碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

週刊新潮で、あさイチ新MC「近江友里恵アナ」についてコメント

2018年02月16日 | メディアでのコメント・論評


あさイチ新MC
「近江友里恵アナ」が挑む“K点”越え

NHK朝の情報番組「あさイチ」の平均視聴率はざっと12%。4月から有働由美子アナに代わり新MCに正式決定した近江友里恵(おうみゆりえ)アナには、さしずめこの数字が“K点”になる。

相方もイノッチから博多華丸・大吉の漫才コンビに引き継がれ、「あさイチ」はガラリ一新である。
2010年3月スタートから8年、朝の情報番組激戦区の中で築き上げた視聴率トップの座を、新たな3人はいかに守り切れるか。

「特に近江さんは局アナとしてかなりプレッシャーを感じているはずです。誰より真面目な性格ですから」

そう語るのは、女子アナウォッチャーの高島恒雄氏。

「脇汗をいじられても開き直り、更年期や不妊がテーマでも臆せずモノをいう有働さん。29歳の近江アナから見れば、入局27年目、48歳の彼女は大姉御。果して有働先輩を励みとできるか、重荷となるか……」

近江アナは、12年に早稲田大政経学部を卒業後NHKに入局。熊本、福岡放送局を経て16年から東京勤務。その年の4月には「ブラタモリ」のアシスタントに抜擢と、局内での期待の大きさが窺える。

上智大学教授(メディア文化論)の碓井広義氏はいう。

「『ブラタモリ』を見ていて感じるのは、前任者の桑子真帆アナなどと比べてどちらかというと“受身”のタイプ。でも興味あることには積極的な拘りを見せたり、素直さを感じさせてくれる。それが彼女の持ち味。博多弁で九州色の強い華丸・大吉の2人を相手に、彼女がどんな手綱さばきができるか、番組の成否のカギを握るように思います」


 愛称はドジっ子。オッチョコチョイな性格で、昨年よりキャスターを務める「おはよう日本」では、ブラウスの前と後ろを反対に着て出てしまったことも。

「それも“かわいい”との評判です。でも、そう捉えてくれるのはオジサンだけ。『あさイチ』の視聴者は圧倒的に女性です。あざといと思われないよう注意しなければなりません」(高島氏)

(週刊新潮 2018年2月22日号)

大学院入試の実施

2018年02月16日 | 大学
2018.02.15

毎日新聞で、吉本興行「動画配信」についてコメント

2018年02月15日 | メディアでのコメント・論評


トレンド観測
有料動画配信のオリジナル番組 
吉本興業が本腰


一昨年、又吉直樹さんの芥川賞受賞作「火花」の映像化を、米配信大手ネットフリックスと手がけて注目された吉本興業が、“本職”のお笑いでも、有料動画配信向けのオリジナル番組作りに力を入れている。アマゾン・プライム・ビデオの昨年の視聴者数(アマゾンランキング大賞2017)では、吉本興業が制作した番組がトップ10のうち4番組を占めた。

1位を獲得したのは「ドキュメンタル」。ダウンタウンの松本人志さんが審判役を務め、人気芸人10人が密室で互いを笑わせ合う。一昨年11月に始まった配信は現在シーズン4まで公開され、2、3作目もトップ10入りを果たした。笑わせ方に規制はなく、中には過激な行動に出る芸人もおり、冒頭には「一部不適切と感じられる場合」に了承を求めるテロップが流れる。3位に入った「戦闘車」は、芸人らが高級車をぶつけ合い戦う激しいアクションが売りだ。

「配信ならめちゃくちゃできるわけではないが、表現の自由度が上がるのは確か」と話すのは、デジタルコンテンツ事業を担当する神夏磯秀(かみがそしゅう)氏。スポンサーの意向や短時間の視聴率変動を気にせず、「1回ボタンを押せば基本的に最後まで見てもらえるので、しっかり構えて作ることができる」と話す。

自主規制が進み、テレビ番組が「窮屈になった」と評される昨今。上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は「『臆病なテレビ』に『大胆な動画』という対比で、『ネットでは面白いことをやっているらしい』という気配が漂い始めている」と指摘する。

  ■  ■

番組に所属タレントを出演させるだけでなく、制作にも早くから参加してきた吉本だが、これまでと異なるのは作品の著作権が手元に残ることだ

「火花」はネットフリックスでの配信後、NHKに販売。「ドキュメンタル」は、番組演出方法などのフォーマットを海外に輸出する準備を進める。関西のお笑い番組が見られる有料動画配信サービス「大阪チャンネル」ではサービス運営にも乗り出すなど、コンテンツを直接供給する手段を広げている。

「『わろてんか』(創業者の吉本せいをモチーフにしたNHK連続テレビ小説)の時代から、吉本にとって面白いものに木戸銭を払うのは当たり前。受け取り手とダイレクトにつながる動画配信事業は親和性が高いのでは」と碓井教授。

事業規模では依然テレビ部門が圧倒的に大きいという同社だが、今後も配信向けに多様なコンテンツを用意しているという。【山田夢留】

(毎日新聞 2018年1月27日)

書評した本: 新谷尚人 『バー「サンボア」の百年』ほか

2018年02月14日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。


新谷尚人 『バー「サンボア」の百年』
白水社 2160円

創業100年を迎える老舗バーの歴史だ。大阪、京都、東京に計14店。ただし支店ではなく、それぞれがサンボアだ。北新地と銀座、浅草で店を営む著者は、飲食店でもバーでもなく、サンボアを生業としていると言う。「バーは人格である」ことの証左かもしれない。


池内 紀 『記憶の海辺~一つの同時代史』
青土社 2592円

77歳のドイツ文学者が自らの軌跡を語る。10歳の朝鮮戦争に始まり、秀才校の劣等生だった高校時代、現地で体感した「プラハの春」、そして60歳で完成したカフカ個人訳まで。あえて「情緒や感傷は一切禁じた」ことで、重層的かつ魅力的な同時代史となった。


平山雄一 『明智小五郎回顧談』
ホーム社 2376円

明智小五郎、自身を語る。生い立ちから一高・帝大時代。後の乱歩、平井太郎との出会い。手がけた数々の事件と二十面相をめぐる驚きのエピソード。読めば明智の肉声が聞こえてくる。大胆かつ魅力的な試みである本書は、乱歩研究の第一人者にしか書けない小説だ。


島田雅彦 『深読み日本文学』
インターナショナル新書 907円

作家であり法政大教授である著者の近代文学講義だ。「自我の体系」を刻み込んだ夏目漱石。「少女文学の教祖」樋口一葉。欲望を作品に昇華した谷崎潤一郎。さらに内村鑑三や新渡戸稲造の日本論・日本人論などをテコに、逆境を生きる力としての文学を再起動する。

(週刊新潮 2018年2月1日号)

【気まぐれ写真館】 郊外の夕景

2018年02月14日 | 気まぐれ写真館
2018.02.13

書評した本: 石井光太 『43回の殺意~川崎中1男子生徒殺害事件の深層』

2018年02月13日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

なぜあの事件は起きたのか 
凄惨さに隠れた社会の危機

石井光太 
『43回の殺意
 ~川崎中1男子生徒殺害事件の深層』

双葉社 1620円

2015年2月20日の朝、その遺体は発見された。全裸で血まみれの少年だった。場所は神奈川県川崎市川崎区港町の多摩川河川敷だ。間もなく、被害者は中学1年生(当時13歳)の上村(うえむら)遼太君と判明した。

数日後に捕まった犯人は17歳から18歳の3人の少年だ。しかも遼太君の遊び仲間だった。彼らはカッターナイフで身体を何度も切りつけた上、裸で冷たい川の中に入らせた。さらに川から上がってきた遼太君を切り続け、最後は放置したのだ。死因は「出血性のショック」だった。

本書は、様々な出来事を細部まで見つめ直すことで、なぜこの凄惨な事件が起きたのかに迫るノンフィクションだ。著者は遺族を含む多くの人から話を聞きながら、この社会に日常的に横たわる危機を浮かび上がらせていく。

主犯格は日本人の父親とフィリピン人の母親を持つ少年だ。不登校児、下級生、アニメやゲームのオタクなどを集めてグループをつくり、その中心に君臨していた。強い不良たちから逃げ回る一方で、弱い相手には虚勢を張り、暴力をふるう。裁判では共感性の乏しさが指摘されたが、親との関係性にも問題があった。

また驚かされるのは2人の共犯少年のうちの1人だ。犯行現場でカッターを持ち出し、自身も遼太君を切っていた。にもかかわらず、裁判では「知らないっす」「やってない」などと言い出し、無罪を主張。もちろん最高裁は上告を棄却した。

それにしても、なぜ遼太君は彼らと親交を結び、たびたび暴行を受けながらも一緒にいたのか。著者の丁寧な取材によって見えてくるのは、彼もまた家庭や学校に自分の居場所がない少年だったことだ。被害者と加害者の双方が依存し合って形成していた「擬似家族」。

しかし、それは互いを理解しようとする意思がまったく見えない、悲しいほど空虚なコミュニティでもあった。事件の当事者たちが抱えていた闇は現代社会の闇につながっている。

(週刊新潮 2018年2月8日号)

【気まぐれ写真館】 夕陽と雲と富士山と

2018年02月13日 | 気まぐれ写真館


2018.02.12

フェイクをテコに家族、生き方問う「anone」

2018年02月11日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


週刊テレビ評
坂元裕二脚本「anone」 
フェイクをテコに家族、生き方問う

広瀬すず主演「anone(あのね)」(日本テレビ系)が、回を重ねるごとに面白くなっている。

主な登場人物は5人だ。アルバイトをしながら、ネットカフェで寝泊まりしている辻沢ハリカ(広瀬)。小さな印刷会社を経営していた夫と死別し、現在は法律事務所の事務員をしている林田亜乃音(田中裕子)。夫や息子のいる家を出て、アパートで1人暮らしをしている青羽るい子(小林聡美)。カレー屋をしていたが、医者からがんで余命半年と言われた持本舵(阿部サダヲ)。そして林田印刷所の元従業員で、今は弁当屋で働く中世古理市(瑛太)である。

亜乃音と理市はともかく、5人は元々無関係だった。ある日、亜乃音が印刷工場の床下に隠された、大量の1万円札を見つける。しかもそれは偽札だった。その「大金」がきっかけとなって、出会うはずのなかった彼らがつながっていく。これまでに少しずつ、それぞれの過去と現在がわかってきたが、まだまだ謎だらけだ。

脚本を書いたのは坂元裕二。松雪泰子主演「Mother」(2010年)、満島ひかり主演「Woman」(13年)に続く、「母性」をテーマとした3作目だ。しかし広瀬は当然のことながら松雪や満島のような「母親」そのものではない。無意識ながら母性を探し求める、いわば「さすらい人」だ。そして今回、キーワードとなっているのが「フェイク(偽物)」である。

このドラマには偽札だけでなくさまざまなフェイクが登場する。ハリカは森の中の家で、祖母(倍賞美津子)に可愛がられて暮らした記憶を持つ。しかし実際にはそこは施設であり、虐待を受けながら生きていたのだ。その記憶は自分の心を守るためのものだった。

亜乃音には自分が産んだ子ではないが、19歳で家出した娘、玲(江口のりこ)がいる。大事に育ててきた娘と離れてしまったことにこだわっている。また、るい子は夫や息子と心が通わない。高校時代に望まぬ妊娠をして、その時に生まれなかった娘の姿が見える。セーラー服を着た幻影と会話することで自分を保ってきたのだ。さらに妻子のいる理市も、玲と彼女の息子が住む部屋に通っている。彼にとっての家族とは何なのか。

「偽物」に目を向けることで、逆に「本物」とか、「本当」とされるものの意味が見えてくる。また「偽物」と呼ばれるものが持つ価値も浮かび上がってくる。それはフェイクニュースのような社会問題とは違い、個人にとっての価値や意味だ。現代の親と子、夫と妻、そして生き方そのものさえ、フェイクという視点から捉え直す。坂元裕二の野心作であるゆえんだ。

(毎日新聞 2018.02.08)

オリジナルストーリーで新機軸「アンナチュラル」

2018年02月09日 | 「北海道新聞」連載の放送時評


北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「アンナチュラル」 について書きました。


「アンナチュラル」
主演と脚本家がタッグ 
オリジナルストーリーで新機軸

ドラマのシナリオには2種類ある。一つが小説や漫画など原作があるもの。もう一つがオリジナルだ。本来、前者は「脚色」と呼ばれ、ゼロからストーリーを作り上げた「脚本」とは別扱いなのだが、日本のドラマではどちらも脚本と表示される。

野木亜紀子は、いま波に乗っている脚本家の一人だ。一昨年の「重版出来!」(TBS-HBC)、「逃げるは恥だが役に立つ」(同)で大ブレイクしたが、どちらも漫画が原作だった。そんな野木の新作が「アンナチュラル」(同)で、今回はオリジナル脚本だ。しかも主演は勢いのある石原さとみ。彼女が主人公を演じることを踏まえて書かれた、いわゆる「当て書き」の脚本となっている。

法医解剖医の三澄ミコト(石原)の勤務先は「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。警察や自治体が持ち込む遺体を解剖し、死因をつきとめる。科捜研の女ならぬ、UDIラボの女だ。警察官ではないから捜査権はない。ただし調査や検査を徹底的に行う。

第1話の案件は青年の突然死。警察の判断は「虚血性心疾患」(心不全)だったが、検査の結果、心臓には問題がなかった。薬物による急性腎不全の疑いが出てくるが、肝心の毒物が特定できない。そこに遺体の第1発見者で婚約者でもある女性が現れる。しかも彼女の仕事は劇薬毒物製品の開発だったが、この後に予想外の展開が待っていた。

さらに驚かされたのが第3話で、ほぼ全編が法廷劇になっていた。舞台となったのは主婦ブロガー殺人事件の裁判。ミコトは代理の証人として出廷する。被告は被害者の夫(温水洋一)で、妻から精神的に追い詰められたことが動機だという。しかしミコトは証拠である包丁が真の凶器ではないことを法廷で指摘する。被告もまた無実を主張しはじめた。

この回で出色だったのは、最初は検察側の証人として法廷に立ったミコトが、次の裁判では被告側の証人へと転じて検事(吹越満)と戦ったことだ。この意外性たっぷりな展開こそ野木脚本の成果だろう。何よりミステリー性とヒューマンのバランスが絶妙で、テンポは快調だが急ぎ過ぎない語り口が上手い。ま

た役者たちが脚本によく応えている。石原はパワーを自在に調節する堂々の座長ぶり。同僚の一匹狼型解剖医、中堂(井浦新)のキャラクターも際立つ。今後もミコトと中堂のコンビネーションが物語を動かしていくはずで、「不条理な死」を許さないプロたちを描く新感覚のサスペンスとして注目だ。

(北海道新聞 2018年02月06日)


「西郷どん」鈴木亮平の全力演技と脇役の存在感

2018年02月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評


「西郷どん」引っ張る
鈴木亮平の全力演技と脇役の存在感

大河ドラマ「西郷どん」が面白くなってきた。昨年放送の「おんな城主 直虎」と比べるのも酷だが、西郷を演じる鈴木亮平(34)のはつらつとした表情、セリフ、そして動きが断然気持ちいい。

鈴木は朝ドラ「花子とアン」の夫役で注目されたが、映画「HK変態仮面」で見せた、針が振り切れたような全力演技が印象に残る。「西郷どん」でも、気持ちが高揚した時に繰り出す“怒涛の寄り”など、肉体派の鈴木ならではのものだ。

そしてもう一人、このドラマを見るべきものにしているのが、島津斉彬役の渡辺謙(58)である。第4話で、父親の斉興(鹿賀丈史)に藩主の座から降りるよう迫った時、なんと弾を1発だけ込めたピストルでロシアンルーレットをやってみせた。さすが“世界のケン・ワタナベ”。画面の空気は一気に凝縮し、渡辺が完全に主役に見えた。

実はこの名場面、林真理子の原作小説「西郷どん!」にはない。脚本の中園ミホのオリジナルだ。こうした手練手管がズバリと決まれば決まるほど、ドラマは盛り上がる。

全体として男っぽい、男くさい大河だ。それだけに、西郷に思いを寄せる糸(黒木華)や後の篤姫である於一(北川景子)の出番には“ありがた感”がある。また西田敏行(70)のナレーションも大正解。悠揚迫らぬ調子にユーモアがブレンドされており、見る側をリラックスさせてくれるのだ。

(日刊ゲンダイ 2018.02.07)

【気まぐれ写真館】 本日も入試中

2018年02月08日 | 気まぐれ写真館




<謎の旅人>宮崎あおいさんの「転職」応援CM

2018年02月07日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(日経流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回は、宮崎あおいさん出演のマイナビCMについて書きました。


マイナビ「やりたいことはこれから」篇
宮崎さんの応援 一歩進む勇気に

現在の職場は4校の大学を含め8つ目となる。自慢じゃないけど、プチ転職王かもしれない。

転職に必要なのは「意志」と「縁」だ。意志は本人次第だが、縁は自分だけではどうにもならない。転職サイトも大いに活用すればいいと思う。

マイナビ転職の新作CMに登場したのは宮崎あおいさん。転職で迷っている人の前にふっと現れる謎の旅人だ。

確かに転職の決断は悩ましい。留まることで事態が好転するかもしれないし、移った先に望ましい未来が待っているとは限らないからだ。しかも他人に、ましてや同じ職場の人間に相談することは困難だ。誰もが一人で考えあぐねたりする。

そんなとき、宮崎さんが肩を抱いて、「いいと思う」と応援してくれたら。新しい生き方を選ぶ勇気、一歩前へ進む力もわいてくるというものだ。

CMのバックに流れるのは往年の名曲「オンリー・ユー」。君だけが僕の中に変化を起こすことができると歌っている。

(日経MJ 2018.02.04)


【気まぐれ写真館】 晴天 四谷から新宿方面

2018年02月07日 | 気まぐれ写真館


「倉本聰 ドラマへの遺言」 第17回

2018年02月06日 | 日刊ゲンダイ連載「倉本聰 ドラマへの遺言」


倉本聰 ドラマへの遺言 
第17回

映画は“ドラマ”だけど、
テレビは“チック”を描くのが神髄


倉本氏が人生初の帯ドラマに挑んだ「やすらぎの郷」(テレビ朝日系)。1話当たりの放送時間は通常ドラマの4分の1程度だった。

倉本 僕、コマーシャルを結構撮っているんですよ。コマーシャルは1本当たり15秒程度。フィルムは1秒が24コマなんですが、削りに削って短い時間の中で勝負する。だから15秒ではなく、もしも1分間与えてくれたら、さらに面白いものができるんだろうって考えていたので、この15分程度の尺はとてもやりがいがありました。

碓井 先生はその15分間で何を重視されたのですか。

倉本 昔、東横映画のマキノ光雄さんが、「この映画にはドラマがあってもチックがない」といった有名な話があるんですが、僕、この言葉がとっても印象に残っているんです。映画からテレビに移ったときに、映画は、〈ドラマ〉だけれど、テレビは、〈チック〉が大事だなって思った。〈ドラマチック〉って言葉がありますでしょう? テレビはむしろ〈チック〉のほう、細かなニュアンスを面白く描くのが神髄じゃないかなって。

碓井 それってテレビドラマは本線というかストーリーだけじゃなくて、一見物語とは無関係な寄り道みたいなシーンによって豊かなものになるということですか。

倉本 この世界に飛び込んだ当時、「構成力が弱い」と指摘されたことがあるんです。それで(黒沢明監督作品などの脚本を書いた)橋本忍さんや菊島隆三さんとかのシナリオをいったん書き写し、今度は時系列の起承転結に戻すみたいなことを繰り返して勉強した。そして見えてきたのが映画の〈ドラマ〉とテレビの〈チック〉でしたね。

碓井 ちなみに「やすらぎの郷」で代表的な〈チック〉のシーンは。

倉本 ミッキー・カーチスと山本圭と石坂浩二が海岸でしゃべるお馴染みのシーンがあったでしょう。まさにあそこは、〈チック〉。物語の進行にはさして影響がないシーンで、「死んだ女房にあの世で会うとき、ボケた女房がいいか、昔の女房がいいか」とかウダウダと話すだけ。

碓井 見ている側もつい自分に置き換えて考えてみたりして。視聴者の日常と地続きなんですよね。

倉本 テレビドラマでは、ああいうシーンこそ大事だと思っています。

碓井 「やすらぎの郷」のシナリオは倉本脚本の特徴である〈間(ま)〉という文字があまり書かれていません。あれだけの役者さんたちだから、脚本で細かく指示しなくても大丈夫だと思われたのでしょうか。

倉本 そういうわけではないですね。15分で〈間〉を多用したら尺が足りなくなり、結果、作品として成立しないだろうと思ったんですが、そのあたりは撮影台本としての未熟さであり反省点です。

碓井 この連載の中でも先生はアンソニー・ホプキンスやメリル・ストリープの名前を挙げて、声に出すセリフとは別の、表情やたたずまいが発するインナーボイスの重要性を強調していました。

倉本 日本にもインナーボイスのひとつである腹芸があります。言わなくても分かるっていうね。でも、いつのころからか軽んじられてきちゃいましたね。(つづく)

(聞き手・碓井広義)

▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。現在は、来年4月から1年間放送されるテレビ朝日開局60周年記念ドラマ「やすらぎの刻(とき)~道」を執筆中。

▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。



18回以降は、
以下の
日刊ゲンダイのサイトで
ご覧ください。

日刊ゲンダイ連載「倉本聰 ドラマへの遺言」




ドラマへの遺言 (新潮新書)
倉本聰、碓井広義
新潮社




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トークイベント

碓井広義「倉本聰のドラマ世界」を語る。

2019年4月13日 土曜日
18時開演(17時半開場)
表参道「本の場所」


完全予約制です。
申込みは、以下の「本の場所」へ。


本の場所




【気まぐれ写真館】 本学も入試ウイークに突入

2018年02月05日 | 気まぐれ写真館
2018.02.05