この魅力的な私小説物語をあえて戯画化するために、愛猫ファミちゃんとレドちゃんや「光線君」という愉快な第3者的存在の視線を有効に活用して、この私小説的極私詩の世界を重層化し、いやがうえにも光輝あらしめているのである。

「あとがき」を読むと、本書は作者のミューズによる厳格な検閲を経て上梓せられたようだが、作者の今後が与謝野晶子によって圧伏せられた鉄幹居士状態に陥らぬよう老婆心ながら祈念して筆を擱きたい。

 人口は日本全国で減りながら一部の都市にいそいそ流れる 蝶人
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ジャン・ド・ブリュノフ作/矢川澄子訳「さるのゼフィール」を読んで 

2019-07-11 11:16:33 | Weblog


照る日曇る日 第1278回

ブリュノフの最終作は、ぞうではなくさるのゼフィールの物語。夏休みにさるの国に里帰りしたゼフィールは魚釣りいって人魚を釣るが、この事件がきっかけとなって誘拐されていた王女を救出し、ゆくゆくは王子の地位が約束されることになる。

ブリュノフの筆はいつものように前向きで楽観的で、生きる喜びをまっしぐらに追及する。そしてそこに展開されていくグラフィックの世界の楽しさと豊かさ。

翻訳の矢川澄子の自筆による文も味わい深い。


  のど自慢の最後を締めるプロ歌手の唄のうまさを初めて知りぬ 蝶人

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