碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

「緊急取調室」 チームプレーの滋味が魅力

2017年05月21日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評



「緊急取調室」 
チームプレーの滋味が魅力

いきなり先月の話で恐縮だが、4月12日に放送された「天海祐希・石田ゆり子のスナックあけぼの橋」(フジテレビ系)が、いまだに忘れられない。天海がスナックのママで、石田がチイママという設定の単発バラエティーだ。2人が、客としてやって来た小栗旬、西島秀俊、田中哲司らから“ここだけの話”を引き出していた。

元々、お目当ては石田だった。「逃げ恥」はもちろん、最近のお酒のCMで見せる“ほどよいユルさ”もすてきだ。この番組でも、ネットに「ポンコツ」と書かれたことをネタに周囲を笑わせていた。

ところが、番組を見終わって印象に残っていたのは、石田ではなく天海だったのだ。ママという役どころを超えた客への気配りが見事で、それぞれとの関係を踏まえ、投げるボールの速さも角度も微調整している。事前に仕込んだ相手に関する情報も、カードの切り方が達者なのでわざとらしくない。結果的に小栗も西島も“素”かと思わせるほど自然に話していた。

さて、本題の「緊急取調室」(テレビ朝日系)である。刑事ドラマとしては一種の“変則技”だ。通常の刑事ドラマは犯人を追いかけ、逮捕するまでを見せる。それに対して、このドラマでは逮捕が始まりで、目の前にいる容疑者との勝負が描かれる。いかにして容疑者に犯行を認めさせるか(場合によっては真犯人ではないことを認めさせるか)という取調室での心理戦が見どころだ。

密室の中で向き合う容疑者と取調官。動きも少なく退屈しそうなのに、一気に見てしまう。それは事件の背後に隠された、金や欲や見えなど人間の業のようなものが徐々にあぶり出されていくからだ。脚本家・井上由美子の手腕である。

夫を憎む妻(酒井美紀)は、夫婦で犯した罪を隠蔽(いんぺい)するため、皮肉にも夫と協力し合う。また犯罪者の娘として生きてきた女性教師(矢田亜希子)は、長年抱えてきた社会への恨みを暴発させる。そんな容疑者たちに対し、天海をはじめ大杉漣、でんでん、小日向文世といったメンバーが、それぞれ得意の揺さぶりをかけるのだ。

たとえば昔ながらのあめとムチによる「北風と太陽」作戦。また突然「敵(取調官)が味方になる」ことで容疑者をかく乱したりもする。ただし、決してヒロイン1人が活躍するわけではない。あくまでもチームプレーの勝利だ。それがこのドラマに滋味を与えている。

天海は「スナック取調室」のママかもしれない。同僚の刑事たちは常連。容疑者はいちげんの客である。ママと常連たちが醸し出す空気に酔い、容疑者はつい素の自分(真相)を明かしてしまうのだ。

(毎日新聞 2017.05.19)

文化放送『くにまるジャパン極』の生放送で・・・

2017年05月19日 | テレビ・ラジオ・メディア


野村邦丸さん


見学のゼミ生たち












19日(金)、文化放送『くにまるジャパン極』にナマ出演します

2017年05月18日 | テレビ・ラジオ・メディア

番組の顔・野村邦丸さんと、名女房の鈴木純子さん


19日(金)の午前中、文化放送『くにまるジャパン極(きわみ)』に生出演します。

登場するのは「くにまるジャパン 極シアター」というゲストのトークコーナー。

なんと3部構成になっています。

 10:03~ 第1幕 
 10:35~ 第2幕 
 11:20~ 第3幕 


メインテーマは「テレビドラマ」の予定で、70~80年代から現在までのドラマについて、お話をさせていただきます。

生放送ですので、AM1134、FM916、radiko、radikoプレミアムなどで、ぜひお聴きください。


番組サイト:
http://www.joqr.co.jp/kiwami/


天海祐希主演「緊急取調室」は、チーム力の勝利が快感!?

2017年05月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、天海祐希主演「緊急取調室」について書きました。


テレビ朝日系「緊急取調室」
ヒロイン1人ではなく、チーム力による勝利

天海祐希主演「緊急取調室」は、いわば刑事ドラマの“変化球”だ。通常、刑事ドラマは犯人を追いかけ、逮捕するまでを描く。それに対して、このドラマは容疑者との勝負がテーマだ。いかにして容疑者に犯行を認めさせるかという取調室での心理戦である。

容疑者と取調官が密室の中で向き合う。動きも少なく退屈するかと思いきや、一気に見てしまう牽引力がある。それは事件の背後に隠された、金や欲や見栄など人間の業のようなものが炙り出されていくからで、井上由美子の脚本の冴えだ。

夫を憎む妻(酒井美紀)が、夫婦で犯した犯罪を隠蔽するために夫と協力し合う皮肉。また犯罪者の娘として生きてきた女性教師(矢田亜希子)が抱える社会への恨み。そんな容疑者たちに対し、天海祐希をはじめ大杉蓮、でんでん、小日向文世といったメンバーが様々なアプローチで揺さぶりをかけるのだ。昔ながらの「北風と太陽」作戦はもちろん、突然「敵が味方になる」ことで容疑者をかく乱したりもする。

また3年前の第1シーズンにあった、天海演じる真壁有希子刑事の私生活にまつわるエピソード(刑事だった夫の殉職など)を今回は省いたことも功を奏している。目の前の事案により集中できるからだ。ヒロイン1人の力ではなく、あくまでもチーム力による勝利。その快感も大きい。

(日刊ゲンダイ 2017.05.17)

書評した本: 髙橋 透 『文系人間のための「AI」論』ほか

2017年05月16日 | 書評した本たち



「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

AIはいかに人間を超えるのか
髙橋 透 『文系人間のための「AI」論』

小学館新書 864円

根っからの文系人間のせいか、「文系のための」といったタイトルに弱い。髙橋透『文系人間のための「AI」論』のテーマはまさにAI(人工知能)だが、数学的解説も技術的説明も出てこないのが特色だ。 

そもそも著者の専門は西洋哲学である。ニーチェやデリダの研究者がなぜAIなのか。ロボットやAIなどのテクノロジーが人間の感情や思考を模倣しはじめた時代。「人間とは何か?」を考える貴重な手掛かりがそこにあると言うのだ。

これまで「人間に近づいてきた」AIだが、いまや「人間を超える」ことの不安も出てきた。どこまでコントロールできるかという暴走のリスクだ。これからのAIは自動的に自分自身のプログラムを改良するようになる。「あるレベルでは人間の想定を裏切り、人間の引いた線引きの枠を内側から打ち壊して、AIは勝手に一人歩きをはじめる」可能性が高い。

さらに著者は怖いことを言う。人間はやがてAIと融合、つまり「人間のサイボーグ化」が進むと。漫画『サイボーグ009』や『攻殻機動隊』の世界だ。それは「ポスト・ヒューマン」と呼ばれ、人間そのものの変容でもある。今後テクノロジー開発をどこまで許すのか。いや、止められるのかが大きな課題だ。

現在、日本をはじめ世界各地で行われているAI開発の最前線については、将棋の羽生善治とNHKスペシャル取材班による報告『人工知能の核心』(NHK出版新書)が参考になる。


ジョン・ル・カレ:著、加賀山卓朗:訳 
『地下道の鳩~ジョン・ル・カレ回想録』

早川書房 2700円

著者は『寒い国から帰ってきたスパイ』などで知られるスパイ小説の巨匠。英国の諜報機関での体験から作家としての交友までが小説同様、静かな臨場感に満ちた文章で明かされる。パレスチナのアラファト議長やロシアのサハロフ博士との会談もスリリングだ。


浜村淳・戸田学 
『浜村淳の浜村映画史~名優・名画・名監督』

青土社 2376円

ラジオのパーソナリティであり、映画評論家でもある浜村淳。また落語、演芸、映画に関する博覧強記の作家・戸田学。2人が映画について徹底的に語り合った。エノケン、チャップリンから黒澤明まで、映画を本編以上に面白く語ってしまう“浜村節”が炸裂する。


(週刊新潮 2017.05.18号)

「見世物」として楽しむ、進撃する日曜劇場『小さな巨人』

2017年05月14日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



「見世物」として楽しむ、
進撃する日曜劇場『小さな巨人』

ダスティン・ホフマンでも大村崑でもない“小さな巨人”

TBSの日曜劇場。今回、「小さな巨人」とは、なかなか大胆なタイトルを付けたものです。

まず、70年代初頭に公開された、ダスティン・ホフマン主演の映画が思い浮かびます。カスター将軍時代のアメリカで、シャイアン族に育てられた青年が、白人と戦う運命を背負うという物語。秀作ではありますが、かなり重たい内容でした。

そして次は2000年代まで流れていた、「オロナミンCは“小さな巨人”です!」のキャッチフレーズが忘れられない、大塚製薬のCMですね。懐かしい大村崑さん、今も「元気ハツラツ!」な85歳です。

このドラマでの「小さな巨人=見た目は小さな存在でも偉業を成し遂げた人」とは誰を指すのか。やはり主人公である香坂真一郎刑事(長谷川博己)でしょうか。長谷川さんで巨人ときたら、「進撃の巨人」になっちゃうけど、ま、いいか。

長谷川博己、満を持しての「日曜劇場」登場です。昨年NHKのBSプレミアムで放送された「獄門島」もよかったし、映画「シン・ゴジラ」でも存在感を示していました。しかし、独断と偏見による長谷川さんの代表作は、何と言っても「鈴木先生」(テレビ東京系、2011年)です。


鈴木先生から香坂先生へ

長谷川さんが演じた中学教師・鈴木先生のキャラが際立っていました。教育熱心といえば非常に熱心です。いつも生徒のことを考えているし、観察眼も鋭い。

しかし、それは教室を自分の教育理論の実験場だと思っているからであり、単なる熱血教師とは異なるのです。この「ちょっと変わった先生」が長谷川さんにドンピシャでした。また鈴木先生が巻き起こす、小さな“教育革命”も目を引きました。

さて、「小さな巨人」です。出世街道を順調に歩んでいた警視庁捜査一課の刑事・香坂(長谷川)が、上司である捜査一課長・小野田(香川照之)の策略で所轄署へと飛ばされます。

もしかしたら香坂が異動した所轄の芝署は、「鈴木先生」における担任クラスの2年A組なのかもしれません。たたき上げの渡部(安田顕、好演)や若手の中村(竜星涼)などの刑事は、いわば2Aの生徒たちです。少しずつ彼らの意識も、意欲も、変えていく香坂・・・。

となると、「鈴木先生」で土屋太鳳さんが演じていた、伝説の女子中学生・小川蘇美(おがわ そみ)は誰だ? クラスならぬ所属は違うけど、警視庁人事課の婦警・芳根京子さんか?

背後にはIT企業社長の誘拐事件、社長秘書の自殺、政治家のスキャンダルといった謎があります。しかしこのドラマは、それらの謎解きよりも香坂VS小野田、いや長谷川VS香川という役者同士の真っ向勝負こそが見所であり、それを楽しむ1本だと思います。

2人とも、オーバーとケレンの境目など気にせず、怒鳴り合いも、顔芸も、おひねりが飛んでくるまで大いにやり合えばいい(笑)。ドラマもまた本来は「見世物」なのですから。

とにかく2A、いや芝署の面々を巻き込みながら、 小さな巨人が“悪の巨人”に挑んでいく。進撃する小さな巨人だ。

がんばれ、香坂先生! 負けるな、長谷川先生!



ヤフー!ニュース連載
「碓井広義のわからないことだらけ」
https://news.yahoo.co.jp/byline/usuihiroyoshi/

読売新聞で、最近のBS(衛星放送)について解説

2017年05月12日 | メディアでのコメント・論評



読売新聞で、最近のBS(衛星放送)について解説しました。

以下、抜粋です。


無料BS各局は、地上波と比べて、視聴者の年齢層が高い。4月に行われた番組改編では、新たな視聴者の掘り起こしに力を入れる局が目立った。そこに共通するキーワードを探せば「23時」となるだろう。30~40歳代の働き盛りの人々が帰宅し、就寝までの間を思い思いに過ごす時間帯だ。

これだけ同じ時間帯に新番組がそろったのには、新しい視聴者層の開拓とは別の理由もありそうだ。

碓井広義・上智大教授(メディア文化論)は、「『バカリズムの30分ワンカット紀行』のように、BS各局が挑戦的な番組作りを行うようになった」点を挙げる。以前ならば午後11時台は、地上波でも実験的な番組が作られていた時間だが、現在はその枠には視聴率を稼げる番組が並び、「今や準プライムとも言えるビジネスの場となった。挑戦的な番組は深夜1時や2時でないとなかなか作れない」という。

一方、BSのこの時間帯には地上波ほどの人気番組はなく、その分、作り手の自由度が高い。碓井教授は「この動きは今後加速するはずだ。若い人はテレビを見ないと言われるが、アンテナは鋭い。面白い番組をやれば、SNSなどを通して一気に広がることもあるだろう。第2の開局ぐらいの意気込みでアピールする必要がある」と話している。


(読売新聞 2017.05.08)

長谷川博己「小さな巨人」に“原点”「鈴木先生」を見た!?

2017年05月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今週は、TBS日曜劇場「小さな巨人」について書きました。


TBS系 日曜劇場「小さな巨人」
負けるな、長谷川先生!

長谷川博己(40)、満を持しての「日曜劇場」登場だ。昨年NHK・BSプレミアムで放送された「獄門島」もよかったし、映画「シン・ゴジラ」でも存在感を示した。しかし長谷川の代表作は、何といっても「鈴木先生」(テレビ東京系、11年)である。

長谷川が演じた中学教師のキャラが際立っていた。教育熱心といえば非常に熱心。いつも生徒のことを考えているし、観察眼も鋭い。しかしそれは教室を自分の教育理論の実験場だと思っているからで、単なる熱血教師ではない。この「ちょっと変わった先生」が巻き起こす、小さな“教育革命”が目を引いた。

さて、「小さな巨人」(TBS系)だ。出世街道を順調に歩んでいた警視庁捜査1課の刑事・香坂(長谷川)が、上司である捜査1課長・小野田(香川照之)の策略で所轄署へと飛ばされる。背後にはIT企業社長の誘拐事件、社長秘書の自殺、政治家のスキャンダルといった謎がある。しかしこのドラマでは、それらの謎解きよりも香坂VS小野田、いや長谷川VS香川の真っ向勝負こそが見どころだ。

香坂が異動した所轄の芝署は、いわば「鈴木先生」における担任クラスの2年A組。たたき上げの渡部(安田顕、好演)や若手の中村(竜星涼)などの刑事たちは、いわば生徒だ。彼らを巻き込みながら、もうひとりの“巨人”小野田に挑む。負けるな、長谷川先生!


週刊ポストで、ドラマ「やすらぎの郷」について解説

2017年05月10日 | メディアでのコメント・論評



『やすらぎの郷』は
視聴率主義への苦言込めた本物のドラマ

倉本聰脚本で話題の新ドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)。登場するのは、昭和の芸能史を煌びやかに彩る女優たちだ。

放送は、『徹子の部屋』を終えた平日12時半に始まる。若者向けのゴールデンタイムに対抗する枠として倉本が強くこだわった、「シルバータイム」なる高齢者のための新しい昼帯枠だ。

舞台は“テレビ界に貢献した人間だけ”が入居できる高齢者ホーム「やすらぎの郷」。昭和のテレビ黄金期に一時代を築いた脚本家の菊村栄(石坂浩二)を取り巻き、往年のスターたちがあれこれ騒動を巻き起こす。

現場でも小さな“騒動”が起きていた。倉本や浅丘ルリ子(白川冴子役)は大の愛煙家。テレビ朝日の六本木スタジオは禁煙のため、今回は愛煙家の要望から、喫煙できる場所でホン(脚本)読みをすることになった。浅丘は撮影現場でも吸っていたが、彼女のしなやかな指の動きはハッとするほど艶っぽかった。

劇中では水谷マヤ(加賀まりこ)が優雅に紫煙をくゆらせ、栄は「俺にとって一番体に悪いのは禁煙ってあの文字だ!!」と叫ぶ。石坂いわく、これは倉本の口癖らしい。喫煙シーンが描かれなくなった昨今、及び腰の制作者や嫌煙社会へのアンチテーゼでもあるのだ。

制作発表記者会見では、女優たちの熱量が溢れた。

25年ぶりに倉本作品に出演する五月みどり(三井路子役)が、「とても怖くてできないと思ったけれど、でも、どうしてもやりたいという気持ちが強かった」と決意を語れば、ピアノの弾き語りシーンがある有馬稲子(及川しのぶ役)は、「ピアノが本当にだめで1日に2小節ぐらいずつ練習して、1曲弾けるようになった」と舞台裏の女優魂を垣間見せた。

60代の同級生らと放送を楽しんでいるという上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は、同作を「視聴率第一主義に対する苦言も含め、テレビ業界への愛と感謝を込めて今の時代に送る本物のドラマ」と評する。

「役者にも向けられたその愛を受けて集まったのが、この贅沢な顔ぶれです。中高年にとっては青春の憧れ。70代、80代で輝き続ける彼女たちの姿に、『人は最後まで自分の人生の主人公なんだ』と思えるのがまたいい」


女優たちにとって、年を重ねてもなお輝きを放つ晩年の今こそ、人生のゴールデンタイムではないだろうか。

(週刊ポスト 2017年5月19日号)

真昼に起きたドラマ革命「やすらぎの郷」

2017年05月09日 | 「北海道新聞」連載の放送時評



北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、ドラマ「やすらぎの郷」について書きました。


倉本聰脚本「やすらぎの郷」
真昼に起きたドラマ革命

この4月に始まった倉本聰脚本「やすらぎの郷」(テレビ朝日―HTB)。放送は平日の昼12時半からの20分枠だ。

現在のテレビを支える“大票田”でありながら、高齢者層はずっとないがしろにされてきた。このドラマ、高齢者による、高齢者のための、高齢者に向けた作品という一種の反乱、いや真昼の革命である。さらに高齢者しか楽しめないかと言えば、そんなことはない。ストーリーと登場人物たちの魅力が多くの人をひきつける。 

主人公は倉本自身を思わせるベテラン脚本家の菊村栄(石坂浩二)。物語の舞台は、海辺の高台にある「やすらぎの郷」という名の老人ホームだ。ただし住人たちは単なる高齢者ではない。かつて一世を風靡(ふうび)した芸能人や作り手であり、テレビに貢献してきたという共通点を持っている。

しかも演じるのは倉本の呼びかけに応じた浅丘ルリ子、有馬稲子、八千草薫といった本物の大女優たち。ノスタルジーに満ちた“虚実皮膜”の人間模様がこのドラマの第一の見どころだ。

たとえば浅丘ルリ子と石坂浩二は実生活で30年間も夫婦だった。倉本が書いたドラマ「2丁目3番地」(日本テレビ―STV、1971年)での共演をきっかけに、夫婦役が本物になったのだ。結婚から46年、また離婚から17年の元夫婦が倉本ドラマで再び共演している。

さらに結婚前は石坂の恋人だった加賀まりこも共演者の一人だ。本人・元ヨメ・元カノの3人がバーのカウンターに横並びとなり、石坂をはさんで座っている光景は、このドラマならではの名場面だろう。

第二の見どころは、長い間この国と芸能界を見続けてきた菊村が口にする警句、鋭い社会批評、そしてテレビ批判である。それは介護問題からテレビ局の視聴率至上主義、さらに禁煙ファシズムとも言うべき風潮にまで及んでおり、それらがスリリングにして痛快なのだ。

倉本は自身を投影させた菊村を通じて、社会やテレビ界に対して「言うべきことは言う」という姿勢で臨んでいる。「やすらぎの郷」は生きるとは何かを問う人間ドラマであると同時に、テレビと半世紀以上も真剣に向き合ってきた倉本の果敢な挑戦でもあるのだ。

人は誰でも老いる。「やすらぎの郷」の住人たちが抱える過去への執着、現在への不満、残り火のような恋情、病気や死への恐怖、芸術や芸能への未練などは、形こそ違うが私たちと共通のものだ。高齢化社会の“最前線”を、タブーも含んだ独自のリアルとユーモアで描くドラマとして目が離せない。

(北海道新聞 2017年05月02日)

「TBSレビュー」カルテット編 無事オンエア! 2017.05.07

2017年05月08日 | テレビ・ラジオ・メディア
”聞き巧者”秋沢淳子アナウンサーと


7日朝、「TBSレビュー」のカルテット編が、無事オンエアされました。

早大の室岡先生、ライター・吉田潮さんのコメントも「なるほどなあ」の連続で、納得感がありました。

また佐野亜裕美プロデューサーの自作解説がまた、興味深かったです。

いろんな意味で、確信犯なんですよね。

楽しみなプロデューサーが登場してきたものです。

次回作がどんなものになるのか、期待しています。

シナリオで再び味わう、ドラマ『カルテット』

2017年05月07日 | 本・新聞・雑誌・活字



ドラマ『カルテット』(TBS系)の脚本は、『Mother』(日本テレビ系、10年)『最高の離婚』(フジテレビ系、13年)などを手がけてきた坂元裕二である。

坂元裕二:著『カルテット1、2』(河出書房新社)は、このドラマのシナリオ集だ。

メインの役者が松たか子、松田龍平、高橋一生、満島ひかり。チーフプロデュース・演出は、『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』の土井裕泰。今、振り返っても、出演者も制作陣もかなり豪華だったのだ。

二重の“密室”というドラマ空間

4人のアマチュア演奏家が、カラオケボックスで出会う。バイオリンの真紀(松)と別府(松田)、ヴィオラの家森(高橋)、そしてチェロのすずめ(満島)である。偶然かと思ったが、実はそうではなかった。

彼らは、世界的指揮者である別府の祖父が持つ軽井沢の別荘を拠点に、弦楽四重奏のカルテットを組むことになる。簡易合宿のような、ゆるやかな共同生活が始まった。「冬の軽井沢」、そして「別荘」という二重の“密室”という設定が上手い。ドラマ空間の密度が濃いものになるからだ。

夫が謎の失踪を遂げたという真紀。それは果たして本当に失踪なのか、それとも事件なのか。夫の母親(もたいまさこ、怪演)から、真紀に近づいて動向を探ることを依頼されたのが、すずめだ。彼女は子供時代、父親(作家・高橋源一郎、びっくりの快演)に従って、詐欺まがいを行っていた経験をもつ。家森は何やら怪しげな男たちに追われていたし、単別府の事情や本心も不明のまま物語は進んでいった。

台詞の“行間を読む”面白さ

そんな4人が、鬱屈や葛藤を押し隠し、また時には露呈させながら、互いに交わす会話が何ともスリリングなのだ。それは1対1であれ、複数であれ、変わらない。見る側にとっては、まさに“行間を読む”面白さがあった。ふとした瞬間、舞台劇を見ているような、緊張感あふれる言葉の応酬は、脚本家・坂元裕二の本領発揮だろう。そして、台詞の一つ一つがもつ”ニュアンス”を、絶妙な間(ま)と表情で見せてくれる、4人の役者たちにも拍手だ。

このドラマは、サスペンス、恋愛、ヒューマンといった枠を超えた、いわば「ジャンル崩しの異色作」と言える。ここには、『重版』の黒沢心や、『逃げ恥』の森山みくりのような、つい応援したくなる“愛すべきキャラクター”はいない。だが、4人ともどこか憎めない、気になる連中なのだ。

いい意味で独特の暗さもあり、元々幅広く万人ウケするタイプのドラマではない。しかし続きが見たくなるドラマ、クセになるドラマとしては、前クールの中でピカイチの存在だった。


<追記>

5月7日(日)
午前5時30分~6時

「TBSレビュー」で、
ドラマ「カルテット」について
話をさせていただきます。

「刑事ドラマ」もいいけど、「警備ドラマ」も侮れない!?

2017年05月06日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



林立する「刑事ドラマ」

今期のドラマでやたらと目立つのが「刑事ドラマ」です。

『小さな巨人』(TBS)、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(関西テレビ)、『緊急取調室』(テレビ朝日)、『警視庁・捜査一課長』(同)と乱立、いえ林立といった様相を呈しています。

それぞれに意匠を凝らし、差別化を図っていますが、視聴者側としては「何も同時期に横並びじゃなくても」と言いたくなるかもしれません。

しかし最近の刑事ドラマは、犯人を追う側の人間模様や犯人の人間性にもせまり、物語に厚みを持たせ、メリハリを効かせています

たとえば、天海祐希さんが取調官を演じている『緊急取調室』。通常、刑事ドラマは犯人を捜し出し逮捕するまでを描きます。それに対し、このドラマはいかにして容疑者にその犯行を認めさせるか、もしくは犯人ではないことを明らかにするか、という一種の変化球で勝負しています。

また視聴者側も、単純に追う、追われる、という白黒はっきりとした図式だけでなく、そこに潜む複雑なプロセスをも味わいたいと、“成熟”してきている。それが今どきの刑事ドラマに反映されているわけです。


「刑事ドラマ」ではなく、「警備ドラマ」

さて、今期のドラマの中でちょっと気になるのが「警備ドラマ」です。主人公が刑事ではなく警備員なので、ここでは「警備ドラマ」と呼んでおきます。

具体的には、現在放送中のNHK土曜ドラマ『4号警備』(全7回)がそれです。

民間の警備会社における区分で、1号警備とは施設警備のことを指します。2号は雑踏警備で、3号は輸送警備。そして、いわゆる“身辺警護”を行うのが4号警備です。まあ、わかりやすく言えば“ボディガード”ですね。

登場するのは警備会社「ガードキーパーズ」の警備員で、元警察官の朝比奈準人(窪田正孝)。そして年長者の石丸賢吾(北村一輝)。時に暴走する朝比奈を、石丸が抑えたり追いかけたりする形で物語が展開されていきます。

放送開始からこれまで、遺産相続がらみで盲目の男性を守ったり、ストーカーに狙われている女性を助けたり、ブラック企業といわれる不動産会社の社長(中山秀征、好演)や選挙運動中の市長候補(伊藤蘭、熱演)が対象だったりと大忙しでした。

いずれのケースでも、単なる身辺警護ではなく、警護することが相手がもつ悩みや問題の解決につながっていくところがキモ。さらにそれが、朝比奈自身や石丸自身が抱えている葛藤ともリンクしていきます。つまり“人間ドラマ”になっているのです。

毎回読み切りで30分という短い時間ですが、宇田学さん(「99.9ー刑事専門弁護士ー」など)の脚本は、テンポの良さと中身の濃さの両立を目指して善戦しています。


かつての「警備ドラマ」

警備員を主人公にした「警備ドラマ」として、最初に思い浮かぶのは『ザ・ガードマン』(TBS)。放送は1960年代半ばから70年代はじめにかけてでした。

民間警備会社「東京パトロール」の高倉キャップを演じた宇津井健さんをはじめ、神山繁、中条静夫、稲葉義男、藤巻潤といった顔が懐かしい。警察以上の捜査力、いや調査力と行動力で犯人を追いつめていく様子にドキドキしたものです。

またNHK土曜ドラマ史上というより、ドラマ史上の名作の一つが山田太一脚本『男たちの旅路』(1976~82年)です。

警備会社のガードマンとして働く特攻隊の生き残り、吉岡司令補(鶴田浩二)の印象が今も消えません。部下である杉本(水谷豊)、鮫島(柴俊夫)、柴田(森田健作)、島津(桃井かおり)たちとの世代間ギャップも、世代を超えた人間としてのぶつかり合いも、それまでのドラマにはなかった視点と緊張感に驚かされました。


「守る」ことで前に進む『4号警備』

新たな“警備ドラマ”である『4号警備』には、『ザ・ガードマン』のような悪との派手な戦いも、『男たちの旅路』のような戦争の影もありません。

しかし、どこか受け身的な、また後ろ向きなイメージをもつ「守る」という行為が、人によっては“前に進む”ための原動力になることを教えてくれるのは、このドラマならではだと思います。誰かを守ることで、なにかを失った痛みや悲しみが少しずつ和らいでいく・・・。

一見ハードボイルドな雰囲気の北村さんと、その逆に見える窪田さんが、役柄において入れ替わっているのもエンターテインメントとして新鮮です。

刑事ドラマも悪くないけど、警備ドラマも侮れません。



<追記>

5月7日(日)
午前5時30分~6時

「TBSレビュー」で、
ドラマ「カルテット」について
話をさせていただきます。

勝手に連休特集!? 歴代テレビドラマ「私のベストテン」

2017年05月05日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム



仕事であり、同時に仕事だけでもないのですが(笑)、今期もまた、新たに始まったドラマはすべて見ています。

そして、すべてを見ながら、ふとやってみたくなったのが、歴代テレビドラマ「私のベストテン」を選ぶという、ささやかな“一人遊び”です。

あくまでも、どこまでも“極私的”なベストテンであります。

とはいえ、この連休中にレンタル屋さんでDVDなど探して、ご覧になってみるのも一興かもしれません。


歴代テレビドラマ「私のベストテン」


1位 「北の国から」 1981年、フジテレビ

ドラマの成否は脚本にかかっていることを、あらためて実感します。倉本聰さんの脚本は、20年にわたって「ドラマの登場人物たちと同時代を生きる」という稀有な体験をさせてくれました。


2位 「岸辺のアルバム」 77年、TBS

企業人としての父。女としての母。家族は皆、家の中とは違った顔を隠し持っています。それは切なく、また愛すべき顔でした。洪水の多摩川を流れていく家々の映像と、ジャニス・イアンが歌う「ウィルユー・ダンス」が忘れられません。脚本、山田太一。


3位 「それぞれの秋」 73年、TBS

最も身近な存在でありながら、家族の素顔や本心をどれだけ知っているのか。それまでのホームドラマでは見ることのできなかった家族の実像をクールに、そして優しく描ききっていました。脚本、山田太一。


4位 「俺たちの旅」 75年、日本テレビ

フリーターという言葉もなかったこの時代、組織になじめない若者たちの彷徨を描いて秀逸でした。カースケ(中村雅俊)、オメダ(田中健)、グズ六(津坂まさあき )の三人が当時の年齢のまま、今もこの国のどこかで生きているような気がします。脚本、鎌田敏夫ほか。


5位 「金曜日の妻たちへ」 83年、TBS

日常の中にあるエロスを再発見し、日本人の恋愛観を変えたシリーズの1本目。特に、女性の不倫に対するハードルを下げた功績(?)は大きいのではないでしょうか。ちなみに、大ヒット曲となった小林明子「恋におちてーFall in loveー」が主題歌だったのは、85年の「金曜日の妻たちへIII  恋におちて」です。脚本、鎌田敏夫。


6位 「ふぞろいの林檎たち」 83年、TBS

やがて自分が大学のセンセイになることなど思ってもいなかった頃、“フツーの大学生”の実態を、残酷かつユーモラスに見せてくれました。サザンが歌った「いとしのエリー」も、ドラマのテーマ曲ベスト10に入ります。脚本、山田太一。


7位 「バラ色の人生」 74年、TBS

自分は何がしたいのか。何ができるのか。モラトリアムの時間を生きる若者たち(主演、寺尾聰)の姿が、ジョルジュ・ムスタキ「私の孤独」の歌声と共に記憶に残ります。松方弘樹さんにさらわれる前の(笑)仁科明子さんが可憐でした。脚本、高橋玄洋ほか。


8位 「時間ですよ」 70年、TBS

“ドラマの黄金時代”ともいうべき70年代の幕開けを告げた1本。「松の湯」の脱衣所にドキドキし、堺正章と悠木千帆(現・樹木希林)の掛け合いに笑いました。天地真理が登場したのは翌年の第2シリーズでしたが、当時、確かに可愛かったです。脚本、向田邦子ほか。


9位 「傷だらけの天使」 74年、日本テレビ

オープニング映像のカッコよさにぶっ飛びました。ショーケン(萩原健一)、水谷豊、岸田今日子、そして怪優・岸田森などの出演者。また市川森一や鎌田敏夫といった脚本家たち。深作欣二や工藤栄一などの監督陣。カメラは木村大作ほか。これで面白くないはずがありません。


10位 「七人の孫」 64年、TBS

少子化社会とは無縁の元祖“大家族ドラマ”です。高橋幸治、いしだあゆみ、島かおり、勝呂誉などの孫たちもよかったのですが、一家の象徴ともいうべき森繁久彌のジイサマが最高でした。脚本、向田邦子ほか。



<追記>

5月7日(日)
午前5時30分~6時

「TBSレビュー」に出演して、
ドラマ「カルテット」について話をさせていただきます。


「助演」で光る役者たちが「主演」を務める注目CM

2017年05月04日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム


朝ドラ『とと姉ちゃん』の三女・よっちゃんこと、杉咲花さん。『カルテット』で家森を演じた高橋一生さん。いずれも「助演」でキラリと光る役者さんですが、CMでは個性を生かした見事な「主演」ぶりを見せています。

●森永乳業 カップアイスMOW(モウ)「高橋店長の品出し」篇

旬の役者を起用することは、CMの成功パターンの一つです。その意味で、いまだドラマ『カルテット』(TBS系)の印象が鮮烈で、NHK大河ドラマ『おんな城主直虎』にも出演中の高橋一生さんを登場させた効果は大きいと思います。

『カルテット』で高橋さんが演じていた家森諭高は、クールでちょっと得体が知れず、しかも色っぽい男でした。また大河の小野政次は、直虎をめぐる“三角関係”の中で、相手の幸せのためなら悪にもなれる男。どちらも危うさがあるからこそ、女性が魅かれてしまいそうなタイプです。

カップアイスMOW(モウ)のCM「高橋店長の品出し」篇では、メガネにエプロン姿でスーパーの売り場に立つ高橋さんが、買い物に来た母子を見守っています。お客さんに、より良い品を選択して欲しいと願う高橋店長は、「バニラアイスならMOWだ」と心の中で語りかけます。

実はこの「心の中で」が効いていて、シャイで誠実な店長さんから目が離せません。家森とも政次とも違う、高橋さんの新たな魅力を発見したような気になるからです。うーん、ズルいぞ、一生。

●リクルート SUUMO(スーモ)「最後の上映会『夢』」篇

学生時代に暮らしたアパートは、渋谷のNHK放送センターのすぐ近くにありました。ガス・水道・トイレ共同の四畳半で家賃は1万3千円。いま思えば、1970年代半ばとはいえ、格安の部屋でした。

近所にあった、同じような古いアパートには、あの寺山修司さんが住んでいました。ぽっくりみたいな厚底のサンダルで散歩をする寺山さんと、よくすれ違ったものです。また渋谷駅に行く途中の本屋さんで、じっと立ち読みをしていた大きな背中も懐かしい。

リクルートSUUMO(スーモ)のCM「最後の上映会『夢』」篇で、杉咲花さんが演じる女性が4年間を過ごした部屋は、明るくて住み心地も良さそうです。保育士を目指して頑張る姿を見守ってくれた部屋。大切な夢を応援してくれた部屋。杉咲さんの心のスクリーンに映し出される回想を眺めていると、いつの間にか青春から遥か遠くまで来た自分を思って、少しだけ感傷的になります。

しかし、最後のシーンで元気が出ました。杉咲さんが、荷物を送り出して空っぽになった部屋に向かって、感謝の思いを込めたお辞儀をするのです。渋谷の四畳半を出る時、やはり同じように頭を下げたことを思い出しました。その部屋を選んだのは偶然かもしれませんが、住む人の気持ちでそれは必然へと変わるのです。