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あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.132」

2022-09-30 09:37:58 | Weblog

西暦2022年長月蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第419回

 

 

  • 文学賞受賞を祝う司会者のあいさつ

 

本日はご多用中のところ、海洋冒険社主催第1回ヘミングウェイ記念国際海洋文学賞の授賞式にご来臨の栄を賜りましてありがとうございます。*1

 

この文学賞は、21世紀の新しい海洋文学の創造を目的として、海洋冒険社が主催するインターナショナルな文学賞でございます。幸い『老人と海』の作家アーネスト・ヘミングウェイ氏のご遺族のご承認とご協力を得まして、審査にも加わっていただけることになりました。*2

 

さて、スチーブンソンの『宝島』、J.ヴェルヌの『15少年漂流記』、メルヴィルの『白鯨』、コンラッドの『台風』など、海外には幾多の傑作がありますが、わが国の海洋文学は、小林多喜二の『蟹工船』、葉山嘉樹の『海に生くる人々』などを除くとあまり作品に恵まれないようです。*3

 

しかし、わが国は米を主食とする内陸型の農耕民族と称されていますが、四方を海洋に取り囲まれ、漁労と航海と交易をもっぱらにする海民ネットワークの民族でもありました。

 

538年百済の聖明王から欽明天皇の御世にわが国に伝来したといわれる仏教も海からの渡来ですし、僧空海や日蓮も海民の流れを汲む文人宗教家でありました。

 

13世紀のはじめには鎌倉の3代将軍実朝が、大陸の文明国宋に渡ろうとして陳和卿に命じて唐船を造らせましたし、ポルトガル、スペインの宣教師が盛んに往来した安土桃山時代は、マルコ・ポーロやバスコ・ダ・ガマに始まる世界的な大航海時代の国内版でした。

 

信長、秀吉なきあと、国内を名実ともに統一した徳川家康が開いた江戸幕府は、2百数十年間続いた鎖国政策によってわが国のグローバル化と海洋文化を大きく後退させてしまった訳ですが、国内近海の物産・物流ネットワークを担った樽廻船、菱垣廻船は幕藩経済体制の一大動脈でありましたし、江戸末期には、ロシアと交流した高田屋嘉兵衛が活躍、大黒屋光太夫のロシア漂流記『北槎聞略』が生まれました。*4

 

今回受賞されました吉元司さんの作品は、幕末に紀伊半島の漁民がオーストラリアに航海していたという史実に基づく雄渾な海洋ドキュメンタリーであります。本作の登場によってわが国の海洋文学は、世界の桧舞台に躍り出たと申しても過言ではないでしょう。

 

吉元様、おめでとうございます。

 

  • アドバイス
    • 1いかなる文学賞であるかを列席者に説明する。とくにはじめて登場する賞の場合はできるだけくわしい解説が必要である。
    • 2賞の設立にいたる背景を述べる。確かに司会者がいうように日本の海洋文学にはあまり大きな実績と成果がないようである。
    • 3しかし仔細に点検すれば、古代以来わが国の海洋文学的バックグラウンドは連綿と継続していたと司会者は説く。またそれには網野善彦氏などの海民研究の成果が反映されていよう。
    • 第1回入賞者の作品が、日本海洋文学の欠落を埋め、その隠された輝かしい系譜を継ぐものであると指摘して司会者の文化論的なあいさつが終わる。

 

    桃色の芙蓉の花はことごとく首捻じ曲げて朝焼けを見る 蝶人


むらぎも

2022-09-29 14:02:26 | Weblog

これでも詩かよ 第303回

 

ある日、この国ではじめての国民投票が行われ、

その結果、日本国憲法第9条が、全面的に改定された。

 

もうその頃には、護憲派とかリベラル派の市民は、ただのひとりもいなくなっていたので、改定案は、思いがけない大差で承認されたのである。

 

ところが、そのビッグニュースを聞いたこの国の民草は、なぜか、彼ら自身にも意外なほどの大きな衝撃を受け、心臓にポカリと穴が開いたような喪失感から、長く立ち直ることができなかった。

 

あの日彼らは、みずからの手で、みずからの「村肝」を殺してしまったのである。

 

「シマダさーん、生きてますかあ?」と訊ねれば「生きてますよー」微かに答う 蝶人


主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.131」

2022-09-28 10:33:03 | Weblog

西暦2022年長月蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第418回

 

 

  • 文学賞受賞を祝う友人のスピーチ

 

雨宮重彦さん、*1

いやさ、雨ちゃん。宮川賞受賞ほんとうにおめでとう。

 

僕は、君が、いまを去る30年前、横浜の大桟橋からバイカル号に乗って世界放浪旅行に旅立って行った日のことを思い出しています。

 

君はシベリア鉄道に乗って、モスクワを経由してパリに入り、そこからスペインのマドリッドに飛んで、当時まだ生存していたフランコ総統の独裁政権を打倒するべく勇躍日本を出発したのでしたが、1975年フランコの死去によってその野望を果たすことはできませんでした。

 

その後、君は当時流行のヒッピーとなって世界各地を放浪し、80年代になって帰国。インドの聖地ベナレスでの宗教的体験を基にした小説『大河』など数多くの秀作を矢継ぎ早に発表し、文壇の注目を集めました。*2

 

それから苦節15年。あの金満と飽食のバブルの時代にも、巷の栄華を低く見て、純文学ひとすじに研鑚された結果、通算15冊目の小説『辛酸』によってついに念願の宮川賞を受賞されたのです。

 

おめでとう雨ちゃん。本当によくやったね。今日は朝まで飲み明かそう。

 

  • アドバイス

*1名誉ある文学賞を獲得した友人を称えるスピーチ。学生時代の印象的なエピソードを紹介して、作家の修行時代の面影を伝える。親友ならではの滑らかな口調である。

*2作家の生活は苦しい。世間が「豊かな生活」で潤っていた時代にも雨宮氏は食うや食わずで悪戦苦闘していたのである。最後のフレーズに真情がこもる。

 

  この国の民主主義をめちゃくちゃに破壊せし者凶弾に斃る 蝶人


ヤになっちまう

2022-09-27 09:25:49 | Weblog

これでも詩かよ 第302回

 

第1次世界大戦は、4年余り続いた

第2次世界大戦は、6年間続いた

ベトナム戦争は、20年近くも続いた

 

そこへいくと、ウクライナ戦争はまだ半年だが、いっこうに、終わりそうにもない

もしかすると、まだ休戦中の朝鮮戦争みたいに、半永久的に戦い続けるのではなかろうか?

 

でも、幸か不幸か、人間という動物は、ある日突然、すべてがヤになっちまう

ヤなことを、無理して続けていると

お勉強だって、お仕事だって、はじめはメラメラ燃え盛っていたあんたの恋だって

傍から誰がなんといおうと、すべてがヤになっちまう

 

戦さだって、同じこと

狂った専制君主から、「出て来る敵はみなみな殺せ!」と命じられ

武装した兵士のみならず、無辜の女子供まで虐殺していたら

いくら戦意旺盛な軍人でも、ある日突然、なあんもかんも、ヤになっちまうだろう

 

ウラジーミルも、ワロージャも

のぶいっちゃんも、ひとはるちゃんも

イデノトシコも、おらっちも

戦争がヤで、ヤで、死ぬよりヤになれば

戦争は、やっとこさっとこ、世界中から、消えて無くなる

 

かな?

 

  民主主義を破壊する政治家は殺されることもあると覚えよ 蝶人


長夜

2022-09-26 10:21:38 | Weblog

これでも詩かよ 第301回

 

毎年夏のおわりには、本邦最大級の当地の花火大会に行くことにしている

 

打ち上げ花火、仕掛け花火、水中花火

上から見るか、下から見るか、真ん中から見るか?

時々休んでカキ氷を食べるか?

 

ストーン、ストーン、ストトントン

ズドーン、ズドーン、ズドドンドン

 

花火を打つのは、誰のため

かあちゃんのためなら、エンヤコーラ

とうちゃんのためなら、エンヤコーラ

 

ストーン、ストーン、ストトントン

ズドーン、ズドーン、ズドドンドン

 

いろいろ手の込んだいろんな花火が打ち上げられるが

けっきょく「4尺煙火玉」1発ドンが一番いい

そう再確認するために、ここに来ているようなものだ

 

ところが、ことしは勝手が違った

花火師の花火の代わりに、自衛隊員が、ミサイルを撃ち上げているのだ

それも「敵基地を叩く」と鳴り物入りの、最新型の極超高速ミサイルだ

 

ズドン、ズダーン、ウンポコペン

 

まず1発目は、日本海を越えて北朝鮮沖に!

 

ズドン、ズダーン、ウンポコペン

ズドン、ズダーン、ウンポコペン

 

2発目は、津軽海峡を越えてロシアが占有する北方領土へ!

 

ズドン、ズダーン、ウンポコペン

ズドン、ズダーン、ウンポコペン

ズドン、ズダーン、ウンポコペン

 

そして3発目は、なんと台湾海峡を越えて、中国軍基地の傍らに!

 

ミサイル撃つのは、誰のため

御国のためなら、エンヤコーラ

陛下のためなら、エンヤコーラ

 

くわばら、くわばら、花火大会も変わったものだ

日本の夏も、物凄いキンチョウの夏に変わったものだ

おらっち、ひどく疲れて、帰りの列車に乗ったのよ

 

  大相撲を見るたびすぐに思うことナトリのつまみを食べたこと無し 蝶人

 


蝶人長月映画劇場その5

2022-09-25 08:55:44 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3029~33

 

1)アニエス・ヴァルダ監督の「ラ・ポワント・クールト」

アニエス・ヴァルダの1954年の長篇デビュー作。フリップ・ノワレが出て離婚寸前の夫婦が取りやめる話だが、さっぱり面白くない。

 

2)オータム・デ・ワイルド監督の「エマ」

最新版2020年の英国映画で、お馴染みジェーン・オーステインの世界をこころゆくまで楽しむことができます。

 

3)レオン・カラックス監督の「ホーリー・モーターズ」

映画についての映画、すなわちメタ映画というより、メタ人間のメタメタ映像、とでもいうべきだろう。たかが映画の癖にあまり偉そうにするな。

 

4)ルイス・ブニュエル監督の「銀河」

1969年のキリストとキリスト教について考えみるゆとする面白い宗教ロード映画。

 

5)サラ・ポーリー監督の「アウェイ・フロム・ハー」

アリス・マンローの短編をジュリー・クリスティ主演で2006年に映画化。認知症になった施設の妻をじっと見守る夫の姿に打たれる。

 

  いつどこで何が起こるか分からぬが奈良の都で息絶えるとは 蝶人


主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.130」

2022-09-24 08:50:20 | Weblog

西暦2022年長月蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第417回

 

  • 市民野球大会優勝祝賀会の来賓の祝辞

 

ひとことお祝いを述べさせていただきます。峰山市市会議員の富田雄二でございます。*1

 

スポーツといえばやっぱり野球であります。海の彼方ではイチロー、佐々木、野茂から最近の大谷選手まで、日本選手が大リーグで大活躍いたしておりますが、なんといってもアメリカは遠い。

 

私の自宅から5分の峰山球場で、血沸き肉躍る市民野球を朝から夕方までエンジョイすることができたのは、本日参加された皆様のおかげであります。*2

 

そして今日、栄えある優勝を飾られました「ゴーストバスターズ」チームの監督、選手、コーチの皆さん、ほんとうにおめでとうございました。最後9回2死満塁の大ピンチをよくきりぬけられましたね。準優勝の「サンダーバード」以下五チームの健闘も見事でした。*3

 

私は甲子園を見るたびに思うのですが、野球は最後に勝つのは1チームです。残りは必ず負ける。従っていかに見事に負けるかを知るのが野球と人生の極意だと思うのであります。今日鮮やかに負けた敗者チームに絶大な拍手を送らせて頂きたいと思います。

 

  • アドバイス
    • 1歯切れよく、畳み掛けるように語を継ぐ様はスポーティで野球大会祝賀会の雰囲気にぴったりである。日米野球を軽妙に対比させている。
    • 2優勝、準優勝チームを褒める。
    • 3それ以外のチームを褒める。確かに、甲子園は勝つことのみを目指しているように見えるが、実際は高校生が人生における負け方を学ぶ絶好のチャンスなのである。

 

    元宰相が2発目の凶弾に斃れた日庭の金魚に2回餌をやる 蝶人


さようなら ありがとう 志郎康さん!

2022-09-23 09:05:18 | Weblog

 

これでも詩かよ 第300回

 

この夏も、多くの死がありました。

 

8月には妹が昇天し、9月に入るとゴダールが自死したというので嘆いていると、15日には思いもかけぬ詩人の訃報に接したので、大きな衝撃を受けたのでした。

 

鈴木志郎康という人は、私が心から敬愛し、師と仰いだ、たった一人の詩人でした。

 

でも、志郎康さんには、たった一度しか会ったことは無い。

その後も会おうと思えば機会はあったのですが、余りにも鮮烈だったその記憶を大事にするために、あえて会おうとはしなかったのです。

 

太いパイプをくわえ、度の強そうな眼鏡をかけ、仏陀のように温厚な顔立ちをしたその人は、私の顔をじっと見つめると、開口一番、「私が思った通りの人だった」と仰ったので、私は驚きながらも、ちょっと嬉しかったのです。

 

私の詩を読んで、私という人間について興味を抱き、いちど実物を見てやろうと思いたった詩人は、その目の前の現物が想像通りの人間だったので、まるで千里眼の手相見のように喜んでいるのでした。

 

それまで私は、有名な大詩人の、有名な詩を読んでも、ちっとも心が動かされず、ほんのちょっとでも面白いと思ったことがなかった。だから詩なんてつまらないと思い込んでいたのです。

 

ところが私は、プアプアなどのスズキ詩に初めて出会った時、「ああこれが詩だ。これこそが本物の詩なんだ」と、生まれて初めて思ったのです。

頭で思ったのではない。腹の底から、いわば臓腑の認識として、分かったのでした。

 

それで、詩とは自分の思いを、自分が思った通り自由に書いてもいいのだと、初めて得心した私が、その通りに書き殴ってみると、不思議なことに、詩だか、詩のようなものだか分からない代物が、どんどん書けてしまえたので、私は、思わず「ヤッホー!」と叫んだものでした。

 

喜んだ私は、それから無我夢中になって、来る日も来る日も、その詩のようなものを書き続けていると、驚いたことには、そんな私のシロウト詩に、志郎康さんはイイネを押してくれたので、私は一日中言い知れぬ喜びに浸ったのでした。

 

「帰玄」という短い詩を書いたときには、いつものイイネだけではなく、「これはなかなかの抒情詩ですね」というコメントまで下さったので、私は文字通り狂気乱舞したことを、生涯忘れることはないでしょう。

 

それは氏一流の詩の初心者への励ましであり、先輩としての人世の応援歌だったのです。

 

その励ましと応援歌を手渡しで受け取った私は、イイネのついた作品を集めて生まれて初めての詩集を編み、恩師の志郎康さんに読んでもらえる日が来るのを指折り数えて待ち望んでいた、その矢先の訃報でありました。

 

志郎康さんの殆ど最後の詩に、「赤ちゃん」という小品があります。

 

上の2人のお兄さんは両親の寝室に窓がなく、2年続きで暗闇の中で死んでしまったが、窓が作られた後で生まれた志郎康さんは、「光の中で生きのびることができた」というのです。

 

志郎康さんの悲報が届いた日、夜空に瞬く星の光を探しながら、私も志郎康さんにあやかって、光の中で生きのび、できるだけ長く詩を書くことができますように、と、しばし祈ったことでした。

 

さようなら ありがとう 志郎康さん!

 

 

   ※鈴木志郎康「赤ちゃん』
    https://beachwind-lib.net/?p=21235

 

   大いなる信仰の賜物か崇高の美に包まれし妹の顔 蝶人


ロレンス・スターン著・朱牟田夏雄訳「紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見下」を読んで

2022-09-22 12:37:57 | Weblog

照る日曇る日第1793回

 

上中2巻は「トリストラム・シャンディ」で御免を蒙ってきましたが、本書の正式のタイトルは「紳士トリストラム・シャンディの生涯と意見」という長ったらしいものでした。

 

それは18世紀後葉以降の西欧文学界ではどうだか知らないが、本邦では洒落たいいようと映ったと見えて、1941年の伊藤整の「得能五郎の生活と意見」を嚆矢として、最近では中井英夫、高橋源一郎、内田樹、鈴木一誌、鈴木正文などの面々がこの言い方をパクってきたようです。

 

しかしパクられたご本尊で主人公トリストラム・シャンディ選手が1人称で活躍を始めるのは、ようやくこの下巻からで、それは序詞に「こは作品よりの逸脱にあらず、作品そのものなり」という小プリニウスの文句を掲げていることからも察せられます。

 

「ほんじゃあ上下2巻はただの「逸脱」だったのかよ」、と文句の一つも言いたくなりますが、じっと我慢して読んでいくと、これは従前の英国ではなく、お仏蘭西が舞台になった一種の旅行記に変身していることが分かります。

 

まあそれはスターン自身の実体験を大好評の自作に反映させたのでしょうが、冒頭から終始暗い影が差している。

 

我らが主人公は、その生涯と意見を華々しく開陳する直前に、私がこないだオミクロン株に感染した時と同じような「悪い咳」に取りつかれ、次第に気力の衰えを感じながら、ようよう本巻を上梓した翌1768年、55歳に働き盛りにして哀れ泉下の人となってしまいます。

 

面白うてやがて悲しきは人世の常ですが、それでも抱腹絶倒の天下の奇書を未完ながらも後世に遺し、その後の小説のありようを先取りして世界中にばら撒いてくれたのは、せめてもの慰みといえるのではないでえしょうか。

 

  「国賊の国葬なんておかしいぞ」と国賊党の反逆児がいう 蝶人

 


蝶人長月映画劇場その4

2022-09-21 09:22:21 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3024~28

 

1)ジャームッシュ監督の「コーヒー&シガレッツ」

2003年に公開された11の短編からなるモノクロ・オムニバス映画だが、それほどの切れ味はない。

 

2)マイケル・ムーア監督の「シッコ」

2007年の公開のオシッコお映画。ではなく、突撃監督ムーアの保険医療のゴキュメンタリー映画。アメリカでは実現されなかった国民皆保険制度が、とっくの昔に実現されれいるカナダ、英仏、そしてキューバにまで足を伸ばすグローバルロードムービー。本邦も皆保険だが、他の先進国と違って完全無料ではない。これをみるとアメリカは民主主義だとえばっているが、最低医療さえ受けられない反民主の国だと分かる。

 

3)キング・ヴィダー監督の「北西の道」

英領北アメリカを舞台に、米人軍隊、仏、仏系インデアンらが入り乱れて戦う1940年のカラー映画。若き日のスペンサー・トレイシーがカッコいい。

 

4)ヒッチコック監督の「マンクスマン」

幼馴染みの三角関係がもたらす悲劇的な結末。1929年のヒッチ最後のサイレント映画なり。

 

5)パトリス・シェロー監督の「インティマシー 親密」

2001年の恋愛映画だが、見どころは本番性交シーンくらいとは情けない。

 

  万策の尽きし妹はホスピスで最後の時を迎え逝きたり 蝶人

 


山本周五郎「正雪記1」を読んで

2022-09-20 08:58:09 | Weblog

照る日曇る日第1792回

 

由井正雪を取り扱った大長篇小説の第1巻であるが、そのもったいぶった語り口となかなか話が前に進まないジャッグル構成には終始いらいらさせられる。

 

幕府に対して浪人を束ねて決起するはずの「慶安の変」の遥か手前で「天草の乱」に左袒したような、しないような所までが描かれているが、はなはだ切れ味が鈍く、やはり山本選手は短編に限るようであるなあ。

 

   国葬の殆どを占める説教とボーイソプラノの黄色い歌声 蝶人


本郷和人著「北条氏の時代」を読んで

2022-09-19 10:53:39 | Weblog

照る日曇る日第1791回

 

源氏3代と並みいる御家人たちを深謀遠慮と悪辣非道のゲバルトで圧殺の限りを尽くして関東武者の旗頭に成り上がった北条氏の興亡を、駆け足で描きおろし、というより語り下ろした、面白くて為になる1冊なり。

 

ろくでなしの時政、義時の2人については、特にどうということもないが、多くの類書が北条政子の偉大さ!を褒めちぎっているのと対照的に、割合クールな点が気に入ったずら。

 

面白くなるのは、そのあとの泰時、時頼以降で、それは無能な時宗、貞時、そして北条政権最後の執権高時の稿で最高潮に達する。

 

貞時治下の1285年11月の「霜月騒動」で、「後家人ファースト」を主導する成り上がりアクザ御内人、平頼綱が「統治派」リーダーの安達泰盛一族を殲滅した時点で、鎌倉幕府は終わっていた、と考える著者の洞察は鋭い。

 

また、こんな余話も出ていましたよ。

 

その平頼綱と共に自害したと伝える同時代の「醍醐寺日記」に出てくる左野佐衛門なる人物のモデルが、能で有名な「鉢の木」に登場する佐野源左衛門で、彼は破竹の勢いで領地を拡大していた安達一族に土地を奪われ、貧窮のどん底に暮らしていたのだが、たまたま訪れた時頼を、鉢植えの松梅桜を燃やして接待した因縁で、その土地を返還してもらい、その恩に感じて御内人となって、頭領の平頼綱に最後まで仕えたというのですよ。オモロイなあ。

 

  今までに経験をしたこともない台風が来たと気象庁がいう 蝶人


池上彰 佐藤優著「漂流 日本左翼史」を読んで

2022-09-18 09:00:31 | Weblog

照る日曇る日第1790回

 

「真説」「激動」に続く「漂流」という冠がついたシリーズ3冊目の本書には

「理想なき左派の混迷1972―2022」という副題がつけられている。現在激しく戦われているプーチンによるウクライナ侵略戦争までの視野に入れた左翼史なので、全3冊のうちもっともアップツーデイトにしてもっとも面白い。

 

「序章「漂流のはじまり」」、第1章「「あさま山荘」以後」、第2章「労働運動の時代」、第3章「労働運動の退潮と社会党の凋落」、第4章「国鉄解体とソ連崩壊」、終章「ポスト冷戦時代の左翼」という陣立てであるが、極左学生運動が崩壊した後に労働運動の未曽有の高揚が起こっているタイムラグ、ソ連崩壊による社会主義協会派と社会党そのものの没落、そしてもはやナショナリズムの波にのまれて階級意識と革命を放棄し、民族主義のの袋小路に追いつめられた27万人の大組織、共産党の混迷など、聞きどころは満載である。

 

「あとがき」で佐藤は今回のウクライナ戦争の進行とその収拾の在り方次第で、日本左翼の伝家の宝刀「絶対平和主義」の不滅の価値が再認識されるかも知れないと希望的観測を漏らしているが、そんな夢のまた夢が陽の目を見るかどうか、「大きな浪漫と物語」の復活を期して待ちたい。

 

   愛らしき王女を苛めた継母も死ねば童話の世界で眠る 蝶人


蝶人長月映画劇場その3

2022-09-17 13:24:01 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3019~23

 

1)ジュリアン・デュビビエ監督の「悪魔のようなあなた」

1967年のおふらんす映画で、悪魔はドロンかと思っていたらなんとセンターバーガーだっという実に下らない映画。いい監督の映画に出ると存在感がひきたつドロンだが、これは例外ずら。

 

2)ジョセフ・ロージー監督の「召使」

ハロルド・ピンターが脚本を書いて、ダーク・ボガードが演じる召使いをロージーが演出すればおういう素敵な名画が誕生するわけだ。1963年の英国映画。

 

3)チャールズ・クライトン監督の「ラベンダー・ヒル・モブ」

銀行員アレク・ギネスが玩具製作家たちと組んでやらかす金塊強奪事件だが、そんなに面白くはない1951年の英国製映画。

 

4)ピーター・ブルック監督の「雨のしのび逢い 6デイズ/7ナイツ」

デユラス原作の「モデラート・カンタービレ」を「注目すべき人々との出会い」の名匠が1960年に映画化。下らない作品ばかり描いているあのデユラスのネタを使い、同じく下らない映画にいっぱいでているジャンヌ・モローとベルモンドを使い倒して、名匠が驚くべき名作をつくった。絶望した女の腸を抉るような叫び声は二度と忘れられないだろう。

 

5)スタンリー・キューブリック監督の「Fear&Desire 恐怖と欲望」

1953年公開のキューブリック初の劇映画だが、栴檀は若葉より芳し。最前線の4人の兵士の戦争を扱って、さながら戦場にあるような生々しさを覚える。

 

      全国の視聴者たちが呆れつつ遠くから見るハチャメチャ朝ドラ 蝶人


宮柊二「定本宮柊二全歌集」を読んで

2022-09-16 09:56:50 | Weblog

照る日曇る日第1789回

 

昭和31年12月に東京創元社から刊行されたこの本は、それまでに発表された「群鶏」、「山西省」、「蒟駅の歌」「小紺珠」「晩夏」「「日本挽歌」の諸歌集に「群鶏」以前」の作品を加えたほぼ二千首からなり、昭和4年から28年に到る24年間に詠まれた作者自選集である。

 

宮柊二の師匠が北原白秋であることは知っていたが、白秋死後の師が釋迢空氏であることは山本健吉氏の解説ではじめて知った。しかし「美童天草四郎はいくさ敗れ死ぬきはもなほ美しかりしか」(「群鶏」)という殉教の歌に白秋調の抒情を看取することはできても、なぜ釋迢空なのかという疑いと不審の念は本編を読了してからも胸から消えなかった。

 

ところが改めて本書の巻頭を捲っていると、「謹呈大佛次郎先生 宮柊二」と達筆の草書で記された、時代がかった和紙が目に飛び込んできた。

 

私が借り出した本書は、なんと宮柊二が大佛次郎に恵贈したもので、それを遺族が図書課に寄贈したのだろう。色紙等でみる釋迢空そっくりの草書体をこの目でみた私は、「宮=釋を結ぶ絆ここにあり」と、はたと膝を打ったことであった。

 

それはともかく、本書の白眉はいうまでもなく「山西省」で、1939年以来5年間に亘って、大陸で中国兵と戦った作者は、その戦闘体験をいかにも生々しく歌っている。

 

 磧より夜をまぎれ来し敵兵の三人迄を迎へて刺せり

 ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば聲も立てなくくづをれて伏す

 息つめて闇に伏すとき雨あとの土踏む敵の跫音を傳ふ

 

作者の「後書」に、「私は少年のころ、畫家を志望した」と書かれていたが、自他の刹那の行動を、さながら「神の視点」より一撃のもとに把握し、再現する表現力に圧倒されないものはいないだろう。

 

「目はまなこである」とは言い古された格言であるが、さながら「現代只事歌の元祖」のような、この非凡なる動体視力が冴えわたる異様なまでの眼力は、もしかすると「天性の絵描きのまなこ」の所産なのかもしれない。

 

いずれにせよ宮柊二の激烈な戦争体験は、後続の「蒟駅の歌」「小紺珠」「晩夏」「「日本挽歌」などの歌集においても、時折地下の仕掛け花火のごとく炸裂するのであるが、1986年に「歌集 純黄」の代表歌「中国に兵なりし日の五ヶ年をしみじみと思ふ戦争は悪だ」において、その総括的達成を迎える。

 

さりながら、他の歌人あるいは大多数の日本人兵士と同様、「他国への侵略者としてのみずから」を詠う機会がついに訪れなかったことは、無い物ねだりとはいえ、この偉大な歌人のために甚だ惜しまれるのである。

 

    師と仰ぐ志郎康さんまで去っていくこんなに悲しい夏はないぞ 蝶人