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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

おおきなかぶ、むずかしいアボカド

2011-07-19 09:13:40 | 村上春樹
村上春樹文・大橋歩画 2011年7月 マガジンハウス
先週、とくに目的もなく本屋に入ったら、村上春樹の新しいエッセイ集が出てた。副題は「村上ラヂオ2」。
あいかわらずおもしろくて、スーッと読める。
今回、まえがきで村上春樹は、エッセイについて、「ビール会社が作るウーロン茶」みたいなものと、例によってうまいこと言ってる。(もちろんビールは小説。)
でもウーロン茶を作るからには一番おいしいウーロン茶を作りたいってとこがいい。
「エッセイはむずかしい」という章では、エッセイを書く際の原則も披露されてる。
「人の悪口を具体的に書かない」「言いわけや自慢をなるべく書かない」「時事的な話題は避ける」の三つ。
締め切りに追われたら、書いちゃいがちのような気がするけど、もともと締め切りに迫られることのないひとだから。
で、そういう決まりごとのなかでエッセイを書くと、「どうでもいいような話」に限定されるっていうんだけど、だいじょうぶ、十二分におもしろい。
また、文章について、「こっちのドアから入ってきて」という章では、「おにぎりで言えば、お米を選んで注意深く炊きあげ、適当な力をこめて簡潔にぎゅっと握る。そういう風に作られたおにぎりは、誰が食べてもおいしいですよね。」という言いかたをしてて、誰か特定のひとたちの趣味を狙ってんぢゃなくて、どんなひとたちにもメッセージを届けられる自信を語ってる。
村上春樹のエッセイのなかで、私がおもしろいと思うことのひとつには、ホントかウソかわかんない店とかが出てくることで、たぶんホント(現実)だと思うんだけど、フィクション・空想でも、まあいいか読んで楽しいからって思わされちゃうものがある。
今回で言ったら、たとえば「究極のジョギング・コース」ってやつ。
オレゴン州ユージーンのナイキの本社に、究極のジョギング・コースがある。一周3キロほどで、鳥の声を聴きながら美しい森を抜け、なだらかな丘陵を上下し、路面には柔らかいおがくずがみっちり敷き詰めてある。
そのナイキの社員以外は走ることができないコースを、取材のついでに実際に走ってみる機会があって、「こんなコースが近くにあって、毎日自由に使えたら、人生はどれほど心安らかなものになるだろう。」なんて感想なんだけど、んー、小説のなかの出来事みたい。
もうひとつは、神宮球場の帰りに寄る外苑西通りのバーでは、適当な名前をでっち上げて(「シベリア・ブリーズ」とか)カクテルを注文すると、バーテンダーは顔色ひとつ変えずに適当なカクテルを作って出してくれた、とか。
小説のなかでだったら、もちろんアリなんだけど(バーテンダーの名前は、ジェイだな、やっぱ)、エッセイで書かれると、ちょっと不思議。
コメント
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